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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第3部: 人喰い竜の駆除
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58. 竜を殺める薬 〜ハーマン長官と安全警備本部の事情〜

 その(ころ)、そのシャールはリーナを引き連れて、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)のハーマン長官を(たず)ねていた。


 アデルが回復(かいふく)し村を出たので、シャールも一先(ひとま)ず安心して家を空けられるようになった。


 (ひさ)しぶりの王都だった。


 (いか)しく特別頑丈(とくべつがんじょう)そうな安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)建物(たてもの)(とびら)をくぐり、ハーマン長官の部屋を(たず)ねたシャールとリーナは、()取次(とりつぎ)の秘書の(やつ)れぶりに(おどろ)いた。


 人喰(ひとく)(りゅう)被害(ひがい)は、国中あちらこちらで起こり、増えはしても、減ることはなかった。


 相変(あいか)わらずハーマン長官の部屋は、立派な調度品(ちょうどひん)威厳(いげん)が感じられたが、(くら)湿(しめ)った空気が(ただよ)っていた。


 そこで、ハーマン長官の部屋に入るなり、シャールは明るい声を出した。

「ハーマン長官、良いご報告があります!」


 ハーマン長官はすっかりくたびれ()てていて、少しも愛想(あいそ)を見せることなく、シャールとリーナに近くに来いと手招(てまね)きした。

「久しぶりだな、妹のリーナか? で? 竜避(りゅうよ)けの薬の増産(ぞうさん)がうまくいったのか?」


 シャールはハーマン長官を元気づけるように、

「長官、それどころか(りゅう)(あや)める薬を作りました」


「なんだと!?」

 ハーマン長官は急に顔を()()め、聞き返した。

(りゅう)(あや)める薬だって?」


「はい」

 シャールは持ってきた荷箱(にばこ)を開けてみせた。


 薬玉(くすりだま)(なら)んでいた。20個ほど。ハーマン長官は半信半疑(はんしんはんぎ)でじろじろと薬玉を(なが)めた。


 リーナは薬玉を一つ手に取り、

神経毒(しんけいどく)のようです」

と言った。


神経毒(しんけいどく)とは何だ」

 ハーマン長官は聞いた。


(りゅう)は動けなくなります。呼吸(こきゅう)(きび)しいでしょう」

とリーナは言った。


「そうか。(りゅう)でも呼吸(こきゅう)ができなければ、それは()ぬか。なるほど、(りゅう)()(どく)か」

 ハーマン長官は(つぶや)いた。


「はい」

 リーナは(うなず)いた。


「どうやって作った? 何かの(どく)応用(おうよう)できたのか?」

 ハーマン長官はまだ信じられないといった顔で聞いた。


「いえ、それはこれまでいろいろ(ため)していましたが、あまりうまくはいきませんでした。(りゅう)特殊(とくしゅ)な生き物なようでした。しかしある変わったネズミを見つけました。それが使えました。ラッキーでした」

 リーナは説明した。


「そうか」

 ハーマン長官は言った。部屋にいた秘書官(ひしょかん)事務官(じむかん)(みな)興味深くリーナを見つめた。


 リーナは手に持っていた薬玉で、手早(てばや)く使い方を説明した。


「簡単じゃないか」

 (みな)口々(くちぐち)に言った。


 部屋中にさあっと希望(きぼう)が広がる感じがした。


 王宮の体制(たいせい)の変化から一年。


 この(かん)ずっと、(りゅう)との戦いでは主に敗戦処理(はいせんしょり)ばかりしてきた、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の者。ここでこうして、勝利(しょうり)(きざ)しが見えてきた。こうして光を見いだすことができた。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の者は、王宮の体制(たいせい)改革(かいかく)(のろ)い、絶望(ぜつぼう)してきたのだ。


 魔術師がらみの犯罪(はんざい)など安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)だけでは対処(たいしょ)できない問題はもちろんまだあったが、しかし、少なくとも人喰(ひとく)(りゅう)事案(じあん)(かん)しては安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)だけで対処可能(たいしょかのう)となる。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)は、国内外の戦争(せんそう)警備(けいび)など、様々な武力(ぶりょく)対応(たいおう)する部署だった。


 対外的(たいがいてき)国家間紛争(こっかかんふんそう)はより武装(ぶそう)した部門が、国内の治安(ちあん)には(りゅう)から犯罪(はんざい)災害(さいがい)などに対応(たいおう)する部門があった。


 また事務官(じむかん)医務官(いむかん)の部門も自前(じまえ)で持つ大所帯(おおじょたい)だ。各部門の中には、任務(にんむ)ごとに部隊(ぶたい)があり、さらに個別(こべつ)案件(あんけん)に対応するための小部隊(しょうぶたい)があった。


 一年前までは、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)にも魔術師が所属(しょぞく)しており、一般隊士(いっぱんたいし)も所属の魔術師と綿密(めんみつ)連携(れんけい)(もと)任務(にんむ)に当たっていた。


