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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第2部: ケイマン大臣を狙う
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53. ケイマン大臣を狙う 〜娼婦の真似事をしてでも〜

 アデルは体調(たいちょう)(もど)ると、シャールとリーナに深く(れい)を言い、村を出た。


 シャールは(りゅう)(けん)でアデルのことをよほど怒っていたが、一応(いちおう)見送りだけはしてくれた。それから、リーナに言われてか、アデルに一頭の馬も用意してくれた。


 アデルはまた深く深く(れい)を言った。


 アデルはずっと考えていた。


 カレンはもう(すで)にダミアンのことを知っていた。そして、仲間の皆で探し求めていた、魔術を消す魔術を使える魔術師ロベルトは、アデルたちには協力しないといった。


 アデルには()たすべきことが、もうなかった。


 我々(われわれ)の計画は変更(へんこう)しなければならない。


 アデルは、色々考えた(すえ)、仲間であるゼノン・マクレガーのいる場所へ向かった。


 ゼノンはアデルと比較的(ひかくてき)(とし)が近く、気軽(きがる)に話せることから、日ごろからよくアデルのまとまりのない相談(そうだん)に、のってもらっていた。


 ゼノンは馬で二、三日のところの村に(かく)()んでいた。ゼノンは(きたな)宿屋(やどや)地下室(ちかしつ)()りているようで、暗くてカビ(くさ)く、自分たちの立場の(みじ)めさに、アデルは(くや)しくてたまらなくなった。


 ゼノンは、アデルの顔を見ると、ほっとしたような(おどろ)いたような顔をした。

「アデル()きていたのか、よかった! ()んだと伝言(でんごん)を飛ばしたのは?」


「私だ。マルティスの魔術をかけられて、な。その(あと)いろいろあって、結局(けっきょく)()きている」

とアデルは言った。


「話が長くなりそうだな。まぁそこに(すわ)れ。(ちゃ)くらい出せる」

 ゼノンはアデルに、()もたれのないシミだらけの(きたな)椅子(いす)(すす)めた。


「ありがとう」

 アデルはそのガタガタ鳴る椅子(いす)(こし)かけた。


「マルティスの魔術と言ったな? (だれ)が使った? まさかクレッカーって事はあるまい?」

とゼノンは聞いた。


「ああ、(ちが)う者だ。もはやクレッカーの手下(てした)たちが使っているようだ。だが、クレッカーの手下(てした)の中にも、マルティスの魔術を知らぬ者もいた。それはどういうことだろうな」

 アデルはロベルトとエドワードの顔を思い浮かべながら言った。


「さあな。クレッカーの手下(てした)どもなんか、俺には全くわからんよ。で、おまえはどうして、マルティスの魔術をかけられながらも、()きているのだ?」

 ゼノンは聞いた。


「魔術を消す魔術を使える者にたまたま会った」

とアデルは答えた。ゼノンは(いき)()んだ。


 アデルは一先(ひとま)ず、ロベルトとエドワードの事は極力(きょくりょく)話さずにおこうと思った。エドワードが()(ぎわ)に言った、ウィン-ウィンという言葉を信じていた。


「魔術を消す魔術か。俺たちの求めるものじゃないか! 存在(そんざい)したのか」

 ゼノンはやっと(つぶや)いた。


「本当に存在(そんざい)したね。私も(おどろ)いた」

とアデルも言った。


「アデル、命拾(いのちびろ)いしたな、良かった」

 ゼノンは心から言った。


「ああ」

 アデルは仲間の(あたた)かさに感謝(かんしゃ)しながら(うなず)いた。


「そして、魔術を消す魔術を使える者とは、我々(われわれ)の探していた者だ。で、その者は我々(われわれ)に協力すると?」

 ゼノンは重要(じゅうよう)なことを聞いた。


「いや、しない」

 アデルは(もう)(わけ)なさそうに答えた。


「なぜだ?」

 ゼノンは目を()いた。


「さあな」

 アデルは(かた)をすくめて見せた。

「だがそいつの()わんとすることは分かる。私たちは相当(そうとう)考えが(あま)かったようだ」


「どういうことだ?」

とゼノンは聞いた。


「当初我々(われわれ)はクレッカーが、次の政敵(せいてき)(ころ)すのを見計(みはか)らい、マルティスの魔術を 魔術を消す魔術で見破(みやぶ)ればと思っていただろう。だが、まず次があるかも分からない(うえ)、もはや、クレッカーは自分で()(くだ)さない」

とアデルはロベルトの言葉を代弁(だいべん)してゼノンに聞かせた。


 ゼノンもピンときたようだった。

「マルティスの魔術を使う者が、クレッカーでないのなら、厄介(やっかい)だ。クレッカーの手下(てした)が手を下し、失敗してもトカゲの尻尾切(しっぽき)りだ」


 アデルは(うなず)いた。

「クレッカーを断罪(だんざい)するのに、魔術を消す魔術があったところで、無理だということだ。グレゴリー元大臣の(けん)証拠(しょうこ)()べるものがない。我々(われわれ)は考え直さなければならない」


