第十五話 橙の初級回復魔法
アーテルに若干の不信感を抱きつつも、習得した橙の初級回復魔法を使うべく、救護院にやって来たアルクス。
話を聞いた院長のウィンクトゥーラは、ある人物へ新たな力を使う事を提案して……?
どうぞお楽しみください。
「あらアルクスちゃん、どうしたの? 今日はお休みなのに」
「えっと、あの、新しい法術を教わったので、もし患者さんがいたらなって思って……」
「……お休みの日まで修行……? ここのところすごく働いてくれていたし、昨日のお給料でお買い物とかしてくれたら良かったのに……」
心配そうな表情をするウィンクトゥーラさん。
すみません、働けるのが嬉しくて……。
でも私からすると、院長だからと毎日のように救護院にいるウィンクトゥーラさんの方が心配だけど……。
「でも新しい法術を覚えたなんて頼もしいわ。どんな法術なのかしら?」
「あの、ちょっと信じられないかもしれないですけど、体力を回復する法術でして……」
「体力の、回復……?」
ウィンクトゥーラさんが怪訝そうな顔をする。
そりゃそうだよね。
私だって不思議に思ったもん。
「……それは、つまり、魔力を体力に変換して患者さんに注ぐって事よね……?」
「はい」
「アルクスちゃんは大丈夫なの……?」
「それは大丈夫です。『専魔の腕輪』があるので」
「あ、あぁ、そうだったわね……」
何か考え込んでいるウィンクトゥーラさん。
やっぱりいきなり患者さんじゃまずかったかな……?
「……ちょっと来てくれる?」
「はい」
ウィンクトゥーラさんに言われるまま、私は受付の奥の部屋に向かう。
ここは職員の人の休憩室……。
……寝息?
「あ、この人……」
「えぇ。会計士のカルクルムさん。すごくお疲れの様子だったから仮眠をおすすめしたの」
「へぇ……」
この周辺の救護院の会計監査を全て任されていて、月の終わりから初めにかけて、とても忙しそうにしていた。
見ると顔色は悪く、目の下の隈もひどい。
救護院以外にも会計の仕事を請け負っているそうで、見かける時はいつも溜息をついていた気がする。
歳はお父さんより少し若かったはずだけど、髪には白髪が目立ち、おじさんというよりおじいさんっぽく見えてしまう。
「その体力回復の法術、カルクルムさんにかけてあげられないかしら?」
「勿論です!」
きっと食事も取れないくらいお疲れだから、役に立てるはず!
「カルクルムさん、少しよろしいですか?」
「……ん……? あ、あぁ、すみませんウィンクトゥーラさん。少し休むつもりが眠り込んでしまいました……」
「いえいえ、お疲れですものね」
「ははは……。面目ない……。おや? アルクスさんが何故? 今日は休みと聞いていましたが……」
「あ、すみません、ちょっと用事がありまして……」
カルクルムさんが起き上がってかけた眼鏡の奥が光る。
お給料の支払いとかで、職員や法術士の出勤も管理しているカルクルムさん。
すごい記憶力だよなぁ……。
だからこんなに疲れちゃうんだろうけど……。
「アルクスちゃんが、体力回復の法術を覚えたって言いに来てくれたんですよ」
「た、体力回復!? そんなものは貴族のお抱えか宮廷法術士でしか聞いた事がありませんが……?」
「それでもしよろしければ、お疲れのカルクルムさんに使ってもらえたら、なんて……」
「い、いやしかし……。上級の法術士でも複数人でかける体力回復を、アルクスさんが一人で……?」
「大丈夫です! お任せください!」
救護院で働く人達のために頑張ってくれているカルクルムさんに元気になってもらいたい!
私の手の中に宿る初級回復魔法が、橙色に光る!
「……では、ものは試しという事で……」
「行きます!」
私はカルクルムさんの肩に手を置いて、橙の初級回復魔法を注ぎ始めた……!
読了ありがとうございます。
眼鏡のイケおじカルクルム。
果たして元気になれるのか?
次回もよろしくお願いいたします。




