46. 袂を分かつ ~アデルを殺すのか、生かしておくのか?~
ロベルトとエドワードは自室に戻るとベッドに腰掛け、向かい合って顔を眺めた。
アデル・コーエンから色々聞けた。では次に自分たちのとるべき行動を決めねばならない。
先に口を開いたのはエドワードだった。
「俺たちは、ずっとクレッカー長官の下で働いてきただろー? アデル・コーエンの話が本当だとしたら、それでもおまえはまだクレッカー長官の下で働く気か?」
「そうだな、アデル・コーエンの言ってることが本当なら、クレッカー長官は先の大臣殺ってる政治犯だ」
ロベルトも考え込みながら言った。
クレッカー長官は直属の上司で、これまで彼の仕事を手伝ってきたが、今後も彼の悪事に手を貸すのかどうかというのは大事な話だった。
「おい。まさに今回のことは渡に船じゃねーのか? クレッカー長官を政治犯で失脚させるのは、おまえの家的には、都合がいーじゃねーか」
エドワードは率直に言った。
ロベルトは一瞬黙った。脳裏に父と兄の顔がちらついた。彼らは待っている。
それなので、
「ああ。全くだ」
と答えた。
「じゃあ、いいんだな? これに関係したところで進めるってことで」
エドワードは念を押した。
これは、2人に取って今のところ一番大事な確認事項だった。
「ああ」
ロベルトも覚悟を決めて頷いた。
エドワードはそんなロベルトを見て微笑んだ。ついにロベルトも動き出す。王都が変わるかもしれない。
エドワードは武者振るいした。
しかしそのとき、エドワードにはふと先程のアデルとのやりとりが思い出された。
「アデル・コーエンとは利害関係が一致するはずだった。なんでおまえは、アデル・コーエンには味方しねーって決めたんだ?」
エドワードは、ロベルトに逆らう気はないが、理由くらいは知りたいと思った。
エドワードはニヤリとした。
「あーゆーの、タイプじゃねえって?」
「アホか」
ロベルトは苦笑した。
「そりゃ、アデル・コーエンたちが、あんまりふわふわしてっからだろ。あんなのに命預けられるかよ、マジないわ」
とロベルトは言った。
「ああーそゆことね。それは同感。違いねえー」
エドワードは大きく頷いた。
「確かにな。俺も死にたくねーし、やるならうまくやりてーわ。基本、最初は大々的には動けねーしな」
エドワードは納得の口調だった。
ロベルトも続ける。
「アデル・コーエンたちの話はだいぶ参考になったが、残念ながら、今のところクレッカー長官を断罪できるほどの証拠はないよな。そこが問題だ」
「ああ、ぶっちゃけ使えねーな」
エドワードも愚痴を言った。
「まあ、そう言うな。アイツらも追われながら、必死にできることをやってんだろうから」
ロベルトは嗜めた。
「そりゃ分かってるさ、アイツらが動きにくいってことは。ただ、今のこの状況じゃ、何も確実な証拠がねーから、クレッカー長官を断罪するなら、俺たちが結局一から証拠集めしなきゃいけないってことだろ。それが、めんどくせーなーと思ってさ」
エドワードはうんざりと言った。
ただ、
「まあ、竜? 竜には使うってのはちょいとびっくりしたな」
とエドワードと苦笑いした。
ロベルトも頷いた。
「ああ。俺も驚いた」
そして急に険しい顔になると、
「だが、あの竜の魔術とやらは、全ての竜に効くんだろうか?」
と言った。
エドワードははっとした。
「それは、おまえ……。まあ、何かありゃ分かるだろ」
二人は懸念事項が増えて、大きくため息をついた。
「でも、シャールとリーナが、竜、全部駆除するわ、あの感じ」
とエドワードは少し面白そうに言った。
「シャールもアデルにはブチ切れだったな」
ロベルトも笑った。
「まあ、なー。あいつ、安全警備本部のハーマン長官のところで、竜には苦労かけられっぱなしだったろうしなー」
エドワードは少しシャールの気持ちが分かる気がした。
「間違いないね」
とロベルトも頷く。
「この状況じゃ、シャールとリーナも、アデル・コーエンには味方するのはあり得なさそーだな」
エドワードは呟いた。
「ま、とにかく、俺たちは状況がどう転んでもいいように、あくまで水面下で活動するぞ。俺たちの目的とか、誰にも悟らせるな」
ロベルトは腕を組んで言った。
