入れたかったネタ(ナコ視点)
ナコから見たスズエという人物像です。人形達にとってスズエは最初、とても恐ろしい存在だったのだろうと思います。
スズエ先輩は不思議な人だ。人形に対しても平等に接する。
「これで、あたし達の利用価値が出来たでしょ……?」
あたしがそう言うと、スズエ先輩は首を傾げた。
「利用……?えっと……どういう意味で言ったんだ?」
本当に分かっていないらしい。
「あたし達しか持っていない情報もあるから、生かす価値があるでしょ、ってことよ」
「……ごめん、言いたいことがよく分からないのだけど……お前達を見捨てるかもしれないと思っているのなら、勘違いしないでくれ。私は「皆」で脱出したいんだ」
その言葉に目を見開く。
あたし達、生きていないんだよ?
生きている人の方を優先するでしょ?
「ナコ」
なのになんで。
「怖いなら、いつでも呼んでいい。私のことは信用出来ないかもしれないし、しなくてもいいけど、絶対に皆を帰して見せるから」
あたしに優しい笑顔を向けてくれるの?
食堂に向かうと、スズエ先輩が突っ伏して寝ていた。目の前にパソコンがあるから、何かしていて寝落ちしたんだとすぐに分かる。
「全く、この子は……」
ケイさんは苦笑いを浮かべていた。既に皆集まっていて、どうやら意見は同じみたい。
――休ませてあげよう。
思えばスズエ先輩はずっと動きっぱなしだった。誰よりも率先して動いて、皆が休んでいる間も一人起きていてパソコンでハッキングだとか調べものだとかしていた。
「……スズエ先輩……」
なんとなく、本当に小さい声で名前を呼ぶ。騒がしいから、聞こえないだろうと思っていたのに。
「……ん……?」
スズエ先輩は薄く目を開き、
「どうしたんだ……?ナコ……」
あくびをしながらあたしの名前を呼んだ。キョトンとしていると「あれ?」と首を傾げられた。
「呼んだの、ナコじゃなかったか?声的にそうだと思ったんだが」
「まぁ、そうだけど……まさか聞こえてるとは思ってなくて……」
「そんなに驚くことか?……まぁいいや。それで、何か用?」
スズエ先輩はジッとあたしを見ていた。とても優しい瞳で。
「……ううん。何でもない」
「そうか?ふぁあ……ごめん、何もないならもう少し寝るね……何かあったらすぐ起こしてくれていいから……」
無防備な姿が珍しい。相当疲れていたみたい。それはいつもの生真面目な雰囲気じゃなくて、どこにでもいるおねえさんって感じで。
「あの」
思わず声をかけてしまった。スズエ先輩は「どうした?」と首を傾げた。
「あ、えっと……髪の毛、梳いてほしい……も、もちろん寝てからで」
「ナコ」
ビクッと身体が震える。スズエ先輩の方を見ると、ポンポンと膝を叩いていた。
「おいで」
そこはフウやキナの特等席。そこに、あたしも座っていいって言われている。
あたしは恐る恐る、そこに座った。
「私がいつも使っているくしでいいか?」
あたしの髪をほどきながら、聞いてくる。あたしが頷くと、まるで割れ物にでも触るのかと言うほど優しく梳いてくれた。
「ナコの髪、サラサラだな。それでいて柔らかい」
「……お母さんに、髪の毛はちゃんと手入れしなさいって言われていたの」
「なるほど。道理で行き届いているハズだ。私なんて結構適当だからな……」
お母さんはこんなことしてくれなかった。いつも怒られて、あたしに構ってくれなかった。
だから、初めてだった。こうやってあたしに構ってくれる人は。
「……ねぇ、スズエ先輩」
だからこそ、怖かった。
「どうした?」
「その……わがまま、言ってもいい……?」
これ以上、言ってもいいの?
「当たり前だろう。子供は甘える生き物だからな」
「でも、疲れているんでしょ……?」
「せっかくナコがわがまま言ってくれたんだ。そっちを優先するに決まっているだろ?」
それは、両親に言ってほしかった言葉。
仕事なんかじゃなくて、あたしを見てほしかった。あたしにも、興味を持ってほしかった。でも、何もかもがわがままだって言われて、次第に嫌になってきた。
でも、スズエ先輩は別にいいんだって、そう言ってくれた。
「……スズエ先輩も、子供でしょ……?」
「ナコよりは大人だよ」
照れくさくてそう言うけれど、スズエ先輩は小さく笑った。
「ほら、何したいの?」
何でもいいよ、と言われてあたしは考える。
「……スズエ先輩の髪の毛を触りたい。それに、一緒に料理もしたいの。それから……」
あたしのやりたいことを、頷きながら聞いてくれて、
「よし、じゃあ、まずは何からしたい?」
「でも、休みたいんじゃ……?」
「完全に起きたから大丈夫。ナコがやりたいやつからでいいよ」
嘘だと、すぐに分かる。本当はすっごく疲れている。それでもあたしのために時間を使ってくれようとしているのが嬉しかった。
「……一緒にお昼寝しよう……?」
あたしがギュッと服を掴むと、「本当にそれでいいの?」と微笑まれた。
「うん……あたし、ちょっと寝たりなかったから……」
「じゃあ、ソファで寝ようか」
小さな嘘。多分、気付いている。でも彼女はそれに乗ってくれた。
ソファで横になった。あたしはスズエ先輩の上に乗っている。
「お、重くないの……?」
「大丈夫。ナコは軽いよ」
ナコが寝るまで起きているから。
そう言って、スズエ先輩は頭を撫でてくれた。その言葉に甘えて、あたしは目を閉じる。
「おやすみ。いい夢を」
あぁ、本当にいい夢が見られそう。




