第三十三話 強者の焦り
場面は変わってアルクスを追放したルームス一行へと移ります。
『身護りの剣』と『癒しの鎧』の組み合わせで絶好調のルームスですが……?
どうぞお楽しみください。
「はっ!」
『身護りの剣』から衝撃波が飛び出し、怪物の群れを直撃した。
思いもよらない攻撃に、狼に似た怪物達は反撃もままならずうろたえる。
「ひゃははっ! やっぱり僕は最強だ! そぉら! ひざまずけ雑魚共!」
ルームス・ルトゥムは上機嫌で剣を振るう。
彼の持つ『身護りの剣』はルトゥム侯爵家に伝わる魔道具。
持ち主の体力が万全であれば、剣から波動を放って攻撃できる。
しかし傷を受ければ、回復するまで波動は撃てなくなる。
その欠点を補うために、ルームスはアルクスを騙し、『専魔の腕輪』を着けさせて延々と回復する道具にしていたのだ。
「この『癒しの鎧』さえあれば、僕は無敵だ! そらもう一発!」
「……」
ルームスと共に怪物狩りに同行する仲間達は、辟易した顔をしていた。
侯爵家の三男に生まれたルームスは、跡を継ぐ可能性がある長男や次男と違い、奔放に育てられた。
『身護りの剣』を与えられ、冒険者となった今も、貴族の立場と財力を盾に、好き勝手やっていたのだった。
『癒しの鎧』が手に入ったからとアルクスを追放し、顔に怪我を負ったポルポラを酷い言葉で追い出した。
それでもルームスの力がなければ、今の収入や地位を守れない、そんな複雑な思いを胸にルームスに従っていた。
「ふぅ……。おいおい君達。少しは働きたまえよ。僕ばかりに働かせて、どちらが主人かわからないじゃないか」
怪物をほぼ一人で討伐したルームスが、同行している仲間に向かってわざとらしい溜息をつく。
その言葉に魔術士の少年ロセウスが奥歯を噛み締めた。
(何が『働きたまえよ』だ! 調子良く戦ってる時は『僕の戦いの邪魔をしないでくれたまえ』とか言うくせに、手出しをしなきゃしないでこの言い草だ!)
するとその表情に気付き、意地の悪い笑みを浮かべるルームス。
ロセウスの背に悪寒が走った。
「どうしたのかなロセウス。何か気に入らない事があるなら言うといい。間抜け法術士や化け物剣士の後を追いたいならねぇ」
「……気に入らない事など、ございません……」
「何だい? 仲間じゃないか。何か僕に思っている事があるんだろう? ほらほらぁ」
「……ルームス様は、強く、美しく、正しい方だと思います……」
絞り出すような言葉に、ルームスは笑みを深める。
それはまるでおとぎ話の悪魔のようであった。
「うんうん。いいねぇ。さぁもっと心を込めて」
「……ルームス様は、強さとお人柄も完璧です……!」
「まだまだ聞きたいなぁ。ロセウスの本音」
「……!」
ロセウスも、仲間達も知っている。
ルームスは褒め言葉に喜んでいる訳ではない事を。
言いたくもない褒め言葉を、立場の差に負けて口にする苦悶、それを楽しんでいる事を。
「さぁ! どうしたんだいロセウス! 僕をもっと讃えて」
「! ルームス様! 後ろ!」
「!?」
空から急襲してきた鳥の怪物に、完全に油断していたルームスの反応が遅れる。
「う、うわああ! やめろ! 何をするやめろ!」
頭をくちばしでつつかれ、蹴爪でひっかかれ、情けない声を上げるルームス。
一瞬鳥の怪物を応援したくなったロセウスだったが、そんな事をすれば後でどんな目に遭わされるかわからないと思い直し、
「遍く世界を渡る息吹よ! 刃となりて立ち塞がるものを切り裂け! 『旋刃』!」
風の刃で鳥の怪物を仕留めた。
「……くそっ! この鳥風情がぁ……!」
先程までの上機嫌はどこへやら。
苛立つ気持ちのままに、足元に落ちた鳥の怪物を足蹴にする。
「対処が遅いぞロセウス! こんなところで気を抜くなんて、魔術士としての素養を疑うよ!」
「も、申し訳ありません!」
頭を下げながら、内心で舌打ちをするロセウス。
(油断してたのはどっちだよ。あーあ、助けなきゃよかった。でも助けなかったらこんなもんじゃすまなかっただろうしなぁ……)
ルームスの文句に言葉だけの謝罪を繰り返しながら、ロセウスは嵐が過ぎるのを待つ。
『癒しの鎧』が傷を治せば怒りも鎮まるはず、そう思って時を待つが、
「……? 何だ? 傷が、治らない……? い、痛い痛い痛い! おい! ヴィリディス! 『治癒』の法術を早く使え!」
「は、はい……!」
緑髪の女法術士ヴィリディスの中級法術によって、ルームスの頭の傷は瞬く間に塞がった。
しかしルームスの怒りは収まらない。
「何故だ!? 何故『癒しの鎧』の効果が発現しない!? おい! ロセウス! ヴィリディス! お前ら何か知ってるだろう!」
「わ、わかりませんよそんなの! 魔道具士じゃないんですから!」
「で、でも、その、ルームス様……。よ、鎧の、胸の、宝石の光が、あの、消えてる、ような……」
「何ぃ!?」
ヴィリディスの言葉に、皆の目が『癒しの鎧』の中心にある宝石へと注がれる。
いつも鈍く緑色に光っていた宝石は、その輝きを失って灰色の石へと変わっていた。
「何だ! どういう事だ! 何故光らない! 何故回復しない! ふざけるな! 誰か何とかしろ!」
癇癪を起こした子どものように、怒鳴り散らし地団駄を踏むルームス。
ロセウスは、いい気味だと思う気持ちと、その怒りがこちらに向いたら厄介だと思う気持ちで、その様子を静かに眺めていた。
すると、ぴたりとルームスの動きが止まった。
「……仕方ない。アルクスの奴を呼び戻すか」
「!?」
その言葉に、ルームス以外の全員が耳を疑った。
自分専用の回復役にするために騙して『専魔の腕輪』を着けさせてこき使い、『癒しの鎧』が手に入ると嘲笑って追放した相手。
それを呼び戻すという心境が理解できなかったからだ。
「なぁに、どうせあいつの事だ。『専魔の腕輪』を外せず、キュープラムの救護院で細々初級回復魔法を使っているはずだ。呼べば犬のように戻ってくるさ」
「……」
「さぁ行こうか。かつての僕達の本拠地へ。そうと決まればとっとと戦利品を集めたまえ」
「……」
呆れ果てながらも逆らう術を持たないロセウス達は、黙って怪物の爪や牙などを剥ぎ取っていくのであった……。
読了ありがとうございます。
アルクス「へくちっ! ……何か悪寒が……」
次回からまたアルクス視点に戻って新章が始まります。
よろしくお願いいたします。




