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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第2部: ケイマン大臣を狙う
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54. ケイマン大臣の不満 〜ヒアデス家当主と人喰い竜の娘の間の噂〜

 ケイマン大臣は(はなは)だ不満だった。


 王宮の儀式(ぎしき)とやらに臨席(りんせき)してみたかったのに、王族と魔術師しか参加できないと拒否(きょひ)されたのだ。


 王宮の地下で行われる儀式(ぎしき)! その言葉の(ひび)きだけで、秘密の(にお)いがぷんぷんし、それを掌握(しょうあく)すれば、この国の実権(じっけん)を乗っ取るのに、また一歩近付ける気がする。


 しかも、その儀式(ぎしき)を取り行っているのは、あの伝説(でんせつ)でしか名前を聞いたことのない、いにしえの家系、プレアデス家とヒアデス家だと言うのだから!


 彼らは一体どんな特権階級(とっけんかいきゅう)の者たちなのだと、ケイマン大臣は興味津々(きょうみしんしん)に思っていた。


 しかし、無残(むざん)にもケイマン大臣の思惑(おもわく)(はず)れる。儀式(ぎしき)には非魔術師(ひまじゅつし)は参加させられないと言われたのである。


 魔術とは強大な力だ。魔術を使えば、人など簡単に傷つけたり(あや)めたりできる。魔術を使えるものと使えないものとか(あらそ)えば、一方的(いっぽうてき)に魔術を使えるものが勝つだろう。魔術はそれだけ、攻撃の殺傷能力(さっしょうのうりょく)を上げることができる。


 そもそもこの国は魔術師に対して寛大(かんだい)すぎる。プレアデス家やヒアデス家など、特権階級(とっけんかいきゅう)(ゆう)する者までいる。さらにクレッカー長官が、魔術師の働き方改革(かいかく)地位(ちい)向上(こうじょう)(はか)っている。


 魔術師め、とケイマン大臣は心の中で思った。


 仕方(しかた)がないので、ケイマン大臣は、クレッカー魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)に、王宮の儀式の内容を事細(ことこま)かに聞くことにした。


 しかし、どれだけケイマン大臣が具体的(ぐたいてき)に質問しても、クレッカー長官の答えは曖昧(あいまい)で、儀式の詳細(しょうさい)はあまり分からない。


 ケイマン大臣は、最初、クレッカー長官がわざと誤魔化(ごまか)しているのかとも思ったが、どうもそういうわけでもなさそうだった。クレッカー長官自身も、よく儀式のことを分かっていないのだった。


 クレッカー長官から聞き出せないのならば、一緒に儀式に派遣(はけん)されている魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の魔術師であれば何かわかるか、とケイマン大臣は思った。そこでケイマン大臣は、儀式に派遣(はけん)されている魔術師たちを()び出し、儀式についていろいろ質問した。しかし、その魔術師たちもまた、(みな)(そろ)って要領(ようりょう)()ない答えばかりをするのだった。


 何を(まつ)っているのか、そもそもなぜ(まつ)らなければならないのか?


 それすらわからず、クレッカー長官や魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の魔術師たちは、王宮の儀式に参加している。


 いったい、何と言う事だろうか。


 ケイマン大臣は、政務(せいむ)のことでは国王とよく話す()であるのに、王宮深部(しんぶ)の儀式の話になると、途端(とたん)に国王も抽象的(ちゅうしょうてき)なものの言い方を始め、結局(けっきょく)何も意味のあることを話さない。


 国王は、そしてプレアデス家とヒアデス家は、何を(かく)しているのだ!


 そもそも前任(ぜんにん)のグレゴリー元大臣が、プレアデス家やヒアデス家と懇意(こんい)にしていたというのも、またケイマン大臣にとっては不愉快(ふゆかい)(たね)だった。


 まるで自分がプレアデス家やヒアデス家に(みと)められていないような気がするからである。


 ケイマン大臣は思った。


 グレゴリー元大臣はもう()んだのだ。この国の大臣は私だ。「私を大臣にしろ、グレゴリー大臣が邪魔(じゃま)だ」と言ったら、クレッカーは、グレゴリー大臣をきちんと始末(しまつ)してくれた。


 そして今、全ての魔術師はクレッカー長官(ひき)いる魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)一律(いちりつ)所属(しょぞく)することとなった。


 私は、クレッカーを(かい)して、魔術師さえも掌握(しょうあく)したのだ!


 私の命令(めいれい)なくしてプレアデス家やヒアデス家もない。命令(めいれい)が聞けぬのなら、(たと)え、いにしえの家系(かけい)だとしても、プレアデス家もヒアデス家も大きな顔はさせない。その、はず、なのに。


 しかし、クレッカーも所詮(しょせん)魔術師。プレアデス家やヒアデス家のことを(うやま)い、魔術師で行う王宮の儀式のことも神聖視(しんせいし)しているようだ。


 何だ、王宮深部(しんぶ)には何があるのだ!? プレアデス家やヒアデス家とは何なのだ!? 


 私は大臣だ、知る権利(けんり)がある! しかも私はきちんと、王族の遠縁(とおえん)()たる由緒(ゆいしょ)正しい家柄(いえがら)の者なのだ! 


 大臣なのだ! 私は、大臣、なのだ!


