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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第6部: 竜を殺める毒
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41. いまさら、義理の兄を 男としてみられるのでしょうか

 リーナが走っていったのは、ベナンとグレースの家だった。これまでずっと、あのアデルという女の人の看病してくれてたのだ。ベナンとグレースに状況説明しなくてはならない。


「ベナン、グレース、いる?」

 家の中で炊事(すいじ)の準備をしていたベナンとグレースは何事(なにごと)かと(あわ)てて出てきた。


「どうしたの、リーナ!」

 ベナンとグレースは(かた)(いき)をしているリーナを見て(おどろ)いた。


「ベナン! グレース! あのさ、あの女の人、助かったわ! 今まで、本当の本当に、ありがとう!」

 リーナはまだ、はあはあ言いながら、とにかく伝えたい言葉を()()るように言った。


 リーナの言葉にグレースはにっこり笑った

(なお)ったって聞いたわよ。ほんとに良かったわ」


「え? 聞いた?」

 リーナは怪訝(けげん)そうな顔をした。


「ああ、納屋(なや)の外でイケメン魔術師さんたちに会ったのよ。そこで聞いたわ」

とグレースは言った。


「イケメンと話せて(うれ)しかったわー」

 ふふっとグレースは笑った。ベナンは妹の笑顔に不満(ふまん)そうな顔をしていた。


 だが、あの女の人の容体(ようだい)が良くなったのには心から安心したらしく、

「ようやく(まくら)を高くして眠れるわー」

と明るい声を出して言った。


 二人の様子を見てリーナは少しだけ心が軽くなった気がした。

「本当に二人のおかげよ」

 リーナは深々(ふかぶか)と頭を下げた。


「ちょっと、いいんだよ。こーゆーのはお(たが)いさまだろ」

とベナンはかぶりを()った。


 ただ、グレースは少し心配そうな顔をした。

「でも、(みんな)にバレちゃったんでしょう? それはだいじょうぶだったの? バレてはいけなかったんじゃないの?」


 リーナの顔も(くも)った。

「そうなの。これからあの女の人の目が()めたら、いろいろ分かるし、いろいろ状況(じょうきょう)も変わると思うわ」


「それより、シャールにもバレたんだろう? だいじょうぶだったか?」

とベナンは心配そうに聞いた。


 ベナンは、リーナがシャールに(だま)っていたことが一番(いちばん)心配だった。(ひと)(かくま)う、そんな大事件を、大切な妹に(かく)されていたら? ベナンには、シャールの気持ちが(いた)いほど分かった。


「だいじょうぶ……じゃなかったかもしれない」

とリーナは(つぶや)いた。


 やっぱり! ベナンは思わずリーナに近づき、シャールの気持ちの(ひと)つでも代弁(だいべん)してやろうと思った。


 しかし、その時グレースが、

「リーナ? ちょっと外に出ましょうか」

と、グレースがリーナと二人きりになれるように、リーナを外に()れ出そうとした。


 ベナンもついて来ようとするので、

「兄さんはちょっと遠慮(えんりょ)して」

とグレースは言った。


「おい、リーナの様子、だいじょうぶじゃねーだろ。俺のことは仲間はずれかよ」

とベナンが不服(ふふく)そうに言うので、

「ちょっとね。女には女の話があるときもたまにはあるから」

とグレースはベナンに有無(うむ)も言わせずリーナを外に連れ出した。


 グレースはリーナと人気(ひとけ)のない畦道(あぜみち)を歩いた。

「あのさ、リーナ。言わなきゃいけないことあるんだけど。あなたとシャールが本当(ほんとう)兄妹(きょうだい)じゃないって、ロベルトとエドワードに言っちゃったのよね」

とグレースは切り出した。


「え? あ、そっか、あの二人には言ってなかったんだっけ」

 リーナは今気づいた、といった声を出した。


「ちょっとショックだったみたいだわ。特に金髪の方が」

とグレースが言った。


 金髪……エドワードの方か、とリーナは思った。エドワードはどう思ったろう。


 今となっては、シャールのリーナに対する行動には、数々(かずかず)の思い当たる(ふし)があった。つまり、兄妹以上(きょうだいいじょう)(おも)いの端々(はしばし)がシャールの行動には(あらわ)れていた。そして、それはエドワードの目にも()まっていたに(ちが)いなかった。


 リーナは整理(せいり)のつかない気持ちになって、全部()き出してしまいたくなった。リーナはグレースの手をぎゅっと(にぎ)った。


 グレースは(ひさ)しぶりのことで(おどろ)いたが、(てのひら)(やさ)しく(つつ)み返した。


 リーナが、重い口を開いた。

「あのさ、グレース。シャールの(おも)いを聞いてしまったの」


 グレースは一瞬(いっしゅん)止まった。え? シャール?

「はえ? まじで? シャールが、あんたに(おも)いを言ったの?」


「うん」


(おも)いって、そういうことよね?」

 グレースは信じられなくて聞き返した。


「うん」

 リーナは消え入りそうな小さな声で答えた。


「ああ〜、それは想定外(そうていがい)だったわ……」

とグレースは空を(あお)いだ。


 しかし、グレースは言ってしまってから、しまったと思った。

「ごめんごめん、想定外(そうていがい)とか言っちゃって。シャールっぽくないなと思っただけよ」


 だが、昼間のエドワードの「手遅(ておく)れだ」とはっきり言った様子を思い出して、なんとなくだが、グレースもシャールの気持ちが分かった気がした。あのエドワード見てたらシャールもアテられてしまったのかもしれない。


 リーナがあの女の人を(かくま)うことをシャールに(かく)したかがっていたことは、グレースはベナンから聞いていた。ベナンもグレースも、シャールには言うべきだと思っていた。だが、リーナは、これ以上(あに)迷惑(めいわく)をかけたくない、と思ったそうだ。


 シャールはそのリーナのその遠慮(えんりょ)が、もう我慢(がまん)できなかったのだろう。

 なぜ俺に遠慮(えんりょ)する、なぜ俺を(たよ)ってくれない、俺は全人生(ぜんじんせい)をおまえに(ささ)げるのに!


