第三十一話 もう一つの緑
緑の初級回復魔法に『再生』の法術と同じ効果がある事を知ったアルクス。
同時にそれが多くの患者を呼ぶ事をアーテルに教わり、戦々恐々としますが……?
どうぞお楽しみください。
「うえええん! やだぁ! おじいちゃんのて、こわいよー!」
「とぅ、トゥリパ……」
空き地から駆け出ていく五、六歳くらいの女の子。
取り残されたおじいさんは、がっくりとうなだれた。
……そのおじいさんには左手がなかった……。
手首から先がつるんと丸くなっている……。
「……あの、どうかされましたか?」
「はは、いや、これはお恥ずかしい……。久し振りに孫に会いに来たのですがな。先日森で狼にやられた左手が怖いと泣かれてしまって……」
「そう、だったんですか……」
「私の紙折りや手品を喜んでいた子だったので、余計に手がない事の衝撃が大きかったのでしょう……」
「……」
……左手だけなら緑の初級回復魔法で治せる、はず……。
でも先生の言葉が頭をよぎる……。
『失った身体を治せると知られたら、今の比じゃないくらいに人が押し寄せるからな。気をつけろよ』
……身震いがする。
今でさえへろへろになるほど、患者さんが来ている。
これ以上の、しかも今より必死に治療を求める人が来るってなったら……!
「……まぁ孫が元気なのがわかっただけで十分です。しばらくは会わないようにしようと思います。……わざわざ話を聞いてくれてありがとう、お嬢さん」
「待ってください!」
「!?」
そんな事関係ない!
今苦しんでいるお爺さんと、泣いて帰ってしまったお孫さん、その縁がここで切れてしまうなんて駄目だ!
「あの、私、その手を治せます!」
「な、何ですと!?」
「朝ご飯は食べました!?」
「あ、あぁ、食べたばかりだが、その、治せるというのは……?」
「なら付いてきてください!」
「え、あの、ちょっと!?」
私はおじいさんの手を取って早足で歩き出した。
後の事は治してから考えよう!
「ウィンクトゥーラさん!」
「あらアルクスちゃん。おはよう。今日もよろしくね」
「あの! このおじいさんの治療をしてもいいですか!?」
「え……? あ、治療って……、そ、その人の手を……?」
「はい!」
朝の支度をしていたウィンクトゥーラさんは目を白黒させている。
でも今じゃないと、他の患者さんに見られちゃう!
そうしたら、いっぱいの患者さんが……!
「お願いします!」
「……わかったわ。でも私も一緒に診させてもらうわね」
「! ありがとうございます!」
ウィンクトゥーラさんはそう言うと、おじいさんの方へ向き直った。
「では奥の部屋にどうぞ。あ、お名前は?」
「わ、私はブルブスと申しますが、その、本当に治るのですか……? 失礼を承知で申し上げますが、彼女は上級法術士の方には見えなくて……」
う、そうだよね……。
ウィンクトゥーラさんならともかく、私じゃ……。
「大丈夫です。彼女は、アルクスはこの救護院の中で最も優秀な法術士ですから」
「……!」
「……そうですか……。では、よろしくお願いいたします……」
……! ウィンクトゥーラさん!
おじいさんの不安を軽くするための言葉だとしても、すごく嬉しい……!
……いやいや、浮かれてる場合じゃない!
期待を裏切らないようにしなきゃ……!
「ではそこに横になってください」
「はい……」
不安そうに施術台に横になるおじいさん。
まずは橙の初級回復魔法で、元気になってもらおう。
「おぉ!? 何だか腹の奥の方からじんわり力が……!」
「……では、行きます!」
私はおじいさんの左腕に手を当てて、緑の初級回復魔法をかける。
……おじいさんの左手の姿が頭に流れ込んでくる。
この形になるようにするには……。
「……!」
頭の中で、種が芽を出し、枝を伸ばして木になる姿が思い浮かぶ!
そうか! 植物が伸びるように力の方向を調整すれば……!
先生が種を使って教えてくれた意味がわかった!
これなら、行ける……!
「な、何だ……!? ひ、左腕が、何か、変だ……!」
緑の初級回復魔法に従って、身体の元が左腕に集まっていく。
するとつるんとしていた左手の付け根から、ゆっくりと手が再生していく……!
「うぐっ!? ひ、左手が、か、かゆい……!」
おじいさんが苦しがってる!
「が、我慢してください! 今、手が再生し始めているので!」
「そんな事言われても、かゆいものはかゆくて……!」
必死に耐えてくれてるけど、おじいさんは苦しそう……。
今再生したのは親指の付け根くらいまで……。
まだまだ完全に再生するには時間がかかる……!
一旦止めた方がいいのかな……?
「天に地に満ちる我らの創り手よ。彼の者の痛み苦しみを和らげたまえ。『鎮痛』」
「……おぉ、かゆみが治まった……!」
「ウィンクトゥーラさん!」
『鎮痛』の法術を使ってくれたウィンクトゥーラさんが、私に向かって大きく頷く。
「さぁアルクスちゃん! 頑張って!」
「はい!」
これなら行ける!
私はおじいさんの手に集中して魔力を流し続けた……。
読了ありがとうございます。
自分の都合より人の都合を優先してしまう……。
そういうのってグッときますよね。
ヒ◯アカ? 大好きです!
次回もよろしくお願いいたします。




