73. ドッキリ大作戦2 〜びっくりアデルとゼノン〜
「おい、おまえたち!」
アデルは呼び止めたが、ロベルトとエドワードはアデルを無視して、ケイマン大臣を連れて、急かすように部屋を出て行った。
「あいつら……」
アデルは苦々しい顔をした。
そのとき、ふと急に、
「あいつら、誰? おまえの知ってるヤツ?」
と言う声がした。
アデルがハッとして振り返ると、そこにゼノンがいた。
アデルは面食らった。
「は? ゼノン、何してんだ、おまえ?」
「一応、潜んでた。事が始まったら止めようと思って」
ゼノンは下を向きながら言った。
「ゼノン! おまえ、恥ずかしいだろうが!」
アデルは耳まで真っ赤になって言った。
それからアデルは、自分が薄着なことに気付き、慌てて、両腕で体を隠すような仕草をした。
「おまえがケイマン大臣と何かあったら、ダミアンに顔向けできんから。俺、人を眠らす魔術、必死で開発したんだからな」
とゼノンは、アデルにブランケットを投げつけながら言った。
アデルは、ブランケットを急いで体に巻きつけながら、
「潜んでたってことは、全部聞いてたってことか?」
と顔を真っ赤にしたまま言った。
ゼノンも気恥ずかしさで、滑舌が悪くなりながら、
「うん。ごめん。いやー、でも、まじで、見てられなかった。こんな女、抱きたいと思う男はいないだろうな……」
と言った。
「え、私はそんなにダメなのか?」
アデルはまごつきながらも、ゼノンのダメ出しも気になって聞いた。
「あー……? 俺に、聞く?」
ゼノンは勘弁してくれ、といった顔をした。
「それより、乱入してきたあいつらは何者なんだよ、知り合いか?」
とゼノンは話題を変えた。
アデルは何とも言えない顔をした。
「言いにくいんだが……。ダミアンを殺したヤツだ。クラウスの死に際にも立ち会ってる」
「何だと!? 追っ手じゃねーか! なんでそいつらが!? てか、どういう状況だよ?」
ゼノンは動揺して、苛立ちの混じる声を上げた。
「それが、複雑でな。あいつらは、私の命を救った者でもあるんだ」
とアデルは、務めて感情を出さないように言った。
「は? ってことは、あいつらが、おまえが前に話した、魔術を消せるヤツらか?」
とゼノンはアデルの以前の話を思い出した。
「そうだ。そいつらは、特殊な監視の魔術を私にかけていた。ヤツらは私が何をしようとしていたかを知っていて、私は何かに利用されたんだろう」
とアデルは答えた。
「でも、あいつらは、俺たちには協力しないと言ったんだろ?」
とゼノンは冷静さを取り戻しながら訊いた。
「ああ。だが、ウィンウィンの関係とも言った」
とアデルは言った。アデルはエドワードの言った言葉をいまだに信じていた。
「ウィンウィン……。俺は、もう、なんて言ったらいいか分からん。ダミアンを殺したあいつらが憎くて堪らない。だが、おまえを助けてもくれたのか。俺は、気持ちがついていかない……」
ゼノンは混乱しながら、かろうじて言った。
だがアデルに何もなくて良かった。ダミアンの名前を使ったが、ケイマン大臣など、ゼノン自身も嫌だった。なんだかんだ言って仲間だしな……。
「ヤツらが乱入したせいで、ケイマン大臣から、グレゴリー元大臣の名前は引き出せなかったな」
とアデルは残念そうに言った。
あのままでも聞き出せたかは微妙だけどな、と、ゼノンは心の中で思ったが、それは口には出さなかった。
「ゼノンはどうだったんだ? ケイマン大臣の屋敷で何か見つけたか?」
アデルは、ゼノンに期待した顔を向けた。
ゼノンははっとした。
「そうだよ! それ! それもあったから、おまえを止めに来れたんだ。見つけたよ、書簡! ケイマン大臣からクレッカーへの」
ゼノンは興奮気味に早口でしゃべった。
アデルの表情が明るくなった。にやりとした。
「へぇ! 潜った甲斐があったな! ケイマンもバカだね、文章に残すなんて」
「だな」
とゼノンも答えた。
「でも本当大変だったよ! 屋敷中の文書だからな! いくら文字検索の魔術に長けた俺といっても、さ。ほんと、どれだけの魔力を使ったと思ってる」
と、ゼノンは、じとっとした視線をアデルに向けた。
ゼノンは昔の知り合いの町人の名を借りて、ケイマン大臣の屋敷に使用人として入り込んだ。
ゼノンは器用な男だったから、積極的に他の使用人を手伝い、屋敷中のいろいろな部屋に出入りすることができるようになった。
ゼノンは手伝いをしながら、耳を澄ませた。ゼノンの文字検索の魔術は、ゼノンの周囲の書類の文字が、耳からゼノンの頭に流れ込む。
ゼノンは他の使用人の手伝いをしながら、必死に「クレッカー」「グレゴリー」の言葉を聞き逃さないように集中した。
そして、ある部屋で、「クレッカー」「グレゴリー」の言葉が、ゼノンの耳に飛び込んできた。
ゼノンは、人気のない時間を見計らって、その部屋に忍び込み、ついにある一通の書簡を見つけた。
「では、ケイマン大臣がクレッカーに、グレゴリー元大臣を殺すよう指示したんだな? そういう証拠があった、と言うことだな?」
とアデルは、ゼノンに念を押してきた。
「そうだ」
ゼノンは自信ありげにうなずいた。
「やったじゃないか」
アデルもゼノンの成功が嬉しかった。
「ああ。仲間たちにも暗号で伝えた。で、おまえがこんなことする必要がなくなったから、助けに来たんだ」
ゼノンは真面目な顔で言った。
「恩に着る」
とアデルは頭を下げた。
「だが、ケイマン大臣を、あの男たちが連れ去ってしまった。あいつらは何をするつもりなんだろうな!」
とゼノンは首を傾げた。
「さあな。だが、とりあえず、私たちは仲間たちと合流しよう。今後のことを話さねば」
とアデルは言った。
「おまえの、この茶番劇は、俺が墓場まで持ってってやるから安心しろ」
とゼノンは、アデルの肩を叩いた。
そのとき、アデルははっとした。大事なことを忘れていた、といった顔だった。
「どした? アデル。別に、このことは皆には言わないって」
とゼノンは安心させるように言った。「皆に言えるか」と心の中で思いながら。
「ってゆーか、ゼノン、さっき、眠らす魔術を開発したって言ったか? それって何をどうするんだ?」
と唐突にアデルは、ゼノンに聞いた。
ゼノンは唖然とした。
「おまえ、そっち? まあ、そっか? アデルだもんなあ」
ゼノンはふうっと息を吐いた。
「マルティスの魔術を応用した。それはまた説明する」
アデルは目を見開いた。
「マルティスの魔術、なるほど。凄いじゃないか。応用か」
「凄い、じゃねーよ。俺が応用できるんだから、マルティス自身はもっとヤバいの作ってるかもよ」
とゼノンはため息をついた。
「マルティスか……」
アデルは呟いた。
「俺はマルティスに会って、一度ゆっくり話をしたいよ」
とゼノンは言った。
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