7. 薬売りと魔術師との出会い
「シャール様! お会いしたかったわ!」
シャールが青い顔をしながら安全警備本部の建物から出ると、突如として声をかけられた。
「これは、エミリア様。このような所に。何か御用がございましたか?」
シャールは恭しく頭を下げた。
エミリアという令嬢はずっと外で待っていたらしい。
「御用ってわけじゃないのよ。あなたがいらしてるって聞いて駆けつけたの」
エミリアは、大きな瞳でシャールを見上げて微笑んだ。シャール様は素敵。かっこいいし、爽やかな笑顔をお持ちだし、礼儀正しいもの。
「竜の薬をお売りにいらしたんでしょう?」
「ええ、納品に参りました」
シャールは弱々しく微笑んで見せた。
エミリアはすぐに何かを感じ取ったようだった。手を伸ばし、シャールの少し長めの茶色い髪に触れた。
「シャール様、何か問題でもございましたの?」
「また竜の被害が出ているようでして」
「え、また?」
「ええ。私も急いで戻って薬玉を増産せねばなりません」
「まあ…… そうですか。私も何かシャール様のお役に立てたら良いのに」
エミリアはそう言って、シャールの手を取った。
「いえいえ、私はただの薬売りですから。エミリア様にそう言っていただけるなんてもったいないです」
シャールは丁寧に言った。
そのときふとシャールは、エミリアの父が魔術管理本部の者だったことに気付いた。
「エミリア様のお父上は魔術管理本部でございましたね。最近お忙しくされているのでしょうか」
シャールのその言葉を聞いて、エミリアは、はっと顔を曇らせた。心のうちで、彼女は最近の父のことを心配しているようだった。
「父は、忙しそうですわ。ちょっと前に魔術管理の体制が変わりましたでしょ? 父は人事系の部署に就きましたが、何せ大改革ですので全部が手探りで、神経を使うようですわ。あんまり私には難しいことは分かりませんが」
「そうですか。お忙しいようですとお体が心配ですね」
シャールはこないだの魔術管理本部の改革を思い出した。
これまでさまざまな部署に所属していた魔術師たちが、魔術管理本部で一括で管理されるようになったという。
ハーマン長官の愚痴もこれに起因する。
それまで安全警備本部の部署付きの魔術師で対処していたものが、魔術師の所属が魔術管理本部に一本化されたため、魔術師を使いたければ魔術管理本部に要請せねばならなくなったのだ。
自然と魔術管理本部の発言力や魔術師の地位が上がったのだが、竜の被害というような個別の案件に、迅速に適切に対処できているかというと、そうでもなかった。
問題は根深そうだ、とシャールはため息をついた。
そこへ二人の魔術師風情の男がやってきた。
二人の身なりは立派で貴族の子息と見受けられたが、いかんせん薄汚れていて遠方からの旅帰りにのように見えた。
「あ、エミリアじゃねーか! 誰だそのイケメン、彼氏?」
金髪が言った。エミリアは顔を赤らめて、そうなのよ、そうなのよと頷いた。
「違います!」
慌ててシャールはかぶりを振った。
エミリアはちょっとがっかりした顔をしたが、若い男の知り合いが話しかけてくる状況が、シャールに誤解を与えてはいけないと、慌てて二人を紹介した。
「シャール様、こちらはロベルト様とエドワード様ですわ。父と同じ魔術管理の者ですの」
「そうですか、初めまして。私は薬売りのシャールと申します」
シャールは恭しく頭を下げた。
「ロベルト様にエドワード様、また一段と汚い格好をされてますのね。遠いところに行ってらしたの?」
「ええ。国境の方の地方都市に」
「仕事は順調ですの?」
「今回の件は、まずまずと言ったところでしょうか」
「そ、やっと休暇もらえたぜー。王都に戻って来れてサイコー」
ロベルトとエドワードは笑顔で言った。
「それは良かったですわ。あ……」
エミリアはシャールを振り返った。
「ロベルト様、エドワード様。竜の被害がすごいって、今シャール様が」
シャールは
「はい、私は安全警備本部の方に顔を出しておりまして。今しがたも竜の被害の報告がございましたから」
と言った。
ロベルトはああと暗い顔をした。そして申し訳なさそうな顔をした。
「竜の問題は聞いています。私も心を痛めている。本来なら私もそちらに派遣されたい。ですが、少々魔術関係者の中で問題がありまして、そちらにの対応に追われています」
エドワードも「竜か」と忌々しげに呟いた。軽そうな風貌の割に真面目な目つきだった。
なるほど、とシャールは思った。
この二人は遠方の都市にいた。そして魔術関係者の問題。魔術管理本部の中で揉めているようだ。
魔術管理本部は今は外に目を向ける余裕がないのかもしれない。
「シャール様は竜避けの薬を作ってくださってるの」
エミリアが言った。
ロベルトとエドワードの目に驚きが表れた。
「竜避けの薬の噂は聞いています。あなたが作ったのですか」
「いえ、作ってるのは私の妹です。私は売りに来ているだけです」
シャールは答えた。
「そうですか。あれは今とても役に立つ薬です。シャールさん、お会いできて光栄です」
ロベルトは頭を下げた。
「ははは、すげーな。エミリアが熱上げんのも何となく分かったわー」
エドワードは笑った。
「もう、エドワード様ったら!」
エミリアは顔を赤らめながら、チラリとシャールを見た。
「とんでもございません、私なんて」
シャールが笑っていなすので、エミリアは心の中でぷうっとふくれた。もう、シャール様はいつも本気にしてくださらない。
その時、きゃあきゃあと歓声が聞こえてきて、たくさんのご令嬢が駆けつけてきた。
「シャール様とロベルト様とエドワード様よ! すごいわ、この三人が一緒にいらっしゃるなんて!」
「ぎゃあああ、なんか尊すぎるわ!」
「エミリア? あなた、抜け駆けは許さないわよ!」
ロベルトとエドワードは、しまった、面倒ごとに巻き込まれた、という顔をした。
「ちょっと、邪魔しないで!」
エミリアが群がろうとするご令嬢たちに立ちはだかるように抗議した。
しかし、ご令嬢たちはエミリアの抗議など気にも留めず、シャールとロベルトとエドワードを取り囲んだ。
エミリアはすっかり輪から締め出されてしまった。
「シャール様、私不整脈かしら、手を握って調べてくださらない?」
「ロベルト様、疲れてそうね、私が癒やして差し上げるわ!」
「エドワード様、私に冒険のお話聞かせて!」
シャールは後ずさりした。
「すみません、ちょっとこのあと市場の方へ寄らないといけないので」
「あ、こら、お前だけ逃げるな!」
「そうだぞ! 友達だろ!?」
ロベルトとエドワードが慌ててシャールの服を掴もうとしたが、シャールは申し訳なさそうにペコッと頭を下げた。友達? いつの間に?
「ええ〜ちょっとぉ〜」
「まあいいわ、まだロベルト様とエドワード様がいるわ!」
ご令嬢たちの苦情を後にシャールは荷車を押して王宮を後にした。
この後は、大事な、妹のお遣いが待っている……
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