表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第5部: ケイマン大臣の断罪
72/73

72. ドッキリ大作戦1 〜娼婦アデル(笑)と、びっくりケイマン大臣〜

「ようこそ、ハワード・バーンズ様」

 娼館(しょうかん)の支配人の女が、にやりと下品(げひん)に笑いかけながら言った。


「新しい女が入ったんだって?」

 ハワード・バーンズと偽名(ぎめい)を名乗った、ケイマン大臣が目を細めて聞いた。


「ええ。でも、全くの(はじ)めてな女ですよ。色気(いろけ)もないしねえ。仕事になるかしら」

と支配人の女はため息をつきながら言った。


「ほう? 処女(しょじょ)ということかな?」

 ケイマン大臣は興味を()かれた目をした。


「いや、でも、それ以前の問題といいますか。あんまり、バーンズ様にはお(すす)めできませんね」

と支配人の女は首を横に()った。


「いや、お(すす)めできないと言われると、逆に興味を引かれるな」

 ケイマン大臣はニヤリと笑った。


「え、本当の本当に、その女にしますか?」

 支配人の女は確認する様に聞いた。(あと)でクレームを付けられても(こま)る。


「ああ、その女にしよう。俺が調教(ちょうきょう)してやろうじゃないか」

 ケイマン大臣は自信ありげに言った。


「いや、ですから、そういうレベルの話では……。まあ、いいならいいですけど」

 支配人の女は、困ったような顔をしながら言った。


「たまには変わった女も、な」

 ケイマン大臣は舌舐(したな)めずりをした。


経験豊富(けいけんほうふ)なバーンズ様ですから、その女にいろいろ教えてやって下さいよ。こっちも助かります」

 支配人の女は、色々(いろいろ)無理だろうなと思いながらも、お世辞(せじ)を言った。


 お世辞(せじ)とは気づかないケイマン大臣は、まかせなさいとばかりに、大口(おおぐち)を開けて笑った。


 この娼館(しょうかん)での、ハワード・バーンズ の評判はあまり良くなかった。しつこかったり、やや普通ではない行為を強要したりするからだ。


「新人の女、最初がこの人でだいじょうぶかね」

と支配人の女は、ケイマン大臣には聞こえないように(つぶや)いた。


 この娼館(しょうかん)の一室では、アデルが、薄着(うすぎ)で、無表情で椅子(いす)に座っていた。


 ケイマン大臣の屋敷(やしき)潜入(せんにゅう)しているゼノンと調べたら、ケイマン大臣がハワード・バーンズという偽名(ぎめい)で、この娼館(しょうかん)にたびたび(おとず)れる事が分かった。


 ゼノンの必死の説得を振り切って、アデルはなんとかこの娼館(しょうかん)(もぐ)り込もうとした。


 しかし、アデルの女の武器になりそうなものは、栗色(くりいろ)のふわふわの髪の毛だけだった。


 聡明(そうめい)色気(いろけ)のない顔、決して(やわ)らかそうとは言えない身体(からだ)上目遣(うわめづか)いなど全くできず、ただ真っ直(まっす)ぐ人を見る目。そして、決して若いとは言えない。


 この娼館(しょうかん)の支配人の女は、アデルを見て(いや)そうな顔した。どこをどう見ても、アデルは男性が一夜(いちや)(なぐさ)めに選ぶタイプではない。


 でもアデルが一生懸命(いっしょうけんめい)頼むのと、処女(しょじょ)だということと、もの()きな男がいるかもしれないという点で、置いてやると決めた。


 しかし、案の定(あんのじょう)、支配人の女が思った通り、アデルを指名(しめい)した男は、これまで誰一人いなかった。


 支配人の女にしてみれば、理由は明白だったが、アデルは指名がないことにはあまりピンと来ていなかった。


 アデルはただ、

「さて今日は、ケイマン大臣は来るだろうか」

ということしか考えていなかった。


 ただ、アデルに指名がなかったことが、結果的にケイマン大臣の食指(しょくし)を動かすきっかけになったのだから、たいした幸運だった。


 部屋の外で人と話し声が聞こえた。アデルは耳を()ませた。「あ」と思った。支配人の女とケイマン大臣のようだ。


 話し声は、アデルの部屋での前で止まった。


「やっと来たか」

とアデルが(つぶや)いた。


 ぎいっと部屋の扉が開いた。


 紳士面(しんしづら)をしたケイマン大臣と、支配人の女が、扉越(とびらご)しにアデルを見た。


 支配人の女はアデルに目配(めくば)せをした。

「仕事だよ」


「ああ」

 アデルは(うなず)いた。


 よし、きた、仕事だ。アデルは思った。ケイマン大臣から、クレッカーとグレゴリー元大臣の名前を引きずり出してやる。


 アデルはケイマン大臣の顔を、()るように見た。


 ケイマン大臣は、アデルのその目に、ため息をついた。


「君は初めてなんだって?」

とケイマン大臣は聞いた。


「ああ」

 アデルは(うなず)く。


結構(けっこう)いい(とし)に見えるが」

とケイマン大臣はアデルを見た。


「ああ。(えん)がなくてな」

とアデルはたいそう素直に答えた。


「なるほど。この感じ。支配人がお(すす)めしないわけだ」

とケイマン大臣は思った。


 しかしケイマン大臣は、支配人の女に大口(おおぐち)(たた)いた手前(てまえ)、ここで手を引くのも、少しきまりが悪かった。


「じゃあ、こういう時にどうしたらいいのか、全く分かってないのは仕方(しかた)がないのかな? とりあえず、そんな(ころ)()みたいな目で、客を見るもんじゃないぞ」

とケイマン大臣は言った。


「ああ。すまん、初めてで、わからなくてな。()ずはキスとかしたらいいのか? それとも(ふく)()いだらいいのか?」

 アデルは素直に申し訳なさそうな顔をしてから、真っ直(まっす)ぐケイマン大臣に聞いた。


 ケイマン大臣はうんざりした顔した。


「本当に変わった女だな。おまえみたいな女はこういうところじゃ見たことがない。上目遣(うわめづか)いの一つも使えないのか。座り方一つにも、男を誘う仕草(しぐさ)ってのがあるだろ」


