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初級回復魔法しか使えないようにされた上に追放された法術士の私が、虹の聖女と呼ばれるまでの物語  作者: 衣谷強
橙の章

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第二十一話 思いは手から伝わって

カルクルムが来た途端に緊張を露わにするウィンクトゥーラ。

それにより食事会の空気は段々と重くなります。

果たして二人の行く末は……?


どうぞお楽しみください。

「わ、わぁー! この煮野菜、本当に美味しいですねー! わ、私持って帰って家宝にしちゃおうかなー?」

「……じゃあ私の分も食べていいわよ……?」

「え、だ、大丈夫です! 満足です!」

「あ、あはは……。アルクスさんに喜んでもらえて嬉しいです……」


 駄目だー!

 ウィンクトゥーラさんはずっと俯いていて、ご飯もほとんど進んでない!

 それを見てるカルクルムさんの笑顔が引きつってる!

 どうしよう!?


「アルクスー。馬鹿な事言ってないでとっとと食えー」

「……」


 先生は先生で早々に諦めちゃって、普通にご飯食べてるし!

 このままじゃ二人とも気まずいまま、お食事会が終わっちゃう!

 何とかしないと!


「あのっ……!」

「アルクス」

「っ……」


 先生が静かな声で私を止める。

 ……わかってる。

 こんな空気になっちゃったら、もう誰が何を言っても簡単には楽しい雰囲気に戻せない事くらい……。

 でもウィンクトゥーラさんが本当にカルクルムさんの事を嫌いならそれでもいいけど、そうじゃない事を私は知ってる!

 今日の仕事終わりに、私の髪を梳かしてくれた後、


『……ねぇ、アルクスちゃん……。私も、その、髪……、お願いしていいかしら……?』


 って言って髪を梳かさせてくれた!

 いつも自分の事は自分でやってしまうウィンクトゥーラさんが頼ってくれたのが嬉しかったし、その理由がカルクルムさんに会うからだっていうのも嬉しかった!

 きっとウィンクトゥーラさんは、普段と違う状況で緊張してるだけ……!

 それだけなのに辛そうな二人をこのままにするのは、絶対違う!

 ごめんなさい先生!

 私もう一回だけ先生に逆らいます!


「ウィンクトゥーラさん! あの、私」

「ありがとう、アルクスちゃん……」

「……!」


 私の手にウィンクトゥーラさんが手を重ねる。

 驚いて見上げたウィンクトゥーラさんの目は、すごく寂しそうな、切なそうな色をしていた。

 ……駄目!

 これはきっともう諦めちゃってる!

 このままだとウィンクトゥーラさんはカルクルムさんに謝って、この会は終わりになっちゃう!

 そうしたら二人は……!


「……カルクルムさん。今日のお誘い、本当に嬉しかったです」

「え……、う、ウィンクトゥーラさん……?」

「神の教えに従い、ただ人様のためだけに生きるつまらない女に、暖かい気持ちを向けてくださって……」

「そんな……! 私の方こそ、ウィンクトゥーラさんに暖かく迎え入れていただけて、私はそれに救われたのです……!」

「……それは救護院の院長として当然の事をしたまでです……。私にはカルクルムさんのお気持ちに何を返せば良いのかわからなくて……」

「お返しだなんてそんな必要はありません! 私はただあなたの事を愛」

「どうかそれ以上は仰らないでください……。ずっと、ずっと考えていました……。ですが私には、一人だけに想いを向ける事ができそうにないのです……」

「そんな……!」

「……ここで想いにお応えすると言っても、きっと救護院院長の私がそれを許さないでしょう。……そしてどちらかをと問われたら、私は仕事を選んでしまう……」

「……たとえそうだとしても構いません! あなたの側にいる事をどうかお許しください!」

「……わかってください……。こんな不実な私など、カルクルムさんに想いを寄せてもらう価値などないのです……」

「……!」


 がっくりうなだれるカルクルムさん……!

 今にも泣きそうなウィンクトゥーラさん……!

 こんなのやだよ……!

 誰にも優しく暖かいウィンクトゥーラさんが、そのために辛くなるなんて……!

 ウィンクトゥーラさんへの想いで頑張ってこれたって言ってたカルクルムさんが、こんな悲しい顔するなんて……!

 絶対に嫌だ!


「!? あ、アルクスちゃん……!?」

「えっ!? あ、あれ!?」


 ウィンクトゥーラさんの手と重なった私の手が、橙色に輝いてる!

 な、何で初級回復魔法が発動してるの!?

 ……! いや、これだ!

 今感じるウィンクトゥーラさんの中の消えそうな活力に、この力を注ぎ込んで……!


