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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第3部: 人喰い竜の駆除
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59. 直談判して魔術師をもらってくる

「では早速(さっそく)なのだが」

 ハーマン長官は、シャールとリーナの前に大きな地図を広げた。


 所々(ところどころ)赤でバツ(じるし)が書いてあり、それが人喰(ひとく)(りゅう)営巣地(えいそうち)ということだった。


「シャール、リーナ、君たちを中心に、(りゅう)駆除隊(くじょたい)を作りたい」

とハーマン長官は言った。


「え?」

 シャールは聞き返した。


「今までは、村々(むらむら)(りゅう)(おそ)われて初めて、我々(われわれ)(りゅう)を追い払うために出動(しゅつどう)していた。だが、君たちの薬があれば(りゅう)を、(ころ)せるのだろう? ある意味防災(ぼうさい)だ」

とハーマン長官は言った。


「では私たちは、(りゅう)()に行って(りゅう)(ころ)してくる、と言うことですか。結構(けっこう)危険じゃないでしょうか」

とシャールは答えた。


「その通りだ。だから、そのための警備兵(けいびへい)だ。駆除隊(くじょたい)というチームを作るのは、そういうことだ」

とハーマン長官は説明した。


 リーナは(だま)った。


 エドワードとシャールと、初めてこの薬を試した日のことを思い出していた。


 (りゅう)はただ()(ねむ)っていて、人間を(おそ)ったりはしていたなかった。だが、リーナは、エドワードとシャールと、その(りゅう)に火をつけた薬玉(くすりだま)()げて、それを(ころ)したのだった。


 増えすぎた(りゅう)(ころ)すことは、人の生活を守ること。だが、まだ人間を(おそ)う前の(つみ)なき(りゅう)(ころ)すことは道理(どうり)(かな)っているのか? リーナはあの日から、これについて考えなかったことはない。


 そして、もう一つリーナの頭にある問題は、(りゅう)たちが(けっ)して自分たちの意思(いし)だけで、この国に集まっているのではなく、ダミアンとアデルの魔術で集められているということだった。


 だがこれは、ハーマン長官にはおそらく大した問題ではないのだろうとも思った。ハーマン長官の仕事は国民の生活を守ることなのであって、増えすぎた(りゅう)は、()らすべきリスクでしかない。


 ハーマン長官は駆除(くじょ)と言う言葉を使った。


 リーナは隣村(となりむら)竜被害(りゅうひがい)を思い出した。(りゅう)(こわ)された家の下敷(したじ)きになって、()(つぶ)されて()んだ家族。人ってこんな風に(つぶ)れるんだ、と()()(もよお)しながら思ったものだ。(りゅう)()(ほのお)のせいで、火傷(やけど)全身包帯(ぜんしんほうたい)まみれになり、(かた)(いき)をしていた患者。命は失われずに済んだが足を失った患者。


 ああなってしまっては、とりかえしがつかないのだ。特に人の命は失われてはもう戻らない。


 そして、リーナはエドワードを思った。エドワードは何らかの理由で人を(ころ)している。


 そして、私も(つみ)なき(りゅう)(ころ)すのだ。私が(りゅう)(ころ)すのにも意味がある。


 リーナは覚悟(かくご)を決めた。


 シャールにはリーナが(はら)(くく)ったことが分かったようだった。そっとリーナの(かた)に手を回した。


 シャールとリーナの顔つきを見て、ハーマン長官は(うなず)いた。

駆除隊(くじょたい)を作ることに、賛同(さんどう)してもらえたようだな」


 そして、近くに(ひか)えていた警備兵の名前を呼んだ。

「ヘルマン。おまえが小部隊長(しょうぶたいちょう)だ。10人くらいの隊を作ってくれ。シャールとリーナの他は、人選(じんせん)はおまえに(まか)せる」


 ヘルマンと呼ばれた警備兵はうやうやしく頭を下げた。


 しかし、はっきりとした口調(くちょう)でハーマン長官に進言(しんげん)した。

「私も何度も(りゅう)被害(ひがい)を受けた村に出向いています。(りゅう)を追い払わねばならなかった経験も何度もあります。いくら(りゅう)(あや)める薬を使う部隊といっても、不測(ふそく)事態(じたい)があれば、(りゅう)と戦わねばなりません。私は、魔術師が()る、と思います」


 ハーマン長官は一瞬(いっしゅん)(だま)った。


「ああ」

とリーナも(りゅう)営巣地(えいそうち)(りゅう)対峙(たいじ)した時のことを思い出して、思わず(つぶや)いた。


 リーナの声に、ハーマン長官は反応した。

「必要か? リーナ。魔術師」

とハーマン長官は聞いた。


()らないと言えば、大嘘(おおうそ)になりますね」

とリーナは答えた。


 ハーマンはまた一瞬(いっしゅん)(だま)った。


 魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)への魔術師の要請(ようせい)要請(ようせい)しても、なかなか派遣(はけん)されない魔術師。


 俺が直々(じきじき)(たず)ね、クレッカー長官に直談判(じかだんぱん)してやろう、とハーマン長官は思った


 そして、()を決すると秘書を呼び、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)へと走ってやらせた。


