第十一話 お金をもらうという事
運ばれて来た鶏の一枚焼き定食。
初めて口にする味に、アルクスは、そしてアーテルは何を思うのか?
どうぞお楽しみください。
「こ、これは……!」
私は目を見張った!
鶏肉の一枚焼き……!
匂いからして美味しいものだという事はわかっていたけど……!
「へぇ、これはなかなか美味い……、っておいアルクス、お前、……泣いているのか……?」
「あ、あはは……。美味しすぎて、つい……」
あぁ、いつか法術士として一人前になったら、沢山ご馳走を食べようと心に決めていた……!
なのにこの鶏肉ときたら!
皮は固くてぱりっとしてるのに、お肉は柔らかくて、噛むと口の中にじゅわって甘じょっぱい味が広がって……!
飲み込むと香ばしい匂いと味が一気に広がる!
まだ半人前なのに、こんなご馳走……!
……幸せ……!
「あ、アルクス……?」
「……先生、天国はここにありました……!」
「あー、うん。満足そうで何よりだ……」
一口一口を楽しむために、小さく切って口に入れる。
……噛み締める度に、これまでの大変さや辛さが報われていくみたい……!
いつものパンやサラダ、スープも特別に感じる……!
私はこの味と出会うために、これまで頑張って来たのかもしれない……!
「……ご馳走、様でした……!」
最後の一口を飲み込んだ時、私は天を仰いで涙した……。
お金を払うと、女将さんはにこにこと笑って、私の背中をぽんぽんと叩いた。
「いやー、作った甲斐があるよ! あんなに美味しそうに食べてくれてさ!」
「美味しそうじゃないんです! 本当に、本っ当に! 美味しかったです!」
「そりゃあ良かった! 先生はご満足いただけたかね?」
「あぁ、美味かった。焼き加減も味付けも素晴らしかったと」
「ですよね! 先生もそう思いますよね!」
「……あぁ……」
先生が頷いてくれるのを見て、私は満足感が更に深まるのを感じた。
次のお給料の日には、また先生と一緒に食べよう!
楽しみだなぁ。
「それにしてもアルクスちゃん、どうして急に給料が上がったんだい?」
「あ、それはですね、先生に教わって『解毒』と『病気治癒』ができるようになったからなんです!」
「へぇ! すごいじゃないか! あたしが具合悪くなったら、アルクスちゃんに治してもらおうかねぇ」
! それは素敵だ!
女将さんは勿論、今の下宿に住まわせてくれている大家さん、野菜売りのおじさんおばさんとか、お世話になってる皆さんに恩返しできる!
「そしたら女将さん! 今度のお休みにやってみませんか!?」
「え? いや、今は身体の調子も悪くないし、必要になったら救護院に行くから大丈夫さ!」
「いえいえ! 病気以外にも身体の毒素とかを出せて、すっきりできますから! とばっと汗をかきますけど、お風呂場とかお借りできればばっちりです!」
「いや、でも悪いよ……。その気持ちだけで嬉しいからさ……」
「え……」
……何で断るの……?
これまでいっぱい助けてもらったから、少しでも恩返ししたいのに……。
「アルクス、落ち着け」
「先生……?」
「気持ちは分かるがそういうのは駄目だ。お前は法術士なんだからな」
「え……?」
法術士だから、駄目……?
どういう事……?
「そうだな……。お前は今日のこの料理、女将さんからただでご馳走してもらったらどう思う?」
「そんなのもらえません! こんな美味しいものにお金を払わないなんて……!」
「そうだな。そしてそれはお前の初級回復魔法にも言える事だ。救護院でなら、お金を払って受ける法術なんだから」
「……あ」
そう、か……。
私は自分の力に価値があんまりないって思ってた……。
でも今日もらったお給料が感謝の証であるなら、私はそれを受け取る価値があるって認めてもらえてたんだ……。
なのに私はそれを否定するような事を……!
それは教えてくれた先生や、法術を使える身体に産んでくれた両親にも失礼な事だ……!
「まぁ人の役に立ちたい気持ちで法術士になったお前が、新しい力を手に入れてそうなるのも無理はないし、その気持ちを否定する必要もない。出し方の問題だ」
「……はい。わかりました……」
「後は、そうだな……。もし次に女将さんの具合が悪くなった時に、優先してあげたり、訪問診療をしてあげたりってのが、まぁ落とし所じゃないか?」
「……! ありがとうございます!」
淡々と、でも次にどうしたらいいのかをちゃんと教えてくれる……!
反省しなきゃいけない事はあるけど、私の心は先生のお陰で落ち込まずに前を向けていた。
「流石は先生! 最初は胡散臭いと思ってたけど、あたしが言いたい事をちゃんと言ってくれた! ありがとよ!」
「いや、当然の事を言ったまでで痛い痛い」
女将さんが先生に満面の笑みを向けて肩を叩いているのを見て、私は今日の嬉しさがまた一つ増えたのを感じたのだった……。
読了ありがとうございます。
アルクスは感動に打ち震えていましたが、鶏の一枚焼き定食は一般的なご飯です。
……毎日でも食べられるようになるといいね……。
次話もよろしくお願いいたします。




