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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第3部: 人喰い竜の駆除
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61. 実戦の村 ~人喰い竜とヘルマンの部隊~

(おそ)くなりました、すみません」

 カレンと話し終わったシャールは、急いでハーマン長官の執務室(しつむしつ)(もど)った。執務室(しつむしつ)にいたハーマン長官の秘書(ひしょ)は、「(みな)(となり)会議室(かいぎしつ)だ」と(ゆび)()した。


 会議室では、ヘルマンが10人体制の部隊の残りのメンバーの人選(じんせん)をしているところだった。


 その横で、ハーマン長官が、新しく安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)長期的(ちょうきてき)派遣(はけん)されることになった魔術師のマーロンに、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)内のことを簡単に説明していた。


 ハーマン長官は、(おく)れてやってきたシャールを見た。

「マーロン。こちらがシャール、そしてこっちがその妹のリーナ。人喰(ひとく)(りゅう)(あや)める(どく)を作った。そして、そこの小部隊長(しょうぶたいちょう)のヘルマン・ワークに、あと何人か警備兵(けいびへい)を入れて、一つの部隊(ぶたい)とする」

 ハーマン長官は言った。


「何の部隊(ぶたい)ですか?」

とマーロンは聞く。


「国内の人喰(ひとく)(りゅう)駆除(くじょ)して回るのさ」

とハーマン長官は大きな地図を広げた。

「あちこちの国内警備兵から最新の(りゅう)営巣地(えいそうち)の情報が入ってきている。村を(おそ)いそうなところから優先的(ゆうせんてき)(りゅう)を、()るぞ」


 それから、ハーマン長官はマーロンの方を向いて、

「それで、マーロン。おまえは(りゅう)(たたか)った経験は?」

と聞いた。


「僕、まだ学科(がっか)を卒業したばっかりなんで。実戦(じっせん)って言われても。でも、僕は実戦系(じっせんけい)かなと思って、なんとなく実戦系(じっせんけい)任務(にんむ)志願(しがん)しました」

とマーロンはぶっきらぼうに答えた。


 横で聞いていたヘルマンが少しうんざりした顔をした。

「こいつ、(みんな)とうまくやる気あんのか?」


「では、まだおまえは(りゅう)と戦えるか分からないということか?」

 クレッカー長官は魔術師の志願(しがん)第一(だいいち)に考えると聞いてはいたが、さすがに使える者を派遣(はけん)してほしかった、とハーマン長官は思った。


「練習なしにできる人間はいません。初めは任務(にんむ)というより、実戦経験(じっせんけいけん)()みたかったんですが」

とマーロンは、(みな)見回(みまわ)してから、

「ま、そんなわけにもいかなそうですね。(りゅう)(ころ)せる(どく)があるって聞いちゃあね」

()かない顔をして言った。


 ハーマン長官は(へん)な顔をした。

不満(ふまん)か?」

 なぜ、マーロンが不満(ふまん)そうな顔をするのか? 不満(ふまん)なのはこっちの方なのに。


「ヘルマン、シャール、ということらしいが、いいか?」

とハーマン長官は、マーロンのことを、ヘルマンとシャールに丸投(まるな)げした。


仕方(しかた)ないです。いいですよ」

とヘルマンは答えた。


「問題ありません。(どく)()きますから。なので(ぎゃく)に、マーロンが期待(きたい)するような実戦経験(じっせんけいけん)()めるか、分かりませんよ」

とシャールは言った。


「だから、それですってば」

 マーロンはうんざりしたように(つぶや)いた。


「じゃ。あとは(まか)せるぞ、ヘルマン。俺は最近の長雨(ながさめ)被害(ひがい)が出ている地区(ちく)対策会議(たいさくかいぎ)に出なくちゃならないから」

とハーマン長官は言った。


「はい!」

 若く精悍(せいかん)な顔つきのヘルマンは、(いきお)いこんで大声で返事した。ハーマン長官は「(たの)んだぞ」と大きく(うなず)いた。


 シャールとリーナは、さっきハーマン長官が広げた地図を(なが)めた。

「こんなにも人家(じんか)に近いところに(りゅう)巣食(すく)ってるなんて。どこから手をつけたらいいかわからないわ」


「まぁ、そのへんは、私が」

とヘルマンが言った。


「それなりに(りゅう)の動きを監視(かんし)してきましたから。最も危険なのは、ここと、ここと、ここら(あたり)でしょう」


「さすがだ。話が早い」

とシャールは言った。

「でも、この(りゅう)(ころ)せる(どく)も、まだ一度しか(ため)していません。ですから、実験(じっけん)()ねて、比較的(ひかくてき)規模の小さいところから行きたいですね」


