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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第2部: ケイマン大臣を狙う
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56. ロベルトとエドワードの新しい任務 〜俺たちがアルデバラン調査係? 俺たち本物の家系ですけど、マジですか〜

「は?」

と思わずロベルトは聞き返した。

「私たちが、ですか?」


「? 何か問題でも?」

魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)のクレッカー長官(ちょうかん)は聞いた。


「王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)の調査……」

とエドワードは、笑いを(こら)えながら(つぶや)いた。


 俺ら本物のプレアデス家とヒアデス家の者です、なんて言えない!

 調査も何も、 “全部” 知ってまーす!なんて。


「なんだ、エドワード、その顔は」

 クレッカー長官が不審(ふしん)そうな顔をする。


「あ、いえ。ちょっと。あまりに、重要そうな話でしたので」

 エドワードは汗をかきながら、嘘をついて誤魔化(ごまか)した。


 ロベルトとエドワードは、カレン・ホースの任務の報告にクレッカー長官の執務室(しつむしつ)(たず)ね、そして、また新しい任務をクレッカー長官から言いつかっているのだった。


 クレッカー長官の執務室(しつむしつ)は、いつも人がひっきりなしに出入りしている。魔術師の管理は全てこの部署で行われているため、様々(さまざま)な任務の依頼(いらい)がこの部屋に舞い込んでくるのだった。


 またケイマン大臣からの書簡(しょかん)も多かった。催促(さいそく)要望(ようぼう)、お(しか)り。たくさんの面倒事(めんどうごと)がケイマン大臣の使者から持ち込まれる。


 今、クレッカー長官がロベルトとエドワードに(たの)んでいるのも、ケイマン大臣から再三(さいさん)催促(さいそく)されている、王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)の調査の(けん)だった。


()()ぎはハンドリーに聞くといい」

とクレッカー長官は言った。


「ハンドリーは失敗して足を失ったっておっしゃいましたよね?」

とロベルトは色々思うところを隠して、無表情(むひょうじょう)で言った。


「そこも(ふく)めて、聞くといい。おまえたちはハンドリーと仲が良かったと聞いている。そのハンドリーがあんな目に()い、そしてその()()ぎを(たの)むのは心苦しいが……」

とクレッカーは(もう)(わけ)なさそうな顔をした。


「あ、いえいえ。ハンドリーには、今回のカレン・ホースの(けん)で、十分(じゅうぶん)あり()ないお願いをされてますので」

とエドワードは嫌味(いやみ)を言った。


「カレン・ホースの(けん)はありがとう。君たちがダミアン・ホースを始末(しまつ)したと言うのに、その報告を彼の(つま)であるカレンにしてもらうのは、(こく)だったな」

とクレッカー長官は()まなそうな顔をした。


「ええ。なかなか」

とエドワードは言って、ロベルトに足を()まれた。


「彼女はグレゴリー公爵夫人(こうしゃくふじん)(もと)()()せ、少し私の下で働いてもらうことになった」

とクレッカー長官はロベルトとエドワードに言った。カレンに義理(ぎり)(かえ)すのだと言いたげな口調(くちょう)だった。


 エドワードは一瞬(いっしゅん)ぎょっとした。カレン・ホースには極力(きょくりょく)会いたくない。


 自分の(おっと)(ころ)した人間が、元気にやってる姿なんて、普通の人間なら見たくないだろう。


 だが、ロベルトには、そんなことどうでもよかった。


 カレン・ホースの(けん)もハンドリーの尻拭(しりぬぐ)い。王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)の調査もハンドリーの尻拭(しりぬぐ)い。

 俺は、どんだけハンドリーの尻拭(りしぬぐ)いさせられんの!?


「で、王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)の調査ってことですが、クレッカー長官とケイマン大臣は、具体的(ぐたいてき)に何が知りたいんです?」

とロベルトは聞いた。


 ロベルトも、全部知ってるけどな、と心の中で(つぶや)いた。


「まあ、何を(まつ)っていて、なぜ(まつ)らなければならないか、だ」

とクレッカー長官は答えた。


「君たちも、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)派遣(はけん)魔術師として、私と一緒(いっしょ)に王宮の儀式に参加するといい。ハンドリーも参加するところから始めたのだぞ」

