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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第2部: 竜の被害と薬売りの兄妹
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9. 愛する、妹

 夜になって、ようやくシャールは村に帰ってきた。


 使用人たちに荷車(にぐるま)片付(かたづ)けさせ、シャールは(つか)れた足取(あしど)りで家の中に入った。


「リーナは?」


 シャールはリーナ()きの使用人に聞いた。


「今はお部屋の方に。(つか)れていらっしゃるようで」


 使用人が少し早口(はやくち)で答えた。


(つか)れて? 何かあったのか?」


「はい。隣村(となりむら)(りゅう)(おそ)われたみたいで、応援(おうえん)に行かれてました。」

 シャールはギョッとした。


隣村(となりむら)?」


 ハーマン長官(ちょうかん)のところに報告が入ったのは、あれは隣村(となりむら)のことだったのか!


 なぜあの時すぐにどこの村か確認(かくにん)しなかったのか。俺はどこか人事(ひとごと)に思っていたのか?


 シャールは自分の不甲斐(ふがい)なさに心臓(しんぞう)(つぶ)れそうな(ほど)()ちのめされた。


 シャールは真っ青になってリーナの部屋に急いだ。


「リーナ、入るよ、だいじょうぶかい?」


 シャールが(とびら)をノックしながら言った。


 返事はなかった。シャールは何かあったのではとぎょっとして、(あわ)てて(とびら)を開けた。


 リーナはベッドに入って(ねむ)っていた。

 シャールはリーナの姿(すがた)を見て、全身(ぜんしん)の力が()けるほどほっとした。


 リーナは(つか)れ切った顔をして(ねむ)っていた。

「こんなになるまで…..,」

 シャールはリーナの(ほお)にそっと()れた。


 途端(とたん)にシャールは(こら)えきれないほどのリーナへの情愛(じょうあい)()き上がった。


 いけない。


 シャールは(あわ)てて手を引っ込めた。俺はまだ(あに)でしかない。シャールは自分の(くちびる)()んだ。


 そのときリーナがふと目を覚ました。そしてそこにシャールがいたので(おどろ)いた。


「あ、ごめんなさい、お兄様。私、先に部屋に上がってしまって」 


 シャールは首を振って、そっとリーナの頭を()でた。


(つか)れているって聞いたよ。隣村(となりむら)(りゅう)(おそわ)われたんだって?」


「ええ。隣村(となりむら)から応援(おうえん)(たの)む連絡があったらしくて、村長さんと一緒に行ってきたの。怪我人(けがにん)手当(てあ)てをしに」


 リーナはそう言うと、起きあがろうとしたが、(つか)れているようで(からだ)(ささ)えられなかった。


 シャールはリーナを()きかかえてやった。


「だいじょうぶかい?」


 リーナを(やさ)しくベッドに(すわ)らせると、シャール自身(じしん)はベッド(わき)椅子(いす)腰掛(こしか)けた。


「ごめんなさい。お兄様」

「気にしないでいいよ。隣村(となりむら)はどんな様子だった?」


(りゅう)は一匹で、家が数軒(すうけん)(こわ)されてたわ。安全警備(あんぜんけいび)の人が()んできて(りゅう)は追い払ってくれたみたい」


()くなった人はいたのか?」


「いたわ。(いた)ましかった」


()くなった人もいたのか……やるせないな」


「ええ。それはもう、本当に……」

 リーナの目に(なみだ)()かんだ。


 リーナは隣村(となりむら)惨状(さんじょう)を思い出して、(あらた)めて身震(みぶる)いした。


 いくつかの家族が(りゅう)(こわ)された家の下敷(したじ)になっていた。


 近隣(きんりん)から()んできた安全警備(あんぜんけいび)隊員(たいいん)たちが手を()くして人々を引っ張り出したが、瓦礫(がれき)容赦(ようしゃ)なく人を()(つぶ)し、(くや)しくも幾人(いくにん)かはすでに遺体(いたい)になっていた。


 それも、血塗(ちまみ)れだったり、手足があらぬ方向を向いていたり、もはや顔の(つく)りが分からないほど(つぶ)れていたり、目を(おお)うほどの惨状(さんじょう)だった。


