第二十四話 新緑の記憶
ポルポラの悲しみを知り、何とかしたいと願うアルクス。
その願いに一縷の望みであるアーテルの答えは……?
どうぞお楽しみください。
「先生!」
「おう、待たせたか。今日は早めに終わったのか?」
「はい! そうなんですけど! ご相談がありまして!」
「何だ何だ。凄い圧だなお前……」
救護院の前に来てくれた先生に私は詰め寄る。
ポルポラさんの顔の痕、治せる方法を知っていますように!
「実は私が冒険者をしていた時にお世話になった人が、顔に酸蜥蜴の酸を受けてしまったんです……」
「うわ、そりゃきついな……」
「怪我は法術で治ったそうなんですけど、痕が残ってしまったそうで、……その、治す方法ってありませんか……?」
「あるぞー」
「えっ!?」
ある!?
今あるって言った!?
さらっと言われると逆に不安になるんですけど!
「せ、先生! 本当に……!?」
「おう。ただこの付与の習得はちょいと面倒だ。それでも」
「やります! 教えてください!」
どんな修行だって乗り越えてみせる!
ポルポラさんを助けるんだ!
「……ふっ、いい覚悟だ。ついて来い」
「はい!」
私は先生の黒い背中を追いかける。
また山で修行かな……?
今から行くと夜になっちゃうけど……。
……暗いの怖いな……。
いや! そんなの気にしていられない!
……先生は側にいてくれるよね……?
と思ったら、え、花屋さんで何か買ってる……?
「ほれ、手を出せ」
「……手……? は、はい」」
「よし」
ぽとりと種が手に落とされる。
「じゃあその種が何の種かを当ててみろ」
「……へ?」
な、何!?
どういう事!?
「先生! 私、植物の事全然詳しくないんで、何か手がかりを……!」
「よーし、いいだろう。これは果物の種で……、って違ーう」
「えっ!?」
「単なる種の名前当てじゃない。これは初級回復魔法の修行だぞ?」
「……えっと……?」
私は手のひらの中の種をじっと見つめる。
……やっぱりわからない。
でも修行って事だから、とりあえず初級回復魔法を使ってみよう……。
「……」
白い光が種を包み込む。
これで種の名前なんてわからないと思うけど……。
「!?」
な、何これ!?
種が芽を出して、葉を繁らせ、樹になっていく姿が頭の中に思い浮かぶ!
花が咲いて、実がなって、この赤い実は……!
「先生! 林檎です! これ林檎の種です!」
「よし、正解だ」
「初級回復魔法を使ったら、この種が樹になって実をつける姿が思い浮かんで……!」
! まただ!
金属を叩くような澄んだ音!
頭に浮かんだ色は、緑……!?
「おー、今回もあっさり覚えたな。緑は早くても数日かかるかと思ってたんだけどな」
「先生、い、今のは……?」
「親から子に引き継がれる、生き物がその姿になるための情報だ。その感覚が初級回復魔法を通じてお前の中に入って来たんだ」
「生き物の、情報……」
そう言えばこれまでも、青の初級回復魔法を使うと身体の熱が、橙の初級回復魔法を使うと活力の量がわかった。
初級回復魔法って不思議な効果があるんだなぁ……。
「そしてその情報に働きかければ、身体をあるべき姿に戻す事ができる。それが緑の初級回復魔法の効果だ」
「じゃ、じゃあポルポラさんの傷も治す事が……?」
「あぁ。傷の事は生き物の情報に含まれていないからな」
やった! これでポルポラさんの傷痕を治せる!
「じゃあ今から行ってきます!」
「待て待て。落ち着けアルクス」
「な、何ですか先生!」
もう! 早くポルポラさんを治してあげたいのに、何で止めるの!?
「緑の初級回復魔法は、確かに身体の傷痕を消す事ができる。だが、その傷を埋めるための身体の元は別で必要だ」
「身体の元……?」
「食事だ。特に肉や魚だな。そうしないと必要な栄養が足りなくなり、体調を崩す事がある」
「ご飯をちゃんと食べないと駄目って事ですね! わかりました!」
私は急いで救護院に戻ろうとして、足を止めた。
「どうした?」
「……」
……今行ったら、まだポルポラさん泣いてるよね……?
早く治してあげたいけど、ここで私が戻ったらカルクルムさんの気遣いが無駄になっちゃう……。
「……あ、明日にします」
「? そうか。頑張れよ」
「……はい!」
先生を見送ると、私は焦る気持ちを抑えながら、下宿に帰るのだった……。
読了ありがとうございます。
前回の経験を糧に、空気を読んだアルクス。
成長したね!
次回もよろしくお願いいたします。




