第四十話 迫り来る影
魔吸石の事を簡単に考えていたら、アーテルに散々に脅かされたアルクス。
一夜明けて救護院に行こうとすると、待ち構えていた男がいて……?
どうぞお楽しみください。
「さて、と……」
藍の初級回復魔法を付与した魔吸石を荷物の奥底にしまうと、私は部屋を出た。
うぅ、何もないはずなのに緊張する……。
昨日先生が変な事言うからだよ……!
お陰で昨夜は、牛肉の厚焼きを独占しようとする組織に捕まって、片っ端から牛肉に藍の初級回復魔法をかけさせられる夢を見たし!
『うわーん! 肉がナイフを弾き返すよー!』
『ふはははは! これで牛肉は我らのもの! さぁアルクスよ! どんどん牛肉の厚焼きを藍の初級回復魔法で硬くするのだ!』
『いやー! もうやめてー!』
……今考えると意味不明なんだけど、夢の中では怖かったぁ……。
「……よし!」
この角を曲がれば救護院。
気持ちを切り替えて、お仕事頑張ろう!
そして仕事帰りにポルポラさんに、この魔吸石を届けよう。
『ま、一個知り合いに渡すだけなら、大した騒ぎにはならないだろう』
先生にもそう言ってもらえたし。
……喜んでもらえるといいな。
そして内緒にしてもらうようにお願いするのも忘れないようにしないと。
もし知られちゃったら……。
「……お、来たな」
え、誰……?
会った事のない男の人……!
「あんたがアルクス・チェレスティスだな? ちょっと話があってな」
「……!」
も、もしかして待ち伏せ!?
もう魔吸石の事知られちゃってる!?
このままじゃ私捕まって、魔吸石に付与するだけの仕事を延々とさせられる事に……!?
そんなの嫌だ!
先生が与えてくれた選択肢は絶対奪わせない!
「っ!」
「あ! おい待て!」
ひいいいぃぃぃ!
追ってくるうううぅぅぅ!
やだぁ! 助けてぇ!
先生! ポルポラさん! ウィンクトゥーラさん!
アウラン食堂の女将さん! カルクルムさん! 町の皆!
私絶対お別れしたくないよ!
何としてでも逃げないと!
「待てって! 話を聞いてくれ!」
「はぁ、はぁ、い、嫌です! はぁ、はぁ、話を、はぁ、はぁ、聞いたら、はぁ、はぁ、言葉巧みに、はぁ、はぁ、契約させられて、はぁ、はぁ……!」
く、苦しい……!
走るの、苦手……!
何か、回復を……!
体力なら、橙……!
「な、何で契約の話を……? いや、悪い話じゃないんだって!」
「はぁ、はぁ、悪い、はぁ、はぁ、人は、はぁ、はぁ、皆、はぁ、はぁ、そう言うんです、はぁ、はぁ……!」
……駄目だ!
身体に力は戻った感じがするけど、息苦しいのは消えない……!
どこまで逃げればいいか、わからないし……!
「あっ!」
いったぁ!
石か何かにつまづいて派手に転んじゃった!
迫る足音!
ど、どうしよう……!
「はぁ、やっと追いついた……。頼むから話を聞いてくれ。俺は」
「あんた! アルクスちゃんを追いかけ回して何する気だい!?」
「!?」
わ、いつの間にか私と悪い人は、町の人達に取り囲まれていた。
主におばさん達……。
「アルクスちゃんは、うちの子の病気をすぐに治してくれたんだ!」
「あたしの顔のしみも綺麗になくしてくれたよ!」
「うちの旦那が仕事続きで食事も喉を通らなかった時に、元気にしてくれたのはアルクスちゃんだ!」
「そばかすを消してもらった日には、もう一日鏡の前から離れられなくてねぇ……」
「この町の宝であるアルクスちゃんに手ぇ出そうって言うなら、あたし達が相手だよ!」
「え、いや、その……」
おばさん達……!
何て頼もしい……!
悪い人は完全にびびってる!
「あ、あの、俺達もアルクスちゃんのために、た、戦うぞー……」
「……い、いらないかもしれないけどなー……」
あ、旦那さん達もびびってる……。
「ち、違うんだ! 俺はタベッラ! 製薬組合の者だ! 救護院に納める薬を作ってる!」
「それがアルクスちゃんに何の用!?」
「い、いや、この町の救護院に、病気に衰弱に肌の問題まで一人で解決する法術士がいるって聞いて相談に来たんだ!」
「何の相談だい!」
「うちの薬が売れなくなるから、治療の料金を上げてくれって!」
「……は?」
町のど真ん中を、静寂が包んだ……。
読了ありがとうございます。
殺気立ったおば様方に囲まれて、正気を保っていられるだけでも大したものだ……。
次回もよろしくお願いいたします。




