2.森へ行ってみよう
魔物の被害のせいで、今まで私の食事に対して寛容だった周りも、1か月前から食事量の制限がかかり、尚且つ私の憩いの場だった、厨房へも出入禁止となった。
なので、私はつねに空腹だ。食事を減らされた辺りから、外で食べられる野草を探したり、川でサワガニや魚をとっていたが、頻度を増やす必要があるかもしれない。
よし!今日は森の方へ行ってみよう。新たな食材に出会えるかもしれない。
私は、わくわくしながら、大きなカゴを持って出かけた。
来て、当たりだった。
「あっ!ドクダミだ、ミツバもある」
ドクダミは花も葉も食べれるし、茎も和え物に最適だ。ミツバも香りもいいので、そのままサラダにしても美味しく食べられる。
幸先がいい。私はご機嫌で野草をとり続けた。午後からは、川にも行って魚や貝をとるつもりだ。
◆◇◆
「マッシュミツ茸だ!」
いつもより、奥まで進むと高級食材を見つけてしまった、本当に今日はラッキーだ。
私はさっそくマッシュミツ茸を採りまくった。
「ふんふふん、何にして食べようかな、バター焼きにしてもいいし、グラタンやシチューに入れてもいいかも」
私は、鼻歌を歌いながら、どうやって食べるか考えながら森へと進んでいった。
「あれ、いつの間にこんな所まで、来たんだろう」
気づくと、来たことのない場所まで来ていた。
ガサっ!
ふと、音がした場所を見てみると。
「ヒュッ」
思わず叫びそうになったのを、両手で口を押さえて、こらえた。
私の目の前、5メートル程先に、魔物がいる。
ジャイアントボアだ、3メートルはある巨体のイノシシによく似た魔物だ。
基本、草食の魔物なので、形跡からいっても、ここ最近、人里に下りてきて、作物を荒らしているのは、間違いなくジャイアントボアだろう。
生でみたのは、初めてだ。こんなに大きいなんて、あの4本のキバに刺されたら、ひとたまりもないだろう。
幸い、下にある草に夢中で、まだ私に気づいていないようだ。
私はかつてない程、緊張しながらゆっくりと後ろに下がった。
気づかれる前に逃げなければ!
少しずつ、ジャイアントボアを警戒しながら、体制を低くして、逃げようとすると、
何かを感じたように、ジャイアントボアが顔を上げた。
気づかれた!一瞬、ジャイアントボアと見つめ合いながら、私は、慌てて逃げ出した。
はっとした、ジャイアントボアも私を追いかけだした。
私は、かつてない程、必死に走ったが、後ろを向くと、すごい勢いでジャイアントボアが追ってくる。
すぐ傍まで来ている、早く森を抜けなければ!普段、あまり走らないので、わき腹が痛い。
でもこのまま、森を抜けてしまってもいいのか、不安になった。
人のいる場所まで行けば、助かるかもしれない。
でも、他の人が襲われるかもしれない。そう考えていると、石につまずいてしまった。
「あっ!」ドサッ!
ドガァッ!!
私がつまずき、倒れた場所の上をジャイアントボアが突進してきたようで、ぶつかった大木にめり込んでいる。
そのまま立っていたら、即死していたかもしれない。
私は、ゾッとして、手足が震えそうになるのを抑え込み、何とか立ち上がり走り出した。
ジャイアントボアもすぐに追ってくる。
「この手は使いたくなかったけど……、しょうがない!」
命には変えられない、私は覚悟を決めて、今まで転んでも離さず、大事に持っていたカゴをジャイアントボアにぶつけるように、投げ捨てた。
すると、案の定私を追うのを止め、マッシュミツ茸に食いついた。
ジャイアントボアはあまり目は良くないが、鼻がいい魔物なので、私を追ってきたというよりは、マッシュミツ茸の匂いに惹かれて、追ってきたのだろう。
なので、私はジャイアントボアがマッシュミツ茸や野草に夢中になっている間に、森を抜けることができた。
ここまで来れば大丈夫だろう……。ジャイアントボアは元々、臆病な魔物だ。
滅多に、人の前には出てこない。
息を整えながら、家に帰る道を歩いていると、我慢が出来ずに涙が出てきた。
「せっかく、早起きして野草やマッシュミツ茸もたくさん採ったのに……」
ジャイアントボアに襲われたショックよりも、空腹が勝り、全身ズタボロになりながら、家に帰った。
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