第三話 示された希望の光
『専魔の腕輪』によって絶望の中にあったアルクス。
しかし仮面の男はそれを呪いの魔道具ではないと断じます。
果たして『専魔の腕輪』とは一体……?
どうぞお楽しみください。
「……それで今私は、救護院で簡単な治療のお手伝いをして生活してるってわけです……」
私はアーテルさんに、これまでの経緯を話した。
見習い法術士としてこの町にやってきた事。
冒険者をしていたルームス様に仲間に誘われた事。
『専魔の腕輪』をつける事を条件にされた事。
一年間、延々とルームス様の回復をさせられた事。
そして自動回復の鎧を手に入れた事で追放された事。
今は救護院で細々と治療している事。
「はー、嫌な奴だね、そのルームスって貴族」
「あはは……」
アーテルさんは時折相槌を打ちながら、真剣に話を聞いてくれた。
それだけで少し胸が軽くなる。
しかし世間話で終わるわけにはいかない。
『専魔の腕輪』を外してもらって一人前の法術士への道を歩むんだ!
「それで、これ外してもらえますか?」
「……うーん……」
え、何で考え込むの!?
外すの難しい!?
お金がかかるとか!?
それとも「外してやるから言う事聞けよ」的な!?
「外すのは簡単なんだが、それだけじゃ面白くないと思ってな」
「面白く、ない……!?」
人の人生がかかってるんですけど!?
面白い面白くないで判断しないでほしいんですけど!?
「睨むな睨むな。そのルームスって野郎の鼻を明かしてやりたくないか?」
「それは、できる事なら……」
でもそんな事できるわけがない。
相手は上り調子の冒険者。しかも貴族。
かたや追い出された見習い法術士。
何ができるって言うんだろう……。
「ならそいつはつけたまんまで、色々な法術が使えたら面白いと思わないか?」
「え!?」
そんな事できるの!?
だって一つの初級魔法しか使えなくなるから『専魔の腕輪』だって……。
「『専魔の腕輪』をつけていると一つの魔法しか使えない、これは事実だ」
「じゃあ」
「だがアルクスちゃんみたいに一年以上、しかも毎日のように使い続けたとなると話が違ってくる」
「ど、どういう事ですか?」
「熟練度ってやつさ。今、初級回復魔法を使う時、『使う』と思ったら使えるだろ?」
「は、はい……」
「それは『専魔の腕輪』が外から魔力を取り込んで、初級回復魔法の形にして放出しているからだ。言ってしまえば粘土の押し型みたいなものだな」
「は、はぁ……」
それが何の関係があるんだろう。
結局その形でしか魔法を使えないって事だよね……?
「しかしここで熟練度が高くなっていると、それこそ息をするように魔法が使える。となると、アルクスちゃん自身の魔力で別の効果を付与できる」
「別の効果を、付与……?」
「魔法ってのは、自分の中で魔力の形を整え、特定の形にして放出する事で効果を得るものだ。自由度が高い分、使うまでの手順が重要になる」
「あ、呪文とか動作とか、場合によっては儀式とかですね」
「そ。でもアルクスちゃんの場合は、『専魔の腕輪』がその大部分をやってくれる。つまり効果を付与する余裕があるって事だ」
「そんな、事が……?」
アーテルさんの言っている事は半分くらいしかわからない。
でも今の状況を変えられるかもしれない。
これまで歯を食いしばってきた事が、無駄じゃなかったかもしれない。
そう思えたら、私に選択肢なんかなかった。
「アーテルさん! よろしくお願いします!」
「おう! 貴族野郎に追放した事を後悔させてやれ!」
「はい!」
こうして私はアーテルさんに、初級回復魔法に別の効果を付与するやり方を教わる事になった。
……この出会いによって『虹の聖女』と呼ばれる事になるなんて、この時の私は想像すらしていなかったのだった……。
読了ありがとうございます。
さてここからはルームスに陥れられたアルクスが、アーテルによって『虹の聖女』と呼ばれるまでに成長する物語です。
チートではないので、いきなりすかっと爽快とまではいきませんが、よろしければお付き合いください。