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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第7部: 真相と決意
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42. アデルの目覚め 〜なぜ私は生きているのか? うわ言でダミアンの名を呼ぶ、その心と〜

「ダミアン……聞こえているか、ダミアン……」

 アデルがうなされてダミアンの名を()んだ。


 アデルは少し体調(たいちょう)改善(かいぜん)したらしく、眠りながら、たまにダミアンの名を口走(くちばし)るようになった。


 看病(かんびょう)するリーナは、ダミアンはカレンの(おっと)だけどなあ? と思いながらも、深くは考えず、ただ、またか、とだけ、思っていた。


 アデルがダミアンの名を()ぶときは意識が少し(もど)りかけのときのようで、リーナはその時を(ねら)ってアデルの口元(くちもと)に水や(うす)(かゆ)を運べば、アデルの口元(くちもと)を多少湿(しめ)らすことができた。


 しかし、アデルはまた深い眠りに落ちていく。いくらロベルトの魔術で(なお)ったとはいえ、極限状態(きょくげんじょうたい)の体調から回復(かいふく)するには、少し時間がかかるようだ。


 アデルはダミアンの夢を見ていた。魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)の暗い書庫(しょこ)でかび(くさ)い本の背表紙(せびょうし)を一つ一つ調べながら目的の本を探すダミアンに、アデルは一生懸命(いっしょうけんめい)に声をかけるが、その声は(とど)かない、という夢。


「ああ、ダミアン……」

 アデルは(なげ)きながら、ふと目を()ました。頭が痛い。


「ダミアン……?」

 アデルは夢と現実がごっちゃになり戸惑(とまど)った。


 高い天井(てんじょう)(ととの)えられた部屋、清潔(せいけつ)布団(ふとん)。ここはどこだ? どういう状況(じょうきょう)だ?


 私は、例のマルティスの魔術をかけられて、()ぬのではなかったか? なぜ()きている?


「あ、良かった、目が()めましたか?」

 リーナが微笑(ほほえ)んだ。


「ここはどこだ?」

とアデルは(いぶか)しげに聞いた。


「ここは私の家」

 兄や客人(きゃくじん)(魔術師)にバレて、もう納屋(なや)に置いておく必要がなくなったので、リーナは使用人たちに(たの)んで、アデルを家の客間(きゃくま)に移してもらっていた。


 看病(かんびょう)も使用人に手伝ってもらい、ベナンとグレースに(たの)む必要がなくなって、リーナはほっとしていた。


「おまえは(だれ)だ?」

とアデルは(うたが)い深い目でリーナを見た。


「私はリーナ。それより、体調(たいちょう)の方はだいじょうぶですか? 気持ち悪いとか頭が痛いとかないですか?」

とリーナは普通に聞いた。


「頭が痛い。だがそれより、あなたが助けてくれたのか? 私は厄介(やっかい)な魔術にかけられていたはずだが」

とアデルは言った。


「あら、そこまでご自分で分かっていらっしゃったのね? ちょうど特殊(とくしゅ)な魔術使える人がいて、あなたにかけられていたものを()してくれました。お(かげ)快方(かいほう)に向かって、本当に良かったわ」

