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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第2部: ケイマン大臣を狙う
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57. ドッキリを仕掛けよう ~ケイマン大臣がアルデバランに殺されても、誰も文句は言えないよね~

 ロベルトとエドワードは丁寧(ていねい)一礼(いちれい)すると、クラッカー長官の執務室(しつむしつ)を出た。


 二人は無言のまま歩いたが、多分(たぶん)思っていることは一緒(いっしょ)だった。


 ロベルトが

「おまえんち()っていいか?」

と聞いた。


 エドワードは、(だま)ったまま、(うなず)いた。


 ロベルトもエドワードも、王都内に、一人で住む屋敷(やしき)を借りていた。二人がエドワードの屋敷(やしき)につくと、中から執事(しつじ)が飛んできて、二人のコートや荷袋(にぶくろ)を受け取った。そして二人を 暖かな暖炉(だんろ)にふわふわのソファのある、ゆっくりくつろげる居間(いま)へ通した。


 エドワードは、使用人に軽い食事と酒を持って来させてから、人払(ひとばら)いをした。


「さてと、こうして、俺たちアルデバラン調査隊員(ちょうさたいいん)になっちゃったワケだけど」

とエドワードは言った。

「こーなったら、実家と連携(れんけい)して、サクッとドッキリでも仕掛(しか)けて……」


「ドッキリ仕掛(しか)けるとか言うな」

とロベルトは(かぶ)せるようにエドワードの言葉を訂正(ていせい)した。


「まあ、こういう状況(じょうきょう)なら、いくらでもクレッカー(おび)()せる口実(こうじつ)は用意できるだろうから、本当に、もうむっちゃ適当(てきとう)に、始末(しまつ)できるな」

とロベルトは安心したように言った。目的がもう目の前に近づいた気がした。


「でとりあえず王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)の調査担当(たんとう)になった事は、まず兄さん達に報告だな。大笑いされて終わりそうだが」

とロベルトは苦々しそうな顔で言った。


「俺も姉貴(あねき)に報告かぁ。いや姉貴(あねき)より、ウィリアムおじさんのほうがいいや」

とエドワードもため息をついて言った。


「おまえの、うちの父への(なつ)きっぷりは、何なんだ一体(いったい)?」

 ロベルトはちらっとエドワードを見た。


「えー? ただウィリアムおじさんは、おまえのことが大好きだから、おまえの面倒見(めんどうみ)てる俺に、とりわけ優しいっていうだけで」

 エドワードはほんわかした笑顔でロベルトを見た。


「俺のことが大好き? ありえねぇ」

 ロベルトは首を横に()った。


「ありえまくり。おまえが知らねーだけ」

 エドワードは指摘(してき)するように言った。


「そういやアデル・コーエンの監視(かんし)(けん)だが、不審(ふしん)な動きをしている。いや、不審(ふしん)というか何というか。どうやらケイマン大臣に接触(せっしょく)しようとしているようだ」

とロベルトはエドワードに報告した。


「どうやって接触(せっしょく)?」

エドワードは(おどろ)いた。


「いや、それなんだが。なんかアデル・コーエン、水商売(みずしょうばい)斡旋所(あっせんじょ)とかに行ってるみたいなんだ」

 ロベルトは少し(あき)れたような顔をしていた。


「あいつが? 水商売(みずしょうばい)? できる思えねーんだけど。いやあいつ、見た目はいけんのか?」

 エドワードはぽかんとしながら率直(そっちょく)な意見を()べた。


「まぁ、ケイマン大臣が女好(おんなず)きなのは有名だからな。そのへんを考慮(こうりょ)したんだろうが」

とロベルトも(あき)れ声で言った。


「あの女、ほんと単純だなぁ。あいつバカだろ」

とエドワードはげんなりしながら言った。


「あと、アデルがその前に接触(せっしょく)していた魔術師がいる。そいつもケイマン大臣の屋敷(やしき)(もぐ)り込んでいるみたいだ。そっちからクレッカーの情報の一つでも仕入(しい)れるつもりかもしれないな」

とロベルトがエドワードに伝えた。


「なるほどね。じゃぁ、俺たちもケイマンから()るか?」

とエドワードは言った。


「アデルに協力してやるのか?」

とロベルトは聞いた。


「だってあいつバカだろ。娼婦(しょうふ)真似事(まねごと)なんか。なんかさすがに気の毒(きのどく)だ。なんか、もう、ここまでくると、いじらしいよなぁ」

とエドワードは言った。


「なにその同情(どうじょう)

