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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第7部: 真相と決意
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45. クレッカーの決意 〜間違っているのは魔術師を取り巻く環境だ〜

 クレッカー長官は、うなされて目を()ました。まだ真夜中(まよなか)だった。クレッカー長官は(あせ)でびしょびしょになっていた。


 クレッカー長官は枕元(まくらもと)(さけ)に手を()ばした。クレッカー長官は(さけ)を飲み()し、

「これっぽっちで()えるかよ。」

()()てるように言った。


 医者は依存症(いぞんしょう)警戒(けいかい)して、毎日の(さけ)(りょう)(きび)しくクレッカー長官に言い(ふく)めていたのだった。


 クレッカー長官はもっと()しい気持ちを(おさ)え、(さけ)()しやった。


 分かっている。またあの夢だ。昔の、ハルトの夢だ。


 あの件だ。初めて自分が人死(ひとじに)(かか)わった日。


 数年前のその日、若いジェイ・クレッカーは辺境(へんきょう)の地方の大地主(おおじぬし)屋敷(やしき)を取り(かこ)んでいた。


 この地方は王都から遠いので目が十分に(とど)かず、力をだいぶつけたここの地主(じぬし)は、ここ数年(ぜい)をごまかしてきていた。


 王都から何度勧告(かんこく)があっても、地主(じぬし)がのらりくらりと中途半端(ちゅうとはんぱ)にしか応じないため、いいかげん王都の財務関係者(ざいむかんけいしゃ)から文句が出て、安全警備隊(あんぜんけいびたい)派遣(はけん)されることになった。


 派遣(はけん)された小部隊(しょうぶたい)にはジェイ・クレッカーと、同僚(どうりょう)のハルト・ミズリーが、部隊付(ぶたいつ)きの魔術師(まじゅつし)として同行(どうこう)していた。


 安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)の者が屋敷(やしき)を取り(かこ)んでも、地主(じぬし)屋敷(やしき)から出てこようとはしなかった。


 地主(じぬし)屋敷(やしき)には、多くの地元の(あら)くれ者たちがたむろっていて、


「おいおい、うちの主人は税金(ぜいきん)ちゃんと正当に(おさ)めてるって言ってるぜ」


「遠くからご苦労なことだね。村から出て行けよ」


「そんな少人数で何ができるんだ。死にてーのか?」


口々(くちぐち)に安全警備の隊士を(ののし)った。


 安全警備の部隊長(ぶたいちょう)は隊士たちの突入(とつにゅう)(めい)じた。


 そして隊士たちが地主に(やと)われた(あら)くれ者たちと交戦(こうせん)している間に、クレッカーとハルトには地主の身柄(みがら)確保(かくほ)するよう命じた。


「これ、絶対(ぜったい)地主に(やと)われてるモグリの魔術師とかいるよな」

 クレッカーは命令(めいれい)()なまぐささに(ひる)んでいた。


「そうだよジェイ、こんなの無茶(むちゃ)だよ。だって俺たち草食系(そうしょくけい)魔術師だよ!? 部隊長(ぶたいちょう)に言おう」

 ハルトも(おび)えた目をしていた。


「だよな」

 クレッカーもため息をついた。


「俺たち、魔術師相手(まじゅつしあいて)戦闘(せんとう)なんてほとんどやってきてないもん。苦手(にがて)だよ、正攻法(せいこうほう)じゃ無理(むり)だ」

 ハルトは首を横に()っりながら言った。


 クレッカーもハルトも肉体系(にくたいけい)ではない。


 いくらモグリの魔術師がきちんとした魔術を(まな)んでいないと言っても、クレッカーもハルトも戦闘訓練(せんとうくんれん)()んだ魔術師には()てる気がしなかった。特にハルトはクレッカーより若く、(ひかり)(あやつ)るのが得意(とくい)なだけの魔術師だった。


