表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第1部: 王宮深部の儀式
52/73

52. ウィリアム・ヒアデス卿とソフィア・プレアデス嬢〜アルデバランの首〜

「ソフィア、(ひん)のない格好(かっこう)するな」

 王宮の最深部(さいしんぶ)儀式(ぎしき)()で、ソフィア・プレアデス(じょう)が、あまりに胸元(むなもと)の開いた、ボディラインを強調(きょうちょう)した服を着ていたので、厳格(げんかく)なウィリアム・ヒアデス(きょう)は、(まゆ)(ひそ)めながら(たしな)めた。


「あら、ウィリアム・ヒアデスおじ様。相変(あいか)わらず信仰心(しんこうしん)のお(あつ)格好(かっこう)ね」

 ソフィアは少しも反省(はんせい)の色は見せず、むしろすでに術衣(じゅつい)()ているウィリアム・ヒアデス(きょう)を 揶揄(やゆ)するように言った。


「これから劫掠(きょうりゃく)儀式(ぎしき)だろうが」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)はぎらぎらした目で言った。


 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は、(いか)つく笑わず、(つめ)たい目をした堂々(どうどう)たる大男(おおおとこ)だった。普通の人なら、その家名(かめい)もさることながら、見た目だけで恐怖心(きょうふしん)(おぼ)えるところだろう。


 しかしソフィア・プレアデス(じょう)ともなると、物心(ものごころ)ついた(ころ)からウィリアム・ヒアデス(きょう)とはよく顔を合わせ、王宮深部の儀式(ぎしき)で毎回一緒(いっしょ)になるものだから、すっかり(なつ)いていて、軽口(かるくち)(たた)くほどにまでなっていた。


 (ぎゃく)に、ウィリアム・ヒアデス(きょう)の3人の息子、ハリル、ミゲル、ヘンケルトの方が、父の前では萎縮(いしゅく)しているように見える。


「おじさまのその格好(かっこう)を見ると安心(あんしん)するわね。今日もきっと平和な日に違いないんだわ」

 ソフィアはため息を()きながら言った。


(くち)(つつし)め。おまえのその格好(かっこう)は目にあまる」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)怒鳴(どな)るような大きな声で言った。


「どうせ儀式(ぎしき)の時は、真っ黒(まっくろ)術衣(じゅつい)をすっぽり(かぶ)るんだから、私がその下にどんな格好(かっこう)してようとどうでもいいでしょ」


「そういう問題ではない。プレアデス()の娘ともあろう者が、胸元(むなもと)()いた服を着るな」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)(しか)った。


「うるさいおじ様ね。さっさと術衣(じゅつい)()てくるわよ」

 ソフィアはうんざりしたように言った。


「プレアデスの()()くぞ」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)苛立(いらだ)ちながら言った。


「プレアデスの()? どうでもいいわ! 勘当(かんどう)してくれたって(かま)わない。私じゃない(だれ)かになって、そこらへんの男と恋をして、普通に生きていけたら本当最高(さいこう)でしょうね」

 ソフィアは()()きとした声で言った。


()()てならんな。おまえには責務(せきむ)()たす義務(ぎむ)がある」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)はぎろっとソフィアを(にら)んだ。


 それから、

「あと、弟もなんとかしろ」

とウィリアム・ヒアデス(きょう)はソフィアに(するど)口調(くちょう)で言いつけた。


「エドワードのこと? 何の話よ?」

 ソフィアが怪訝(けげん)そうに聞く。


「アルデバランの(くび)消滅(しょうめつ)させろと言ってきた」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)(あき)れ声で言った。


「あー、あいつがつい最近ウィリアムおじ様と話してたってそのことなのね? あいつ、こんな儀式(ぎしき)する気さらさらないのよね。私にもうるさいわ、アルデバランの(くび)はいい加減(かげん)なんとかならないのかってね」

 ソフィアの目もぎらりと光った。ウィリアム・ヒアデス(きょう)がどんな反応(はんのう)をするのか、興味(きょうみ)ある目だった。


 しかし、ウィリアム・ヒアデス(きょう)はごく普通の反応(はんのう)(しめ)しただけだった。

「アルデバランが地に()ちた時、おまえたちプレアデス()先祖(せんぞ)と、()がヒアデス()先祖(せんぞ)がアルデバランを()った。(どう)(あたま)()(わか)れにさせ、(どう)消滅(しょうめつ)させることができた。しかし、アルデバランの(くび)は強い魔力を(はな)ち、我々(われわれ)祖先(そせん)たちでは消滅(しょうめつ)させられなかった。おまえも知っているだろう」


「それは知ってるわ。(ヤツ)の魔力は強大(きょうだい)すぎて、ちょっとこの王国の支配には邪魔(じゃま)だったのよね」

 ソフィアは言った。


「そして、我々(われわれ)が、今もそのアルデバランの(くび)を私たちが秘密裏(ひみつり)(まも)っているのではないか。ヤツが復活(ふっかつ)しないように。そして悪用(あくよう)されないように」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は、苛々(いらいら)しながら言った。


悪用(あくよう)されないように? とっくに悪用(あくよう)されているわよ、私に言わせれば。ウィリアムおじ様」

 ソフィアは(いど)むように言った。


「それは私たち魔術師が利用していることを言っているのか?」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は低い声で聞いた。