 ケイマン大臣は王宮の深部(しんぶ)の事が知りたくて仕方(しかた)がなかった。自分だけが知らないというのが(いや)だった。


 ケイマン大臣は、そこで王宮の深部(しんぶ)(さぐ)るために、人材(じんざい)を集めることにした。


 ()ずは魔術師である。


 しかし魔術師はすべてが魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)が管理しているため、ケイマン大臣には手を出すことができない。


 そこでケイマン大臣は、クレッカー長官に王宮深部(しんぶ)の儀式の詳細(しょうさい)について調べるよう、命令(めいれい)を出した。クレッカー長官は、最近自身(じしん)も気になっていたことだったので、了承(りょうしょう)した。


 実際(じっさい)クレッカー長官は、すでにハンドリーなどの手下(てした)の魔術師を(もち)い、王宮深部(しんぶ)へと潜入(せんにゅう)させていた。しかし、残念ながら、プレアデス家やヒアデス家の妨害(ぼうがい)がひどく、クレッカー長官の潜入捜査(せんにゅうそうさ)は少しも成功しているとは言えなかった。


 そこで、ケイマン大臣は、クレッカー長官には内密(ないみつ)に、モグリの魔術師を集めることにした。その者たちを使って、儀式の裏側(うらがわ)を探ろうと思った。


 (さいわ)い、モグリの魔術師は、お金で動くものが多い。ケイマン大臣は、そこそこの数のモグリの魔術師を集めることができた。


 ケイマン大臣は、彼らを王宮内の隅々(すみずみ)(はな)った。


 次に、ケイマン大臣は、安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)警備兵(けいびへい)要請(ようせい)した。表向(おもてむ)きには、王宮深部(しんぶ)の儀式を守るためという名目(めいもく)で、である。しかし、実際には、見廻(みまわ)りという形で王宮深部(しんぶ)のあちらこちらを観察(かんさつ)させようと思っていた。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)のハーマン長官は、今までにない「王宮の儀式(ぎしき)を守る」という新しい任務(にんむ)項目(こうもく)戸惑(とまど)いながら、一応(いちおう)警備兵を派遣(はけん)してくれた。


 ケイマン大臣は(なみだ)ぐましい努力をしながら、王宮深部(しんぶ)について調査を開始したのだった。


 また同時に、ケイマン大臣に敬意(けいい)(ひょう)さないプレアデス家やヒアデス家についても、何か(よわ)みはないかと、噂話(うわさばなし)をあちらこちらで聞き回っていた。


 ケイマン大臣の(もと)には、一人の早耳(はやみみ)の男がいた。


 お金を()めば何でも調べてくる男で、ケイマン大臣にとても重宝(ちょうほう)されていた。


 その男がケイマン大臣の(もと)に、一つ奇妙(きみょう)な話を持ってきた。


 それは真夜中(まよなか)のことだった。人の寝静(ねしず)まったケイマン大臣の屋敷(やしき)の中、ケイマン大臣の寝室(しんしつ)に、その男は(しの)び込むように入ってきた。


「ケイマン大臣、ヒアデス家について、一つ面白(おもしろ)い話を聞きましたよ」

と男は言った。


「ほう、なんだ言ってみろ」

 ()ちに()っていたケイマン大臣は、()を乗り出して聞いた。


「ちゃんとお金のほうは(はず)んでもらえるんでしょうかね」

と男は確認した。


内容次第(ないようしだい)だが、おまえとは(ふる)い付き合いだ。がっかりはさせない」

とケイマン大臣も答えた。


「それでしたら」

 早耳(はやみみ)の男は、そっとケイマン大臣の(そば)()った。

「どうも、ヒアデス家の当主(とうしゅ)、ウィリアム・ヒアデスは、一時、(りゅう)の娘を(つま)にしていたことがあるそうです」


 ケイマン大臣は突然(とつぜん)な内容でよく分からなかった。

(りゅう)の娘? あの人喰(ひとく)(りゅう)の? (つま)に? そもそも人間では無いではないか。どういうことだ?」


「ええ。だから詳細(しょうさい)は分からないのです。ただ一時期(いちじき)(りゅう)の娘が人間のふりをして、ヒアデス家の当主(とうしゅ)(つま)になっていたという事だけ、ヒアデス家の古い使用人が言っていたんです」

と男は言った。


「その(りゅう)の娘は今はどうなっているのだ」

とケイマン大臣は聞いた。


「全く(わか)りません。そのへんの事は(だあれ)も知らないのです。娘はある時、ふっとヒアデス家の屋敷(やしき)から消えたそうですから」

と男は答えた。


「それは事実なのか?」

とケイマン大臣は聞いた。


 人喰(ひとく)(りゅう)とヒアデス家が(つな)がっている? 本当なら大問題ではないか。


「いいえ、ただの使用人の噂話(うわさばなし)です。ゴシップですよ。だからこれでウィリアム・ヒアデスをどうにかしようなんて事はできませんがね」

と男は言った。


 ケイマン大臣は考え込んだ。


「だがこれが、ウィリアム・ヒアデスが(みずか)(かく)していることなのだとしたら、(ヤツ)のとんでもない(よわ)みを(にぎ)ることになるのではないか? 人喰(ひとく)(りゅう)の娘だぞ? その(りゅう)の娘について、何でもいいからとにかくいろいろ情報を調べてこい」

とケイマン大臣はその男に命令(めいれい)した。


 男はニヤリと笑った。

(りゅう)ですからね。高くつきますよ。お金の方はきちんとお約束してもらえますか」


「俺がおまえの情報に、値切(ねぎ)ったことがあるか?」

とケイマン大臣嫌味(いやみ)ったらしく言った。


 その男は

「そういえばないですね、旦那(だんな)。あんたはいい客だ」

と笑って言った。

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