5. 長官の覚悟〜同僚を死に追いやっても〜
クレッカー長官は遠方からの手紙を受け取った。若手の魔術師から届いた連絡だ。
「ダミアン・ホース死す」とだけ書かれていた。
クレッカー長官は目を伏せて手紙を折り畳み、丁寧に机の引き出しにしまった。なんとも言えない感情が湧いてきた。
ダミアンは素晴らしい同僚の一人だった。
彼はただひたむきに魔術と向き合って、新しい魔術を開発することに情熱を捧げていた。
ダミアンの傍にはいつも古めかしい分厚い本が積んであった。
一日の大半を本に没頭していたが、その割には明るい男で、読書を邪魔されても怒らなかった。本当に惜しい男だった。
そういえば、ダミアンは実戦は苦手だったが、光を操る系の魔術が得意だった。
だいぶ昔に死んだ親友と同じ。ダミアンと初めて会った時、奇妙な親近感を感じたものだ。
クレッカーは胸が痛んだ。
そして、ふとダミアンの妻、カレン・ホースのことが思い出された。
カレンはクレッカーの政敵のグレゴリー元大臣のもとで働いていて、よく彼と彼の妻の手紙を持って魔術管理本部を訪れていた。
あの頃はクレッカーは自分のことで精一杯で、手紙を持ってきてくれるカレンのことまで気が回らなかったが、後から聞いたら、カレンは相当自分とグレゴリー元大臣との激しいやり取りに、少し気を病んでいたらしい。本当によく働いてくれていたのだろう。
カレンは魔術管理本部でダミアンと出会い、その流れで結婚したと聞いた。
自分も魔術開発部門に飛ばされた頃だったので、カレンにおめでとう、と言ったものだったのに。
クレッカー長官は一瞬迷いが生じた。現実に引き戻される心地がした。
だが、強く頭を振り、雑念を頭から追い出そうとした。
これは皆の為なのだ。
私は多少のことをしてでも、やり切らねばならないのだ。
だが、クレッカー長官は、先程手紙を仕舞い込んだ引き出しをぼんやりと眺めた。
ダミアンにもカレンに罪は無い、のだ。
「ハンドリーを呼べ」
ハンドリーは急いで部屋に入ってきた。
「何か御用ですか?」
クレッカーはハンドリーの忠誠心を信じていた。
「すまない。ダミアンの妻のカレン・ホースを知っているか?」
「ええと、たいして知りません。ダミアンと結婚する頃、一、二度会ったくらいですかね」
「そうか。悪いんだが、彼女にダミアンが死んだと伝えてくれ」
ハンドリーは息を呑んだ。
「えっと、どこから理解したらよいか。すみせん。とにかく、ダミアンが死んだんですね」
「そうだ」
「で、それを私が彼女に伝える?」
「そうだ」
「……」
ハンドリーの顔が引きつった。まず頭の中が混乱していた。
ダミアンが死んだ。そしてそれを彼の妻に伝える? とてつもなく嫌な仕事だと思った。
クレッカー長官は目を伏せて深く頭を下げた。
ハンドリーははっとした。
クレッカー長官の顔にに思い詰めた様子が浮かんでいた。
いつもと違う。このような長官は見たことがなかった。
だが正直このような任務は受けたくない。
ハンドリーはしばらく黙って考えていた。
「頼むよ。ダミアンの妻にあまり不義理はできないんだ」
クレッカー長官はやつれた目をハンドリーに向けた。
「……分かりました」
ハンドリーは諦めた顔をして言った。
「すまない。適当に話しておいてくれ」
「かしこまりました」
ハンドリーは青い顔のまま答え、クレッカー長官の部屋を後にした。
よほどの義理があるのだな、とハンドリーは思った。
だが、まず、そのカレン・ホースという女の居場所を探さなくては。
別の、国家機密級の潜伏捜査のチームにも入れられてるのに。
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