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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第7部: 真相と決意
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48.一時の別れのキス <第一章完結>

 次の日リーナは朝早くからアデルの部屋にいた。


 アデルはだいぶ調子も戻り、食事も取れるようになっていた。長いこと寝たきりで生死(せいし)彷徨(さまよ)っていたので、まだ足元(あしもと)はおぼつかなげだったが、物に(つか)まれば立てるくらいにまで回復していた。


「ここまで回復すればもうだいじょうぶね」

 リーナは微笑(ほほえ)んだ。


「ああ。ありがとう。本当におまえのおかげで(いのち)(つなが)がった」

 アデルはベッドの上で深く頭を下げた。


「それはいいんだけど……」

 リーナは言った。


「あのさ、(りゅう)の魔術のことなんだけど。やめてもらえないかな? 私は(りゅう)被害(ひがい)をこれ以上()やしたくないのよ」

 リーナは真剣(しんけん)な表情で、懇願(こんがん)するように(たの)んだ。


 アデルはリーナの顔を見た。だいぶ(まよ)いがあった。リーナから聞く一般市民の死傷者(ししょうしゃ)破壊(はかい)された村々の状況(じょうきょう)。だが、()んだダミアンやクラウスの顔が頭をよぎった。


(こた)えられない」

 アデルは(もう)(わけ)なさそうに言った。


「そう」

 リーナは半分(はんぶん)分かっていたような口ぶりで言った。

「でも、もし(りゅう)を使わなくてもいい方法を思いつたら、(りゅう)の魔術はすぐに()めてね」


 アデルはそれにはすぐ同意(どうい)した。


「それから、悪いけど、私は(りゅう)をどんどん駆除(くじょ)するからね」

 リーナはアデルにはっきりと()(わた)した。


 それにはアデルも大きく(うなず)いた。

「一般の者に(がい)をなすようなら、むしろ私からもお願いする」


 アデルの言葉にリーナは腹立(はらだ)たしく思った。

「それはあなた、無責任(むせきにん)というものよね」

 リーナはアデルを(にら)んだ。アデルは(もう)(わけ)なさそうに下を向いた。


 そこへ、

「よう、リーナ、アデル」

()ぶ声がして、エドワードが部屋に姿(すがた)(あらわ)した。


「あら、エドワード」

 リーナがぎこちない笑顔で答えた。


「何だ? 何か様子が変だな、リーナ」

とエドワードが不審(ふしん)そうな顔をした、


「そ、そう?」

 リーナは何とか平静(へいせい)(たも)とうとした。


「アデルは? 調子はどうだ?」

とエドワードは聞いた。


「ああ、おかげさまで悪くない」

とアデルは答えた。


 エドワードはじっくりアデルを見た。反魔術(はんまじゅつ)というものの気配(けはい)。確かにアデルから(ただよ)っていた。反魔術(はんまじゅつ)なんてもん知らなかったら、こんなん絶対バレないな、とエドワードは思った。


「おまえたちは私を(ころ)さないのだな」

とアデルはエドワードに言った。


「まーな。そのうち(やく)()ってもらおうって感じ?」

とエドワードは言った。


「そうか。そして、私にこんな、(へん)魔術(まじゅつ)を、かけたのだな?」

とアデルは言った。


「は?」

 エドワードはギクッとした。


「バレてるぞ。私も魔術開発(まじゅつかいはつ)方面(ほうめん)では(じつ)はそれなりだからな。はっきりと知ってるわけじゃないが、何か()けたな、攻撃的(こうげきてき)なものじゃなさそうだが」