 グレースはシャールの切ない気持ちに少しだけ共感した。


 それから、リーナの顔をじっと見て、

「ごめん。言いにくいことは言わなくていいんだけど、リーナはどう思ったの?」

と聞いた。


「私がエドワードになんとなく()かれてるんじゃないかってシャールに言われて。そうなのかとも思ったり。でもエドワードにも、ちょっと言えないんだけど、色々あって……。えーっと、頭ん中ぐちゃぐちゃで、あんまりちゃんと説明できない……」

 リーナは小声で言って、頭を(かか)えた。


「でも、そんなことより……」

 リーナは真面目(まじめ)な顔をして、グレースを見た。

「ねえ、グレース、お兄様のこと、いまさら、(あに)じゃなくて(おとこ)として見られるものなのかしら?」

 リーナはひどく真剣(しんけん)な顔をしていた。


 グレースは微笑んだ。

「リーナしだいよ。正直(しょうじき)、ベナンならキッツイけど、シャールはリーナの前でもちゃんとしてんじゃん。村長代理(そんちょうだいり)もこなすしさ。(たよ)りになるしさ。ふだん気にしてなかったけど、イケメンだしさ」

とグレースはそれとなくシャールの良さをアピールしてみた。


 リーナは顔を真っ赤にしている。

「わ、私は、お兄様のこと、お、男の人って思ったことなかったから、胸板(むないた)も大きかったし、力も強くて、そういうこと言われて()きしめられたら、ドキドキした……」


()きしめられたって、何よ、どさくさに(まぎ)れて、シャールそんなことしてんの?」

 グレースは、シャールやるじゃん、と心の中で思った。


「で、でも、グレース、男の人とは、だ、抱きしめたりとか、キ、キスをしたりとか、そ、そういうことだけじゃないでしょう?」

 グレースはリーナが思っていることを(さっ)した。


「リーナ。たぶん、シャールもエドワードも、あんたの全部を欲しいと思ってると思うわよ」

とグレースはそっと言った。


「でもきっと、二人とも、今すぐになんて思ってないと思う。ちゃんとリーナの気持ちを待ってくれると思う。それに、男女(だんじょ)って、そういうことするだけじゃないでしょ? ()()うにしろ、結婚(けっこん)するにしろ、人生(じんせい)二人(ふたり)色々(いろいろ)楽しんだり()()えていくものだと思う。って、(えら)そうに言ってるけど、私、結婚(けっこん)したことないけど」

 グレースはペロッと(した)を出した。


 リーナは(うる)んだ目でグレースを見て、そっかと(うなず)いた。


 グレースは安心させるように微笑(ほほえ)んだ。

「ゆっくり考えたらいいんじゃない? あんたが、結局(けっきょく)どっちと一緒(いっしょ)にいたいか、さ」


 リーナは(うなず)いた。


 リーナにそう話しつつも、グレースには思うこともあった。


 所詮(しょせん)、エドワードはこの村の訪問者(ほうもんしゃ)でしかない。いずれはいなくなる。グレースには、エドワードがこの村に来た理由も何も知らない。


 グレースには、ただこの村の平安(へいあん)(のぞ)(みな)を助けるシャールは、信じるに(あたい)する男だと思う。シャールがリーナを(もと)めているなら、ただ応援(おうえん)してやりたい。


 でも、それはグレースの願望(がんぼう)であって、どちらを(えら)ぶかはリーナの決めることだ。

「いいのよ。リーナ。自分のペースでゆっくりとね」

 グレースはリーナに優しく言った。


  そして少しだけ、兄ベナンのことを思い出したが、うん、ベナンには出る幕はないな! とグレースは苦笑した。


 急にグレースが苦笑したので、リーナは(いぶか)しげに

「何?」

と聞いた。


「いや~、すごいタイミング、と思って。だって、つい先日、うちのベナンにも縁談(えんだん)の話が来たのよ?」

 グレースは笑った。


「え! ベナンにも? すごいじゃない。相手は(だれ)なの!」

 リーナも興奮(こうふん)した。女子(じょし)はこういう話は大好き。


「それが、隣村(となりむら)の女の人みたいよー。うちの村長さんが話持ってきた。ここのところ(りゅう)騒動(そうどう)で、ベナン、隣村(となりむら)何度(なんど)か行ったじゃない? そこで何か見染(みそ)められたんじゃないかしら」

とグレースは言った。


「すごいすごい! ベナン喜んでる?」

とリーナは聞いた。


「いや、びみょー」

 グレースは苦笑した。


「えええ! 何で微妙(びみょう)なの!?」

 リーナが意外(いがい)そうな顔をした。


 グレースは、やっぱり何も気づいちゃいないのね、と思いながらリーナを見ていたが、

「ま、でも、今日のシャールの話を聞いちゃあ、ベナンも(あきら)めて、話受(はなしう)けるんじゃないかしら」

(つぶや)いた。


「どう言うことー!」

 リーナは説明してといった顔をした。


 しかし、グレースは何も言わず、

「ま、うちら兄妹(きょうだい)は、あんたたちの幸せ、(ねが)ってるからね?」

と笑顔で言った。

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