56. ロベルトとエドワードの新しい任務 〜俺たちがアルデバラン調査係? 俺たち本物の家系ですけど、マジですか〜
「は?」
と思わずロベルトは聞き返した。
「私たちが、ですか?」
「? 何か問題でも?」
と魔術管理本部のクレッカー長官は聞いた。
「王宮深部の儀式の調査……」
とエドワードは、笑いを堪えながら呟いた。
俺ら本物のプレアデス家とヒアデス家の者です、なんて言えない!
調査も何も、 “全部” 知ってまーす!なんて。
「なんだ、エドワード、その顔は」
クレッカー長官が不審そうな顔をする。
「あ、いえ。ちょっと。あまりに、重要そうな話でしたので」
エドワードは汗をかきながら、嘘をついて誤魔化した。
ロベルトとエドワードは、カレン・ホースの任務の報告にクレッカー長官の執務室を訪ね、そして、また新しい任務をクレッカー長官から言いつかっているのだった。
クレッカー長官の執務室は、いつも人がひっきりなしに出入りしている。魔術師の管理は全てこの部署で行われているため、様々な任務の依頼がこの部屋に舞い込んでくるのだった。
またケイマン大臣からの書簡も多かった。催促、要望、お叱り。たくさんの面倒事がケイマン大臣の使者から持ち込まれる。
今、クレッカー長官がロベルトとエドワードに頼んでいるのも、ケイマン大臣から再三催促されている、王宮深部の儀式の調査の件だった。
「引き継ぎはハンドリーに聞くといい」
とクレッカー長官は言った。
「ハンドリーは失敗して足を失ったっておっしゃいましたよね?」
とロベルトは色々思うところを隠して、無表情で言った。
「そこも含めて、聞くといい。おまえたちはハンドリーと仲が良かったと聞いている。そのハンドリーがあんな目に遭い、そしてその引き継ぎを頼むのは心苦しいが……」
とクレッカーは申し訳なさそうな顔をした。
「あ、いえいえ。ハンドリーには、今回のカレン・ホースの件で、十分あり得ないお願いをされてますので」
とエドワードは嫌味を言った。
「カレン・ホースの件はありがとう。君たちがダミアン・ホースを始末したと言うのに、その報告を彼の妻であるカレンにしてもらうのは、酷だったな」
とクレッカー長官は済まなそうな顔をした。
「ええ。なかなか」
とエドワードは言って、ロベルトに足を踏まれた。
「彼女はグレゴリー公爵夫人の元に身を寄せ、少し私の下で働いてもらうことになった」
とクレッカー長官はロベルトとエドワードに言った。カレンに義理を返すのだと言いたげな口調だった。
エドワードは一瞬ぎょっとした。カレン・ホースには極力会いたくない。
自分の夫を殺した人間が、元気にやってる姿なんて、普通の人間なら見たくないだろう。
だが、ロベルトには、そんなことどうでもよかった。
カレン・ホースの件もハンドリーの尻拭い。王宮深部の儀式の調査もハンドリーの尻拭い。
俺は、どんだけハンドリーの尻拭いさせられんの!?
「で、王宮深部の儀式の調査ってことですが、クレッカー長官とケイマン大臣は、具体的に何が知りたいんです?」
とロベルトは聞いた。
ロベルトも、全部知ってるけどな、と心の中で呟いた。
「まあ、何を祀っていて、なぜ祀らなければならないか、だ」
とクレッカー長官は答えた。
「君たちも、魔術管理本部の派遣魔術師として、私と一緒に王宮の儀式に参加するといい。ハンドリーも参加するところから始めたのだぞ」
とクレッカー長官は言った。
「え……」
エドワードは絶句した。
「絶対イヤです」
エドワードは姉のソフィア・プレアデスの、術衣を被る前の、節操のない露な格好なんか見たくないと思った。
「絶対イヤです」
ロベルトは、父ウィリアム・ヒアデス、兄のハリル、ミゲル、ヘンケルトを思い浮かべた。特に、笑いを堪える兄たちの姿を。
「俺たちは儀式には出ません!」
と二人はクレッカー長官に宣言した。
「何でだ? 例えばケイマン大臣なんか、王宮の儀式に出たくて出たくて、機嫌がたいへん悪いというのに」
とクレッカー長官は不思議そうな顔をした。
「いや〜、我々みたいな礼儀知らずなんて、国王陛下とご一緒するわけには参りませんよ」
とエドワードは適当に言った。
「礼儀知らず……。自分で威張って言うな」
とクレッカー長官は呆れた。
「君らは貴族出身なんだろう? 十分ではないか」
クレッカー長官は、ロベルトとエドワードこそ、さぞ最適な人選とばかりに頷いた。
「事情を知らねーヤツの思い付きってこえぇ〜」
