44. 竜を使い王宮を制圧する計画 ~シャールの怒り、俺は竜を駆除して回る、竜を使えると思うな!~
“協力はしない”
エドワードはロベルトがこういうとき、意思が変わることはないので、それ以上は何も言わなかった。
ロベルトはアデルに向かって、冷たい声で続けた。
「それに、例えおまえの話が本当で、そして今後クレッカー長官が自ら別の悪事を働いたとして、おまえはどうやって王都に乗り込むつもりだ? 魔術管理本部からも除籍されているだろう。薄汚いおまえらでは、とうてい王宮の中まで入っていけないぞ。しかも王都の警備兵まで出てきたら、多勢に無勢。あっという間に制圧されて終わりだ」
ロベルトの言葉にアデルは唇を噛んだ。
「ダミアンの時にも思ったが、おまえら実戦経験もあんまりないんだろう?」
とロベルトはさらに言った。
「手は考えているのだ」
アデルは小さな声で言った。
「ほう? 言ってみろ」
ロベルトが冷たく言った。
「我々に手を貸す気はないんだろう? なら言えない」
とアデルも言い切った。
ロベルトはふうっと息を吐いた。
「立場が全く分かってないようだな。俺たちはおまえらを殺すように言われてるんだ。おまえらの価値は俺が今ここで決められるんだ」
ロベルトの声は冷たかった。
アデルはゾッとした。この男は“追っ手”だ。そして“協力もしない”。むしろアデルを殺さない理由がない。
アデルは覚悟を決め、
「……竜を使う」
と、言った。
「竜だと?」
ロベルトは耳を疑い、聞き返した。
「そのために国外から竜を呼び寄せてきたんだ。竜の大群があれば、我々でも王宮の制圧は可能だ」
とアデルは言いたくないことを、絞りだすように言った。
「おっと、私を今ここで殺したところで、この計画は止まらないからな。私にもまだ仲間がいる。彼らが、きちんと計画を遂行してくれる」
アデルは、急に殺気を放ったロベルトを牽制するように言った。
「おまえらが、竜を?」
そのとき、邪魔しないように部屋の隅の方で話を聞くだけだったシャールが、突然声を上げた。
「おまえらのせいだったのか!?」
シャールの声は震えていた。
「竜が増えて国中の民が困っているぞ。その原因はおまえたちなのか? いくつも村が襲われたぞ。たくさんの人が死んだぞ。たとえ命は助かっても、大怪我で一生歩けない者もいるぞ。大やけどで人目を避けて暮らしている者もいる。いったいどれだけの人が家を失ったと思っているんだ……」
シャールは悔しかった。怒りで血が逆流するかと思った。
それから、シャールは安全警部本部のハーマン長官のやつれた顔を思い出した。村が竜に襲われるたびに駆けずり回る警備兵たちの個々の顔も思い浮かべた。
「……どんなに皆が、竜から人を助けようとがんばっていることか」
シャールは射るような目でアデルを見た。
「ああ。わかっている……」
アデルは苦しそうに言った。
シャールはアデルを遮るように叫んだ。
「分かっていない! 警備の者たちが必死の思いで竜を追い払って、人々を守り、救い出し……」
「そうだな。我々の中でも、竜を使うという案が出た時に、真っ先に竜の国民への被害の話が出た。一般の人への影響が大きすぎると。だが、他に手がなかった。そこの魔術師が言った通りだ。こんな弱い我々ではクレッカーと対等に話をするシチュエーションを作るには、竜でも何でも使うしかないのだ」
アデルは下を向いた。
そして言い訳のように
「幸い、竜避けの薬というものが出回り出した」
とアデルは言った。
エドワードがため息を吐いた。
「その竜避けの薬を作ってんのがこの兄妹だ。どーやって作るか教えてやろーか? 竜の巣に潜り込んで薬草を採ってくるんだ。どんなに危険か分かるか? 初めてリーナに会ったとき、こいつ竜に遭遇して死にかけていたぞ。あんまり簡単に言ってくれんなよ」
アデルは目を見開いて、エドワードとリーナの顔を交互に見た。
アデルの目に申し訳なさそうな色が浮かんだ。
シャールはまだ怒りで手が震えていた。
「おまえたちの正義とやらで、たくさんの罪もない人が家や命を失った。おまえたちの正義は、それに値するほどの正義なのか? クレッカー長官が人を殺したのならそれはもちろん悪いことだが、竜に命を脅かされてまで、その悪事を暴きたいなんていう一般市民は、俺を含めていないぞ」
アデルは黙った。
「大方、自分たちの命が狙われていて、こいつはそういうことまでは考えられなかったんじゃないか」
とエドワードはシャールに言った。
「罪もない市民には悪いことをしたな……」
アデルは心苦しく息を吐いた。
シャールはアデルを睨みながら聞いた。
「竜を使うって、おまえたちが作った魔術なのか?」
「ああ。正確にはダミアンが」
とアデルは答えた。
「ダミアンが……」
シャールは茫然とした。
だが、すぐに気を取り直すと、
「今すぐこの村を出て行け!」
と言った。
シャールは怒りがおさまらなかった。リーナは落ち着かせるようにシャールの背に腕を回した。リーナは一瞬、先日のシャールのことが思い出されたが、今はそんなことどうでもよかった。
シャールはアデルを睨みつけたまま、
「妹は、竜を殺める薬を作った。竜は俺たちが駆除して回るからな。今後竜が思うように使えると思うなよ」
とシャールは言った。
アデルは目を見開いた。
「竜を殺める薬だと?」
「ああ。おまえの仲間に伝えるんだな。もう竜は使えないってな!」
シャールはそう言い切ってしまうと部屋を出て行った。一人で考えることが山ほどあった。
ロベルトとエドワードも
「おまえの話はよく分かった。俺らもよく考えないといけない」
とだけ言って部屋を出て行った。
「ええ、このタイミングで、私とアデルさんを二人きりにするの……」
リーナはうんざりと呟いた。そして部屋の荒んだ空気にため息をついた。
そしてアデルの方を向くと、
「私も大方お兄様に賛成よ……。あなたも殺されかけたり、仲間が殺されたり、辛かったでしょうけど、だからといって竜の魔術のことは大目には見れないわ。竜のせいで大怪我をした人を何人も診てますからね」
と言った。
「すまないな、リーナ。おまえが怪我人の手当てや竜の薬を作ってるとは知らなかった」
アデルは頭を垂れた。
「そりゃ知らないでしょう。こんな村娘がまさかね。でも、私、一応薬師なので。それから、まあ、あなたの体調戻るまで、この家から追い出したりはしないわ。それは別件だもの。だから早く体調治してくださいね」
リーナの事務的な口調に、アデルは申し訳なさそうに下を向いた。
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