とクレッカー長官は言った。


「え……」

エドワードは絶句(ぜっく)した。


「絶対イヤです」

 エドワードは姉のソフィア・プレアデスの、術衣(じゅつい)(かぶ)る前の、節操(せっそう)のない(あらわ)格好(かっこう)なんか見たくないと思った。


「絶対イヤです」

 ロベルトは、父ウィリアム・ヒアデス、兄のハリル、ミゲル、ヘンケルトを思い浮かべた。特に、笑いを(こら)える兄たちの姿を。


「俺たちは儀式(ぎしき)には出ません!」

と二人はクレッカー長官に宣言(せんげん)した。


「何でだ? (たと)えばケイマン大臣なんか、王宮の儀式に出たくて出たくて、機嫌(きげん)がたいへん悪いというのに」

とクレッカー長官は不思議(ふしぎ)そうな顔をした。


「いや〜、我々みたいな礼儀知(れいぎし)らずなんて、国王陛下とご一緒(いっしょ)するわけには参りませんよ」

とエドワードは適当(てきとう)に言った。


礼儀知(れいぎし)らず……。自分で威張(いば)って言うな」

とクレッカー長官は(あき)れた。


「君らは貴族(きぞく)出身なんだろう? 十分(じゅうぶん)ではないか」

 クレッカー長官は、ロベルトとエドワードこそ、さぞ最適(さいてき)人選(じんせん)とばかりに(うなず)いた。


「事情を知らねーヤツの思い付きってこえぇ〜」

とエドワードは、クレッカー長官に聞こえないように(つぶや)いた。


「私たちでなければいけない理由でも?」

とロベルトはクレッカー長官に確認した。


「そういうわけではないが、所属(しょぞく)の魔術師を見ていると、(たたず)まい、強さ、冷静さ。おまえたちが一番適任(てきにん)と思ってな」

とクレッカー長官は言った。


「よほどですね。了解(りょうかい)しましたよ。では、私たちはでは、王宮深部(しんぶ)儀式(ぎしき)の調査をいたします」

とロベルトはわざと(うやうや)しく答えた。


「そうか、やってくれるか! ハンドリーからしっかり聞くと良いのだが、やや危険な任務なのだ」

とクレッカー長官は言った。


「危険な任務、とか今更(いまさら)言うか? 後出(あとだ)しジャンケンかよ」

とエドワードはまた、クレッカー長官には聞こえないように(つぶや)いた。


「まあ、私たちなら、だいじょうぶでしょう」

とロベルトはすました顔で答えた。


「さすがだな! ハンドリーの有能(ゆうのう)後輩(こうはい)!」

とクレッカー長官は、ロベルトを(たの)もしそうに(なが)めた。


「え、俺たち、そんな風に思われてたの?」

 またエドワードが小さい声で(つぶや)いた。


「おまえさっきからうるさい。笑いそうになるからやめろ」

とロベルトはエドワードに小声で(ささや)いてから、真面目(まじめ)な顔でクレッカー長官の方を向き、


「ご期待(きたい)()えて見せます」

(うやうや)しく言った。

 

 本当はご期待(きたい)()えるつもりなんて、全くないロベルトだったが。


 しかし、何も知らないクレッカー長官は、満足げに(うなず)いた。


「ただ、儀式(ぎしき)に出るか出ないかは、自分たちで決めさせてください」

とロベルトはクレッカー長官に(ねが)った。


「よかろう。任務が成功するなら、私も手段(しゅだん)は問わない」

とクレカ長官は許可した。


 よし! エドワードは心の中で喜んだ。


「では、しばらく我々は、アデルやダミアンの仲間の捜索(そうさく)はしなくていいってことで、よろしいですか?」

とロベルトはクレッカー長官に確認をとった。


「ああ。アデルは病死したと連絡が入ったからな」

とクレッカー長官は、問題ないといった顔でに(うなず)いた。


「連絡? 誰からです?」

とロベルトの目がギラリと光った。


 ロベルトはアデルに監視(かんし)の魔術をかけているので、彼女が生きているのが分かっている。


 しかし、ロベルトはクレッカー長官の手下(てした)で、マルティスの魔術を使える者を知りたかった。


 そこで、クレッカー長官を少し()さぶってみようと思った。


「ん? 部下からだが、どうかしたか?」

 クレッカー長官は怪訝(けげん)そうな顔をした。


「本当に死んでますか? いつ報告を受けました? 我々はつい先日、生きているアデル・コーエンを見かけましたよ」

 ロベルトはクレッカー長官の反応を見ようと、もう少し()み込んで言ってみた。


「ははは。アデル・コーエンが生きているわけない。君らの見間違(みまちが)いだろう。そもそも、どこで見かけた? 君らは彼女に、何が接触(せっしょく)(こころ)みたのか?」

と逆にクレッカー長官が(うたぐ)り深そうな目で聞いた。


 ロベルトはニヤリとした。「アデルが生きているわけがない」ね。大した信頼(しんらい)だ。


 ロベルトは、「クレッカーも、クレッカーの直属の手下(てした)も、その程度か」と思った。マルティスの魔術とやらにも、絶大(ぜつだい)な信頼を置いていると見える。


 魔術を消す魔術、の存在など知らない様子だ。


 そちらがそう出るのなら、もう少し()さぶってみるか。


長官殿(ちょうかんどの)にいただいた処刑者(しょけいしゃ)のリストに()ってたので、もちろん接触(せっしょく)はしようとしましたよ。本物だったと思うんですけどねえ。昨日、王都で見かけたんで。()げられちゃったんですけど。()げたってことは、本物(ほんもの)っぽくないですか? ()きてるんじゃないかなあ」

とロベルトは大嘘(おおうそ)の話を作った。


 エドワードは、ロベルトが何か(たくら)んでることは分かったので、何も言わず下を向いていた。


「……」

 クレッカー長官は(だま)った。


 それから、

「確かに、()の魔術をかけたというところまでしか聞いてないな。きちんと()んだのかは確認を取ろう」

とクレッカー長官はロベルトの言葉を肯定(こうてい)した。


 ロベルトは心の中で、「よし」と(つぶや)いた。


 これからクレッカー長官が(だれ)接触(せっしょく)するのか、見張(みは)ってやろう。そうすれば、アデル・コーエンに実際に()(くだ)した人物がわかるはずだ。


「一応、本当に死んだか確認を取られた方がよろしいかと思います。ただ、長官のおっしゃることですから、私たちの見間違(みまちが)いかもしれませんね」

とロベルトはクレッカー長官を刺激(しげき)しないようにやんわりと言った。

お読みいただきありがとうございます!


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