「あるのか? 男を誘う仕草(しぐさ)……? こんな感じか?」

 アデルは(うす)いドレスの胸元(むなもと)に手を当てて、そこから(えり)ぐりをつたって(かた)の方に手を沿()わせて、(そで)(かた)から下ろし、透き通る白い華奢(きゃしゃ)(かた)を見せた。


「おや。思ったより綺麗(きれい)(かた)じゃないか。とりあえず、その(かた)(さわ)ってみようか」

とケイマン大臣は、ほんの少しやる気が出た。


「肩に触るのか?」

とアデルは(つぶや)いた。


「気分を上げるためじゃないか」

 ケイマン大臣は()っ立っているアデルの後ろに回り、背後(はいご)からアデルの(かた)()れた。


「おや? 思ったよりすべすべだな!」

 そしてケイマン大臣ら、アデルの(かた)から(うで)へと、手を(すべ)らせた。


 アデルは、こういう時にどうしたらよいのか分からず、微動(びどう)だにせず、()っ立っていた。あまり気分の良いものではないな、とアデルは思った。


 アデルの素肌(すはだ)()れたケイマン大臣の方は、少し気分が良くなり、アデルの薄手(うすで)のドレスの中に手を突っ込もうとした。


 ケイマン大臣の手がアデルの(むね)()れるかという瞬間、アデルは反射的(はんしゃてき)に、パシッとケイマン大臣の手を()(はら)った。


「は?」

 ケイマン大臣はキョトンとした。


「あ、すまん、つい」

とアデルは言った。


「おいおい、これから私たちはヤるんだから、あちこち(さわ)らせてくれてもいいだろう?」

とケイマン大臣は(あき)れて言った。


「そういうものだったな」

とアデルは(うなず)いた。


「おまえ……。やる気を()がせる天才だな……。いや、ここまでとは!」

とケイマン大臣は(うめ)いた。


 そこへ、突然(とつぜん)、バンっと部屋の扉が開いて、

「はーい、こんにちは〜」

と二人の男が入ってきた。手に()(いた)を持っている。


 ロベルトとエドワードだった。


「は? え? 誰だおまえらは。なんだ?」

 ケイマン大臣はポカンとして聞いた。


「こちらをご(らん)ください」

 ロベルトが()(ふだ)をケイマン大臣に見せた。


『ドッキリ大成功』と書かれていた。


「は?」

 ケイマン大臣は、わけがわからん、といった顔した。


「いやーすみません、余興(よきょう)です! 娼婦(しょうふ)らしからぬ女が相手になったとき、男性はどうするか?といったドッキリでーす!」

とエドワードが楽しそうに言った。


 だが、ケイマン大臣は、少しほっとした顔をした。

「やっぱそうだよな! この女おかしいよな!」


「のわりには、少しがんばりましたね、お客さん!」

 エドワードはノリ良く()めた。


「いや〜恥ずかしいなあ〜」

 ケイマン大臣もノリ良く、照れながら言った。完全に余興(よきょう)だと思っている様子だった。


「おまえら! なんでここに!」

 アデルは、ロベルトとエドワードの顔を見て、ぎょっとした顔をした。


「おまえこそ何やってんだ、ばか」

とエドワードは、ケイマン大臣には聞こえないように、小声でアデルに言った。


「で、この余興(よきょう)は、どう続くんだね? まさか、この女と続きをやるわけじゃないよね? それは勘弁(かんべん)だよ!」

とケイマン大臣は笑った。


 アデルはムッとした。


「もちろん、当館(とうかん)最高の娼婦(しょうふ)をご紹介しまーす!」

とエドワードは言って写真を見せた。


 写真には、やはり悪ノリ(わるのり)してみました〜という顔のソフィアが写っていた。


 ケイマン大臣は、ソフィアの写真に釘付(くぎづ)けになった。


 長いストレートの金髪、豊満(ほうまん)肢体(したい)(なめま)かしい表情。そして、姿勢よくポーズをとっていた。


「なんだ、この美しさ、この気高さは! こんな女とできるのか? ぜひ、チェンジで!」

 ケイマン大臣は気分が良くなって、エドワードに向かって、ソフィアをご指名(しめい)した。


「はいはーい、では場所を変えましょうね! こんないい女とヤれるんですから、ロケーションもしっかりご用意させていただいております〜」

とエドワードはにっこりした。


「そうか、そうか!」

 ケイマン大臣は、なんだかすっかり空気に()まれて、警戒心(けいかいしん)などどこへやら、すっかりロベルトとエドワードの言いなりになって、(うなが)されるまま、アデルの部屋を出て行った。

お読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