 クレッカーはひどく不満(ふまん)だった。


 クレッカーもハルトも、安全警備のこの部隊には、魔術師枠(まじゅつしわく)空席(くうせき)()めるように、たまたま配属(はいぞく)されただけだった。


 その(ころ)、この国の魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)は魔術師の教育(きょういく)研究(けんきゅう)だけに特化(とっか)していた。専門教育(せんもんきょういく)(まな)んだ魔術師は、王都のさまざまな部署(ぶしょ)()り分けられるシステムになっていた。


 魔術師は得意不得意(とくいふとくい)など関係なく、欠員(けついん)のある部署(ぶしょ)半自動的(はんじどうてき)配属(はいぞく)され、理由がなければそこからは配属部署(はいぞくぶしょ)が変わることはなかった。


 クレッカーは、安全警備のように普段から多少(たしょう)武力(ぶりょく)が必要な部署に、自分たちのような非武闘派(ひぶとうは)配属(はいぞく)されることは、間違(まちが)いでしかないと思っていた。


 ハルトの文句(もんく)も止まることがなかった。

地主(じぬし)もさ、抵抗(ていこう)するってことは、抵抗(ていこう)して勝てる気でいるってことだろ? 絶対いるよね、強いヤツが」


「ああ、本当、こういう現場(げんば)戦闘好(せんとうず)きなヤツに()わって欲しいな」

とクレッカーもうんざりしながら言った。


「せめて(きん)トレ()きとか、プロテイン()んでるとか、普段から(きた)えてるヤツに、()わって欲しいよ」

 ハルトはため息をついた。


 しかし、もう他の隊士たちはあちこちで地主に(やと)われた(あら)くれ者たちと衝突(しょうとつ)していた他の隊士たちが突入(とつにゅう)した以上、クレッカーもハルトも行かないわけにはいかなかった。


「気合いを入れるぞ。俺たちもやらなければならない」 

 クレッカーは自分を(ふる)い立たせるように言った。ハルトも顔を引き()めた。


 他の隊士たちに道を作ってもらうようにして、屋敷(やしき)の中に入っていったクレッカーとハルトは、すぐさま魔術師風情(ふぜい)の男に出会った。


「お、ラッキー。弱そう」

とその男が言った。


 クレッカーとハルトはぎょっとして身構(みがま)えた。


「俺は正式にゃ魔術(まな)んでねーけど、(けん)得意(とくい)なんだぜ。悪いがこれ以上中に入ってくるなら、()んでもらう」

 確かにその男は異様(いよう)な空気を(まと)っていた。


 その男が(けん)()りかぶった。瞬時(しゅんじ)に男から魔力が()き出る感じがして、魔力がその男の(けん)(つつ)み込んだ。


 クレッカーにはすぐに分かった。精度(せいど)は良くないが、(けん)には()れたら高温(こうおん)()き切れるような魔力がこもっている。こっちを(ころ)す気だ。


雑魚(ざこ)さんよぉ!」

 男が(さけ)んだ。


 (あわ)ててクレッカーは魔力塊(まりょくかい)放出(ほうしゅつ)し、男の(けん)軌道(きどう)を変えると、()(くぐ)って()けた。


「ははは、中央(ちゅうおう)(ぼっ)ちゃん魔術師めが! (あつ)がねえよ」

 男は(なさ)容赦(ようしゃ)なく(けん)()りかざした。


 ハルトは古典的(こてんてき)な魔術の呪文(じゅもん)(とな)えた。光の魔力を具現化(ぐげんか)する魔術だった。


 ハルトは大小(だいしょう)さまざまな、大量(たいりょう)鬼火(おにび)を出した。


 大量(たいりょう)鬼火(おにび)たちは、男に向かって(するど)(ほのお)()き出したり、ふらふらしていたかと思うと急に男に向かって突進(とっしん)したり、男に()れたかと思うと急に温度(おんど)を上げたり、(ひかり)(はな)ったり、めいめいが不規則(ふきそく)に男を(おそ)いにかかった。