「ではこの村にしましょう」

とヘルマンは王都の南の方の小さな森のはずれの村を指差(ゆびさ)した。

(りゅう)一番(ひとつがい)なのですが、すでに村を三度も(おそ)っている」


「そんな!」

 リーナは声を上げた。

「人は()くなったの? なぜ(みな)村を捨てて()げないの?」


 ヘルマンは分厚(ぶあつ)資料(しりょう)をめくり、その村の被害(ひがい)の記録を探した。

「1度目は(りゅう)が1匹。5(けん)の家を(こわ)し、人をその場で2人()っています。そして1人を(さら)っています。(さら)われた人は見つかっていない」


 リーナは愕然(がくぜん)とし、(くず)れそうになった。(あわ)ててシャールがリーナを()き止めた。リーナは思わずシャールの(むね)に顔を(うず)めた。シャールが優しくリーナの頭を()でる。


 マーロンがそんなリーナとシャールをチラッと見た。


怪我人(けがにん)重軽傷者(じゅうけいしょうしゃ)、合わせて8人」

 ヘルマンは淡々(たんたん)記録(きろく)を読み上げて言った。

「2回目も同じような被害(ひがい)ですね。4(けん)の家を(こわ)し……」


「魔術師は何をしていたの?」

 リーナは(さけ)んだ。


「魔術師は派遣(はけん)されていないのですよ。ここ半年の被害(ひがい)ですね」

とヘルマンも憤然(ふんぜん)として答えた。


魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)は本当何をしているんだ」

とシャールは(つぶや)いた。


「僕を見ても知りませんよ」

とマーロンは言った。


「半年で3回も(おそ)われているの? この村の者は、なぜ村を捨てて()げないの?」

とリーナは聞いた。


権威(けんい)ある教会(きょうかい)があるからです」

とヘルマンは答えた。


権威(けんい)ある教会(きょうかい)......」

 リーナは絶句(ぜっく)した。


「では警備兵(けいびへい)相当数(そうとうすう)配備(はいび)されているのか?」

とシャールは聞いた。


警備兵(けいびへい)被害(ひがい)甚大(じんだい)です。()われた者こそいないものの」

とヘルマンは顔を(ゆが)めて答えた。


「ここからやりましょう。マーロン、いい?」

とリーナは言った。


「僕は何でも」

 マーロンは興味(きょうみ)なさげに言った。ずっとこんな調子だ。


「この村はそんなに遠くない。すでに警備兵(けいびへい)配置(はいち)もある場所だから、明日にでも出立(しゅったつ)できる」

とヘルマンは言った。


 シャールはすぐに地図(ちず)と必要な書類(しょるい)書記官(しょきかん)に書き(うつ)させた。ヘルマンもすぐに部隊(ぶたい)警備兵(けいびへい)遠征(えんせい)に必要な物質の準備をするよう(めい)じた。皆(りゅう)駆除(くじょ)できる希望に(あふ)れていた。だが、マーロンが1人めんどくさそうにしていた。


「マーロン?」

とリーナが声をかけた。


「僕、こういう空気(くうき)(きら)いなんですよねー。僕、明日までに何かすることあります?」

とマーロンは聞いた。


「いや警備兵(けいびへい)がやるのでだいじょうぶだ」

とヘルマンが答えた。


「じゃぁ僕、お(さき)失礼(しつれい)しますね」

とマーロンは会議室を出て行こうとした。


「マーロン!?」

 リーナは(おどろ)いて()び止めた。


「えー? 別に僕、することないんでしょう?」

 マーロンはげんなりした顔をした。


(かま)わん。では明朝(みょうちょう)に。時間通りに来い」

とヘルマンはため息をついて言った。


「はーい」

 マーロンは()(かえ)りもせず、会議室から出て行った。


「だいじょうぶか、あいつ」

とヘルマンは勘弁(かんべん)してくれといった顔で(つぶや)いた。


 だが、明日の竜駆除(りゅうくじょ)準備(じゅんび)の方が(いそが)しく、(みな)すぐに自分の仕事に戻っていった。リーナも薬玉(くすりだま)の準備が万全(ばんぜん)かどうか確認しに走っていった。