とアデルは冷静(れいせい)に言った。


「マジかよ。アイツも(やく)()たねーなー、バレないやつ教えろって言ったのに。もう」

とエドワードはロベルトを思い浮かべて愚痴(ぐち)をこぼした。


「いや、よくできた魔術だと思う。普通なら()けられても分からんさ。私でも(はず)し方は分からん。まあ何とかするが」

とアデルは言った。


「何よ、魔術って」

 リーナは胡散臭(うさんくさ)そうな顔でエドワードを見た。


「リーナは知らなくていいことー」

 エドワードはリーナの頭を()でた。


「おまえらが私を(ころ)さないということは、私を利用するのだな」

 アデルは不審(ふしん)そうな目を向けた。協力(きょうりょく)しないと断言(だんげん)した相手(あいて)だ。


「おまえ()にてーのかよ。せっかく()かしといてやんのに。(おん)ってヤツ感じとけよ、もー。お互いウィンウィンになればいーじゃんか。だろ?」

 エドワードはめんどくさそうに言った。


「ウィンウィン……か?」

とアデルは聞いた。


「ああ。多分(たぶん)おまえとはまたどっかで会うし、そんな悪くない未来(みらい)じゃねーって俺は(しん)じてるけどな」

とエドワードは笑った。


「変な魔術をかけといてよく言う」

 アデルは(あき)れたように言った。


「ま、とりあえず、おまえとはここで一旦(いったん)お別れだ。(うん)が良けりゃまた会えるさ」

 エドワードはそうアデルに言った。


「ところで、リーナ。用があるから、ちょっと来いよ」

と今度はリーナに言った。


「何? どこ行くの?」

 エドワードがアデルの部屋を出て、リーナの手を引いてどんどん歩いていくので、リーナは不安に思って聞いた。


「二人きりになれる場所」

 エドワードは答えた。


 二人は薬草畑(やくそうばたけ)納屋(なや)に来ていた。エドワードはリーナの方を向いた。

「リーナ、俺たちは今日()つ」


 リーナは思ったより早かったので少し戸惑(とまど)いながら

「そう。どこで何するか決まったのね」

と言った。


「ああ。今、ロベルトがシャールに何か話してると思う」

とエドワードが言った。


「そっか。あんまり深くは聞かないけど、気をつけてね」

 リーナは(さび)しい気持ちを(こら)えて言った。


 それから、

「あの、エドワード、ここ数日本当いろいろありがとう。こんな急な別れ方で少し(さび)しいけど」

 リーナはエドワードの目を見て丁寧(ていねい)に言った。


「そうだな。次はいつ会えるか」

とエドワードはリーナの手を取った。


「そうね」

 リーナも(うなず)いた。


 エドワードはしばらくリーナを見つめていたが、やがて言った。

「リーナ、あまり気が進まないんだけどさ……」

 エドワードはかなり躊躇(ためら)っていた。


「何? 何か急に(いや)な予感」

 リーナは顔をしかめた。


「うーん、普段の俺なら引くようなことなんだけど」

 エドワードも自分の頭を押さえて(まよ)っていた。


「そこまで言われるとちょっと聞いてみたくなった」

 リーナは(こわ)いもの見たさで興味(きょうみ)が出た。


 エドワードは、リーナの手を(にぎ)る手に力を込めた。

「えーっと、さっきアデルが言ってた魔術なんだけど……おまえにも()けていいか?」


「は? 何の魔術なの、それ?」


監視(かんし)魔術(まじゅつ)


