8. 市場の店主〜義理の妹のお遣い〜
シャールはなんとか、ご令嬢たちの輪を抜け出し、妹のリーナに頼まれたものを調達しに市場へ寄ると、馴染みの店主が調子良く声をかけてきた。
「シャール、例の竜の薬は儲かってるか?」
「ええ、まあこのご時世ですから。まあ、今はあんまりお金を取らないようにしています」
「まだリーナは開発もやってんのか?」
「ええ。もちろん。しょっちゅう変な薬を開発してますね。たまにこうして役に立ったりもするんですけど」
「いいねえ。ちゃんと育てた甲斐があったねえ。俺もそんな可愛くて金になる妹が欲しいよ」
「ははは、やめてください、金になるから置いてるんじゃないですよ」
「でも、結果大金持ちだ」
シャールは苦笑いした。
シャールだって、この薬がこんなに売れるとは思っていなかった。
リーナがこの薬を作った時は、竜は人の生活圏を脅かすほど数は多くなかった。
ただ、村の近くに竜の営巣地があり、リーナがそこにしか生えない草を見つけて興味を持っただけだった。たまたま見つけた効能だった。リーナは薬玉として使いやすく調合した。
そして今、ほぼ全て役人が買い取ってくれるようになった。
もちろん、竜の被害に晒されているというのは国にとっては良くないことだったが、二人にとっては生活の糧となっていた。
父も母も亡くなり、二人でなんとか暮らしていかねばならなかったから。シャールには特に何か才があるわけではなく、リーナの薬を売ることしか思いつかなかった。
リーナはリーナで、自分の興味のあることだけに夢中だった。食べるものや着るものにも無頓着で、金の勘定ができるタイプではなかった。
シャールは何とか薬売りとして家を支えていた。
「貧しかった頃はリーナにイライラしたこともあったけど。こんな薬を作ったよ! と楽しそうにしているリーナ見てたら、不思議と不幸感が無くなるんです。しあわせな人がそばに居るのは良いことですね」
「違いねえ。金持ちだろうが貧しかろうが、おまえらは幸せモンだ。だが、お前もいい歳になった。金も持ってる、見た目も悪くねえ。そろそろ嫁探してもいい頃だ。噂じゃあちこちの御令嬢に言い寄られてるそうじゃねえか」
「またその話? 身分が違いますよ。それに、私はまだいいんです」
「村にいるのか、いいのが」
「いませんよ。だってリーナがやばいでしょ。あんなの一人にしたら」
シャールの言い訳に、店主は肩をすくめた。
「どうしようもないねえ」
と呟くと、次々リーナの入り用リストを見ながら在庫を出してきた。
リーナのお遣いはいつも膨大だ。シャールの空の木箱は次々に購入品で埋め尽くされていった。
店主は、リーナのリストを見ながら、
「ニ、三年前にリーナがここに来た時にさ、外国の珍しい生き物の標本が入荷してたんだ」
と話しはじめた。
「ただの虫さ。だがマイナス30℃とかの極地でも平気な生き物だとかで、体の組織を凍らせないために全身に特殊な物質持ってるんだと。それをリーナが欲しがってね」
「ああ…… なんかリーナが欲しがりそうなやつですね」
シャールは呆れながら頷いた。
「でもそん時、別のお客さんが入ってきて、その虫を一目見て、リーナが何か言う前に代金置いて持ってっちまったんた」
「え…… リーナ以外にもそんなの欲しがる人がいるんですね……理解できない」
「その人、今の魔術管理本部の長官なんだが」
「は?」
「ちなみにその人、この虫が寒さに合わせて体の水やエネルギーの代謝を調節もしてるかもってのを聞いて、それ魔術に応用できないかって言ってた。汚ねーなりして、目ばっかりギョロギョロでさ。そんな感じで変なやつはたまにいるんだがな」
シャールはリーナの服に無頓着な姿が思い浮かんだ。
「ええ、分かります」
「まあそれはいいとして、リーナは未だにその生き物が欲しいみたいでさ。ははは、未だにさ、毎回リストにそれ書いてんだあ」
店主はリストの最後の一行を指差した。
「ははは、毎回入荷なんてねえんだけどよ」
「それ、リーナのただの趣味だから、別に無くても困りません」
シャールは、きっぱりと言った。
「ああ、そうだろう。でもかわいいじゃねえか」
店主は言った。
「あんな妹がいたら、他の女には目がいかなくなるかもなあ」
シャールは顔を赤らめた。
「ちょっと、何言ってるんですか」
「血は繋がってないもんな。だけどお前はお兄さんでしかねえだろ」
店主の言葉にシャールは下を向いた。
そんなことは分かっている。どんなにリーナのことを思っても、リーナにとって、まだ自分は兄でしかない。
店主はその様子をチラリと見てため息をついた。
「どうしようもねえな」
店主は同じ言葉を繰り返した。
「まあいいや。妹によろしくな。うちも儲けさせてもらってるから」
そして店主は棚から小さな包みを出し「リーナに」と言った。
「何ですかこれ。変な虫でも入ってるんですか?」
「さすがに違わあ。髪の毛くくるやつよ。作業する時髪の毛邪魔だろ」
こんなに愛されて、とシャールは思った。リーナが大事にされるとシャールは少し誇らしい気持ちになった。
シャールは微笑んだ。
「ありがとうございます、またよろしくお願いします」
とシャールは頭を下げた。
店主は少し迷った顔をしたが、照れくさそうに、
「同じ家に住んでて、気持ちを堪えきれんときもあんだろ。たいへんだな、シャール。だが、リーナは言葉で言わなきゃ分かんねーだろーよ。」
と彼なりの助言をした。
すみません、面白い物語を書きたいと思っています!!
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