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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第2部: 竜の被害と薬売りの兄妹
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6. 竜の被害〜竜避けの薬〜

 大きな窓からは()みわたる青空が見えた。


 美しい調度品(ちょうどひん)ばかりの部屋。だが不思議(ふしぎ)とこの部屋はいつも暗い。当たり前か。ここ半年(はんとし)で国内の(りゅう)被害(ひがい)が増え、いつも空気が重かった。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)のハーマン長官(ちょうかん)(ほお)がこけて目ばかりギョロギョロしていた。


 前はこうではなかった。面長(おもなが)だったが(ととの)った顔立ちをしており、(まゆ)や髪の毛にも(つや)があった。


 だが今は顔には(かげ)がさし、いつも(むずか)しい顔をしていた。


「お約束の、竜避(りゅうよ)けの薬玉(くすりだま)を持って(まい)りました」


 シャールは使用人の男たちに木箱(きばこ)を開けさせた。木箱(きばこ)の中には薬玉(くすりだま)()()められていた。


 ハーマン長官は(けわ)しい顔のまま返事もせずに立ち上がり木箱(きばこ)(のぞ)いた。そしてご苦労(くろう)とも言わず、


「これでは一月(ひとつき)もつか。作ったものはこれからも全て持ってこい。もう少しペースをあげて作れぬのか? 毎週毎週、あちこちで(りゅう)被害(ひがい)が出て、たかさんの人が()くなっているのだぞ」


とため息をついた。


 シャールも国中のあらゆるところで(りゅう)による被害(ひがい)が出ていることは知っていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 (りゅう)に家を(こわ)されたり、()()まれて()くなる人の数は増え続けていた。


 (りゅう)が近くに()()いたせいで環境が変わり、同じ土地に暮らせなくなった人も少なくない。


 つい先日もある村がまるまる一つ(りゅう)によって消えた。


 村の近くの営巣地(えいそうち)突如(とつじょ)として数匹の(りゅう)が加わったのだが、その(りゅう)たちが興奮(こうふん)して(あば)れたと言う。


 もともと人と(りゅう)はなんとか均衡(きんこう)(たも)()み分けていたが、()()()()、急に(りゅう)の数が増え、駆除(くじょ)が追いつかなくなっていた。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)国内(こくない)警備部門(けいびぶもん)は、ここのところ、(りゅう)営巣状況(えいそうじょうきょう)把握(はあく)から予防対策(よぼうたいさく)被害(ひがい)実態調査(じったいちょうさ)援助(えんじょ)と、たいそう(いそが)しくしていた。


