8.吸血コウモリに会いました
私は、森にいた。
今狙っている魔物は、エルクという鹿に似た魔物だ。頭から生えている角がまるで大きく枝分かれしている大木のような角で先が鋭く尖っている。刺されたら一巻の終わりだ。
だが、エルクは基本人を見かけると逃げるので、向かってくる事はほとんどない。
そこで、ジャイアントボアに試すことが出来なかった、ナァンナス貝の毒矢が大活躍している。 ローブで近くまで寄り、何かを感じ取ったエルクが離れる時に、毒矢を放つ。
その後、毒により痺れたエルクの左わき腹の心臓を狙って剣で突き刺し、倒すのだ。
この方法で、エルクは3頭仕留めている。
「ふぅ----、出来れば水辺の近くで、仕留めたかったなぁ」
水辺では、血抜きがしやすく、魔物の体温も下げることが出来きるので、上手く解体することができる。血抜きが上手くいかないと、解体の途中で腐敗してしまい、
せっかく、倒しても食べられない事もある。
魔物は普通の野生動物より、大きいものが多いので、倒した後水辺に運ぶのは困難だ。
倒したエルクに感謝の祈りを捧げ、立ち上がると、視線の先に黒い水たまりが見えた。
「うん?あんな所に水たまりなんて、あったかしら」
私はその黒い水たまりに近づいていった。
「壊れた傘かしら」
半分になった傘のようなものを持ち上げると、どうやら、生き物のようだ。
ぐったりしていて、動かないので気づかなかったが。
「コウモリ?」
羽をつかんで、広げてみると幅が60cm程度の真っ黒なコウモリだった。
「死んでるのかしら」
コウモリは食べれるのか考えていると、私の手をすり抜け、倒れたエルクの元へフラフラと飛んで行った。
「あっ、待って」
私も追いかけると、エルクの首元に着地したコウモリは、勢いよくエルクの首元にかみついた。
『ジューーーーッ』
「私のエルクから、離れて!」
私は急いて、コウモリをエルクから離した。
どうやら、この短時間でエルクの血を吸ったようで、満足そうに、「キューゥ」と鳴いている。
私はとっさに、剣を取り出した、魔物を襲うのは魔物だ。
このコウモリは野生のコウモリではなく、おそらく吸血コウモリだ。
剣を向けた私に驚いた吸血コウモリは、焦ったように「キュゥ、キュ----ッ」と鳴きながら、バタバタと上下に飛んでいた。何か訴えているようなので見ていると。
「お腹が空いて?、倒れていると・・・・・・倒れたエルクがいたので、血を吸った?」
まるで、パントマイムのような、動きをみせながら、伝えてくる。
「キュウ、キュウ!」
どうやら、当たっていたようで、羽でまるを作っている。
「でも、これは私のエルクよ!それに魔物は狩るって決めているの」
「キュウ、キュウ、キュゥ----」
今度はエルクにかみつく動作をした後、羽でバッテンを作っている。
「肉は食べないってこと?」
「キュウ、キュウ!」
必死に頷いている。私自身もこんなに意思の疎通ができる魔物に会ったのは初めてなので、とても戸惑った。
「あなたは、私が言っている事が理解できるのね」
「キュウ!」吸血コウモリはコクンと頷いた。
「私のことを、襲わない?」
「キュウ、キュウ!」何度も頷いている。
「わかったわ、あなたが私を襲わないなら、私もあなたを狩らない。私は今からエルクを解体したいの。いいかしら?」
そう言うと、エルクの側にいた、吸血コウモリは飛び出し、近くの木に逆さまにつかまり、羽を休めた。
どうやら、そこで見ているらしい。
私は気を取り直して、エルクの解体作業に移った。
「こっこれは!」
解体してみると・・・・・・、何ということでしょう!
ちゃんと、血抜きがされているのだ。家畜と違って体が大きく、構造も異なる魔物はとても解体作業に時間がかかり、丸一日費やすることもある。
それに終わった後は、全身血まみれで、洋服は洗っても血や臭いが中々落ちないので、捨てることもよくある。いつも解体する時は、誰も着なくなった古着を着て行うのだ。
きれいに血抜きされていると、それだけでいきなり血が吹き出すこともなく、スムーズに解体する事ができる。
「もしかして、あなたが・・・・・・」
私は静かに木にぶら下がっている、吸血コウモリを見上げ、話しかけた。
「キュウ!」
胸を張り、ドヤ顔の魔物は誇らしげだ。
魔物は狩って、食べると決めているが、この効率化を考えると、手を組むのもやぶさかではない。
「これから、よろしくね。吸血コウモリさん」
吸血コウモリは「キュゥ」と嬉しそうに鳴いた。大食いコンビの結成だ。