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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第1部: 王宮深部の儀式
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51. エドワードの本音 〜プレアデス家とヒアデス家の守るもの〜

「おい、ハンドリーの足、おまえの兄さんがやったってどういうことだ」


 ロベルトがはっと()り向くと、部屋の(とびら)のところで、エドワードが(うで)を組んで立っていた。


「おまえ! 聞いていたのか」

 ロベルトはエドワードを(にら)んだ。


「聞こえたんだよ」

とエドワードも言い返す。


(ぬす)()くなよ。すぐ部屋出たらよかったろ」

とロベルトはうつろな目で抗議(こうぎ)した。


「耳に(のこ)る内容だったからな。あれ聞くなって方が(むずか)しい」

 エドワードも開き直ってロベルトを見下ろした。


「で? ハンドリーは何をしてあんな目にあったんだ?」

 エドワードは先日ハンドリーを見舞(みま)った時の様子を思い浮かべながら聞いた。ハンドリーは膝上部分(ひざうえぶぶん)から(した)(あし)(うしな)っていた。


「聞いてたんだろう? 王宮の地下(ちか)(もぐ)()んだんだ。兄さんたちも、(だま)ってる(わけ)にはいかねーよ」

 ロベルトは兄を(かば)うような言い方をした。


「地下ねえ。()()がらみか」

とエドワードは(つぶや)いた。


「そうだ」

とロベルトが素っ気(そっけ)なく言った。


 エドワードは(さっ)した。

「ハンドリーが行かされてるってことは、クレッカー長官は何か気付いてるってことか?」


「そうだよ」

とロベルトは面倒臭(めんどくさ)そうに答えた。


「ち、厄介(やっかい)なヤツ。()(ほど)わきまえろってんだ」

 エドワードは声を(あら)げた。


 エドワードは、また、病室のハンドリーを思い浮かべ、ため息をついた。


 ハンドリーのことをひどく気の毒(きのどく)に思い、(むね)(いた)めていたが、王宮の地下に(もぐ)()んだと聞いては、自業自得(じごうじとく)だという感情が()き上がった。


 王宮の地下は、手を出してはいけないところなのだ。王家の者と、プレアデス家とヒアデス家、以外(いがい)は。


 エドワードはロベルトの(おさな)なじみなので、ロベルトがヒアデス()出自(しゅつじ)であることや、ヒアデス家が何者か、ロベルトがヒアデス家を出たいきさつなどを知っていた。


 ロベルトも、エドワードがプレアデス家の長男だということを知っていた。


 (たが)いに背負(せお)うものが大きい……。


 エドワードは

「ハンドリーも相手(あいて)が悪かったなー。本気(ほんき)のヒアデス家が出てきちゃ、勝ち目(かちめ)ねーわ」

(つぶや)いた。


 それから、エドワードは気分(きぶん)を変えるようにロベルトに聞いた。

「ところで兄上どのは息災(そくさい)か?」


「ああ、元気にクレッカーの悪口(わるくち)を言ってたよ」

とロベルトは答えた。


「どの兄?」

とエドワードが聞く。


「俺がさっきた(しゃべ)ってたのはヘンケルトさ。でもハリルもミゲルも、すっげー文句(もんく)言ってるってさ」


「はは。すげープレッシャーかけられてんな、おまえ。気の毒(きのどく)に。しかし、(なつ)かしい名前を聞くと(うれ)しいもんだな。今度(ひさ)しぶりに訪ねるかな、おまえの兄さんたち……」

 エドワードは楽しみにするような声を出した。


 ロベルトは(あわ)てて止めた。

「やめな。最近、クレッカー長官が王宮の儀式(ぎしき)に出入りしてるらしいからな。顔が()れるぞ。お互い、プレアデスとヒアデスの名前は(かく)してた方が便利(べんり)だろ」