 リーナは(おだ)やかな笑顔を浮かべて言った。


 アデルはまだ頭がぼーっとしていたのだが、

「魔術で消した、と言ったか?」

と聞き返した。


 アデルの脳裏(のうり)に、()んでいった仲間たちの顔が浮かんだ。ダミアンの(おだ)やかな顔も。


 見つけたぞ、お前達。


 “魔術を消す魔術” だ。


 これで、次に何か起これば、(ヤツ)悪事(あくじ)(あば)くことができるかもしれない。


 リーナは急にアデルが(だま)ったので、不思議(ふしぎ)そうな顔をして、

「ええ。あ、でも、あんまり使える人のいない魔術だって聞きましたよ」

(ねん)のため言った。


「ああ、そうだな……知ってる」

 アデルは目を()じた。少し満足げな顔だった。


 しかし、リーナはアデルが自分の世界にこもるのを(ふせ)ぐように、

「まずはこの薬湯(やくとう)飲んでください。お(かゆ)も受け付るようなら少し食べてみて」

湯呑(ゆの)みを押し付けた。


 しかし、アデルが目を()じたきり()けないので、リーナはアデルの(うで)をとり、ぐいぐい()さぶった。

「ん?」

 アデルは目を開け、まずリーナの顔を見てから、()し付けられた薬湯(やくとう)気付(きづき)き、一気(いっき)に飲み()した。


 リーナは、この人、人の話聞くの苦手(にがて)そうね、と思った。


「私は何日ここに?」

 アデルは聞いた。


「一週間くらいかしら」

とリーナは答えた。


 一週間。よく助かったものだ。アデルは思った。


「ありがとう」

 アデルはリーナの目を見て言った。アデルの目は綺麗(きれい)だった。


「ここのところ、ずっとうわ(ごと)で、ダミアンの名前を()んでいましたよ。知り合いですか? (むかし)(ゆめ)でも?」

とリーナはアデルを刺激(しげき)しないよう、(おだ)やかに聞いた。


「そうか、私はダミアンの名を()んでいたのか……」

 アデルは(つぶや)いた。


 ダミアン、私はおまえを(ほっ)していたのか? どうか教えてほしいのに、もうおまえはいない。


 アデルは(ちゅう)(あお)いだ。


 リーナはアデルの横顔に(せつ)なさが()かんでいるのに気付(きづ)いた。この人は、ダミアンのことを(おも)っていたのかもしれないな。ダミアンはもう()くなってしまっている、が。


 そうか、だからカレンに会いにきたのか? ダミアンはカレンの(おっと)なのだから。


と、リーナはふっと思った。


「アデルさん、ですよね」

とリーナがその名を()ぶと、アデルはビクッとした。


「なぜ私の名前を?」

とアデルは少し強い口調(くちょう)で聞いた。


「あなたの魔術を消してくれた人が言ってました」

 リーナは注意深くアデルの顔を見ながら言った。


 アデルは急に頭が()えたようで、

「そうだ、魔術を消したってことは、そいつも魔術師だよな? 私の追っ手(おって)ではないのか?」

 とリーナに()()った。


「はい、たぶん追っ手(おって)です」

とリーナは冷静に答えた。


 アデルは絶句(ぜっく)した。

「お、追っ手(おって)……」


「はい」

 リーナはやはり平静(へいせい)に答えた。


「ではなぜ私は()きているんだ?」

 アデルは理解(りかい)に苦しむような顔をした。


「落ち着いてください。私たちは、あなたの話を聞きたいんです。ダミアンのこともあるから」

 リーナは丁寧(ていねい)に答えた。


 アデルは呆気(あっけ)に取られた。


 どんな状況(じょうきょう)だ? クレッカー長官(ちょうかん)からの追っ手(おって)だろう? 追っ手(おって)が私を(ころ)さずに、私から話を聞く? ダミアンの(けん)と言ったか? 


「話を聞く」ということは、この者たちは何か(かん)づいているのか?


 リーナにはアデルが戸惑(とまど)っていることが少し分かった。


追っ手(おって)の人もあなたにかけられていた魔術を見て、何か普通じゃないなと思ったみたいなの。何かがあるんじゃないかって。だから、あなたの話を聞きたいんだと思うわ」

 リーナは軽く説明した。


「ああ、そうなのか。だが……。この症状(しょうじょう)、よく魔術と分かったな」

 アデルはリーナの顔をじっと見て言った。


「まあ……。よほどの病気じゃなければ、(くすり)で多少は良くなったりするはずだったんだけどね、あなたの場合はちょっと違ったから」

 リーナは苦笑(くしょう)した。


「そうか」

 アデルは、マルティスが以前、 “(くすり)()かなきゃ(ぼく)魔術(まじゅつ)です”と言ったのを思い出した。その通りだったな、マルティス。


「おまえが薬を?」

とアデルはリーナに聞いた。


「ええ、まあ、少し(たしな)みが」

 リーナは微笑(ほほえ)んだ。


「すまない、ありがとう」

 アデルは頭を下げた。


「それはいいとして、私たちはあなたから話を聞きたいし、あなたもこの村に来た理由があるんじゃないかしら。 話せる? 話せるなら(みな)()ぶわ。後日(ごじつ)の方がよければそうするし」

 リーナは提案(ていあん)した。


 リーナの口ぶりからすると、追っ手(おって)という者は何かを(うたが)っていて、(こと)次第(しだい)によっては我々の味方(みかた)になってくれるかもしれない。ならば急ぐ方が良い。


 アデルはリーナに(うなず)いて見せた。

「だいじょうぶだ。今すぐその者たちを()んでくれ」

お読みくださってありがとうございます!


また、ブックマークありがとうございます! とても、とても感動しました! 本当に励みになります!

ありがとうございました!


今後とも、どうぞ、よろしくお願い致します!

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