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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第4部: 王国の慰労会
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65. 慰労会1 〜国王の労いの言葉〜

 シャールは、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)(ひか)えの()で、うずうずしながらマリーとリーナが帰ってくるのを待っていた。


 ここ数日のリーナの不安そうな様子から、自分とこれだけ離れたら、リーナがどれくらい心細(こころぼそ)がっているだろうかと、シャールは心配していた。


 ヘルマンは、そんなシャールに気づいた。

「妹が心配か? だがマリー・ヘレワーズ(じょう)がついてる。だいじょうぶ。きっとリーナは、見違えるほど綺麗(きれい)になって帰ってくる」


 いや、綺麗(きれい)になって帰ってくる、とかはどうでもいい。ただ、俺がリーナの側にいてやれないのが不安なのだ、とシャールは思った。


 その時、(ひか)(しつ)(とびら)が開いた。マリー・ヘレワーズ(じょう)がリーナをつれて入ってきた。


 そこにいた(みな)が、ヘルマンすら、息を()んだ。


(だれ)? 多分(たぶん)リーナだと思うけど」

とヘルマンは目を見開(みひら)いて言った。


 そこには、本当に見た目ばかりは美しい、一人の令嬢風(れいじょうふう)の女の子が()っ立っていた。


 美しいエメラルドグリーンのドレス、真っ白な手袋、ドレスの(すそ)から(のぞ)くキラキラとした(くつ)


 髪もアップにまとめてあるが、後れ毛(おくれげ)がふわふわと()れ、イヤリングと(あい)まって、見る者を魅了(みりょう)した。髪の毛に合わせた(やさ)しげなメイクが、リーナの素直(すなお)さを特別際立(きわだ)たせるように見えた。


 シャールも呆気(あっけ)にとられていた。そこには、本当にこれまで一度も見たことのない、リーナがいたからだった。


「リーナ、だよな?」

 シャールもおずおずと聞いた。


「あなた方、本当に失礼(しつれい)ですわね」

 マリーが冷たい()をして、(ひか)えの()にいる男どもを()め付けた。


 リーナは居心地(いごこち)が悪かった。着たことのないひらひらとしたドレス。つけたことのないアクセサリー。髪の毛もふわふわとセットされ、いつ(くず)れるかとハラハラしていた。


 何より(くつ)もヒールが高く、いつ(ころ)ぶんじゃないかとドキドキした。マリーのペースに合わせて、(うしろ)をついて歩くのが精一杯(せいいっぱい)


 令嬢(れいじょう)ってこんなに大変(たいへん)なの? とリーナは心の中で思っていた。


 でもシャールの顔を見て、とりあえずひどく安心した気持ちになった。


 リーナは()れない足取(あしど)りで、必死(ひっし)でシャールの元へ足早(あしばや)に近づくと、シャールの(うで)(つか)んだ。


 マリーの屋敷(やしき)礼儀(れいぎ)ばっかり気にして緊張(きんちょう)していたのが、フッと(ほど)けるような気持ちがした。安心感がリーナを(つつ)んだ。


 そう、ダメなのだ。あの日以来、リーナはシャールから片時(かたとき)(はな)れられない。


 シャールは緊張(きんちょう)した。今こそ、もう妹ではなく、本当に一人の女性としてのリーナが、自分の(そば)に立ち、自分の(うで)(つか)んでいた。


 リーナを俺のものにしたい。全て、俺のものに。この気持ちを、どうやって(おさ)えると言うのだ?


 その時、マリーが、

「で、リーナはシャールがエスコートするとして、どちらの方が、わたくしをエスコートしてくださるの?」

(たず)ねた。


「えーっと? 俺ら、なんですかね?」

とヘルマンは(おどろ)いて()いた。


「今夜は慰労会(いろうかい)でございますからね。少なくとも始めは、部署(ぶしょ)の者で参加したほうがよろしいかと思うのですけれど。普通の社交界(しゃこうかい)とは違いますので」

とマリーは言った。


「国王の従姉妹(いとこ)のマリーをエスコートできる器量(きりょう)のある者なんて、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)のこの部署には見当(みあ)たらないけど」

