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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
[第2章 : アルデバランの首] 第1部: 王宮深部の儀式
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50. ロベルトと兄ヘンケルト 〜王宮の深部を探るクレッカーの罪、と〜

「おい、ロベルト。あのバカ、マジで来たんだけど」


 ロベルトと、ロベルトの兄ヘンケルトとの定期連絡で、開口一番、ヘンケルトがうんざりしながら言った。


 ロベルトとヘンケルトは魔術を使い、お(たがい)いに(ちゅう)遠隔(えんかく)で姿を(うつ)し出しながら連絡を取っていたが、ロベルトは(うつ)し出されたヘンケルトの顔が、あまりにも(ゆが)んでいたので苦笑した。


 ロベルトは宿屋(やどや)の部屋で、たいてい自分一人きりの時に、兄であるヘンケルトやハリル、ミゲルと連絡を取っていた。


 ヘンケルトがロベルトにとって一番年の近い兄であるから、ロベルトにとってはヘンケルトと話すのが一番気が(らく)だった。


「そりゃ来るだろ。クレッカーだろ? 国王が許可(きょか)したんだ」

とロベルトはヘンケルトに、「何を今更(いまさら)」といった口調(くちょう)で言い返した。


「ああ、ほんと、それ(ふく)めて最悪だよ、もう。なぜ国王は許可(きょか)なんかしたわけ?」

とヘンケルトは(なげ)いた。


「そう言うなよ」

とロベルトは(なぐさ)めようとした。


「言うよ! ただでさえ真っ黒(まっくろ)術衣(じゅつい)(おごそ)かにってだけで()ずかしいのに、すげー部外者感(ぶがいしゃかん)(ただよ)わすヤツが()てみ? 俺、何やってんだっけ、って現実に引き戻されるってゆーか」

とヘンケルトはロベルトにいかに(はじ)(さら)しているかを(うった)えた。


神聖(しんせい)儀式(ぎしき)だぞ、()ずかしがるな」

とロベルトは笑いを(こら)えながら言った。


「いや、無理だよ、俺も年頃(としごろ)の男の子だし」

 ヘンケルトは(くち)(とが)らせた。ヘンケルトは時折り、弟のロベルトよりよほど幼い表情をする。


「あと、国王の前だぞ、真面目(まじめ)にやれよ」

とロベルトは(たしな)めた。


「いや〜、儀式(ぎしき)のセリフ間違(まちが)っちゃいけないのに、も〜俺、笑い(こら)えるのに必死で、声が震えて震えて。絶対、王も笑い(こら)えてたと思うぜ」

とヘンケルトはうんざりしながら言った。


「……もしかして、国王もそれが(ねら)いだったりして。儀式(ぎしき)なんてかったるい、何か面白(おもしろ)くなんねーかなって」

とロベルトは国王を思い浮かべながら言った。


「あー、それあり()るわ……あの人……」

 ヘンケルトは顔をしかめた。


「国王に向かって、 “あの人” 呼ばわりは、さすがにやめようか」

とロベルトはヘンケルトに言った。


「そうだな、一応(いちおう)やめとくか」

とヘンケルトは答えた。


 閉鎖的(へいさてき)な儀式で毎回顔を合わせており、特に性格の(ゆる)いヘンケルトは、国王と大分(だいぶん)気の(ゆる)せる仲だった。


「ってゆーか、あのクレッカーってヤツ、すっげー真面目(まじめ)な顔で(うやうや)しく()っ立ってんだぜ!? ピシッとした服、着ちゃってさ」

とヘンケルトはげんなりと言った。


初々(ういうい)しいじゃん。儀式(ぎしき)ってもんが初めてでドキドキしてたんだろ」

とロベルトは笑ってしまった。


「まったく、もー、儀式(ぎしき)って聞いて、何か期待してきたんだろうか!」

 ヘンケルトはため息をついた。


「そんなに魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)でやりたきゃ、いくらでも(ゆず)るっつーの」

とヘンケルトはヤケになって言った。


「兄さん、それは言い過ぎだろ。さすがに()()()()()もあるし」

 ロベルトはたしなめた。


 それから、

「他の兄さんたちは?」

とロベルトは聞いた。


「ハリル兄さんとミゲル兄さんも、むっちゃ文句(もんく)言ってるよ。おまえ、さっさとクレッカーなんとかしろよ」

 ヘンケルトはうんざりしながらロベルトに言った。


「すまん」

 ロベルトは(あやま)った。


「で、ロベルト、進展(しんてん)は?」

 やっとヘンケルトが本題(ほんだい)に入った。


「少し進展(しんてん)があった。クレッカーがグレゴリー元大臣を(ころ)したって話しだ」

とロベルトは報告した。


「は? グレゴリー元大臣は病死だろ?」

 ヘンケルトは(うたが)いの声を上げた。


「それが、クレッカーたちヤバい魔術開発したっぽくてな」

とロベルトは答えた。


「ヤバい?」

 ヘンケルトは少し真面目(まじめ)な顔になった。


「ああ、人に脱水症状(だっすいしょうじょう)()こさせるんだってさ」

とロベルトは答えた。


脱水症状(だっすいしょうじょう)? ピンとこないんだけど」

 ヘンケルトは頭が追いついていない、といった顔をした。


「この魔術かけられると、人はどんなに水を飲んでも、水を吸収(きゅうしゅう)できなくなって、脱水症状(だっすいしょうじょう)()ぬ。これで()んでも傍目(はため)じゃ病死だ」