「ほい。りょーかい」
とエドワードは意義なし、といった顔をした。
そしてふと、確認しなければならないことを思い出した。
「ところで、、アデル・コーエンは、どーする? 命令通り殺すか?」
ロベルトも同じことを考えていたが、
「殺した方がいいんだけどなあ。リーナが嫌がるんじゃないか?」
と少しげんなりした顔をしながら言った。
「ああー。それは、なー」
エドワードも同意の口調で頷いた。
「色々事情を知ってるから、いずれ何かに使えるかもしれんってことで……。保留……?」
ロベルトは迷いながら言った。
「ってことは、泳がすか。いや、それで、いーんじゃね?」
とエドワードは賛同した。
「そうか」
ロベルトはやっと決断したように大きく頷いた。
だが、次の瞬間、エドワードは少し心配そうな顔をした。
「あ! でも、一つ、大事なこと。ぶっちゃけ俺らの知らん暗殺者がいるだろ。アデル・コーエンに例の魔術をかけたヤツ。そいつは、クレッカー長官の直属と見て間違い無いだろう? 俺らがアデル・コーエンにかけられてた魔術を解いちゃった件は、魔術管理本部にはどーやって誤魔化す?」
エドワードの言葉にロベルトは頭をかいた。
「あー、それな。バリバリ解いちゃったもんなー。アデル・コーエンはとっくに死んでるはずなのに生きてるってなったら、クレッカー長官も何事だってなるよな。誰が何をした?って。あんまり俺がこの魔術消せるヤツ使えることも知られたくないんだよな……」
二人は少し黙った。
そろときエドワードがポンと手を打った。
「あ、例の魔術掛けた魔術師の失敗!ってことでいんじゃね?」
ロベルトも笑った。
「あー、いいなそれ。俺らがアデル・コーエン見つけた時は別に元気でしたよ、みたいな」
しかし、そう言ってからロベルトはまた難しい顔に戻った。
「いや、全然だめだろ。アデル・コーエンが何かの拍子にクレッカー長官の仲間に捕まって、その時に、俺らに細かい話聞かれた上に、魔術消してもらって、さらに解放してもらいました、なんて供述してみろよ」
「うわー、俺ら挙動不審すぎる。一気にクレッカー長官の中で重要参考人扱いだね」
とエドワードは苦笑した。
そして、
「俺らが首突っ込もうとしてんの大バレじゃん。知りすぎっつって、まじ俺らも始末されんじゃねーの」
とエドワードが続けた。
ロベルトはため息をついた。
「もー、あれでいこう。俺らはアデル・コーエンをわざと泳がせて、芋づる式狙ってます、的な言い訳?」
「それしかねーかな。じゃあ、そういうことにしよう」
二人は申し合わせた。
と、その時、エドワードはふと嫌なことに気付いたように言った。
「つーか、俺らの存在こそがクレッカー長官の罪の証だよな」
ロベルトはゆっくりとエドワードの顔を見た。
エドワードは続けた。
「クレッカー長官が俺たちを使って、正当な理由なく魔術師暗殺してたってなりゃ、問題じゃね?」
ロベルトは苦い顔をした。
「しがない抹籍された魔術師殺しだ。長官殿ともなれば、理由も適当につけるだろ。余罪でグレゴリー元大臣まで引っ張り出せる気はしない」
「ああ、そうだった。今のところ、アデル・コーエンの証言しかないんだしな。厳しいわ」
エドワードが宙を睨んだ。
「おい。さっきから、話が堂々巡ってる」
ロベルトがため息をついた。
「そうだな。建設的な話をしよう」
とエドワードも賛成した。
「まあ、アレだ。クレッカー長官はアデル・コーエンの仲間を一人も生かしておくつもりはないんだろ? じゃあ、今後まだまだ、アデル・コーエンやその仲間が、命を狙われるってことだ。少なくともヤツらは囮に使える」
とエドワードは言った。
「まあ、その周辺から、ちまちま証拠でも集めていくか。とりあえず、ケイマン大臣とクレッカー長官には辞めてもらいたいって兄がうるさいからな」
とロベルトが言った。
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とりあえず、残りあと2話で、第一章は完結し、第二章に、進んでいく予定です。
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