第三十話 新たな道、危うい道
顔の傷跡を治した話が広まり、大忙しになったアルクス。
そこにやってきたアーテルが、緑の初級回復魔法の持つ力について語り始めます。
どうぞお楽しみください。
「よぉ、アルクス
「ふへぇ……、せんせぇ……」
へろへろになって救護院を出た私を、先生が出迎えてくれた。
先生を見ると、仕事が終わったって感じがする……。
「すみません、遅くなって……」
「気にするな。どうせそうなるだろうと思ってた」
「え……?」
私の魔力と『専魔の腕輪』を確認した先生は、そう言って口元をにやりと歪める。
「大方顔の傷跡を治した話が広まって、しみを消したいだのそばかすをなくしてほしいだのと押しかけられたんだろ?」
「!?」
何でその事を!?
さては……!
「先生! 見てましたね!」
「見てなくてもわかるんだよ。青や橙と違って病気や体調不良とは違うから、希望する人は多いだろうしな」
うぅ、まさに先生の言う通り……。
救護院にあんなに元気な人達がいっぱいいるの、初めて見たよ……。
「いやー、女性の美への執念は恐ろしいなー」
「わかってたなら言ってくださいよ……!」
「言ったろ? 『この付与の習得はちょいと面倒だ』ってな」
「……あ! それってそういう意味だったんですか!?」
てっきり覚えるのが大変って意味だと思ってた!
「まぁ肌の手入れ程度なら大した事にはならないだろう。しばらくは頑張れよ」
「もう、他人事だと思って……」
「実際他人事だしなー」
「……」
軽く言う先生にじんわり怒りが湧く……。
ご馳走するご飯、煮豆定食にしちゃおうかな……。
……ってあれ?
「『肌の手入れ程度』って、緑の初級回復魔法って他にも何かできるんですか?」
「何だ、気付いてなかったのか?」
「何にですか?」
「緑の初級回復魔法は、その気になれば手でも足でも内臓でも、失った部位を元の状態に戻せるんだよ」
「……えええぇぇぇ!?」
そ、それって『再生』の法術と一緒……!?
ポルポラさんの言ってたのは、冗談じゃなかった……!?
「身体の本来の姿になるように働きかけるのが緑の初級回復魔法の効果なんだから、失った身体を治せるのも当然だろ」
「と、当然ですかね!?」
先生はさらっと言うけど、それは上級法術です!
しかも複雑な儀式や高い薬が必要な、高難易度の法術です!
私なんかが使えるものじゃ……!
「あの、先生、それって『再生』の法術と同じですよね……?」
「まぁ効果は同じだな」
「で、でも、『再生』は儀式とか薬とか必要なのに、どうして……?」
「それもまた『専魔の腕輪』の効果だ」
「……またですか……」
この『専魔の腕輪』って、上級魔道具じゃないの!?
……呪いの魔道具なんて思っててごめんね。
「身体を元に戻すには、再生する間ずっと『この形に戻せ』という指示を出し続ける必要がある。だから儀式でその指示の持続性を、薬で身体の元を補うわけだ」
「成程……」
「だが『専魔の腕輪』なら魔力をほぼ無尽蔵に流し続けられるからな。常に新しい指示を出し続けられるから持続性もいらないし、回復も早い」
「そうなんですね……」
「回復が早ければ身体の負担も小さいから、普通の食べ物でも身体の元を十分補えるわけだ」
「……すごい……」
先生の説明はとてもわかりやすい。
……だとしても、私が普通より簡単に『再生』の法術が使えるっていう事はまだ納得できないけど……。
「ただ、失った身体の一部を戻すには、その量に応じた身体の元が必要になる。使うなら食後の相手に使えよ。必要に応じて複数回にわける事も必要だ」
「……はい……」
ポルポラさんも、ご飯の後なのにお腹空いたって言ってたもんなぁ。
……あの時のご馳走、美味しかったなぁ……。
「それと、失った身体を治せると知られたら、今の比じゃないくらいに人が押し寄せるからな。気をつけろよ」
「……は、はい……!」
先生の言葉に、今日押し寄せた患者さんを思い出した。
あれ以上……!?
すっごく怖い……。
「ま、お前から言わなけりゃ気付く人も少ないだろうし、たとえ気付かれたとしても『緑の初級回復魔法にそんな事できません』ってしらばっくれたらいい」
「そうですね……」
内緒にしよう。うん絶対。
「じゃあまたな。頑張れよー」
「あ、先生……」
先生はすっと帰ってしまった。
お礼のご飯、また誘いそびれちゃった……。
次こそは必ず……!
読了ありがとうございます。
フラグですが、何か?
次回もよろしくお願いいたします。