「この問題は必ず解決してやる」

とハーマン長官は言い切った。


 ハーマン長官の秘書が走って帰ってくると、ハーマン長官は、シャールとリーナとヘルマンを連れて、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)にわざわざ出向いた。


 直談判(じかだんぱん)。ハーマン長官にとっては最終手段(さいしゅうしゅだん)に似たようなものだった。それは、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)のクレッカー長官も感じ取っているはずだ。


 ハーマン長官は強い決意を顔に浮かべて、三人を(したが)えながら、クレッカー長官の部屋へ急いだ。


 クレッカー長官の部屋の前では、カレン・ホースが待っていた。


「カレン!」

 シャールとリーナは思わず叫んだ。


 カレンは微笑(ほほえ)んだ。

「今はクレッカー長官の秘書の抹籍(まっせき)に置いてもらって、お世話(せわ)係みたいなことをやってるの」

とカレンは言った。


「赤ん坊は?」

 シャールは心配するように聞いた。


「びっくりすると思うんだけど、グレゴリー侯爵夫人(こうしゃくふじん)面倒(めんどう)見てくれてるのよ」

とカレンはありがたそうに言った。


「カレン、あなたの、人脈(じんみゃく)ってむちゃくちゃすごいのね」

とリーナは(おどろ)いた。


「たまたまよ。グレゴリー侯爵夫人に子供がいなかったから。でも、その話は後でね。クレッカー長官に御用(ごよう)なのでしょう?」

 カレンはハーマン長官を見ながら言った。


「カレン、(あと)で重大な話がある。時間を作ってくれ。できれば、部屋の外で待っていて欲しい」

とシャールがカレンの耳元(みみもと)で小声で言った。


 カレンは何か覚悟(かくご)したような顔をしながら(うなず)いた。


 ハーマン長官とヘルマンは話の蚊帳(かや)(そと)で、ものの数分のこととはいえ、少し不愉快(ふゆかい)そうな顔をして待っていた。


 シャールとリーナは、ハーマン長官とヘルマンに(あやま)った。

同郷(どうきょう)の者に、久しぶりに会ったものですから」

 カレンも(もう)(わけ)なく頭を下げた。


「クレッカー長官、ハーマン長官様がいらっしゃいました」

 カレンはクレッカー長官の部屋の扉を開けた。


 クレッカー長官は、シャールやリーナの思っていた男とはちょっと違った風情(ふぜい)の男だった。


 グレゴリー元大臣を暗殺(あんさつ)した政治犯(せいじはん)というので、もっと野心家(やしんか)のギラギラした感じの男かと思っていたら、()せていて神経質(しんけいしつ)そうな草食系(そうしょくけい)小男(こおとこ)だった。


「クレッカー長官。直談判(じかだんぱん)に来た」

とハーマン長官が言った。


「ハーマン長官、わざわざ来ていただいて(もう)(わけ)ないよ。魔術師の派遣(はけん)(けん)だろう?」

とクレッカー長官はもう了承(りょうしょう)しているような口振(くちぶ)りで言った。


「ああ。こんなにずっと要請(ようせい)しているのに、ちっとも魔術師の派遣(はけん)がないからね。もう直接来るしかないと思ったのさ。こちらも少し状況(じょうきょう)好転(こうてん)してね、どうしても魔術師が欲しいところだ。これでも派遣(はけん)してもらえないなら、君から直接説明して欲しいところだね」

とハーマン長官は淡々(たんたん)と言った。


 クレッカー長官は、まさか王宮の儀式(ぎしき)(ふく)めた魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)内部のいざこざで、魔術師が手一杯(ていっぱい)になっているとは、さすがに言えなかった。


 そこでにこやかに

「魔術師を派遣(はけん)するさ。(りゅう)(けん)だろう? とりあえず実戦系(じっせんけい)希望の者がいるから一人派遣(はけん)する」

と言った。


「一人?」

 ハーマン長官は顔を(しか)めた、

「これまで何度も要請(ようせい)してきたというのに、か?」


 シャールは(あわ)てた。

「ハーマン長官、今回の目的は一人で十分です。これまでの事はひとまず置いといて、一人派遣(はけん)してもらいましょう。とりあえず、我々の小部隊は薬で(りゅう)駆除(くじょ)していくのが任務ですから、魔術師も一人でだいじょうぶです」

とらハーマン長官の横から耳打(みみう)ちした。


 ハーマン長官は苦虫(にがむし)をかみつぶしたような顔でうなずいた。


 そして

「いつも、待たされてばかりだからね。今ここでその魔術師を紹介してくれると助かるがね」

とハーマン長官はクレッカー長官に言った。


 クレッカー長官は、それは想定内(そうていない)だったので、すぐにその魔術師を呼んだ。


「彼だ。もう今から一緒に行ってくれていい」

とクレッカー長官は言った。


 その魔術師はペコリとお辞儀(じぎ)をして

「マーロン・シラーです……」

面倒(めんどう)くさそうに挨拶(あいさつ)した。


初対面(しょたいめん)でこの態度(たいど)。こいつ、だいじょうぶか?」

とヘルマンは心の内で思った。


「というわけだ。これでいいかい? ハーマン長官?」

クレッカー長官は聞いた。


 ハーマンはまだ何か言いたいことがたくさんありそうだったが、ひとまず今回の目的の魔術師が手に入ったということで、納得(なっとく)することにした。


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