「な、何……? 暖かいものが流れ込んでくる……!」


 今のウィンクトゥーラさんの言葉が本心なら、どうしようもないのかもしれない……!

 でも仕事とカルクルムさんの事とで悩んで疲れて出した結論なら、橙の初級回復魔法の力で変えられるかも……!

 お願い……!


「……は……」


 ウィンクトゥーラさんが、涙を……?


「……私、何て事を……。自分の不安をカルクルムさんと仕事のせいにして、真剣な想いから逃げようとするなんて……」

「ウィンクトゥーラさん……? っわ!?」


 急に横から引っ張られた!

 先生!? いつの間に横に!?


「……私は何をこんなに不安に思っていたのかしら……。カルクルムさんとなら、どんな困難も乗り越えていけそうな気がしているのに……」

「う、ウィンクトゥーラさん! そ、それは私との交際を前向きに考えていただけるという事ですか!?」

「え!? あ、いえ、その……! うぅ、私、何て事を……!」

「嬉しいです! 私の辛さを癒してもらえたように、これからは私がウィンクトゥーラさんの辛さを癒していきたいと心から願っていたのですから!」

「……カルクルムさん……!」

「……改めて申し上げます。あなたの一番側にいて、苦楽を共にする資格を、どうか私に……!」

「……!」

「どうか……!」

「……こんな私でよろしければ、……その、どうぞ……、よ、よろしく、お願いいたします……」

「〜〜〜っ!」


 あ、カルクルムさんも泣いた!

 ウィンクトゥーラさんあわあわしてる!

 あ、戸惑ってるウィンクトゥーラさんの手をカルクルムさんが握った!

 その手に、一瞬固まった後ウィンクトゥーラさんが両手を添えて……!

 うんうん素敵だなぁ!


「……おいアルクス」

「ひゃっ!? な、何ですか先生……!」


 急に耳元でささやかないでほしいなぁ。

 びっくりするじゃない。


「お前何で今、橙の初級回復魔法を使った?」

「え、あ、あれは、その、何というか、無意識に……」

「……そうか」

「……?」


 何だろう。

 先生何か考え込んでる……?


「……それにしても、相変わらずお前は俺の言う事を聞かないな」

「え、そ、それは、その……。ご、ごめんなさい……」

「……お前の諦めの悪さには呆れたよ。だがまぁ、その諦めの悪さが二人の幸せに繋がったんだから、大したもんだよな」

「……先生……!」


 褒められた!?

 てっきり怒られると思ったのに!

 嬉しい!

 ウィンクトゥーラさんとカルクルムさんの幸せそうな姿と合わせて、私も泣きそう……!


「俺は早々に無理だって伝えてたのにな」


 そうだった!

 あの諦めの早さはひどい!

 涙が引っ込んだ!


「睨むな睨むな。ま、幸せな二人に免じて許せ、な?」

「……わかりました」


 ……こういうの、先生って本当にずるいよなぁ……。


「じゃあお二人さーん。改めてお祝いといきましょうかー」

「……! あ、すみません……! 私達だけで舞い上がってしまって……!」

「あ、あの、お酒! そう! お酒を頼みましょう! 今日は私の奢りですから、どうぞ遠慮なく! あはははは……!」


 明るい先生の言葉に、真っ赤になってぱっと手を離すウィンクトゥーラさんとカルクルムさん。

 先生に対して若干の不満はあるけれど、二人の前でいう話じゃない。

 それに私の法術が二人の結ばれるきっかけになった嬉しさが、じわじわと胸の中から込み上げてくる……!

 だから私は満面の笑顔で、


「おめでとうございます!」


 と二人にお祝いの言葉を送ったのだった。




 翌日。


「あ、頭が、割れる……」

「……ごめんなさいアルクスちゃん……。『解毒』、お願いできる……?」

「……は、はい……」


 嬉しさのあまり飲み過ぎて二日酔いになったカルクルムさんに、私は青の初級回復魔法をかけるのだった……。

読了ありがとうございます。


しんどい時に考え詰めた結論は、極端に走る事が多く、自分や他人を傷つけがちです。

その結論は一旦紙に書いたりして置いておいて、ご飯食べたりお風呂入ったり寝たりすると、何か変わるかもしれません。

「飯・風呂・寝る」は回復の合言葉。


橙の章はこれにて完結です。

次回もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人の関係が良い方向に向かって良かったです。 これもアルクスちゃんの諦めない心、優しい気持ちがあったればこそですよね。 早々に諦めてしまっていた先生、諦めたらそこで試合終了ですよ。 嬉…
[一言] ウフフッ お帰りなさい ご飯にする? お風呂にする? それとも…寝る?♡ こっ、これは!! 山吹色(橙色)の波紋疾走(オーバードライブ)!!
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