表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第5部: ケイマン大臣の断罪
73/73

73. ドッキリ大作戦2 〜びっくりアデルとゼノン〜

「おい、おまえたち!」

 アデルは呼び止めたが、ロベルトとエドワードはアデルを無視して、ケイマン大臣を連れて、()かすように部屋を出て行った。


「あいつら……」

 アデルは苦々(にがにが)しい顔をした。


 そのとき、ふと急に、

「あいつら、誰? おまえの知ってるヤツ?」

と言う声がした。


 アデルがハッとして振り返ると、そこにゼノンがいた。

 アデルは面食(めんく)らった。

「は? ゼノン、何してんだ、おまえ?」


一応(いちおう)(ひそ)んでた。事が始まったら止めようと思って」

 ゼノンは下を向きながら言った。


「ゼノン! おまえ、恥ずかしいだろうが!」

 アデルは耳まで真っ赤になって言った。


 それからアデルは、自分が薄着(うすぎ)なことに気付き、(あわ)てて、両腕で体を隠すような仕草(しぐさ)をした。


「おまえがケイマン大臣と何かあったら、ダミアンに顔向けできんから。俺、人を眠らす魔術、必死で開発したんだからな」

とゼノンは、アデルにブランケットを投げつけながら言った。


 アデルは、ブランケットを急いで体に巻きつけながら、

(ひそ)んでたってことは、全部聞いてたってことか?」

と顔を真っ赤にしたまま言った。


 ゼノンも気恥(きは)ずかしさで、滑舌(かつぜつ)が悪くなりながら、

「うん。ごめん。いやー、でも、まじで、見てられなかった。こんな女、抱きたいと思う男はいないだろうな……」

と言った。


「え、私はそんなにダメなのか?」

 アデルはまごつきながらも、ゼノンのダメ出しも気になって聞いた。


「あー……? 俺に、聞く?」

 ゼノンは勘弁(かんべん)してくれ、といった顔をした。


「それより、乱入(らんにゅう)してきたあいつらは何者なんだよ、知り合いか?」

とゼノンは話題を変えた。


 アデルは何とも言えない顔をした。

「言いにくいんだが……。ダミアンを(ころ)したヤツだ。クラウスの死に際(しにぎわ)にも立ち会ってる」


「何だと!? 追っ手(おって)じゃねーか! なんでそいつらが!? てか、どういう状況(じょうきょう)だよ?」

 ゼノンは動揺(どうよう)して、苛立(いらだ)ちの混じる声を上げた。


「それが、複雑でな。あいつらは、私の(いのち)を救った者でもあるんだ」

とアデルは、(つと)めて感情を出さないように言った。


「は? ってことは、あいつらが、おまえが前に話した、魔術を消せるヤツらか?」

とゼノンはアデルの以前(いぜん)の話を思い出した。


「そうだ。そいつらは、特殊な監視(かんし)の魔術を私にかけていた。ヤツらは私が何をしようとしていたかを知っていて、私は何かに利用されたんだろう」

とアデルは答えた。


「でも、あいつらは、俺たちには協力しないと言ったんだろ?」

とゼノンは冷静さを取り戻しながら()いた。


「ああ。だが、ウィンウィンの関係とも言った」

とアデルは言った。アデルはエドワードの言った言葉をいまだに信じていた。


「ウィンウィン……。俺は、もう、なんて言ったらいいか分からん。ダミアンを(ころ)したあいつらが(にく)くて(たま)らない。だが、おまえを助けてもくれたのか。俺は、気持ちがついていかない……」

