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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第7部: 真相と決意
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43. アデルの情報、政権交代の裏側 ~だが俺たちはおまえに協力しない~

アデルはベッドの上で上体(じょうたい)を起こした。

「だいじょうぶだ。()んでくれ」


 リーナは(うなず)き、すぐにシャールとロベルトとエドワードを()びに行った。


 (みな)はすぐにアデルの部屋に集まった。


 リーナはシャールの顔を見ると少し顔を赤くして、そっと下を向いた。ロベルトがチラリとその様子を不審(ふしん)そうに見ていた。


「こちらが私の兄のシャール、それから王都の魔術師のロ……」

 リーナがアデルに紹介しようとしたが、ロベルトが途中(とちゅう)(さえぎ)った。


「俺たちは名乗(なの)るわけにはいかない」

 ロベルトは言った。「そういうものか」と思って、リーナは口を()さえて(だま)った。


 シャールはリーナの(かた)(やさ)しく()でて、リーナを(なぐさ)めた。


 そしてシャールはアデルに、

「あなたは何しにこの村に来たんですか?」

とまず(たず)ねた。


アデルは

「ダミアンの(つま)のカレンがこの村にいるだろう? カレンにダミアンが(ころ)されたことを伝えに来た」

と言った。


 アデルは淡々(たんたん)と言ってしまってから、ここにいる者たちが(みな)(おどろ)かなかったことに、かすかに違和感(いわかん)を感じた。


 シャールはアデルの表情に気付いて、すぐに

「ああ、すみません。それは(じつ)はもう、この者たちから、カレンに(つた)わっているんです」

 シャールはロベルトとエドワードを見ながら、アデルに説明した。


 アデルは余計(よけい)怪訝(けげん)そうな顔をした。

 「おまえたちは “追っ手(おって)”だと聞いたが、なぜカレンにダミアンのことを報告したのだ?」


「まー、それは色々あってな。俺たちもよく知らん。ただ上からそうしろと言われたから、そうした」

とエドワードが答えた。


 アデルは少し混乱(こんらん)し、「クレッカーは何を考えている?」と考えを(めぐ)らせた。だが分かるはずもない。


 それから、アデルははっと(われ)(かえ)って、

「ダミアンの()を聞いて、カレンは何か言っていたか?」

とカレンの気持ちを(おもんばか)った。


「あなたはカレンのことも知っているのか?」

とシャールが聞いた。


「ああ。魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)にいた(ころ)何度(なんど)か話したことがある。ダミアンのことは知らせてやりたいと思ってな」

とアデルは答えた。


「カレンと話せたら直接話してやりたいのだが」

とアデルは言った。


 シャールは残念(ざんねん)そうに、

「ダミアンの()真相(しんそう)を知りたいと、王都の魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)(おとず)れに行きました」

と答えた。


「そうか」

 アデルはため息をついた。

「カレンは魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)に行ったのか。だがヤツらは何も語らないだろうな」

(つぶや)いた。


「じゃあ、おまえなら話せることがあるんだな。なぜおまえやダミアンはクレッカー長官(ちょうかん)(いのち)(ねら)われているんだ?」

とロベルトは聞いた。


 アデルはロベルトの目をじっと見た。

「その前に私の方も一つ聞きたいとことがある。私にかけられていた魔術を()したのはおまえか?」


「ああ、私だ」

 ロベルトも、アデルの目を見つめ返した。


「そうか。なら言おう。私を(しん)じるか?」

とアデルはやや(いど)むような言い方をした。


「おまえの話し次第(しだい)だ」

 ロベルトは顔色(かおいろ)一つ変えずに言った。


 アデルは口を開いた。

「クレッカーが、私にかけられたこの魔術を使って、(さき)のグレゴリー大臣(だいじん)殺害(さつがい)した。そして、私たちがそれを知ってしまったからだ。口封(くちふう)じだ」


 部屋中の者が(かた)まった。


「グレゴリー大臣(だいじん)殺害(さつがい)? 何のために?」

とロベルトが聞いた。


「そりゃ聞かなくても分かるだろう? ケイマンを(あたら)しい大臣(だいじん)にして、自分が魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)になるためさ」

とアデルは言った。


 ロベルトは(うなず)きながらも、

「なぜクレッカー長官は魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)になりたかったんだ?」

と聞いた。


 アデルはじっとロベルトを見た。

「それは、最近の魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)改革(かいかく)で何となく分かってきたがな。あいつは魔術師を()()環境(かんきょう)を変えたかったんだと思うぞ」