とロベルトは簡潔(かんけつ)に説明した。


「マジか。そりゃちょっと、すごいの作ったな。で、グレゴリー元大臣は、それで暗殺(あんさつ)されたってことかよ?」

とヘンケルトは感心した声を上げた。


「ああ、たぶん。もう他にも実際(じっさい)何人か使われてて、()んだ(ヤツ)もいる。そっちでも不審(ふしん)なのは(うたが)っていけ」

とロベルトは提言(ていげん)した。


「了解。ちなみに、その魔術ってさ、あれ、()く?」

 ヘンケルトは(ねん)のため聞いた。


「魔術消すやつか? ()く」

とロベルトは断言(だんげん)した。


「そりゃよかった。最悪その魔術をかけられても俺は()ななくてすむな」

とヘンケルトはふうっと(いき)()いた。


「ああ」

 ロベルトも(うなず)いた。


「ちなみに、そのクレッカーの魔術って、非公表(ひこうひょう)ってことだよな?」

とヘンケルトは確認した。


「そうだ。暗殺用(あんさつよう)だろ」

とロベルトは答える。


「ははっ、クレッカーのヤツ、儀式(ぎしき)じゃ借りてきた(ねこ)みたいにしてたのに、案の定(あんのじょう)真っ黒(まっくろ)じゃん」

 ヘンケルトの目がギラっと光った。


「で、クレッカーは(だれ)()ったんだ?」

 ヘンケルトはそこが重要とばかりに、声が重くなった。


「さっき言った通り、グレゴリー元大臣が(ころ)されてる。あとは、俺が知ってるだけで、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)開発部門(かいはつぶもん)のヤツが三人(ねら)われた。うち一人は俺たちが()ったんだが。こいつらは多分(たぶん)この魔術の口封(くちふう)じだ」

とロベルトが言った。


 ヘンケルトがピクッとした。

(いや)な仕事、悪いね、ロベルト。ま、グレゴリー大臣は納得いくな。後釜(あとがま)のケイマン大臣とクレッカーは(つな)がってるもんな」


「ああ、そのへんは全部(すじ)が通る」

とロベルトも同意した。


「オッケー、状況(じょうきょう)は分かった、引き続き頼むよ、ロベルト」


「そっちもな、ヘンケルト。クレッカーは(あたま)は悪くない。()()にも気づくだろうし、気づいたら取りに来るぞ」

とロベルトは警告(けいこく)した。


「うん。(じつ)のところ、うちも目下(もっか)そっちに手を()いてる。実際(じっさい)何人も魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)から(もぐ)()まれている」

とヘンケルトは真面目(まじめ)な声で言った。


「マジで? だいじょうぶなのか?」

 ロベルトはだいぶ心配した。


「今のところは、たぶん。そうそう、おまえが前に話してた先輩だっけか? ハンドリーって名前のヤツ、(もぐ)りに来てたぜ」

とヘンケルトはロベルトに伝えた。


「は? え! ハンドリーが!?」

 ロベルトは絶句(ぜっく)した。

「もしかしてハンドリーの足は… …」


「うん、ハリル兄さんがやった。でも兄さんが下手(へた)こいて()げられちゃった」

とヘンケルトはため息を()きながら言った。


「… …」

 ロベルトは言葉がなかった。


「あれ、ロベルト、どーした?」

 ヘンケルトはロベルトの意外な反応に(おどろ)いた。


「悪い、兄さん。一応(いちおう)、ハンドリーには昔からちょいちょい世話(せわ)になっててさ。ちょっと思うところが… …」

とロベルトは言いにくそうに言った。


「そうだったのか、それは残念だったね」

とヘンケルトは優しい声を出した。


「いや、だが、まあ、()()がらみは仕方(しかた)ないから」

 ロベルトはそう言って少し(だま)った。ヘンケルトもロベルトに少し悪い気がして(だま)った。


 しばらくしてヘンケルトが(くち)(ひら)いた。

「ロベルト、グレゴリー元大臣の(けん)で、クレッカー、パクれるか?」


「難しいな。今更(いまさら)証拠(しょうこ)がなあ」

とロベルトは正直なところを答えた。


「そうか」

とヘンケルトも、まあそうだろうな、といった口調(くちょう)(うなず)いた。


「クレッカーの(けん)は何とかするさ。それはそうと、プレアデス家は何か言ってるか?」

とロベルトは、エドワードの実家(じっか)について聞いた。


「プレアデス家は相変(あいか)わらず適当(てきとう)さ」

とヘンケルトは笑って言った。


「あーそう。それはよかったけど」

とロベルトはエドワードの顔を思い浮かべながら答えた。


「こっちもできる(かぎ)秘密(ひみつ)を守り()く。クレッカーがかなり厄介(やっかい)だ。そっちで何とかしてくれるとありがたい。がんばれよ」

とヘンケルトは言った。


「ああ、分かった。何とかする。じゃあ、また」

とロベルトは答え、魔術の通信を切った。


 クレッカーは王宮の深部(しんぶ)(のぞ)こうとしているのか。


 不相応(ぶそうおう)な人間め。


 それは、阻止(そし)しなければならない。

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