第二十五話 焦る気持ち
緑の初級回復魔法を習得し、ポルポラの顔の傷痕を治療しようと意気込むアルクス。
果たして治療はうまくいくのでしょうか……。
どうぞお楽しみください。
「ウィンクトゥーラさん! おはようございます!」
「アルクスちゃん、今日は早いわねぇ」
「あの! ポルポラさんって今日はどこにいるか知ってますか!?」
「え……」
ウィンクトゥーラさんの顔が曇った。
でもすぐにいつもの笑顔に戻る。
「ポルポラなら宿だと思うわ。今日はここの手伝いをしてくれるって言っていたから、お昼くらいに来るんじゃないかしら」
「わかりました!」
良かった!
じゃあポルポラさんが来るまでの間に、お仕事を進めちゃおう!
……と言っても患者さん次第だけど……。
でも手際よくやれば、きっとお昼の休憩の時にポルポラさんの治療ができる、はず!
頑張るぞー!
「よぉ、トゥーラ姉。悪い、遅くなった」
「ポルポラ、大丈夫よ。手伝ってくれるだけでも嬉しいわ」
ポルポラさんが来た!
……でもお昼休みが丁度終わって、午後の患者さんの対応が始まってしまった……。
「よし、何からやる?」
「倉庫からこの薬を運んでちょうだい」
「おっし、任せとけ!」
「その後は湯浴み着の洗濯を手伝ってもらえるかしら」
「おう!」
ポルポラさんもウィンクトゥーラさんからお仕事頼まれて、すぐにはお話出来なさそう……。
そうしたらお仕事の後にしよう!
先生、ご飯食べてからにした方がいいって言ってたし!
よーし! 午後のお仕事も頑張ろう!
「アルクスちゃん、今日はお疲れ様。大変だったわねぇ」
「……いえ、大丈夫、です……」
……ようやくお仕事が終わった……。
何で今日に限って患者さんが多いの!?
……まぁ具合悪い人を元気にできるのはいい事なんだけど……。
「あ、あのウィンクトゥーラさん、ポルポラさんは……?」
「今日はお願いできる事がなくなったから、さっき上がってもらったわ。ポルポラ、力持ちだから助かっちゃった」
「あ、そ、そうですか……」
残念……。
「何かポルポラに用事があったの?」
「えっと……」
ここで緑の初級回復魔法の話をしといた方がいいかな?
でも私は、昨日泣いてたポルポラさんを知らない事になってる……。
それなのに傷痕を治す緑の初級回復魔法の話をしたら、色々ばれちゃうかも……。
ここは治ってからの方がいいよね、うん!
「いえ、あの、冒険者仲間の時の話をちょっとしようかなって思って……」
「そうなの? なら早い方がいいかもしれないわね」
「え……? な、何でですか?」
「ポルポラね、今仮面を作ってもらっていて、それが完成したら冒険者に復帰するって言ってたの」
「!」
冒険者に復帰!?
そしたら数日、場合によっては数十日、町から離れるのが当たり前になる!
私のお仕事もだいぶ患者さんが落ち着いたけど、気軽にお休みなんかできないし、そのお休みもポルポラさんが町にいる日と重なるとも限らない!
しまったぁ! やっぱり昨日のうちに行っておけば……!
……いや、まだ間に合う!
早くポルポラさんに会って、治療しないと……!
「あの、ポルポラさんの宿ってどこですか!?」
「え? あぁ、花の憩い亭って言ってたわ」
「ありがとうございます! 失礼します!」
「あ、うん、気を付けてね」
私は急いで荷物をまとめると、救護院を出た。
「よお、お疲れさん。今日は大分忙しかったみたいだな」
「先生……!」
あああそうだった!
いつも通り先生が待っててくれていた!
急いで行かないといけないのに!
「どうした? 随分焦ってるな」
「あの、今日ポルポラさんとお話できなくて、しかも仮面を作ったら冒険者に復帰するって言ってて、早くしないとポルポラさんに会えなくなっちゃって、それで」
「落ち着けアルクス」
慌てて説明する私の頭に、先生が手を置いた。
それだけで、胸の中は熱いお湯みたいにぐらぐらしてるのに背中はぞくぞく寒い、変な気持ちがじんわり落ち着いてくる……。
私が大きく息を吐いたのを見た先生が、頭に乗せた手でぽんぽんと叩く。
「それで良い。焦ったって碌な事にはならないからな」
「……はい」
「まず第一に、お前はその顔に酸被った人を治したいって思ってるが、相手はどうなんだ?」
「え……?」
そんなの治したいに決まって……!
……でも確かにまだポルポラさんは泣いていたけど、顔の事じゃないかもしれない……。
ルームスに追放された事で、冒険者として一からやり直しになったせいかも……。
……うぁ、私、また暴走しかけてた……。
「やっぱりそこら辺はまだ未確認だったか」
「……はい」
「今気付けて良かったな。かなり繊細な問題だろうから、勢い任せだったら感情的に反発されてたかもしれないぞ?」
「……ありがとう、ございます……!」
先生に気付かせてもらえて良かったけど、昨日といい今日といい、私失敗ばかりだなぁ……。
カルクルムさんや先生がいなかったらと思うと、ゾッとする……。
「だがまぁ、最悪の事態は免れたんだから、そんなに落ち込むな」
「……はい、失敗する前でよかったです……」
「違う違う。一番まずいのはだな……」
!
顎に手を添えられて、俯いていた顔が引き上げられる!
先生の仮面の奥の、黒く真っ直ぐな瞳と目が合う!
「失敗を怖がって何もできなくなる事だ」
「!」
「お前の『人を助けたい』って気持ちに間違いはないんだ。それがちゃんと伝わるやり方かどうか、考えたり相談したりをやめなきゃいいのさ」
「……はい!」
先生の言葉に、気持ちが立ち直っていくのがわかる。
そうだ、ポルポラさんが顔の治療を望んでないって決まったわけでもない!
私はそれをちゃんと聞いて、私の気持ちも話せばいいんだ!
よし! そのためにはやっぱりポルポラさんに会いに行こう!
行動は同じでも、さっきと気持ちが全然違うのを私は感じていた。
「……よし、身体にも『専魔の腕輪』にも問題はなさそうだな」
「ありがとうございます! じゃあ行ってきます!」
「おう、頑張れー」
先生ののんびりした声に押されて、私はポルポラさんの元に向かって走り出すのだった。
読了ありがとうございます。
焦りは失敗の元。
古事記にもそう書いてある(嘘)。
次回もよろしくお願いいたします。