「そーだな。つーか、クレッカー長官、儀式(ぎしき)出てんの? まじ? そりゃーちょっと迷惑(めいわく)だな」

 エドワードは顔を(しか)めた。


「ところで、おまえは義理(ぎり)の両親とは、たまにでも会ってんのか?」

 エドワードがロベルトに聞いた。


「まあ、たまにね。心配してくれてるから」

 ロベルトは微笑(ほほえ)んだ。


「そっか。いい親御(おやご)さんだもんな」

とエドワードも(うなず)いた。


「エドワードは実家には帰ったりしてんのか?」

 今度はロベルトが聞いた。


「いや、最近は全然。うちは出来のいい姉がいるんで。俺はふらふらしてだいじょうぶなんで」

とエドワードは答えた。


「そーでもないと思うけど?」

 ロベルトは、エドワードがプレアデスの家中(いえじゅう)から期待(きたい)されていることを知っていた。


「そうか? まあ、姉とはたまに(しゃべ)ってるよ」

 エドワードはそれだけ言うと、もう以上は何も言わなかった。


 それからしばらくエドワードは(だま)って考えていたが、ふいに口を開いた。


「なあ、おまえら、いつまで()()と、あんな儀式(ぎしき)とやらをやってくんだ?」

とエドワードがぼそっと(つぶや)いた。


 ロベルトははっとして顔を上げた。


「なんか、状況(じょうきょう)が変わらないもんかね?」

とエドワードが首を(かし)げる。


「くっだらねえと思わねーか?」

とエドワードがさらに(たた)()けるように言った。


「まあ、うちのら兄貴(あにき)も同じようなことは言ってはいるがな……」

とロベルトはやんわりと答えた。


 エドワードはロベルトをじっと見た。

「あんなもの、消滅(しょうめつ)させちまえよ」


「それができないから(こま)ってんだろ」

とロベルトは言った。


 エドワードはロベルトの言葉にイライラした。

(うそ)だね。何でできねー? ウィリアムおじさんに、ハリル、ミゲル、ヘンケルト、それに何よりおまえ。十分(じゅうぶん)じゃねーか!」


 エドワードの言葉にロベルトも言い返した。

「プレアデス家は?」


()()()()()()くしちまえって思ってるよ!」

とエドワードは言った。


「っておまえ……。無責任過(むせきにんす)ぎるだろ!」

とロベルトは怒鳴(どな)った。


 それから、ロベルトはさらにエドワードを()()めるように言った。

「じゃあ国王は? あの力で国を(おさ)めてるようなもんだぜ?」


()()(たよ)って(おさ)めてる国なんて(ほろ)びちまえよ」

とエドワードは悪びれずに言った。


「おい、おまえ。それ本心か? 不敬(ふけい)だぞ!」

 ロベルトは低い声で言った。


不敬(ふけい)なんかじゃねーよ。国王のやり方が合ってりゃ、あんなもんなくたって国は立派に(おさま)るさ」

とエドワードはさらりと言った。


「じゃあ、俺たちの(ちから)は? 魔力の(みなもと)()()だぞ?」

とロベルトは聞く。


「ああ。魔術師なんていらないと、俺は思ってるよ」

 エドワードの言葉にロベルトは愕然(がくぜん)とした。


「じゃあ、(りゅう)は? ああいう、人間には立ち向かえない生き物にどう対処(たいしょ)する?」

とロベルトは(いか)りを()(ころ)しながら聞いた。


「シャールとリーナが、なんとかするだろ。(どく)か何かでコントロールできりゃそれが一番いいんだ。そもそも、今そっち方面、魔術師派遣(はけん)されてねーし」

とエドワードはうんざりして言った。


「おまえがらそんな風に考えてるとは知らなかったよ」

とロベルトは言った。


 エドワードはふんと(はな)を鳴らした。

「俺は異端児(いたんじ)だからなー。じゃー聞くが、おまえはどーしたいんだ? ずっと、こんな、(わけ)のわからんことやり続けていくのかよ?」


「国の安定のためならな」

とロベルトは使命感(しめいかん)で答えた。


「国の安定か。そもそも、どーしてこの国がこんなことなってんのか俺にはよく分からんよ。おまえはウィリアムおじさんに何か聞いてたりすんのか?」

 エドワードはロベルトを見つめた。


「いや、聞いてないな」

とロベルトは首を()った。


「昔すぎて誰も(おぼ)えちゃいねーんだろ? 俺はさー、()()から(だっ)して、もっとシンプルにならねーのかなって思ってるわけよ」

とエドワードは言った。


「じゃ。おまえん中で、クレッカーを何とかすんのはどーゆー理屈(りくつ)だよ」

とロベルトは聞いた。


 エドワードは笑った。

「そりゃ簡単さ。おまえに手を()してんのだって、何か状況(じょうきょう)を変えるためさ。クレッカーはやらかしそうだからなー。すでに大臣(ころ)してるみたいだし。今のケイマン大臣も好奇心(こうきしん)いっぱいそうだ。()()もすぐ食いつくぞ!」


「おまえ、どこまで、本気だ?」

 エドワードの言葉に、ロベルトは確かめるように聞いた。


「全部本気さ」

と、エドワードは答えた。


「そんなこと考えてるとは思わなかった」

 ロベルトは小さい声で言った。


「そうか? 俺はおまえの出自(しゅつじ)を聞いて、何か変わる気がしたんだ。俺はおまえに()けてる。おまえが俺を拒否(きょひ)しようともな」

 エドワードはロベルトを見つめた。


「俺より、おまえの方がよっぽど……」

とロベルトが言いかけると、エドワードが(かぶ)せるように、

「バカ言うな。ロベルト」

と言った。


 ロベルトは(だま)った。


 エドワードはニヤッと笑った。

「俺は目的を()たすために、おまえを絶対に(はな)さないからな」



お読みいただきありがとうございます!


もし少しでも面白いと思ってくださいましたら、今後の励みになりますので、


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