第十四話 成果と不信感と
橙の初級回復魔法を使えるようになったアルクス。
その効果の説明に耳を傾けますが……?
どうぞお楽しみください。
「さてアルクス、お前は食事をしないとどうなる?」
「五日くらいは頑張れます!」
「……そういう事じゃなくて」
先生が溜息をついた。何で?
「人間は食事によって体力を得る。食べなければ身体を動かす力が足りなくなり、動けなくなり死に至る」
「あ、はい。そうですね」
「そしてこの体力を得るにも体力を使う。食べる事、食べ物を消化して身体に取り込む事、何についてもだ」
「わかります。病気が酷くて体力が弱っている人は、食事もできませんもんね。……あ、じゃあ!」
私の声に先生の口元がにやりと笑った。
「そうだ。橙の初級回復魔法を使うと、魔力が体力に変化する。そうして身体中に行き渡れば、弱った患者でも怪我や病気に対抗できる体力を得られる」
わ! そう考えるとすごい効果!
青の初級回復魔法と組み合わせて使えば、沢山の人を助けられる!
あれ? でもそうすると気になる事が一つ。
「あの、私法術で体力を回復するものって聞いた事ないんですけど、何でですか?」
「お、いい質問だ。普通の法術は、自分の魔力の形を変えてその効果を発揮する。それはわかるな?」
「はい」
「例えば傷を回復する法術は、身体が治ろうとする力に働きかける。解毒の法術は、毒素と戦う部分を探って、そこを分解する。だからある程度の魔力で事足りる」
「体力回復はそうじゃないんですか?」
「人間の魔力は身体の中から発生する。だから使えば当然減る。それを弱っている人間に体力に変換して注ぎ込んだらどうなる?」
「患者さんが元気になって……、法術士が倒れる……?」
「そういう事だ。普通なら効率が悪くてやらない。やるとしても一人の患者に複数で行う形になる。だから金持ちのお抱えとかなら使える奴はいるかもな」
それで基本的には薬で対応するんだ。
でも私なら……!
「私は『専魔の腕輪』の効果で、周囲から魔力を集められる……!」
「あぁ。だからこの効果がいいなと思ったんだ」
「ありがとうございます!」
先生は私の事を考えて教えてくれる。
それがとても嬉しい!
……嬉しいんだけど……。
「先生。もう一つ質問です」
「何だ?」
「何で最初から修行の目的と内容を教えてくれなかったんですか?」
「えっ」
「『体力回復の付与のために、皮袋の温度が下がっていくにつれて体温が移っていく感覚を感じ取れ』って言ってくれても良かったんじゃないですか?」
「はっはっは。何を言っている。それじゃあ修行っぽい空気が出せないだろう」
「は?」
修行っぽい空気?
そんな事のために私は不安な思いをしながら皮袋を抱えていたの!?
「結果として橙の初級回復魔法は使えるようになったし、別にいいだろ?」
「……」
確かにできるようにはなった。
でも先に教えてもらいたかった。
教えなければできない事じゃないなら尚更だ。
『俺は法術や魔道具の専門家って訳でもないからな。趣味みたいなもんだ』
『お前に教えるのも暇つぶしみたいなもんだ』
先生が昨日の帰りに話していた事が頭をよぎる。
真剣にやってくれてる訳じゃないのかな……。
「じゃあ早速救護院に行ってみるか。今の感覚を忘れないうちに使ってみよう」
「……はい」
うっすらと芽生えた不信感。
町へと向かう先生の背中に、私はそれを向けないように胸の奥に押し込んだ。
読了ありがとうございます。
よくある修行。
『やり遂げれば効果は自ずとわかる!』
目標と成果は先に話しておいても良かった気がします。
次回もよろしくお願いいたします。