 しかし、一年前、大臣がケイマン(きょう)に変わり、クレッカーが魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の長官になると、魔術師に(かん)する体制(たいせい)一新(いっしん)し、各部隊や小部隊それぞれに付いていた魔術師が、(みな)魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の所属となった。


 ハーマンは安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の全てを()べる長官だ。


 ハーマン長官はこのクレッカー長官の改革(かいかく)に強く反対した。小部隊(しょうぶたい)(つね)(とも)訓練(くんれん)任務(にんむ)に当たるからこそ、魔術師と一般隊士は同じ作戦(さくせん)をスピーディーに協力してこなせると思っていたからだった。


 もちろんハーマン長官も、クレッカー長官の言う魔術師の適材適所(てきざいてきしょ)合理性(ごうりせい)については、納得(なっとく)していた。


 たまに安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)小部隊長(しょうぶたいちょう)部隊長(ぶたいちょう)が酒の席で「うちの隊の魔術師はハズレだ」「おまえのとこは実戦系(じっせんけい)魔術師が来ていいよな」などと愚痴(ぐち)を言い合っているのは知っていたからだった。


 そこで、ハーマン長官は安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の中で、魔術師関連(かんれん)人事体制(じんじたいせい)の強化を提案(ていあん)した。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)警備魔術師(けいびまじゅつし)という専門(せんもん)の部門を作ること、それから安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)人事(じんじ)部門の中に魔術師専門(せんもん)人事担当員(じんじたんとういん)を付けること、そしてすべての安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)所属の魔術師の管理と各任務への適材適所(てきざいてきしょ)派遣(はけん)を約束しようとした。


 しかしクレッカー長官は、うんと言わなかった。安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の魔術師が、ハーマン長官のような非魔術師(ひまじゅつし)配下(はいか)居続(いつづ)けることに抵抗(ていこう)があったようだ。また開発された新しい魔術を 広く(すみ)やかに周知(しゅうち)するためにも、魔術師の管理は一本化(いっぽんか)すると強く主張した。


 結局(けっきょく)ケイマン新大臣(しんだいじん)後押(あとお)しもあり、クレッカー長官の(あん)採用(さいよう)された。


 そして、このていたらくである。


 そもそも魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の内部で()めごとが(おさ)まっていないようであり、そのためか(りゅう)一つ、災害(さいがい)一つに、魔術師の派遣(はけん)(とどこお)っていた。


 こんなのは失敗(しっぱい)だ、とハーマン長官は心の内でうんざりしながら思っていた。


 そこで、脱魔術師化(だつまじゅつしか)、それが安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)目下(もっか)小目標(しょうもくひょう)となった。


 今回のリーナの(りゅう)(あや)める薬は安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)にとって非常(ひじょう)にありがたいものだった。これで魔術師に(たよ)らずとも人喰(ひとく)(りゅう)対処(たいしょ)できる。


 ハーマン長官は満足げに(うなず)いた。


「シャールとリーナ、前から思っていたのだが、おまえたち、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)所属(しょぞく)になってもらう事はできないだろうか」

 ハーマン長官は、はっきりとした物言いで言った。


 シャールとリーナは突然(とつぜん)の申し出に(おどろ)いた。

「それは、どういうことでしょうか?」


安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の者として、この薬を作ってもらいたい。もちろん経費(けいひ)なども安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)が出せる」

 ハーマン長官はまっすぐな眼差(まなざ)しでシャールを見た。そして深く頭を下げた。


 シャールは思案(しあん)した。


 シャールはしばらく(だま)って考えていたが、やがて重々(おもおも)しく口を開いた。

「ハーマン長官、私たちにはもったいない申し出ですが、ちょっと(むずか)しいと思います。私たちは(りゅう)対処(たいしょ)する薬を作りましたが、同時にリーナは私たちの村の立派(りっぱ)薬師(くすし)です。私たちは村も守っていかなければならないのです」


 ハーマン長官は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐに

「そうか、それはそうだな。だが、別にうち専属(せんぞく)ってわけじゃなくてもいいんだ。うちの所属(しょぞく)で、(たと)えば一月(ひとつき)半分(はんぶん)だけでもやってくれれば。半分だけでも安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)はおまえたちを歓迎(かんげい)するぞ。もう残り半分は、おまえの村を何とかしろ」

と前向きな提案(ていあん)をした。


 シャールはもう一度考えてから、

「それなら、まあ」

同意(どうい)した。


「そうか、やってくれるか、助かるぞ!」

 ハーマン長官は笑顔になった。


 シャールは頭を下げながら「はい」と言った。


 リーナは少し(こま)ったなと思った。


 話に聞く(かぎ)り、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)は、仲が良くない。


 エドワードと敵対(てきたい)することになるのかしら、とリーナは少し心配した。



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