 男はニヤリと笑うと素早(すばや)(けん)さばきで、大量(たいりょう)鬼火(おにび)たちを(またたく)()()()せてしまった。


「おい、まともな攻撃(こうげき)してこいよ。鬼火(おにび)なんて子供騙(こどもだま)()ぎるだろう」

 男がイライラした声を出したとき、鬼火(おにび)(すき)(はな)ったクレッカーの魔力塊(まりょくかい)が男の(うで)に当たった。()が、ばっと()()った。


「おっと」

 だが男は(ひる)まなかった。


「そうそう、そういうのだよ」

と自分の傷口(きずぐち)()めてニヤニヤする。むしろ男は楽しんでいた。


 次の瞬間(しゅんかん)、ハルトの魔力の大蛇(だいじゃ)のような(ひかり)(なわ)が男に(おそ)いかかった。


 ハルトの(ひかり)大蛇(だいじゃ)は、運よく男の片足に巻き付いて拘束するとともに、大蛇(だいじゃ)()みつくように、急に閃光(せんこう)(はっ)して()ぜた。


 と同時に、クレッカーはもう一発(いっぱつ)魔力を()ち込んだ。


下手(へた)くそで、時間かかり過ぎだ」

 男は片手で(けん)()るい(ひかり)拘束(こうそく)()(きざ)むと、()き出た火の魔力で、()ぜる瞬間(しゅんかん)(ひかり)大蛇(だいじゃ)(あたま)一打(ひとう)ちした。


 爆ぜた(ひかり)は男に多数(たすう)()(きず)をつけたが、ほとんど男の魔力で打ち消されていたので、男にとってはかすり傷のようなものだった。


 そして、男はもう片方の手で小さな無数(むすう)魔力塊(まりょくかい)を出し、クレッカーの魔力にぶつけて霧散(むさん)させた。


 そして間髪(かんぱつ)いれずに(けん)(かえ)して、()()(ざま)にハルトを()()せた。


 同時に圧倒的(あっとうてき)(りょう)の魔力がクレッカーの目の前で(はじ)けた。クレッカーは右肩(みぎかた)激痛(げきつう)が走ったかと思うと、右肩(みぎかた)より向こうの感覚が一瞬(いっしゅん)()くなった。


 そして、ぬるぬる生温(なまあたた)かいものが(ひたい)をダラダラと流れてくるのを感じた。


「ハ、ハルト、だいじょうぶか?」

 クレッカーは(かた)で息をしながらハルトに話しかけた。


 しかし返事はなかった。


「ハルト!?」

 もう一度()んだが返事はなかった。


 ハルトはクレッカーの横で()()せられていた。


「うまく()たったな。感覚ばっちりだぜ」

 男はニヤリと笑った。


 クレッカーはだめだと思った。ズキズキと頭が(いた)みだし、大量出血(たいりょうしゅっけつ)で立ちくらみがした。これまで、か。


 クレッカーは左手を頭の上にかざし、姿(すがた)(かく)す魔術を使った。


 クレッカーは(いのち)からがら屋敷(やしき)()け出した。


 地主(じぬし)()()り出すどころかハルトの(いのち)さえ()()りにして、とにかく無駄死(むだじ)にを()けるために()げた。


 それは部隊の作戦の失敗を意味した。


 外へ退避(たいひ)すると隊士たちが気付き、「だいじょうぶかっ」と大声で()()ってきた。


 (とお)のく意識の中で、()()せられたハルトの姿(すがた)だけが脳裏(のうり)に残った。


 強力な無力感(むりょくかん)とともに、クレッカーはその場に(どろ)のように(くず)れ落ちた。


 あの日以来、クレッカーは、なぜハルトが()ななければならなかったのか、ずっと自問自答(じもんじとう)していた。


 分かっているのは、絶対的(ぜったいてき)力不足(ちからぶそく)


 だが、そんな(よわ)き者がなぜ戦場(せんじょう)に出なければならない?


