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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第4部: 王国の慰労会
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66. 慰労会2 〜ウィリアム・ヒアデス卿の質問と、国王とマリー・ヘレワーズ嬢〜

 その時、そこに思わぬ人物が(あらわ)れた。ウィリアム・ヒアデス(きょう)だった。


 彼は、大股(おおまた)堂々(どうどう)と国王の(そば)に歩み寄ってきた。相変(あいか)わらず冷酷(れいこく)な目で、(くち)をぎゅっと(むす)んでいる。後ろで(たば)ねた黒髪も、一糸(いっし)(みだ)れもなかった。一応(おおやけ)のパーティーということで、彼は魔術師の正装(せいそう)(まと)っている。


 そもそも彼が慰労会(いろうかい)に参加するなど、大変(たいへん)(めずら)しいことだった。気付いた者は(みな)威圧感(いあつかん)気圧(けお)されて()(だま)った。


 国王だけが、気安(きやす)くニコニコしながら、

「おや、ウィリアム・ヒアデス(きょう)。今日は顔を出したのかい?」

と話しかけた。


「ええ。少し気になることがありましてね。でも一つはもう片付(かたづ)きそうです。(りゅう)(どく)を作ったのは、こちらのご令嬢ですか?」

とウィリアム・ヒアデス(きょう)()いた。


「そうでございます」

とマリー・ヘレワーズ(じょう)は、丁寧(ていねい)一礼(いちれい)しながら答えた。心の中では、「ご令嬢っておっしゃったわ、よしっ成功っ!」と思っていた。


「では」

とウィリアム・ヒアデス(きょう)はリーナの方を向いた。


「お(じょう)さん、一つお聞かせ下さい。その(りゅう)(どく)というものは、すべての(りゅう)()きますか?」

 彼の()はどんな(うそ)(ゆる)さない、強い光を(はな)っていた。


「えっと、あの、どういう意味でしょうか?」

とリーナは、ウィリアム・ヒアデス(きょう)意図(いと)が全く分からず、おずおずと(たず)ねた。


 (すべ)ての、(りゅう)? (すべ)てってどういう意味かしら? (りゅう)には何種類もいるの? どういうこと?


 リーナが本当に何も知らなそうな顔をして、(おび)えた目で見るので、ウィリアム・ヒアデス(きょう)はふうっとため息をついた。


「なるほど。ご(ぞん)じない?」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は、相変(あいか)わらず冷たい目をして、リーナをじっと見つめた。


 リーナは相変(あいか)わらず(ちじ)こまっている。


「それなら結構(けっこう)です」

とウィリアム・ヒアデス(きょう)は、太い声で言い(はな)つと、話はお(しま)いとばかりに向きを変え、リーナや国王の(そば)を離れようとした。


「おいおい、それだけかい?」

 その時、国王の明るい声がウィリアム・ヒアデス(きょう)を呼び止めた。


 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は、一応国王の言葉ということで、一旦(いったん)足を止めて、

「そうですが。まだ何か?」

と聞いた。


「そうだ、ウィリアム・ヒアデス(きょう)。君の所に三人兄弟があるだろう。誰も婚約(こんやく)もしていないと聞くよ。どれか一人に、このご令嬢をあてがってはどうだい?」

とリーナを指し示しながら、国王はいい考えとばかりに、楽しそうに言った。


「君も、この令嬢が気になっているんだろう?」

と国王は少し意地悪(いじわる)そうな目で言った。


「いえ、私の興味は(りゅう)(どく)であって、それを作った(むすめ)ではありません」

とウィリアム・ヒアデス(きょう)は国王をチラリと見て言った。


「息子の婚約(こんやく)の話は、どうぞ好きにしてください。本人たちに直接確認してくださったら結構(けっこう)。うちは政務(せいむ)には(かか)わらない家なので、素性(すじょう)さえしっかりしていれば、どんな(よめ)でも私は問題ありませんよ」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は、全く興味(きょうみ)を示さない感じで、くるりと向きを変えると、それ以上は何も言わずに、慰労会(いろうかい)大広間(おおひろま)から出て行った。


 皆は、ウィリアム・ヒアデス(きょう)の空気に押されて、ただ後ろ姿を見送るしかなかった。


 その時、シャールが、はっとして、

「国王陛下! リーナに貴族との婚約(こんやく)などとんでもございません! 私たちは身分が違います!」

と思わず声を上げて国王に(うった)えた。


 マリーは微笑(ほほえ)んで、

「シャールさん。身分のことは、多分(たぶん)気にしなくてもよろしいかと思いますわ。あちらはヒアデス家という、少し特殊(とくしゅ)家柄(いえがら)の者です。もちろんリーナさんがご自分で決めたら(よろ)しいことですけれども」

