第百六話 微かな希望
白の初級回復魔法を習得するも、五百年分の年月を中和するには丸二日かけ続けなければならない事が分かったアルクス。
何とかその問題を解決しようと考えますが……?
どうぞお楽しみください。
「……駄目だぁ!」
うぅ、何度やってもうまくいかない!
ブルブスさんに魔吸石を集めてもらって、橙の初級回復魔法を付与して、それで二日間の治療を乗り切ろうと思ったけど……。
「……んっ……! くっ!」
魔吸石を握る動作と流れ込む『体力回復』の付与で、どうしても白の初級回復魔法の注ぎ方が乱れる!
多すぎず少なすぎず注ぐためには、一定の間隔で注がないといけないのに、これじゃ……。
やっぱり前の日に何も食べない、飲まないで、ひたすら寝だめして頑張るしかないかな……。
でもそしたら途中でへたばっちゃうかも……。
そうなったら先生は……!
「アルクスさん」
「ブルブスさん? どうぞ」
ノックの音と一緒に聞こえてきたブルブスさんの声。
返事をすると扉が開いて、ブルブスさんが入ってきた。
「そろそろお昼ですが、食堂に来られますか? それともここにお持ちしますか?」
「……ここにお願いします……」
修行に集中したいのもあるけど、今先生と顔を合わせたくない。
楽しい事いっぱいあるのに、美味しいものいっぱいあるのに、生きる事を諦めちゃってる先生が嫌……!
……わかってる。
これは私のわがままだ。
先生の五百年の人生を私は知らない。
本当に十分に生きたのかもしれない。
でも、それでも嫌だ!
もっと一緒にいたい!
美味しいものを一緒に食べたい!
だから何が何でも助けるんだ!
「……あの、アルクスさん。キュープラムの救護院の院長さん、あの人は法術を使えますよね?」
「え? えぇ。骨折とかも治せてすごいんです!」
「……えぇ、はい。それでその方を王都にお呼びして、力を貸してもらうというのはどうでしょうか?」
「うーん……」
それはちょっと難しいかな……。
ウィンクトゥーラさんの法術は確かにすごい。
でもそれは、怪我に対しての話だ。
橙の初級回復魔法みたいに、活力そのものを流し込んだりは……。
あ、でももし付与の修行をして橙の付与ができるようになったら……?
……駄目だ。『専魔の腕輪』がないから、私に活力を注いだ分、ウィンクトゥーラさんの魔力が減る。
二日分の体力を補う魔力なんて……。
「あ……!」
「どうしましたアルクスさん?」
「お、お願いします! 同じ救護院にいるクーラーティオさんと、魔術士のロセウスさんも!」
「わ、わかりました」
そうだよ! 魔吸石に紫の初級回復魔法を込めまくって、それで補充をしてもらえば、きっといける!
後は三人が付与を覚えてくれるかどうか……。
「他にも力を貸してくれる法術士の人がいたらお願いします!」
「わかりました」
「あの、それと一つ伝言いいですか?」
「承ります」
私はにっこり笑って、
「先生に『ウィンクトゥーラさん達は勝つために呼ぶんです。慰めてもらうためじゃありませんから』って」
「な……!」
先生への宣戦布告を口にした。
「……何故わかったのですか?」
「先生が考えそうな事ですから。それにブルブスさんが考えた事なら、実力を知ってる王宮の法術士の人を先に推薦するでしょう?」
「……確かに……」
先生なら、自分が死んだ後落ち込む私を何とかしたいと思うだろう。
でもここにいる知り合いはブルブスさんだけ。
だからウィンクトゥーラさん達を呼ぶ口実を作って、自分が死んだ後私を慰めさせようとしたんだ。
そこまで自分の命を諦めているのが悲しい。
私の力も心も信じてくれてないのが悔しい。
それでも私を心配してくれてるのが、どうしようもなく嬉しい。
そんな思いを全部全部ぜーんぶ! 先生に叩きつけてやるんだ!
「後魔吸石もいっぱい持ってきてください! 全部に付与して総力戦です!」
「……アーテル様の想定を覆せると思っているのですか?」
「はい! もちろんです!」
「五百年の時を過ごしたお方ですよ? しかも今よりも遥かに進んでいた魔法を知る方で……」
「知ってます! でも先生だって人間です! 何か見落としてたり、失敗だってしてるかもしれません!」
「! ……成程」
「だから絶対に諦めません! 助ける方法を見つけて、嫌だって言っても首に縄をつけてでも助けます!」
私の言葉に、ブルブスさんはにこっと笑った。
「ならば私も乗らせてもらいましょう。考えてみればアーテル様は世界を救う英雄。嫌と言う程恩返しをさせて頂かなければなりません」
「はい!」
これできっと助けられる!
助けられるんだ!
私はそう信じて、震える手をぎゅっと握った……。
読了ありがとうございます。
戦争は数だよ兄貴ぃ!
さて人数が勝つか、歳月が勝つか……。
次回もよろしくお願いいたします。