「ああ。昔に(くら)べてよくなったみたいだなー」

とエドワードは言った。


 アデルはため息をついた。

「クレッカーはクレッカーなりに信念(しんねん)があってやっているのだろう。それは私も否定(ひてい)しない」


 だが、そう言った(あと)で、アデルはぎゅっとベッドの上で(こぶし)(にぎ)った。

「だが。だが、やり方があまりにも卑劣(ひれつ)だ。そして、私の大事な仲間たちを(ころ)した」


 (みな)(だま)った。


 しばらくの沈黙(ちんもく)(のち)、ロベルトが口を開いた。

「おまえにかけられていたこの魔術は(だれ)が作った? おまえらかと思っていたぞ」

と聞いた。


「私ではない、同僚(どうりょう)だ。魔術以外(まじゅついがい)には興味(きょうみ)ないヤツだから、今もクレッカーの下で、何の疑問(ぎもん)も持たず、楽しそうに魔術を作っているさ」

とアデルはマルティスの顔を思い浮かべながら答えた。


「おまえにかけられていた魔術は痕跡(こんせき)(のこ)りにくいものだった。魔術と判別(はんべつ)しにくいから、人は病死(びょうし)だと思うだろうな」

とロベルトが言った。


「ああ。強い魔力をぶつけないからな。体内(たいない)のターゲットをしぼり、(ゆる)やかに魔力を(とど)めさすのだそうだ。何も破壊(はかい)しないから痕跡(こんせき)が見えにくい」

とアデルは説明した。


 ロベルトはさらに続けた。

「これは暗殺用(あんさつよう)に作られたものか?」


「いや、私の同僚(どうりょう)は別に暗殺(あんさつ)とかなんか思って作っちゃいないさ。あいつはただ単純(たんじゅん)に、新しい魔術を作っただけさ。悪いのは、暗殺(あんさつ)に利用したクレッカーだ」

 アデルは真っ直(まっす)ぐな目でロベルトを見た。アデルは、そのへんに関してはマルティスを信じていた。


 ロベルトは(ねん)()すように聞いた。

「おまえの言っていることは本当か?」


 アデルはうんざりした顔をしてみせた。

「じゃあ(ぎゃく)に、おまえらはクレッカーから何を聞いて、私を(ころ)すことになっているのだ? どうせ何も聞かされていないんじゃないのか?」


 ロベルトとエドワードは(だま)った。その通りだったからだ。アデルはそうだろう、といった顔をした。


 (みな)(だま)った。


 と、突然(とつぜん)アデルはしんみりした顔になった。

「おまえたちは、私の仲間の()(ぎわ)を見たか? 何か言っていたか? こうして話せたついでだ、できるだけ教えてくれないか?」

とロベルトとエドワードに(たの)んだ。


 エドワードはアデルに伝えてやろうと思った。


「俺たちはクラウス・モーゼルの()(ぎわ)を見た。クラウス・モーゼルの方はおまえと()症状(しょうじょう)だった。別の追っ手(おって)にやられたんだろう。見つけた時にはもう瀕死(ひんし)で、もはや何か(しゃべ)れる状態(じょうたい)じゃなかった。そのまま()んだ」


「そうか」

 アデルは頭を()れ、手を(むね)の前で組むと目を閉じた。


才能(さいのう)のある、面白(おもしろ)(ヤツ)だった。それでいていつもお(たが)いを助け合う、いいチームメートだった。どれだけ助けられたか」

 アデルは天国の彼が(やす)らかであることを(いの)るように言った。


「……」

 ロベルトとエドワードは(だま)った。


 自分たちと同じように信頼(しんらい)し合う仲間がいて、それを(ころ)されたのだ。さぞ無念(むねん)だろう。それは、分かる。自分たちが看取(みと)った者たちに家族や仲間がいることは考えなかったわけじゃない。


「悪かったな」

 エドワードは(つぶや)いた。


 アデルははっと顔を上げた。

「おまえらは言われてやっただけだろ。おまえらが(にく)いが……一番(にく)いのはクレッカーだ。むしろ、おまえらが彼の死様(しにざま)を教えてくれたことにだけは感謝(かんしゃ)する」