 直属(ちょくぞく)安全警備本部(あんぜんけいびほんぶ)部隊長(ぶたいちょう)は、ひとまずクレッカーの生還(せいかん)を喜び、ここまでの任務(にんむ)(ねぎら)ったが、(あん)(じょう)、ハルトの()(だれ)責任(せきにん)かというところまでは言及(げんきゅう)しなかった。


 部隊長にとっては当たり前だった。未熟(みじゅく)な者でも(あた)えられた仕事は一生懸命(いっしょうけんめい)やること。直属(ちょくぞく)の部隊長はその精神(せいしん)のもと、ハルトとクレッカーがこの任務(にんむ)に当たることを疑問視(ぎもんし)しなかったし、(ぎゃく)に二人が精一杯(せいいっぱい)やった上での失敗(しっぱい)非難(ひなん)しなかった。


 だが、クレッカーには強く思うことがあった。間違(まちが)っているのは、この魔術師を取り巻く環境(かんきょう)だ。魔術師の適性(てきせい)無視(むし)した任務(にんむ)不幸(ふこう)(まね)くのだ。


 クレッカーは、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)()り方を変えたいと強く思った。


 クレッカーは魔術師の管理(かんり)一本化(いっぽんか)することを(のぞ)んだ。すべての魔術師の所属(しょぞく)魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)(かえ)す。そして、任務(にんむ)ごとに王都の各部署(かくぶしょ)派遣(はけん)できるようにする。


 今の、部署付(ぶしょづ)き魔術師の(とき)のように迅速(じんそく)な対応はできなくなるが、魔術師の得意不得意(とくいふとくい)()り回されることはなくなる。


 魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)への要請(ようせい)ごとに魔術師を派遣(はけん)すれば、魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)権限(けんげん)が強くなり、魔術師の地位(ちい)も上がる。


 クレッカーは不慣(ふな)れな世界に足を()み入れることにした。長官になってこの魔術師を取り巻く体制(たいせい)を変える。


 クレッカーは決心した。


 だが王都の各部署(かくぶしょ)猛反対(もうはんたい)するだろう。


 魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の権限が強まり、魔術師の地位(ちい)が上がれば、今までのような魔術師の便利遣(べんりづか)いができなくなる。


 各部署(かくぶしょ)反対の変革(へんかく)を、一魔術師(いちまじゅつし)にすぎないクレッカーが提案(ていあん)しても、無視(むし)されて終わりだ。


 そこでクレッカーは賛同者(さんどうしゃ)を注意深く探した。


 ようやく一人、(ゆだ)ねるに(あたい)する人物が(あらわ)れた。


 アンドリュー・ケイマン侯爵(こうしゃく)は自分が大臣(だいじん)になれるなら、魔術師の管理を一本化(いっぽんか)する魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)体制(たいせい)つくりに協力(きょうりょく)する、と言った。


 クレッカーは了承(りょうしょう)した。


 そして今、ケイマン侯爵(こうしゃく)大臣(だいじん)になり、クレッカーは()れて魔術師をすべて管理する魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)を作ることができた。


 クレッカーは長官になり、さらなる魔術師の地位(ちい)向上(こうじょう)(はたらき)きやすさを目指して力を(そそ)いでいる。


 新しい有用(ゆうよう)な魔術を開発(かいはつ)する。すべて魔術師はそれをすぐに(まな)ぶチャンスを()られる。そして魔術師たちは各部署(かくぶしょ)連携(れんけい)しながら(みずか)らの得意(とくい)任務(にんむ)()く。それがクレッカー長官の願い。


 今ここで止まるわけにはいかない。クレッカー長官は気持ちを落ち着かせ、決意を新たにした。そう、多少(たしょう)犠牲(ぎせい)があっても。



お読みくださってありがとうございました!


もし少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、

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