 ゼノンは混乱しながら、かろうじて言った。


 だがアデルに何もなくて良かった。ダミアンの名前を使ったが、ケイマン大臣など、ゼノン自身も(いや)だった。なんだかんだ言って仲間だしな……。


「ヤツらが乱入(らんにゅう)したせいで、ケイマン大臣から、グレゴリー元大臣の名前は引き出せなかったな」

とアデルは残念そうに言った。


 あのままでも聞き出せたかは微妙(びみょう)だけどな、と、ゼノンは心の中で思ったが、それは口には出さなかった。


「ゼノンはどうだったんだ? ケイマン大臣の屋敷で何か見つけたか?」

 アデルは、ゼノンに期待した顔を向けた。


 ゼノンははっとした。


「そうだよ! それ! それもあったから、おまえを止めに来れたんだ。見つけたよ、書簡(しょかん)! ケイマン大臣からクレッカーへの」

 ゼノンは興奮気味(こうふんぎみ)に早口でしゃべった。


 アデルの表情が明るくなった。にやりとした。

「へぇ! (もぐ)った甲斐(かい)があったな! ケイマンもバカだね、文章(ぶんしょう)に残すなんて」


「だな」

とゼノンも答えた。


「でも本当大変だったよ! 屋敷(やしき)中の文書だからな! いくら文字検索(もじけんさく)の魔術に()けた俺といっても、さ。ほんと、どれだけの魔力を使ったと思ってる」

と、ゼノンは、じとっとした視線をアデルに向けた。


 ゼノンは昔の知り合いの町人(ちょうにん)の名を借りて、ケイマン大臣の屋敷(やしき)に使用人として入り込んだ。


 ゼノンは器用(きよう)な男だったから、積極的(せっきょくてき)(ほか)の使用人を手伝い、屋敷(やしき)中のいろいろな部屋に出入りすることができるようになった。


 ゼノンは手伝いをしながら、耳を()ませた。ゼノンの文字検索(もじけんさく)の魔術は、ゼノンの周囲の書類の文字が、耳からゼノンの頭に流れ込む。


 ゼノンは(ほか)の使用人の手伝いをしながら、必死に「クレッカー」「グレゴリー」の言葉を聞き(のが)さないように集中(しゅうちゅう)した。


 そして、ある部屋で、「クレッカー」「グレゴリー」の言葉が、ゼノンの耳に飛び込んできた。


 ゼノンは、人気(ひとけ)のない時間を見計(みはか)らって、その部屋に(しの)び込み、ついにある一通(いっつう)書簡(しょかん)を見つけた。


「では、ケイマン大臣がクレッカーに、グレゴリー元大臣を(ころ)すよう指示(しじ)したんだな? そういう証拠(しょうこ)があった、と言うことだな?」

とアデルは、ゼノンに(ねん)()してきた。


「そうだ」

 ゼノンは自信ありげにうなずいた。


「やったじゃないか」

 アデルもゼノンの成功(せいこう)(うれ)しかった。


「ああ。仲間たちにも暗号(あんごう)で伝えた。で、おまえがこんなことする必要がなくなったから、助けに来たんだ」

 ゼノンは真面目(まじめ)な顔で言った。


(おん)に着る」

とアデルは頭を下げた。


「だが、ケイマン大臣を、あの男たちが連れ去ってしまった。あいつらは何をするつもりなんだろうな!」

とゼノンは首を(かし)げた。


「さあな。だが、とりあえず、私たちは仲間たちと合流(ごうりゅう)しよう。今後のことを話さねば」

とアデルは言った。


「おまえの、この茶番劇(ちゃばんげき)は、俺が墓場(はかば)まで持ってってやるから安心しろ」

とゼノンは、アデルの(かた)(たた)いた。


 そのとき、アデルははっとした。大事なことを忘れていた、といった顔だった。


「どした? アデル。別に、このことは皆には言わないって」

とゼノンは安心させるように言った。「皆に言えるか」と心の中で思いながら。


「ってゆーか、ゼノン、さっき、眠らす魔術を開発したって言ったか? それって何をどうするんだ?」

唐突(とうとつ)にアデルは、ゼノンに聞いた。


 ゼノンは唖然(あぜん)とした。

「おまえ、そっち? まあ、そっか? アデルだもんなあ」


 ゼノンはふうっと息を吐いた。

「マルティスの魔術を応用した。それはまた説明する」


 アデルは目を見開いた。

「マルティスの魔術、なるほど。(すご)いじゃないか。応用か」


(すご)い、じゃねーよ。俺が応用できるんだから、マルティス自身はもっとヤバいの作ってるかもよ」

とゼノンはため息をついた。


「マルティスか……」

 アデルは(つぶや)いた。


「俺はマルティスに会って、一度ゆっくり話をしたいよ」

とゼノンは言った。

お読みいただきありがとうございました!

嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