 アデルは一息(ひといき)に言った。


 それから、エドワードは言いにくそうに口を開いた。

「あと、ダミアン・ホースは、俺たちが手を下した」


 アデルははっと顔を上げた。

「ダミアンはおまえらが手を下したのか? おまえらが……」


 アデルはじっとロベルトとエドワードの顔を見つめた。こいつらが、愛する、ダミアンを。


「彼は俺たちに気づいた(あと)、仲間に伝言(でんごん)を伝えようとしていた。おまえはそれを受け取ったんじゃないのか」

とエドワードが言った。


「ああ。それで彼の()を知った」

とアデルはゆっくり言った。


「ダミアン・ホースは見たこともない(ひかり)魔術(まじゅつ)や、変わった(なみ)魔術(まじゅつ)を使って、俺たちに抵抗(ていこう)した。正直びびった」

とエドワードは言った。


 アデルは(むね)()め付けられる思いがした。彼は(ひかり)の魔術が得意だった。そして、私は(なみ)の魔術……。ダミアンは(なみ)の魔術も使ったのか……。


 それからアデルは冷たい目をロベルトとエドワードに向けた。

「そしておまえらは、ダミアン・ホースを(ころ)しておきながら、それを(みずか)らカレンに伝えに来たと? おまえら性根(こんじょう)(くさ)ってんな」


「それはもう、重々承知(じゅうじゅうしょうち)。やりきれなくて、それでこの兄妹(きょうだい)()()んだ」

 エドワードはいたたまれなくて、頭をかいて言った。


 アデルはそのエドワードの様子を見て、この男ならいけるかも、と思った。


 あでるは急に

「私はクレッカーの悪事(あくじ)(あば)きたい。おまえたち、私に協力(きょうりょく)してくれないか」

と言った。


 はっとして、ロベルトとエドワードは(だま)り、空気(くうき)()()めた。


 政権(せいけん)をとるために、グレゴリー元大臣を暗殺(あんさつ)するというクレッカー長官のやり方は、どんなに政治的信念(せいじてきしんねん)があっても(ゆる)されるものではない。


 また、ロベルトとエドワードは、アデルが大事な仲間を(ころ)された無念(むねん)さにひどく同情(どうじょう)していた。ロベルトとエドワードは二人で死線(しせん)を何度もくぐり()け、もはやかけがえのない相棒だったから、片方が何者かに(ころ)されれば、必ず復讐(ふくしゅう)するだろうと思った。


 だが、ロベルトの頭に、優秀(ゆうしゅう)な父や兄たちの姿(すがた)が思い浮かんだ。ひいては “(いえ)”が思い出された。


「アデル。おまえは俺に何を(のぞ)むのだ。協力(きょうりょく)とは具体的(ぐたいてき)に何だ?」

 ロベルトは聞いた。


「おまえの魔術を()す魔術だ。グレゴリー大臣のときは、結局、グレゴリー大臣の症状(しょうじょう)が、病気なのかマルティスの魔術なのかを見分けることができなかった。だが、おまえの、魔術を()す魔術なら、今後クレッカーがこの魔術を使って(だれ)かを暗殺(あんさつ)する時に、この症状(しょうじょう)が病気なのかマルティスの魔術なのか見分けられる。クレッカーの悪事(あくじ)証明(しょうめい)できるはずだ」

 アデルは一気(いっき)に言った。


 ロベルトはしばらく考えていた。


「そういうことなら、」

 ロベルトが口を開いた。


「おまえに協力(きょうりょく)するわけにはいかないな」

 ロベルトははっきりした口調(くちょう)で言った。


 エドワードもなんとなくロベルトが(ことわ)るのではないかと思っていた。アデルの話が本当なら、クレッカー長官は殺人者(さつじんしゃ)だ。だが、アデル自身(じしん)(けん)だってそうだが、もはや、クレッカー長官の手下(てした)の魔術師が、マルティスの魔術とやらを使っている。クレッカー長官はもう今後(こんご)尻尾(しっぽ)を出すことはない。


「この女の話だけじゃな。もう()くなってしまっているグレゴリー大臣のことじゃ、今更(いまさら)証拠(しょうこ)もクソもない。それに、まず、この女の話が本当か分からない。しかも、クレッカー長官がここまできて、これから尻尾(しっぽ)を出すと思うか? そんなあやふやな話には()れない」

と、ロベルトは言い切った。


「情報はありがたかった。だが、とりあえず、俺はおまえとは行動(こうどう)(とも)にしない」

 ロベルトはアデルに向かって(つめ)たく言い放った。



お読みくださってありがとうございます!


ブックマーク、ご評価★★★★★、どうもありがとうございました!! 本当に嬉しいです!


とても励みになります!

ありがとうございました。

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