「そういうことか」

とゼノンも同意した。


「というと、我々(われわれ)にはグレゴリー元大臣が殺害(さつがい)された(けん)(あば)けず、(いのち)(ねら)われたままなのか?」

 ゼノンはがっくりと(かた)を落とした。


「いや、だがおそらく同じ目的(もくてき)の者はいる」

 アデルはあの時のロベルトとエドワードの雰囲気(ふんいき)を思い出しながら言った。


「ん? どういうことだ?」

とゼノンは希望を見出(みいだ)しながら聞いた。


(くわ)しくは言えないがな。希望がなくはない、と思う」

とアデルは答えた。


「それで、ゼノン、おまえに相談に来たんだ。我々(われわれ)には何ができる? もう、仲間が()ぬのは(いや)なんだ」

とアデルは(すが)り付くような目でゼノンに言った。


「クレッカーをとにかく(ころ)してしまえば、全て()むのか?」

 アデルは覚悟(かくご)の目でゼノンを見た。


 ああ、アデルのこの目だ、ダミアンが(あい)したのは。ゼノンは心の中で思った。


 ゼノンは首を横に()った。

「ヤケになるな、アデル。俺だって、クレッカーは()っちまえと思ってるが、ヤケになれば()破滅(はめつ)させるだけだ」


「そうだな、すまない、ゼノン……」

 アデルは頭を()れた。


「クレッカーは用心深(ようじんぶか)い男だ。だが、ケイマン大臣はどうだ?」

とゼノンは切り出した。


 アデルの顔がパッと明るくなった。

「そうか! (だれ)か、ケイマン大臣の方を(さぐ)っているものはいるか? ケイマン大臣とクレッカーが密約(みつやく)したのは間違(まちが)いないのだ」


 ゼノンは(うなず)いた。

「ケイマン大臣の方からクレッカーに、グレゴリー元大臣を(ころ)す話を持ちかけている証拠(しょうこ)でもあれば良いのだが」


 アデルの目に強い光が宿(やど)った。

「ゼノン、おまえ、文字検索系(もじけんさくけい)の魔術、得意(とくい)だったな? ゼノンはケイマン大臣の屋敷(やしき)に入り込め。ケイマン大臣の屋敷(やしき)中の文書(ぶんしょ)から、グレゴリー元大臣の名前を探し出すんだ! 掃除夫(そうじふ)でも肩書(かたが)きは何でも、とりあえず屋敷(やしき)に入り込めさえすれば、おまえの力なら何とでもなるだろう」


 ゼノンは少し興奮気味(こうふんぎみ)のアデルを(おさ)えながら、

「まあ、やりはするが、さすがのケイマン大臣も文書(ぶんしょ)に残すほどバカではあるまい。あまり期待(きたい)するなよ」

と言った。


 アデルは頷いた。

 それから、

「ケイマン大臣って女好(おんなず)きで有名だったな? ベッドの中で寝物語(ねものがたり)にぽろっと話す事はあるんじゃないか?」

と言い出した。


「は?」

 ゼノンはアデルが突飛(とっぴ)なことを言い出したので、思わず聞き返した。


 アデルはニヤリと笑った。

「私も娼婦(しょうふ)真似事(まねごと)でも何でもして、とりあえずケイマン大臣からグレゴリー元大臣の名前を引きずり出してみせる」


 ゼノンは(あわ)てた。

「アデル娼婦(しょうふ)など!」


 アデルは()に返さなかった。

「なに、私もこう見えて一応(いちおう)女だから、何とかしてみせるさ」


 ゼノンは真面目(まじめ)な顔でアデルの目を見て、(さと)すように言った。

「アデル、そういうことじゃない。ダミアンが(いや)がるだろう」


 アデルはゼノンを見つめ返した。

「ダミアンはもういない」


 ゼノンはゆっくりとアデルに言った。

「そういうことじゃないんだよ、アデル。自分の()(かか)わったケイマン大臣とお前がそういうことになるのは、ダミアンは絶対(ぜったい)(のぞ)まない」


 アデルは何故(なぜ)だかひどく腹立(はらだ)たしさを感じた。

「ダミアン、ダミアン、って。ダミアンにはカレンと言う(つま)がいるだろう」


「でもダミアンがおまえを()いていたことくらい、部署(ぶしょ)の者は(みな)知っていた」

 ゼノンは根気(こんき)よくアデルに言い聞かせなければならなかった。


 アデルは止まった。

「そうだったのか?」


「ああ。知らなかったのは、おまえくらいだ」

 ゼノンはふうっと(いき)()いた。


「じゃぁ、ダミアンはなぜカレンと結婚したのだ」

とアデルは(つぶや)いた。


「それはおまえがカレンに、結婚したら良い、と言ったんじゃないか。かわいそうなのはダミアンだ」

 ゼノンはため息をついた。


「そうなのか? それは……」

 アデルは絶句(ぜっく)した。


「カレンもかわいそうだ」

とゼノンは言った。

「おまえのせいだ、アデル」


 アデルは虚な目をゼノンに向けた。

「そうか私のせいだったのか。ならばやはり私がやらなければならないな。何だってする。ケイマン大臣からグレゴリー元大臣の名前を私が必ず引きずり出す」


「アデル!」

 ゼノンは声を上げた。だが、その声はアデルの心には届かなかった。


 それからアデルは、突然(とつぜん)

我々(われわれ)は弱すぎる」

と言った。

「クラウスもダミアンも殺された。実戦(じっせん)()んだ魔術師は本当に強い。私も少し実戦(じっせん)向きの魔術を学ぶ」


「アデル、おまえ、急に何を言い出すんだ? さっきの俺の話は、ちゃんとわかったのか?」

とゼノンは聞いた。


 アデルは何も答えなかった。


「アデル!」

 ゼノンの呼びかけに、もうアデルは反応しなかった。

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