第三十六話 現れた悪夢
寝落ちしたら何やら新しい色が頭に浮かんだアルクス。
その色の正体は……?
どうぞお楽しみください。
「ん、できてるな。『硬化』の付与」
「ほ、本当ですか!?」
綿と鉄の玉を抱えて寝落ちしてしまった昨日。
目を覚ましてから『藍色』が頭に浮かんで、もしかしてと思ってたけど、本当に覚えられてたなんて……!
「なかなか想像が難しかったと思うが、どうやったんだ?」
「あの、えっと……」
ちょっと恥ずかしいな……。
でも嘘つくのもよくないし……。
「……昨日、朝からずっと綿と鉄球を手に持って、同じに感じられるかやってみてたんですけど、途中でちょっとお昼寝したらぐっすり寝ちゃって……」
「ほう、それで?」
「……起きたら、できてました……」
「は?」
驚いたような、呆れたような声を上げる先生。
うぅ……。やっぱり恥ずかしい……。
「……何か夢でも見たか?」
「え? あ、はい、何か先生とかウィンクトゥーラさんとかポルポラさんとか出てきた気がします」
「成程な。それでか」
「な、何がですか?」
納得する先生。
私は何が成程なのか全くわからない。
「本来『硬化』っていうのは、戦いのためのものじゃなかったんだ」
「そうなんですか?」
「手術で病巣部を切り取る時に、他の部分に傷を付けないために使っていたものだからな」
「……しゅじゅちゅって何ですか?」
「手術、な。昔は身体の中に薬で治せないほど悪い部分ができた時に、身体を切って悪いところを取り出す事をしていたんだ」
「身体を切る!?」
うわあああぁぁぁ!
想像するだけで痛い! 怖い!
「まぁ怪物が暴れるようになってからは、戦いの場で使われる方が一般的になったがな」
「そうなんですか……」
「どちらにしても必要なのは、柔らかさと硬さの本質を見抜く事、そして大事なものを見極めて守ろうとする意志なんだ」
「大事なもの……」
「もっと時間がかかると思ってたが、大したもんだ。俺の方も魔吸石を早めに見つけないとな」
「ありがとう、ございます……」
「じゃあこの報酬はまた今度な」
「はい!」
先生を見送って頭を下げた私の胸には、暖かいものが込み上げていた。
大切な人達を思ったから、覚えられたんだ……。
それって何だか嬉しいな。
この力で大事な人達を守れたら……!
「やっと見つけたよ」
「!」
背筋の凍る声!
怖気の走る声!
聞き間違いようのないその声の主は……!
「ルームス……!」
仲間を後ろに従えて、この世で一番嫌いな男がそこに立っていた……!
「様、を付けたまえよ。無礼だなぁ。やはり生まれの卑しい庶民は、少し教育から離れるとすぐに劣化する」
「誰があなたなんかに……!」
「ふぅん? 飢えて骨と皮だけになっているかと思ったのに、意外と元気だな。さっきの男に媚を売って養ってでももらっているのかな?」
「……は……?」
「だってそうだろう? 『専魔の腕輪』で初級回復魔法しか使えない君が、まともな生活を送れるはずがない。貧相な身体が好みの男がいて良かったなぁアルクス」
「……!」
こいつ……!
騙して私に『専魔の腕輪』を着けさせたくせに……!
「まぁそんな事はどうでもいい。今日は君にいい話を持って来たんだ」
「いい話……?」
「君をまた僕の仲間に入れてあげるよ。感謝したまえよ」
「は?」
……駄目だ。
本当に何を言っているのかわからない。
「再び僕に仕える事ができるんだ。心から喜び、そして誠心誠意僕のために働きたまえ」
「……」
呆れと怒りで言葉が出ない……!
何をどうしたら私があんたのところに戻ると思うのか……!
……先生がいなかったら危なかったかもしれないけど……。
とにかく今はこんな奴に関わってる暇はない!
「嫌です! あなたのところになんか戻りません!」
「……? 今何を言った?」
「あなたのところになんか戻らないって言ったんです!」
「……?」
首を傾げるルームス。
何その不思議そうな顔!
「……あぁ、誰かに入れ知恵をされたのか。一度は断るのが交渉の基本だからね。だが君如きが僕相手に交渉をしようなんて十年早い」
「交渉とかじゃなくて! 本当に嫌なんです! 私は今幸せなんで、もう関わらないでください!」
「……」
る、ルームスから表情が消えた……?
仮面みたいな顔でこっち見ないで! 怖い!
「……僕の誘いを断る? 君如きが? 『専魔の腕輪』を着けて家畜同然に成り下がった君が?」
「ひ……!」
「……教育だ。教育をしなきゃ……」
やばいまずい怖い!
すごい顔のまま近付いてくる!
捕まったら何をされるか……!
「!」
何かが私とルームスの間に飛んで来た!
地面に突き刺さったそれは、剣!?
「そこまでにしときな。馬鹿貴族」
「……誰だ? 僕の邪魔をするのは……!」
剣が飛んで来た先には、
「ポルポラさん!」
「よ、アルクス。間一髪だったなー」
にかっと笑うポルポラさんが立っていたのだった!
読了ありがとうございます。
さて、因縁の対面の行方は?
次回もよろしくお願いいたします。