とロベルトは(つぶや)いた。


「アデルだって本心は、ケイマン大臣となんかヤりたくねーだろ。俺も想像したくねぇ。アデルが動く前に、俺たちがケイマン()ってやろーぜ」

 さすがにエドワードはアデルのことがかわいそうに思えたようだ。


「待て。そのケイマン大臣の屋敷(やしき)(もぐ)り込んでるやつもいるから、そっちの情報も待たないと」

とロベルトが(たしな)めた。


「つーか、ケイマンの屋敷(やしき)(しの)び込むとか必要ねーだろ。ケイマン自身にしゃべらせればいいんだから。さて、ケイマンに、とっておきのドッキリでも仕掛(しか)けてやるか」

 エドワードは()げやりにな言い方をした。


「ノリ(かる)っ」

とロベルトは(うめ)いた。


「ケイマン、儀式(ぎしき)に出たいって言ってたっけ?」

 エドワードはクレッカー長官との会話を思い出しながら言った。


儀式(ぎしき)、出てもらうか。何ならアルデバランの(くび)でも(おが)んでもらうか」

とロベルトもふうっと息を()きながら言った。


「アルデバランさんに(ころ)されちゃあ、誰も文句(もんく)は言えないもんなあ」

とエドワードは遠い目をして言った。


「そうだね、アルデバランだしね」

とロベルトも答えた。


「国王陛下も目をつぶるしかないよね」

もう一度エドワードが言った。


「そうだね、アルデバランだしね」

とロベルトももう一度答えた。


「俺たちも助けられる状況(じょうきょう)じゃなかったってことで」

エドワードはだいぶ適当(てきとう)に言った。


「そうだね、アルデバランだしね」

とロベルトもまた答えた。


「じゃあ、ケイマン大臣は、王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)()で、アルデバランさんに何とかしてもらうってことで」

とエドワードはめんどくさそうに決めた。


「そうだな。まぁ、アルデバランさんに、どうやってケイマン大臣をやってもらうかは、まぁ兄さん達に聞いてみるわ」

とロベルトも兄に丸投(まるな)げするように言った。


「楽しいドッキリ仕掛(しか)けてくれたらいいなぁ」

 エドワードが少しだけ明るい声を出した。


「そうやってリクエストしておくわ」

とロベルトも答えた。


 こうやって適当(てきとう)に意見をやりやっていた二人だが、それから顔を見合わせると、はーっと大きなため息をついた。


「まぁでも、アルデバランの(ちから)暴走(ぼうそう)したら、()めんのは結局(けっきょく)俺たちだ。結構(けっこう)覚悟(かくご)がいるな」

とエドワードはうんざりしながら言った。


「そりゃそうだ。俺たちしかいない。逆に、何のための俺たちだよ」

とロベルトも辟易(へきえき)しながら言った。


「ウィリアムおじさんが許可(きょか)するかな」

とエドワードが心配そうに言った。


「え!? そこには内緒(ないしょ)だろ」

と急にロベルトは大きな声を上げた。


「おまえ、どれだけ父親(いや)なんだ?」

 エドワードはチラリとロベルトを見た。


親父(おやじ)が出てきたら、絶対に俺たちの思った通りにはならないよ」

とロベルトは断言(だんげん)した。


「知ってる。でもアルデバランが暴走(ぼうそう)した時、一番(たよ)りになるのはウィリアムおじさんだ」

とエドワードは強く主張した。


「ソフィアでもいける。親父(おやじ)には内緒(ないしょ)だ」

 ロベルトは(ゆず)らなかった。


「あのソフィアを信用すんじゃねー」

とエドワードはうんざりしながら言った。


「なんでだよ! 俺の母親の(けん)親父(おやじ)がしばらく再起不能(さいきふのう)になっていた時、アルデバランが(ちから)を取り戻しかけて暴走(ぼうそう)して、結局(けっきょく)全部を片付(かたづ)けたのは、ソフィア一人だったって聞いたぜ」

とロベルトは力強く言った。


「うん、それはな。あいつやべーんだよ。しかもすっげーうまくやる」

 エドワードもその点は(みと)めた。だが首を横に()った。

「でもソフィアは気分屋(きぶんや)だ」


「おまえがリーナでも会わせりゃ、ソフィアは、一発で機嫌(きげん)が良くなんじゃねーの」

とロベルトはエドワードに提案(ていあん)した。


「なんで急にリーナ?」

 エドワードはギクっとした顔で聞いた。


「ソフィアはプレアデスの家名(かめい)のせいで、社交界(しゃこうかい)からだいぶ遠ざけられてんだ。おまえが恋人(こいびと)()れて帰ったつったら、ソフィア大喜(おおよろこ)びすんじゃね? リーナみたいな田舎(いなか)くさい大真面目(おおまじめ)な娘が来たら、すげえ気に入ると思う」