「は? ストーカーか?」

 リーナは嫌悪感(けんおかん)丸出(まるだ)しの顔でエドワードを見た。


「やっぱそう思う? 俺も思う」

 エドワードはため息をついた。


 それから、リーナが変質者(へんしつしゃ)を見る目でエドワードを見るので、

「おい、(きたな)いもん見る目でこっち見んな!」

と言った。


「だって……」

 リーナはまだエドワードをじとっと見ている。


「あーあー、すみません! ロベルトに教えてもらって、()がさしました!」

 エドワードは(ひら)(なお)った。


「ちょっと、エドワード! (ひら)(なお)ってるし!」


「だから俺も気が進まねーって言ったろ!」


「そりゃそーです! 誰が何と言おうと、却下(きゃっか)です!」

 リーナは一蹴(いっしゅう)した。


 エドワードは大きく(いき)()いた。

「もー正直に言うとな、遠いところでおまえの安否(あんぴ)をずっと心配するのが(いや)だったんだよ」


 エドワードは自分の中の(まよ)いを()(はら)うように頭を()ると、じっとリーナの目を見つめた。

「もう、おまえと(はな)れたくない」


「えっと……」

 リーナは()ずかしくなって、そっと目を()せ、手を引っ込めようとした。


 しかしエドワードが手を強く引くので引っ込められなかった。


「え……」

 リーナは戸惑(とまど)った顔でエドワードをもう一度見た。エドワードの長い金髪から真剣(しんけん)眼差(まなざ)しが見え(かく)れした。


「エドワード……?」

 リーナが沈黙(ちんもく)()えられず聞いた。


 エドワードは何も答えずにそっと顔近づけてきた。リーナの手を(にぎ)るエドワードの手に力がこもる。エドワードの(かみ)がリーナの(ほお)()れた。そして、(くちびる)()れようとした。


 その時、リーナははっと(われ)(かえ)って

「待って」

と顔を(そむ)けた。


 シャールの顔がリーナの脳裏(のうり)横切(よこぎ)った。


 エドワードはビクッとしてすぐ顔を(はな)した。


「いや、えーーっと。ごめん、また……」

 エドワードは下を向いたまま言った。


 二人は真っ赤になって(だま)った。


「リーナ、俺、いろいろ終わったら、絶対(ぜったい)おまえ(むか)えに来るから」

とエドワードは言った。


「え?」

 リーナは真っ赤になった。


「……」


「……」


「ふう、ダメだな、俺は。限界(げんかい)……」

 エドワードは急にリーナの手をパッと(はな)した。


「俺、また来るわ。元気でやれよ」

とエドワードはいつもの笑顔に戻って言った。


「あ、うん」

 リーナはまださっきのエドワードの雰囲気(ふんいき)戸惑(とまど)いながら答えた。


 それからエドワードはネズミの(かご)を見た。

「おまえも(いそが)しくなるな」


「うん。エドワードも」


「俺たちはそれぞれ自分の(しん)じた(みち)でやるだけだ」


「うん、エドワード。がんばって」


「おう」

 エドワードはにっこり笑った。


「あ、あの、これ」

 リーナはエドワードにいくつか怪我(けが)()軟膏(なんこう)(わた)した。

「私の()りすぐりの薬。絶対(ぜったい)()くから」


「知ってる」

とエドワードは言った。そして、エドワードはリーナから薬を受け取るとき、(てのひら)でそっとリーナの手を(つつ)んだ。


「ちょっと、エドワード……」


 エドワードはふっと笑って、

「大事に使うわ」

と言ってリーナの手を(はな)した。


 リーナはあの日、エドワードの(かた)怪我(けが)手当(てあ)てした日のことを思い出した。そして、強く()きしめられたエドワードの(うで)を思い出し、体が(あつ)くなった。


 それから、シャールのキスも思い出した。


 リーナは()(けっ)したように、いきなりエドワードの(くちびる)にキスをした。


 エドワードは初め(おどろ)いたものの、そのままリーナの体を両腕(りょううで)(つよ)(つつ)()み、(ふか)(ふか)く、くちづけた。


「もう(はな)したくない……」

 エドワードは(あら)吐息(といき)(とも)に、リーナへの(おも)いを()き出した。


 リーナもそっと自分の(うで)をエドワードの()に回してみた。エドワードはそれに気付(きづ)くと微笑(ほほえ)んで、そっとリーナの頭を()でると、リーナの(くちびる)(ほお)(ひたい)(みみ)、うなじ、と順々(じゅんじゅん)(やさ)しくキスをしていった。


 しばらくして二人が体を(はな)したとき、エドワードはリーナの目を見て

「じゃ、行くわ」

と言った。


 リーナは赤い顔のまま、笑顔で

「うん」

と返した。


 そしてエドワードは何事(なにごと)もなかったかのように、納屋(なや)から出て行った。


 リーナはその(うし)姿(すがた)を (さび)しそうな顔で見送った。

 


お読みくださりありがとうございます!

第一章完結です!


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