第三十九話 示された選択肢
ルームスの鎧に付いていたのが、魔法を吸収してゆっくり放出する性質を持った魔吸石と知ったアルクス。
それがあれば冒険者を守れると意気込みますが……?
どうぞお楽しみください。
「ほら、見つけて来たぞ」
「わぁ……!」
アウラン食堂の奥の机。
煮豆定食を食べ終えた卓の上で先生が布を開くと、大小様々な魔吸石が両手であふれそうな山を作った。
これだけあれば、沢山付与できる!
「大きいものほど効果を長く付与できるから、藍や緑は大きいのにかけた方がいいかもな」
「わかりました!」
私は一つ大きな魔吸石を持って、まず藍の初級回復魔法を流し込んでみる。
……おぉ、吸い込まれていく感じがする……。
あ! 灰色だった石が藍色に光り始めた!
「よし、成功だな。もう少し入れてみろ。そうしたら二日三日は『硬化』が続くだろう」
「はい!」
すごいすごい!
ルームスの身護り……、じゃなかった『見守りの剣』の波動を無傷で受けるほどの『硬化』を付与できる藍の初級回復魔法。
それをこうやって魔吸石に吸い取らせれば、冒険について行けなくても、助けになる事ができる!
「しかし魔吸石の事がこんなに知られてないとはなー」
「そうですね。私も知りませんでした」
「こいつは売ったら大儲けだろうな」
「え!? う、売るんですか!?」
「は? ……おいまさかお前、ただで配るつもりだったのか?」
「……だ、だって、ポルポラさんへのお礼として考えていたので、お金をもらうなんて……」
「……お前なぁ……」
呆れた声を出す先生。
また何かやっちゃった私!?
「お前この魔吸石、ただだと思ってるのか?」
「あ……!」
そうだ!
それを考えてなかった!
先生にお金を払わないといけないのに!
「い、幾らでしたか!?」
「まぁ鉱石の職人に話したら『そんなの屑石だから好きなだけ持って行ってくれ』って言われたけどなー」
「何ですかそれ!」
もう! 先生はいつもそういう事言う!
……でも本当だったら魔吸石はただでも、探しに行ってくれたり持って来てくれたりした先生には、お金を払うべきものだ……。
そりゃ怒られるよね……。
「考えてもみろ。お前が付与の魔吸石を冒険者にただで渡す。すると便利だからと他からもほしいと声がかかる。そしたら皆無尽蔵にほしがるぞ?」
「……え、あ、ですよね……」
「どんなに頑張っても一人でやる以上付与には限度がある。そうなると今度は価値の上がった付与済み魔吸石の転売が始まる。ぼろ儲けできるからな」
「はい……」
「さて、そうなると金の匂いを嗅ぎつけた連中が出所を探る。百戦錬磨の魑魅魍魎共に見つかり、言葉巧みに契約を結ばされ、お前は石を生むだけの存在に……」
「甘く見ていてすみませんでしたっ!」
私が思ってたより事態は深刻だった!
思い付きだけで行動しちゃ駄目だなぁ……。
「さてお説教はここまでにして、だ。それでも俺が魔吸石を持って来たのは何でだと思う?」
「えっと……、初級回復魔法の修行のため、ですか?」
「いや違う。そもそもお前の場合、初級回復魔法に関しては、誰よりも熟練してるからな? 今更この程度の魔吸石に付与したくらいじゃ何も変わらんよ」
「え、じゃあ何で……?」
「お前の選択肢を増やすためだ」
「選択肢……?」
先生は大きく頷く。
「これまでお前は、選択肢の無さに苦しんだだろう?」
「そうですね……」
見習い法術士で初級回復魔法しか使えなかったから、ルームスの言いなりになるしかなかった。
騙されて『専魔の腕輪』を着けさせられたせいで、救護院でできる事が少なかった。
先生がいなかったらって考えると、ぞっとする……。
「今は救護院の法術士だが、魔吸石の付与を覚えれば冒険者組合での仕事もできるし、ぱーっと売り捌いて悠々自適に暮らす事もできる」
「そんなの、考えた事もなかったです……」
「だろうと思ってな。俺からのちょっとしたお節介だ。んで、知った後で何を使うかはアルクス、お前次第だ」
「……ありがとうございます……!」
お節介なんてとんでもない!
先生には教わる事ばっかりだ……。
必ず恩返ししないと……。
「ポルポラさんとカルクルムさん、ウィンクトゥーラさんにも相談しておきます!」
「あぁ、それがいい」
「お金が入ったら、先生にもお礼しますね!」
「次はいよいよ牛肉の厚焼きか?」
「う……!」
そんな高級品、私が口にしていいのかな……?
いや、先生への恩返しだからいいんだ!
「わかりましたっ! 次は是非っ!」
「む、無理するなよ……?」
私は気合いを込めて、そう返事したのだった……。
読了ありがとうございます。
ただより怖いものはない。
「ただで本を出版してあげるよ」とか言われたら怖いなー。すごく怖いなー。
次回もよろしくお願いいたします。




