47. 古い監視の魔術 ~優秀な魔術師の家系~
「アデル・コーエンの仲間を囮にするってのは賛成だ。だが、アデル・コーエンたちを泳がすってことは監視だな? バレねー監視用の魔術あるか?」
とエドワードは聞いた。
ロベルトは口をあんぐりあけた。
「監視系の魔術は、基礎から複雑なのまで何でもあるだろーが、おまえ痴呆か?」
「いや、だからー。そーゆーバレやすいやつじゃなくて。おまえんち絡みの“すげー”やつとかないの? 相手、同業者なんだし、バレねーすごいのじゃねーと」
エドワードが口を尖らせた。
ロベルトは、ふとダミアンを殺ったときのことを思い出した。ダミアンは、薄汚い瘦せ男に見えたが、彼は、最新の、それどころか見たことのない魔術までを使っていた。
そこで、ロベルトはエドワードが言わんといることがわかった。
「そういうことか。まあ、あるよ。ヒアデス家に伝わる、知られてない古い魔術とかってことだろ」
「そうそう。さっすが。ヒアデス家関係は、マジで最強だもんな! 本当、敵に回したくねー」
エドワードが目をキラキラさせながら言った。
「おまえに言われなくないけどな、プレアデス家の正当な継承者」
とロベルトは、エドワードには聞こえないように、ボソッと呟いた。
全く聞こえていなかったエドワードは、
「じゃ、そのイケてる監視の魔術、教えてくれよ!」
とニコニコしながら言った。
「そりゃいーけどな。簡単じゃねーよ。おまえにできるか? おまえ選り好み激しいし」
とロベルトは、エドワードの普段の適当さを少し咎めたてるように言った。
「俺、器用よ」
エドワードは両手の指をわしゃわしゃ動かして見せた。
「指、関係ないし。つーか、ちょっと腹立つな。ガキの俺が昔半泣きになりながら練習したものだぜ?」
とロベルトは少しムッとしながら言った。
「おう! 俺なら一分でマスターしてやる」
エドワードはニカっと笑った。
「おまえのそーゆーとこムカつくわ。マジで一分でマスターしそうだし」
ロベルトは嫌そうな顔をした。エドワードは、俺がどんな魔術でも使えるといつも俺を褒めるが、本物の天才はエドワードの方だ。
だが、ロベルトは胸元からボロボロの手帳を取り出すと、ペラペラとめくって、目的箇所を開いてエドワードに投げてよこした。
「すっげー! 何このノート、真面目か!? 仙人か!?」
エドワードは、ページに所狭しと魔術の原理と使い方が書き込まれたノートを見て感心した。ロベルトには一生敵わねーな、とエドワードは思った。
「さっさと覚えろ。一分つったろ」
とロベルトは、エドワードの才能に少々ふてくされながら言った。
「へいへい」
エドワードは口調とは裏腹に、真面目な集中した顔をして、ノートと睨めっこしていた。
「はは。相変わらずこりゃすげーわ。こりゃー、どんな凄腕の魔術師にだってバレねーな! 書いてあることはよく分かったから、イメトレすりゃあ俺でも使えるかもな」
エドワードは興奮がおさまらない顔をしていた。
「いや、分かってないと思う。こーやってやんだよ」
とロベルトは手のひらから小さな、本当に小さな魔力塊を出した。それを、さらに魔力で幾重にも重ねていく。
「周りに被せた魔力は反魔力だ。魔力に触れると魔力を実質感じさせなくする。魔術かける側の人間は、その反魔力を感知すれば良いから」
そしてロベルトは器用に掌の上で魔術を練るとそっと放出した。練られた魔術はドロドロとロベルトの掌からこぼれ落ち、まるで生き物のように床を這いながら、ドアの隙間からアデル・コーエンの部屋へと向かっていった。
「反魔術ねー。本当、すげーのがあるもんだ」
エドワードはロベルトの神業を呆気に取られて見ていた。
「反魔術なんて聞いたことなかったぜ。知ってるヤツなんていんのかな」
「なんなら、リーナに、この魔術を掛けてもいんだぜ」
ロベルトはニヤッとしてエドワードに言ってやった。ロベルトなりの、エドワードへの逆襲だった。案の定、エドワードは赤くなった。
「おいっ! やめろよ……!」
エドワードは気恥ずかしそうに声を上げた。
「あれ? 俺、何か気に障ること言ったか?」
とロベルトはとぼけた。
「くっそー、余計なこと言いやがって! 言われなきゃ気付かなかったのに!」
とエドワードは頭を抱えた。
「ええ! そっち!?」
ロベルトは呆れ声を出した。
「なんつー誘惑。はあー、これ使えばリーナ監視できちゃうんだもんな。しかもロベルトのこの魔術なら、バレるリスクなしの、完全補償付き!」
とエドワードは空を仰いだ。
「迷うなよ、ばか。変態か。一瞬で拒否する健全な人間であれ」
とロベルトは諫めるような口調で言った。
「だが、エドワード、どっちにしろ、俺らはすぐに王都に出立するぞ。アデル・コーエンの仲間はまだ探さなきゃならないし、カレン・ホースと、クレッカー長官の周りもしっかり押さえとかないといけない。グレゴリー元大臣についても今更だが再調査が要るだろうな」
ロベルトははっきりとした口調で言った。
「ああ、分かってる。やること多めだ」
とエドワードも頷いた。
「リーナにさよなら言いたきゃ言っとけよ」
とロベルトはエドワードにそっと言った。
エドワードはそれには答えなかった。
お読みいただきありがとうございます!
もしよろしければ、今後の励みになりますので、
ブックマークや、下のご評価↓☆☆☆☆☆↓の方、
よろしくお願いします!
次が第一章の最終話になり、第二章に進んでいく予定です。
今後とも、よろしくお願いいたします!