とヘルマンはため息をついた。


「じゃぁヘルマンさん、お願いいたしますわね。部隊長(ぶたいちょう)ですもの」

とマリーは事務的(じむてき)に言った。


「えー、俺?」

 ヘルマンは露骨(ろこつ)(いや)そうな顔をした。ヘルマンは気の合う男仲間と、酒を飲んで(さわ)ぐつもりだったからだ。


「たいへん(いや)そうですけど。わたくし今回の(りゅう)駆除(くじょ)の任務については、国王陛下に報告しようと思っておりますの。特にリーナの作った(どく)についてはお耳に入れる価値(かち)があると思いますわ。ですから、お付き合い願いますわね」

 マリーはヘルマンの(いや)そうな顔など、()にも(かい)さず、さらっと言ってのけた。


 ヘルマンだって部隊長を(つと)めるほどは貫禄(かんろく)がある。今回も安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)正装(せいそう)をしているから、見た目だけは立派な青年だった。


 ヘルマンは仕方(しかた)がなく、マリーのそばに行くと(うで)をとった。


「ヘルマン、おまえ、そこまでダメな感じじゃないぜ。結構(けっこう)(さま)になってる」

 仲間がニヤニヤしながら、ヘルマンに軽口(かるくち)(たた)いた。


「おまえら、(あと)(おぼ)えとけよ。むっちゃ飲ますからな」

 ヘルマンは(にら)んだ。


「あと、おーい誰か、ハーマン長官の執務室(しつむしつ)に行って()んでこい。あいつ逃げるかもしれねぇ」

とヘルマンは誰かに指示(しじ)した。


 ハーマン長官の面倒(めんどう)も見なければならないなんて、ヘルマンは結構(けっこう)気の毒(きのどく)な男である。


 時間が来たので、次々と馬車が、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の前にやってきた。正装(せいそう)に身を(つつ)んだ警備兵たちは、(みな)次々に馬車に乗り込み、王宮を目指して出発した。


 その日の慰労会(いろうかい)も、とても盛大(せいだい)に行われていた。10年前の前回同様(どうよう)に、たくさんの絵や布が会場を(かざ)った。


 ピカピカの燭台(しょくだい)にも火が明々(あかあか)(とも)され、あちらこちらを明るく照らしていた。部屋の中にも外にも、食事がたくさん用意され、お酒もたくさん準備されていた。


 (りゅう)被害(ひがい)があるため、10年前に比べたら警備兵たちの顔色は良くなかったが、見知りの警備兵や魔術師たちは、(たが)いの任務(にんむ)健闘(けんとう)(たた)え合い、酒を()み交わしていた。


 マリーは、さっさと酒を飲みたそうにしているヘルマンをぐいぐい()()って、国王陛下の前へ連れて行った。ヘルマンの部隊の者は、(あわ)ててマリーについていく。


 マリーは、本気で国王陛下にヘルマンの部隊の任務を紹介するつもりだった。


「ジョセフ様、ちょっとよろしいですか? あなたに紹介したい者がおりまして」

 マリーは国王陛下に(した)しげに()びかけた。


「ああ、マリー、今日も美しいね。安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)医務官(いむかん)なんかやめて、さっさと俺の(きさき)にでもなればいいのに」

 国王は(ひざまず)いてマリーの手を取ると、手の(こう)にキスの一つでもしようと(かが)み込んだ。


 国王は、マリーの従兄弟(いとこ)というだけあって、まだ比較的(ひかくてき)若く、こんなに整った顔、きちんとした身のこなしなのに、なぜか未婚(みこん)だった。婚約者(こんやくしゃ)もいないという。


