第四十四話 心からの謝罪
タベッラに頼まれてアーテルと話す場を作ったアルクス。
しかしその場は緊張感に包まれていて……?
どうぞお楽しみください。
「単刀直入に伺います」
喫茶店の席に着いたタベッラさんは、飲み物を頼む前に先生に話しかけた。
……何か怒ってる?
「あなたはアルクスさんをどうするおつもりですか?」
「どうする、と言われてもー……。俺の知ってる事を適当に教えてるだけですよー。それをどう使うかはアルクスに任せてますんでー」
「……本気でそう仰っているのですか……?」
「えぇ。何か問題ありましたー?」
「大ありでしょう……!」
や、やっぱり怒ってる!
お店の中だから怒鳴りはしなかったけど、すごい怒ってる声だ……!
「この国の経済を、下手をすれば国の構造まで変えかねないような知識を与えて、この子の身にもしもの事があったらどうするつもりですか……!」
うぇ!? 何!?
私そんな事教わってないよ!?
「……何故そこまでアルクスに肩入れを?」
「……私には彼女と同じくらいの歳の娘がいます……。それがアルブム教の食い物にされていると勘違いをして、救護院に行きました……」
「ほう、それで?」
「……自分の見識の浅さに打ちのめされました……。アルクスは立派に救護院で働いていた。しかも並の法術士では足元にも及ばないような多彩な法術で……」
……褒めてくれるのは嬉しいけど、何に怒っているのかわからないのが不安……。
「だがそれを魔吸石に付与して誰でも使えるようにするとなれば、その影響は計り知れない……! それをこんな若い娘に与えるなんて……!」
「そ、そんな大した事じゃないですよ!」
「……はぁ……。あのな……」
すごく深い溜息をつかれた!
私そんな変な事言った!?
「アルクスの『病気快癒』や『体力回復』が石に込められて売りに出されたら、俺達薬屋は軒並み廃業だぞ?」
「あ……」
「……冒険者に防具を作る鍛冶屋だってそうだ。『硬化』がいつでも使えるってなれば、わざわざ高くて動きを邪魔する防具を買う奴なんかいなくなる」
「……!」
「そうなったら職を失った連中から逆恨みで何をされるかわかったもんじゃない。だから簡単にしちゃいけない事なんだよこれは」
「わ、私、そんなつもりは……」
ど、どうしよう……!
ただポルポラさんや冒険者の人達が怪我をしないようにって思ってただけなのに、他の人の仕事を取っちゃう事になるなんて……!
「アルクスにそんなつもりがないのはわかってる。その気になればもっと金を稼ぐ手はあるからな。だからこそお前にそれを教えた奴の真意が知りたいんだ」
「タベッラさん……」
「……」
隣に座る先生の顔は、仮面で隠れてわからない。
……先生は、そうなる事を知ってて私に魔吸石の事を教えたの……?
「アルクス」
「は、はい!」
「何故この男に話した?」
……怒ってる、のかな……?
普通の声だから、すごく怒ってるのを抑えてるのか、それとも怒ってないのか、全然わからない……。
……正直に答えるしかない……。
「……あの、私の事、真剣に心配してくれたんです。それに勘違いしてた事をちゃんと謝ってくれて……。だから私も隠し事しないで話したいなって……」
「そうか」
……怖い怖い怖い!
心臓が飛び出しそう……!
すごく怒ってたらどうしよう……!
「よくやったな」
「え?」
頭に置かれる手。
優しく笑う目元と口元。
……褒められた……?
え、何で何で!?
「あれだけ脅かされても、信じられる人間を見極めて相談した。まさかここまでいい奴を引き当てるとは思わなかったがな」
「え……」
「今回の魔吸石の件は、院長や会計士の旦那、女剣士には荷が重い。商売に精通し、かつそれなりの権力を持っていないと手に負えないものだからな」
「……じゃあ、先生、わざと……?」
「おっと、黙っていた事を怒るなよ? お前が真剣に考えて、それでも打ち明けたいと思う相手をお前自身が選ぶ必要があったんだからな」
「……!」
怒る気なんか全然ない……!
……実はほんのちょっとだけ、言ってほしかった気持ちはあるけど……。
でも全部が私の事を考えての行動だったなら、嬉しい気持ちの方が大きいよ……!
「……今回の件は、私とアルクスを繋ぐための策だったと?」
「ま、そういう事。あれだけ真剣に怒ってくれるなら、アルクスを食い物にするという発想自体が湧かないだろうからなー」
「……しかし俺がもし利益に目の眩むような人間だったらどうするつもりだったのですか……?」
「そりゃあんた自身が身をもって知ってるだろ? この町でまともに歩けやしなくなるだけさ」
「しかし不意に拐われでもしたら……!」
「その時は俺が責任をもって助け出すさ。伊達に毎日魔力の確認をしてるわけじゃないのよ」
「……何と……! そこまでお考えとは知らず、無礼を申し上げた……。お許し願いたい……!」
タベッラさんが頭を下げた。
……偉い人って謝るの苦手って聞いた事あるけど、タベッラさんは違うとわかったらすぐに謝る。
先生の言う通り、すごいいい人だと思う。
「詫びはいいよ。こっちも結果として試すような真似したわけだしさ」
「……ならばこれからの働きで返していく事にさせていただくとしましょう。それでよろしいでしょうか?」
「願ってもないね」
先生とタベッラさんが、卓の上で握手を交わした。
最初はどうなる事かと思ったけど、二人が仲良くなってくれて安心した。
私くらいの娘さんがいるって話だし、きっと優しいお父さんでもあるんだろうな。
あ、そうだ。
「あの、今度娘さんにも会わせてもらえませんか?」
「あぁ、勿論だ。友達になってやってくれ。ピルラと言うんだが、十一にもなってまだ子どもっぽさが抜けなくてな。アルクスを見たらきっといい、刺激、に……?」
十一歳……?
その娘さんと私、同い年くらいに見られてたの……?
……あぁ、だからこんなに心配してくれたんだぁ。
子どもが! 無理矢理働かされてると思って!
「……くくっ、いいじゃないかアルクス。もう十一歳って事にすれば……。くくっ……」
「先生っ!」
「あ、あれ? ま、また俺何か間違えたか……?」
……この後、私の歳を知ったタベッラさんは、今日一番の謝罪をする羽目になったのだった……。
読了ありがとうございます。
誤り謝る男、タベッラ。
アルクスの能力が常識外れだからね。仕方ないね。
次回もよろしくお願いいたします!
感想返信も頑張ります(楽しみはとっておく派)!