 明朝(みょうちょう)(みな)はマーロンを心配していたが、しかし特別(こま)ったことも起きなかった。マーロンは時間通りに来て、自分の()(かつ)ぎ、文句(もんく)も言わずに遠征先(えんせいさき)まで(みな)について馬を走らせた。


 一先(ひとま)ず、ヘルマンはほっとした。


 リーナもここのところ馬に乗る練習していたが、遠出(とおで)となるとシャールが(ゆる)さず、シャールはリーナを(かか)えて馬を走らせた。マーロンはその様子をチラリと見た。


 目的の村は王都からそう遠くはなく、馬を一日走らせれば()距離(きょり)だった。


 村のすぐ(そば)(りゅう)営巣地(えいそうち)があった。巣を構えていたのは一番(ひとつがい)の二匹の(りゅう)だった。


 村は悲惨(ひさん)だった。


 配備(はいび)されていた警備兵(けいびへい)は、誰一人(だれひとり)として無事(ぶじ)な者はいなかった。野戦病院(やせんびょういん)のような場所でただ(よこ)たわり()()つだけの者、片腕(かたうで)のない者、片目(かため)(うしな)った者、背中(せなか)にひどい火傷(やけど)()った者、深い裂傷(れっしょう)で足が思うように動かない者。


 村人(むらびと)警備兵(けいびへい)たちも、ヘルマンたちの部隊(ぶたい)到着(とうちゃく)しても、事態(じたい)好転(こうてん)するとは半信半疑(はんしんはんぎ)だった。


 助けてくれるのか? 助けられるのだろうか? 


 しかし(りゅう)退治(たいじ)、それ自体(じたい)は、たいそう順調(じゅんちょう)だった。


 二匹の(りゅう)が眠る夜に、リーナが薬玉(くすりだま)に火をつけ()()げ入れてお(しま)いだったからだ。


 次の朝には、赤い(ひとみ)をカッと見開(みひら)き、長い(した)をだらりと(くち)から()らしたまま息絶(いきた)えた、(りゅう)死骸(しがい)がそこにはあった。


 マーロンは舌打(したう)ちしながら、

「ほらみろ、僕は何もできねーよ」

と誰にも聞こえないように言った。


 だが、リーナが()のすぐ(そば)に落ちていた(りゅう)(ふん)の中に、人骨(じんこつ)らしいものを見たとき、あまりのおぞましさに足腰(あしこし)がたたなくなり、(たお)()んでしまった。


 シャールはそんなリーナを受け止めると、リーナの頭を両手で()(いだ)き、リーナの耳元(みみもと)で「落ち着け、だいじょうぶだ」と()(かえ)した。


「お兄様......」

 リーナはシャールにしがみついた。

「お兄様、私は(おそ)ろしい……」


「リーナ、俺がいるから」

とシャールはリーナの頭を()でた。


「そばに、いさせて」

 リーナは(しぼ)り出すような声で言った。


 シャールははっとした。リーナを()きしめる(うで)に力がこもった。


 リーナはしばらく大粒(おおつぶ)(なみだ)をこぼした後、ぐっとこらえてシャールの()()りて立ち上がった。


(りゅう)()んだけど、これから警備兵(けいびへい)村人(むらびと)怪我(けが)()るわ。追加(ついか)処置(しょち)ができる者がいるかもしれない」

とリーナは言った。


「リーナ、落ち着け。俺たちの部隊には医務官(いむかん)も入れてある。彼女はすでに警備兵(けいびへい)村人(むらびと)処置(しょち)に走っていった」

とヘルマンは言った。


「そうなのね。医務官(いむかん)が......。よかった。でも私が作った、よく()炎症止(えんしょうど)めや、熱冷(ねつさ)ましの薬もあるから、その医務官(いむかん)の人を手伝ってくるわ」

 リーナはほっとしたような顔をしながらも、医務官(いむかん)の女性の元へ走っていった。


 マロンは大あくびした。

「ほんと、僕、特にやることないですよねー」


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