とエドワードは、クレッカー長官に聞こえないように呟いた。
「私たちでなければいけない理由でも?」
とロベルトはクレッカー長官に確認した。
「そういうわけではないが、所属の魔術師を見ていると、佇まい、強さ、冷静さ。おまえたちが一番適任と思ってな」
とクレッカー長官は言った。
「よほどですね。了解しましたよ。では、私たちはでは、王宮深部の儀式の調査をいたします」
とロベルトはわざと恭しく答えた。
「そうか、やってくれるか! ハンドリーからしっかり聞くと良いのだが、やや危険な任務なのだ」
とクレッカー長官は言った。
「危険な任務、とか今更言うか? 後出しジャンケンかよ」
とエドワードはまた、クレッカー長官には聞こえないように呟いた。
「まあ、私たちなら、だいじょうぶでしょう」
とロベルトはすました顔で答えた。
「さすがだな! ハンドリーの有能な後輩!」
とクレッカー長官は、ロベルトを頼もしそうに眺めた。
「え、俺たち、そんな風に思われてたの?」
またエドワードが小さい声で呟いた。
「おまえさっきからうるさい。笑いそうになるからやめろ」
とロベルトはエドワードに小声で囁いてから、真面目な顔でクレッカー長官の方を向き、
「ご期待に添えて見せます」
と恭しく言った。
本当はご期待に添えるつもりなんて、全くないロベルトだったが。
しかし、何も知らないクレッカー長官は、満足げに頷いた。
「ただ、儀式に出るか出ないかは、自分たちで決めさせてください」
とロベルトはクレッカー長官に願った。
「よかろう。任務が成功するなら、私も手段は問わない」
とクレカ長官は許可した。
よし! エドワードは心の中で喜んだ。
「では、しばらく我々は、アデルやダミアンの仲間の捜索はしなくていいってことで、よろしいですか?」
とロベルトはクレッカー長官に確認をとった。
「ああ。アデルは病死したと連絡が入ったからな」
とクレッカー長官は、問題ないといった顔でに肯いた。
「連絡? 誰からです?」
とロベルトの目がギラリと光った。
ロベルトはアデルに監視の魔術をかけているので、彼女が生きているのが分かっている。
しかし、ロベルトはクレッカー長官の手下で、マルティスの魔術を使える者を知りたかった。
そこで、クレッカー長官を少し揺さぶってみようと思った。
「ん? 部下からだが、どうかしたか?」
クレッカー長官は怪訝そうな顔をした。
「本当に死んでますか? いつ報告を受けました? 我々はつい先日、生きているアデル・コーエンを見かけましたよ」
ロベルトはクレッカー長官の反応を見ようと、もう少し踏み込んで言ってみた。
「ははは。アデル・コーエンが生きているわけない。君らの見間違いだろう。そもそも、どこで見かけた? 君らは彼女に、何が接触を試みたのか?」
と逆にクレッカー長官が疑り深そうな目で聞いた。
ロベルトはニヤリとした。「アデルが生きているわけがない」ね。大した信頼だ。
ロベルトは、「クレッカーも、クレッカーの直属の手下も、その程度か」と思った。マルティスの魔術とやらにも、絶大な信頼を置いていると見える。
魔術を消す魔術、の存在など知らない様子だ。
そちらがそう出るのなら、もう少し揺さぶってみるか。
「長官殿にいただいた処刑者のリストに載ってたので、もちろん接触はしようとしましたよ。本物だったと思うんですけどねえ。昨日、王都で見かけたんで。逃げられちゃったんですけど。逃げたってことは、本物っぽくないですか? 生きてるんじゃないかなあ」
とロベルトは大嘘の話を作った。
エドワードは、ロベルトが何か企んでることは分かったので、何も言わず下を向いていた。
「……」
クレッカー長官は黙った。
それから、
「確かに、死の魔術をかけたというところまでしか聞いてないな。きちんと死んだのかは確認を取ろう」
とクレッカー長官はロベルトの言葉を肯定した。
ロベルトは心の中で、「よし」と呟いた。
これからクレッカー長官が誰と接触するのか、見張ってやろう。そうすれば、アデル・コーエンに実際に手を下した人物がわかるはずだ。
「一応、本当に死んだか確認を取られた方がよろしいかと思います。ただ、長官のおっしゃることですから、私たちの見間違いかもしれませんね」
とロベルトはクレッカー長官を刺激しないようにやんわりと言った。
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