とシャールを(たしな)めた。


「でも……」

とシャールが言いかけた。


 マリーはシャールの言葉を(さえぎ)るように、

「シャールさん、あなたは本当にリーナさんのことを溺愛(できあい)してるのですのね。こないだから、リーナさんも少しもあなたから(はな)れませんし。でも、これからは、今後のことも考えねばなりませんよ」

と少し(とが)めるように言った。


「そうだね。君も数多(あまた)の令嬢から人気(にんき)があると聞くし。誰かいい人いないのかい?」

と国王も楽しそうにシャールに言った。(こい)バナが好きらしい。


 それから、

「マリーも、今後のことを考えてくれるといいんだけどね」

と国王はまた、マリーには聞こえないような小さな声で(つぶや)いた。


 何も聞こえなかったマリーは、それからヘルマンの方を向いた。


「ヘルマン様、悪かったですわね。付き合っていただいて、本当ありがとうございます。わたくしの気も晴れましたわ! エスコートはもう(よろ)しいから、みんなとバカ(さわ)ぎでもしていらっしゃいませ。お酒飲みたくてうずうずしてらっしゃったんでしょう?」

とマリーはヘルマンに笑顔で言った。


「えーっと、いや、マリー(じょう)のおかげで、国王陛下からお言葉を頂戴(ちょうだい)できたんで。ちょっと感激(かんげき)してます。こちらこそ悪かった。マリー(じょう)がエスコートが必要なら俺はとどまるけど?」

とヘルマンは、マリーに少し後ろめたさを感じているようで、()れくさそうに言った。


「そう、ヘルマン様はお優しいのですね。わたくしも婚約者とか気の合う令嬢みたいな、仲の良い者がおりませんから、誰かに声をかけられるまで、ヘルマン様がエスコートして下さるとありがたいわ」

とマリーは微笑(ほほえ)んだ。


「わたくし、変わり者なんですって」

とマリーはほんの少し(さび)しそうな笑顔で付け加えた。


「変わり者って! マリー(じょう)の仕事っぷりに俺たちがどれだけ助けられているか!」

とヘルマンは思わず声を上げてから、


「まあ、それはいいとして、本当に俺でいいんですか?」

と少し怖気(おじけ)づきながら聞いた。


「いや、ダメだろ!」

 マリーとヘルマンのやり取りを聞いて、国王は(いや)そうな顔をして、抗議(こうぎ)の声を上げた。


 ヘルマンは、国王の言葉にピシッと(かた)まった。ダメだ、マリーに関することは、国王の地雷(じらい)だ。


 国王はつかつかとマリーに歩み寄った。


「マリー、そういうことなら、私と一曲(いっきょく)(おど)っていただけますか?」

と国王は笑顔でマリーに手を差し伸べた。


「わたくし、上手(じょうず)に踊れませんの」

とマリーはその手を(かたく)なに(ことわ)った。


「でも、その警備兵よりは、マリーを楽しませられると思うんだけど」

と国王は(なお)()い下がった。


「ジョゼフ様、ヘルマンに失礼です」

 マリーは国王を(たしな)めた。


「マリー。多くは望まないから。たまには、私の願いも聞いておくれよ」

と国王は哀願(あいがん)した。


「ジョゼフ様」

 マリーは少し悲しい目をした。そして黙った。


 マリーの目に(ふく)まれるものに、国王は心当(こころあ)たりがあった。


 二人の間で、時間が止まった気がした。


「分かったよ、マリー」

と国王はため息をついた。


 マリーは下を向いた。


「あの……。俺やっぱり、()めましょうか?」

 国王とマリーの(あいだ)を流れる空気の重さに、ヘルマンはおどおどと言った。


「いえ、ヘルマン様は何も気にされることはございませんわ」

 マリーははっとして、笑顔を作ると言った。


「それより、申し訳ございません。わたくしのエスコートなど。仲間の皆様とお酒が飲めなくて」

とマリーは()まなさそうに言った。


「いいですよ。たまにはこんな夜があっても。全く。俺、もう、何とでもなれって感じなんで。王子様(おうじさま)になってみせますよ!」

 ヘルマンは、さっきの国王とマリーの(あいだ)の空気を()き飛ばすように、できるだけ明るく言った。


 マリー・ヘレワーズ(じょう)は、ヘルマンに深く感謝した。


 リーナは、気丈(きじょう)そうに()()うマリーの目に、一瞬(いっしゅん)涙が光るのが見えたような気がした。

お読みいただきありがとうございます!

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