「それ以外にある?」

 ソフィアはうんざりした口調(くちょう)(くず)さない。


「だが必要(ひつよう)なことではないか。アルデバランの(くび)は、やろうと思えば、消滅(しょうめう)させられるかもしれん。だがアルデバランの(くび)とともにすべての魔力を我々(われわれ)が失った時、どう(りゅう)などの大型魔獣(おおがたまじゅう)対処(たいしょ)する? 大型魔獣(おおがたまじゅう)だけではない。沢山(たくさん)未知(みち)事項(じこう)に、我々(われわれ)は魔術で対処(たいしょ)してきたのだ」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は、ソフィアに強い口調(くちょう)で返した。


(りゅう)とかそのへんのものなんて生易(なまやさ)しいじゃない。私はもっと(いや)なことを言ってるのよ! (だれ)悪意(あくい)ある(もの)にアルデバランの(くび)(うば)われてごらんなさいよ。あの魔力を使えば、今でも国一(くにひと)つ、余裕(よゆう)()()ぶわよ。そんな悪人(あくにん)の手に(わた)るリスクを考えたら、私だってアルデバランの(くび)消滅(しょうめつ)賛成(さんせい)よ」

とソフィアはウィリアム・ヒアデス(きょう)の目を見て言い切った。


「おまえたち姉弟(きょうだい)は……」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)はげんなりした。

「だからずっとアルデバランの(くび)(けん)は、王家(おうけ)とプレアデス()とヒアデス()の秘密にしてきたではないか」


「でも最近、クレッカーとかいうハエが鬱陶(うっとう)しいじゃない」

 ソフィアは(うで)を組んでウィリアム・ヒアデス(きょう)を じとっと見た。


「まあ、おまえの言っていることも一理(いちり)ある。アルデバランは(くび)だけでも国を(ほろ)ぼせる。クレッカー自体(じたい)は魔術師は管理(かんり)したくても、国の転覆(てんぷく)までは考えないだろう。だが、問題はケイマン大臣だな」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)はソフィアの言うことに一部同意(どうい)して言った。


「そうね。ケイマン大臣、国王の遠縁(とおえん)血筋(ちすじ)だっけ? あいつは国王になれると聞けば国王になりたがる男よ」

 ソフィアは不謹慎(ふきんしん)にも少し面白(おもしろ)そうな顔をした。

「ははは。魔術師でもないのに、アルデバランの(くび)見て、その価値(かち)一瞬(いっしゅん)で見抜けるとは思えないけどね」


 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は気難しい顔をした。


「でも、ケイマン大臣じゃないにしろ、悪意(あくい)ある人間の手に(わた)った時のリスクは高いわよ。そもそも私はアルデバランの(くび)なんて、なくていいと思ってるもの。私はウィリアムおじ様が何と言おうと、消滅(しょうめつ)させたいと思っているわ」

 ソフィアは言った。


「ふん。だがおまえ一人では無理だろう」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は馬鹿にするように言った。


「そこよね。エドワードがいても、消滅(しょうめつ)となるとまだ(きび)しいわね。でも、そのうち、ウィリアムおじ様も、私に協力(きょうりょく)する時がくるわ」

 ソフィアはある確信(かくしん)を持って、ニヤッと笑った。


「でも、ウィリアムおじ様が、とりあえず現状維持(げんじょういじ)(のぞ)むなら、クレッカーやケイマン大臣を、何とかしてよ。おじ様、本当は、いくらでもクレッカーやケイマンを断罪(だんざい)できるでしょう?」

とソフィアは提案(ていあん)した。


「何の話だ?」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)はとぼけた。


「グレゴリー元大臣と懇意(こんい)にしてたもの。最期(さいご)見舞(みま)ったんでしょう? グレゴリー元大臣は、魔術で殺されたんですってね。エドワードに聞いたわ。そんなの、ウィリアムおじ様が直接(ちょくせつ)見て、気づかないはずないでしょう?」

 ソフィアは少し真面目(まじめ)な顔に(もど)って言った。


「……」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は答えなかった。


「おじ様が何も答えないってことは、そう言うことね。ウィリアムおじ様のことだもの、どうせ、()かりはないんでしょう? (だれ)がグレゴリー大臣に(なに)したか、いくらでも証拠(しょうこ)(つか)めたはず」

 ソフィアは説得(せっとく)しようとしていた。


「……」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)はまだ(だま)っている。


(くだ)らない魔術師たちが、クレッカーを断罪(だんざい)したくて、しょうもないことをやろうとしてるんですって。あなたの可愛(かわい)いロベルトも巻き込まれてるそうよ」

 ソフィアはなんとかウィリアム・ヒアデス(きょう)をその気にさせたかった。


「ソフィアいくら貴様(きさま)でも、ロベルトの名を軽々(かるがる)しく出す事は(ゆる)さんぞ」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は相手をゾッとさせるような冷酷(れいこく)な顔で言った。


「それは、失礼しました……」

 ソフィアは言いすぎた、と思った。これ以上は無理だ。


「さて、しゃべりすぎだ、ソフィア。いいかげん、アルデバランの(くび)の魔力を (ヤツ)から()()がす劫掠(きょうりゃく)儀式(ぎしき)をするぞ。(ヤツ)が力を取り戻さないように」

 ウィリアム・ヒアデス(きょう)は何事もなかったかのように、淡々(たんたん)と言った。



お読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思ってよろしければ、

ブックマークや、↓ご評価☆☆☆☆☆↓の方も、

どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