 しかし改善(かいぜん)されるどころか被害(ひがい)拡大(かくだい)するばかりで、人々からの評価(ひょうか)は年々(きび)しくなっていた。


 急に部屋の扉が(あわ)ただしく開いたかと思うと、職員が数名(ころ)がり()んできた。


「ハーマン長官、たった今、また一つ村が(りゅう)(おそ)われたそうです!」


 ハーマン長官は飛び上がった。


「どこの村だ! 被害(ひがい)はどんな様子だ! 魔術師(まじゅつし)要請(ようせい)したか!」


 ハーマン長官は地図を持って来させ、避難場所(ひなんばしょ)確保(かくほ)警備(けいび)の者をどこからどれだけ派遣(はけん)するか細かく指示を出した。


 そしてシャールの木箱(きばこ)を指差し薬玉(くすりだま)をたくさん持っていくよう指示した。


 ハーマン長官の(ひたい)には大粒の汗が流れた。


「一人でも多くの者を救うんだ、いいな。状況(じょうきょう)逐一(ちくいち)報告せよ!」


シャールも息を()んだ。


 職員たちは(うなず)き、(あわ)()ぎて半分(ころ)がりながら部屋を出て、それぞれの持ち場へと走っていった。


 一部の職員は、「失礼します」と言いながら、シャールの木箱(きばこ)から半分もの薬玉を持って行った。


 ハーマン長官の机には、すぐに、より詳細(しょうさい)な地図が運び込まれ、その横に警備隊(けいびたい)資料(しりょう)が山のように()まれた。


 部隊長(ぶたいちょう)たちが近隣(きんりん)の持ち場の警備兵(けいびへい)規模(きぼ)装備(そうび)を確認し出した。


「ということだ、シャール。薬玉(くすりだま)も、もう半分だ。全然()りん。さっさと次を作って持ってこい」


 ハーマン長官はシャールを(にら)みつけながら言った。


「はい、かしこまりました。出来(でき)(かぎ)りいたします。しかしすみません、原料(げんりょう)(かぎ)られておりまして」


 シャールは(もう)(わけ)なさそうに言った。


しかしハーマン長官は苦虫(にがむし)()(つぶ)したような顔で

(ばい)作れ。いや、五倍(ごばい)作れ」

と命じた。


 シャールは悲鳴(ひめい)を上げた。

「そんな、無理でございます!」


(ひと)(いのち)を前に無理(むり)軽々(かるがる)しく言うな。やれ!」

 ハーマン長官は大きな声を上げた。


「いえ、そもそも、私が言うのも何ですが、やはりこんな薬玉(くすりだま)では人が()げるための時間(かせ)ぎにしかなりません。駆除(くじょ)できる者を増やすしかありませんよ!」

 シャールは言いにくそうに言った。


「それができれば苦労せん。(りゅう)駆除(くじょ)できる魔術師が今は全部魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)管轄(かんかつ)で、うちがどうこうできるものではなくなったのだ! 先日の村の襲撃(しゅうげき)(さい)だって、すぐに魔術師を要請(ようせい)したが、ただの一人も派遣(はけん)してくれなかった。増援(ぞうえん)どころではない」

 ハーマン長官はイライラして言った。


「しかし、それでは魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)がちゃんと魔術師を管理できてるとは思えませんよ!」

 シャールも言った。


「ああ。(りゅう)ばかりが仕事ではないのは分かるが、ただの一人も魔術師を派遣(はけん)せぬというのは、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)はどうなっているのだろうな!? よほどなんだろう。かといって、今一番力があり、国家機密(こっかきみつ)に近いのも魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)だ。私が知らぬ事情があるんだろうよ」


 その回りくどい愚痴(ぐち)に、ハーマン長官がいかに現場の窮状(きゅうじょう)魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)(うった)え、何度も援助(えんじょ)打診(だしん)しては(ことわ)られているかが(うかが)い知れた。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)部署(ぶしょ)の中には武装(ぶそう)した警備隊(けいびたい)も所属しており、他諸国(たしょこく)との(いさか)いでは戦いに出ることもあるが、(りゅう)となると話は別だった。


 魔術を使わなければ、人の作った武器では(りゅう)(かた)皮膚(ひふ)(つらぬ)けないので、警備隊(けいびたい)派遣(はけん)したところで(りゅう)駆除(くじょ)はできない。


 警備隊(けいびたい)にできることは(りゅう)を追い払うことや、人々の救助(きゅうじょ)だけだった。


 (りゅう)駆除(くじょ)するには魔術師が必要だ。だが、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)は、何らかの理由でなかなか魔術師を派遣(はけん)してくれない。


 昔の安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)はこうではなかった。


 そもそも、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)には部署付(ぶしょつ)きの魔術師がいた。


 シャールはため息をついた。

「そうですか、この状況(じょうきょう)で魔術師がゼロとは…」


 沈黙が少し流れた。やがてハーマン長官はふうーっと長い息を()いた。


「とにかく、こんな竜避(りゅうよ)けの薬でも人々の役には立つ。開発(かいはつ)したお前の妹には感謝している。だが、見ただろ、もう残り半分だ。いいか、次は十倍(じゅうばい)作ってこい!」


「えええ、さっきは五倍(ごばい)って! 無理ですよ!」


 シャールは思わず大声を出した。(ひたい)から汗が()き出す。


「うるさい、必ず十倍(じゅうばい)だ! 今はおまえと話してる場合じゃない、もう下がれ」


 ハーマン長官はそれだけ言うと、青ざめてまだ何か言おうとしているシャールに向かって、これ以上は問答無用(もんどうむよう)と片手を()げ出て行けと(うなが)した。


 すぐにハーマン長官は、先程(りゅう)(おそ)われた村の地図に目を向け、あちこち指差しながら対策を指示していった。

すみません。

少しでも面白いと思ってくださった方がらおられましたら、

お手数ですが、

↓ご評価☆☆☆☆☆↓の方よろしくお願いします。。。


評価はほんの少しでも構いません。。。


とても励みになります!

すみませんが、どうぞよろしくお願い致します!

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