 ヘルマンは面食(めんく)らった。


「あー、ジョゼフ様? わたくし、そういうのは、いらないんですけれども」

とマリーは手を引っ込めて言った。


相変(あいか)わらずつれないねぇ」

と国王は残念そうに言ってから、立ち上がった。


 それからヘルマンの方を向いて、

「君は何者だい? マリーをエスコートするなんて」

と強い視線(しせん)を投げかけて聞いた。


 ヘルマンは(かた)まった。ほら、厄介(やっかい)なことに巻き込まれた。


「それよりジョセフ様、今日はハーマン長官はお見えになってるのかしら?」

とマリーは確認した。


「いや、見てないなぁ。あいつの事だ。今日は来ないかもしれないな」

と国王は平然(へいぜん)と言った。


「それでいいんですの……?」

 マリーは半笑(はんわら)いで言った。


「最近のハーマン長官を見てたらそれも、仕方(しかた)がないんじゃないかと思ってね」

と国王は苦笑いしながら言った。


「それなんですけれども、今日はジョセフ様に紹介したい者がおりますのよ。こちらのリーナと言う(むすめ)ですわ。なんと、(りゅう)(あや)める(どく)をつくりました」

 リーナはマリーの後ろで、ぎこちなく一礼(いちれい)した。


「それから、今、わたくしをエスコートして下さっているこのヘルマン様が、部隊長として、この(あいだ)大聖堂(だいせいどう)のある村の(りゅう)を、その(どく)駆除(くじょ)して(まい)りましたわ」

とマリーは続けてヘルマンの部隊の任務を紹介した。


「それは聞いていなかったよ。革新的(かくしんてき)だね」

と国王は微笑(ほほえ)んだ。


「ええ。(りゅう)(あや)める(どく)は、すごい()き目でしたわ。使(つか)勝手(がって)もよろしくて。この国はもう(りゅう)には(なや)まされないかもしれませんわ」

とマリーは熱のこもった声で言った。


「それはすごい。でも、それだけの熱量(ねつりょう)で、俺のことも語ってくれればいいのにね」

と国王は、後半はマリーには聞こえないような小さい声で言った。


「それにね、ジョゼフ様、それだけではありませんわ。(りゅう)()けの(くすり)というものは、さすがのジョセフさん様もご存知(ぞんじ)でしょう?それも、こちらのリーナさんが作ったものなんですよ」

とマリーは誇らしげに言った。


「マリーは、よっぽどこのリーナというお(じょう)さんが、気に入っているようだね。(りゅう)()けの(くすり)の事は、わたしもよく聞いているよ」

と国王はマリーに微笑(ほほえ)み、そして感心した眼差(まなざ)しでリーナを見た。


「それからね、ジョゼフ様。こちらはシャールさん。リーナさんのお兄様ですわ。シャールさんの方は、以前から(りゅう)()けの(くすり)安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)に持ち込んでくださっていたのです」

と次はマリーはシャールの功績(こうせき)を説明した。


「そうだったのか。王都の令嬢に大人気(だいにんき)の薬売りがいると聞いていたが、それは君のことだったのかな?」

と国王は少しいたずらっぽい目をシャールに向けた。


「ジョゼフ様、こちらのリーナさんとシャールさん、そしてこの部隊をまとめているヘルマン様に、どうぞねぎらいの言葉を」

とマリーは(むね)の前で手を組み、頭を()れた。


「今日は、君たちのような者のための慰労会(いろうかい)だ。我々は、この国を守ってくれているすべての者たちに感謝をしている。君たちのその努力、その成果(せいか)、本当に素晴らしいものだ。私は心から敬意(けいい)(しょう)する」

と国王は(おごそ)かな声で、ゆっくりと(ねぎら)いの言葉を発した。


 リーナとシャールとヘルマンは、ぼーっとした。まさか、国王陛下直々(じきじき)にお言葉をいただけるとはら思ってもみなかった。もちろんこれは全てマリー・ヘレワーズ(じょう)のおかげだったのだが。


(りゅう)(どく)ねぇ。こんなきれいなお(じょう)さんが作ったなんて。ところで、このご令嬢はどちらの娘さん? 社交界(しゃこうかい)で見かけていたら忘れるはずないと思うんだけど」

と国王は言った。


「ジョゼフ様。リーナさんは村民(そんみん)ですのよ。人材(じんざい)こそ(くに)(たから)。身分など気にせず、大事にしてくださいまし」

とマリーは、悪戯(いたずら)が成功したことが(うれ)しくて、笑顔になった。


 マリーの笑顔が見れて、国王も笑顔になった。


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