とロベルトはソフィアを思い浮かべながら言った。


「リーナなぁ」

 エドワードは遠い目をした。

「あー、会いてぇ。次に会ったら絶対(ぜったい)俺のものにする」

 エドワードは(ねつ)のこもった目をした。


「まあ、あの義理の兄貴(あにき)を何とかすればな」

とロベルトは水をさした。


「シャールはずっと兄貴(あにき)だった。今更(いまさら)男に見えるもんか」

とエドワードは自分に言い聞かせるように言った。


「どーだろーな。シャールはこれからリーナと一緒に、国中(くにじゅう)(りゅう)駆除(くじょ)して回んだろ、あの(どく)で。かなりの遠征(えんせい)だ。(なか)は深まるぞ」

とロベルトは言った。


「やめてくれ。気が滅入(めい)る。シャールがリーナに手を出すなんて考えたら、気が(くる)いそう」

とエドワードは頭を()(むし)った。


と突然、

「誰よ、リーナって」

と言う声がした。


「は?」

 エドワードがはっとして顔を上げた。


「やあ。ソフィア、お久しぶりです」

 ロベルトがにこやかに挨拶(あいさつ)した。


「おーい、ばか姉貴(あねき)、なんで勝手(かって)に入ってきてんだ」

 エドワードが声を上げた。


「帰ってきてるって聞いたから、あんたの顔を見に」

 ソフィアは(わる)びれず答えた。


「いつから話聞いてた?」

 エドワードはため息をつきながら聞いた。


「全部?」

 ソフィアは首をかしげながら答えた。


「ケイマン()るってとこも?」

 エドワードは聞いた。


「むしろ、その(へん)しか理解できなかった。知らん人間の名前がいっぱい出てきたから。(あと)で全部説明(せつめい)してよね」

 ソフィアはむっとしながら答えた。


「するか、ばか」

 エドワードがそっぽ向いた。


「言うわねぇ。ケイマン()るのに私の(ちから)が必要じゃないの?」

とソフィアがにやりと笑って言った。


「ソフィア。その(へん)は俺が(くわ)しく説明するんで。とりあえずケイマン大臣をアルデバランの(ちから)で何とかするっていうのは、協力してもらえませんかね」

とロベルトがにこやかにお願いした。


相変(あいか)わらずロベルトは話が早いわね。ケイマン大臣? (えさ)()けば来るでしょ。で、私が適度(てきど)にアルデバランの(ちから)を解放して、その(あと)アルデバランを()さえ込めばいいんでしょ」

とソフィアは軽い口調(くちょう)で言った。


「おまえ、それ軽々(かるがる)しく言うけど……」

とエドワードはソフィアを軽く(にら)んだ。


「助かります。俺たちが、適当(てきとう)にケイマン大臣をアルデバランの前に()れて行くんで」

とロベルトがソフィアに頭を下げた。


「かわいいロベルト。でも、ウィリアムおじ様には内緒(ないしょ)にしたいのね? もう少しウィリアムおじ様の(ちから)を借りてもいいと思うの。クレッカーがグレゴリー公爵(こうしゃく)(ころ)したこと、ウィリアムおじ様はよく知ってるし、たぶん証拠(しょうこ)も持ってるわよ」

とソフィアはロベルトに(たしな)めるように言った。


親父(おやじ)が?」

 ロベルトは少し顔を(ゆが)めながら聞いた。


 俺は結局(けっきょく)父の(てのひら)の上で転がされているだけなのか?


「でも何考えてるかはわからないわね。今のところクレッカーの望む通り、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の魔術師を儀式(ぎしき)に入れたりしてるし」

とソフィアも不思議そうに答えた。


「そうですか親父(おやじ)が。でもいいんです。グレゴリー公爵(こうしゃく)殺害(さつがい)(けん)も、俺、何とかするんで。別に、アルデバランの前でケイマン大臣に全てを話させてしまえばいいかって思ってるんで」

とロベルトが少し意地(いじ)になって答えた。


「そう。あなたはほんとに、ウィリアムおじ様の手は借りたくないのね。まぁいいわ。好きになさい。でもきっと、いざと言う時に、おじ様は動くわよ」

とソフィアは、それだけはロベルトに伝えた。


「ハリルやミゲル、ヘンケルトには、声をかけようと思っています。ソフィアの助けになると思うんで」

とロベルトは答えた。


「それは助かるわ。人が多い方が私もサボれるし。それにいざと言う時は、あんたたちもやりなさいよ」

とソフィアは言った。


「ほんと、ソフィアのそういうとこ」

とロベルトは笑った。


「おまえら、俺を完全に無視(むし)して話(すす)めやがって」

とエドワードが(くち)(はさ)んだ。


「じゃぁ、あんた自分で説明できんの? さあ言いなさいよ。“今度会ったら俺のものにする”って誰のことなのよ」

とソフィアはエドワードに()()った。

お読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思ってくださったら、

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どうぞよろしくお願い致します!


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