怪我人(けがにん)はどんな様子だ?」


重症者(じゅうしょうしゃ)が数人いたから、私は火傷(やけど)手当(てあ)てとか止血(しけつ)とかのお手伝(てつだ)いを。熱冷(ねつさ)ましや炎症止(えんしょうど)めも使っていますけども、予後(よご)はどうかしら」


 リーナは(むね)()()けそうになりながら、遺体(いたい)をかき分けて生きている者を探し、安全警備(あんぜんけいび)医官(いかん)と共にできるだけの応急処置(おうきゅうしょち)をしたのだった。


「そうか。それは……本当に大変(たいへん)だったね」

 シャールはリーナの手を取った。


「村の人は(みな)あの状況(じょうきょう)()ちひしがれていたわ。うちの村もいつ同じことになるか分からないわね」


「ああ、そうだね。明日(あさ)イチで村長のところに行ってみるよ。うちの村も(りゅう)(そな)えないとね」


「ええ、あんなこと、もう二度と起こってほしくないわ」


隣村(となりむら)への応援(おうえん)検討(けんとう)してくる」

 シャールは言った。


「お兄様。ありがたいわ」


「そうだね。俺が村のためにできることは何でもやろうと思っているよ」


「お兄様は(みな)(した)われているわよね。そういうところ尊敬(そんけい)するわ」

 リーナの言葉にシャールは微笑(ほほえ)んだ。


「リーナは、村どころか国のために役立ってる」

 シャールはリーナの頭をそっと()でた。リーナは少し顔を赤くした。


 シャールは、ふっと真顔になった。

「ところで……。ちょっと言いにくいんだけど」


「何?」


「リーナ、安全警備(あんぜんけいび)長官(ちょうかん)が言っていたけど、国中(くにじゅう)(りゅう)が増えている。竜避(りゅうよ)けの薬をたくさん作ってくれとのことだ」


 シャールは目を()せて続けた。


(りゅう)退治(たいじ)できる魔術師はどうやら別件(べっけん)(いそが)しく、竜退治(りゅうたいじ)には派遣(はけん)されない」


 リーナの目に悲しげな光が(とも)ったが、仕方(しかた)なく(うなず)いた。


「それは隣村(となりむら)の様子で大体(だいたい)分かりました。魔術師(まじゅつし)結局(けっきょく)来なかったもの。安全警備(あんぜんけいび)の人が追い払っただけよ。(りゅう)、また来るでしょうね」


「そうか、やはり魔術師(まじゅつし)は来なかったか」


「ええ。もし薬玉(くすりだま)しかないなら、がんばって作るしかないわね」


 シャールとリーナは黙った。


 しばらくしてシャールはため息をついた。


「リーナ、竜避(りゅうよ)けの薬の原料(げんりょう)はどこにあるか、いい加減(かげん)俺にも教えてくれないか。俺も手伝うべきだろ」


 リーナはちょっと(だま)ってから、やっぱり首を()った。


「だめ、言えないわ」


「何で?」


 リーナはシャールの顔を見た。


 竜避(りゅうよ)けの薬草(やくそう)は危険なところにある。そんな危険なところに(あに)を行かすわけにはいかない。


 ただでさえ、()(つな)がらない私を家に置いといてくれてるのに。


「と、()り方とかあるから……」

 リーナは(くる)(まぎ)れの()(わけ)をして

「とにかく私で何とかします」

と言った。


「おまえ……危険だったりしないか?」


 シャールはリーナの手をぎゅっと(にぎ)った。リーナは少し()(たま)れなさを感じた。


「だいじょうぶです」


「何かあったら(かなら)ず俺に言うんだよ」


「分かりました」


 シャールはリーナの(ひたい)に手をかけて、おでこにそっとキスをした。


 子供の頃からのキス。このキスの意味合(いみあ)いが()わったのはいつからだろう。


 シャールは自分の(くちびる)(ゆび)()れた。


 この関係はいつまで続くのだ? どうすればよいのだ?


 その時は、シャールは、この(あと)自分たちが(あら)たな世界に()()されるのに、気づいていなかった。

面白い小説を書きたいと思っています!すみませんが

、皆様のご感想などよろしくお願いいたします!


少しでも面白いと思ってくださった方は、よろしければ、

↓ご評価☆☆☆☆☆↓ よろしくお願いいたします。

すごく励みになります!


評価の方はほんの少しでも構いません!


お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。

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