40. 義理の兄、シャールにキスされてしまった!
シャールは、眠るアデルの横で時間を見てはアデルの口元に水を運ぶリーナを見ながら、
「ずっとベナンとグレースとで看病していたのか?」
と聞いた。
「ええ。実は昼間はベナンとグレースが交代で見てくれて、私は夜だけ」
とリーナは答えた。
「そうか。気づかなかったよ。大変だったな。だが、リーナ、なぜ言ってくれなかった?」
とシャールは静かな声で言った。
「ごめんなさい。言えなかったの。なんとなく、この女の人のこと、ロベルトとエドワードにはバレてはいけないと思ったの。案の定あの二人はこの女の人のこと知ってたわ……」
とリーナはため息をついて言った。
「俺にはバレてもいいだろう」
とシャールはムッとしながら言った。
「ううん、ロベルトとエドワードにバレて良くないことが起きたら、きっとお兄様にも迷惑がかかると思って……。ただでさえ、こんな私を家に置いてくれて……。これ以上お兄様に迷惑かけられないし」
とリーナは申し訳なさそうに言った。
「迷惑だなんて! おまえのことは俺が一生を背負って責任をとってやるつもりでいる」
シャールはリーナの肩に手を回して、リーナの顔を覗き込んだ。
「そんなわけにはいかないわ……ただでさえ血が繋がってないのよ! 私はお母様のただの、連れ子で……」
とリーナは消え入りそうな声で言った。
「それ以上言わなくていい」
とシャールはピシッと言った。
「言うわよ。お兄様に良縁が見つからないのも私のせいだって……」
とリーナは首を横に振りながら言った。
「そんなことを心配していたのか? 俺はおまえが傍にいて笑っていてさえくれれば十分だ」
シャールは呆れながら、きっぱりと言った。
「お兄様はどれだけ自分を犠牲にするの? 私が竜の薬を作れるから? だからお国のためにも私を大事にしてくれようとしてくれているの?」
リーナは兄に申し訳なく、弱々しく言った。
「リーナ、もう、しゃべるな!」
シャールは改まってリーナの向かいに座って、リーナの顔を見た。
リーナはシャールの真面目な顔にびくっとした。
シャールは、少しためらっていたが、リーナの肩を自分の方に寄せ、そっと顔を近づけた。
「お兄様?」
リーナは驚いて目を見開いたが、あまりのことに体が硬直して動かなかった。
シャールの指がリーナの頬を優しく包み、シャールの、柔らかい髪がリーナのり顔に触れた。
シャールはゆっくりとリーナの唇に自分の唇を重ねた。
リーナは真っ赤になった。
「お兄様!」
リーナはシャールの体を押し戻そうとした。
しかし、シャールの力は強くて、リーナはシャールの腕の中で身動きが取れなかった。
「リーナ。俺はおまえが、好きだ」
シャールはずっと、ずっと、言いたかった言葉をリーナの耳元で言った。
本当はこんなタイミングで言うつもりはなかった。もう少し、リーナが自分を男として見てくれてから言うつもりだった。ましてや、こんな形で、リーナにくちづけするなど。
だが、リーナに遠慮されている自分に我慢がならなかった。
少し前までは兄であることで満足していたが、今はリーナにとって、もっと特別な存在でありたかったから。
リーナを、一番近くで守れる男でありたい。
エドワードなどという王都から来た魔術師に、リーナを奪われるなど以ての外だ。
「もう、ずっと前から、リーナは、俺にとって、ただ一人の、女性だ」
とシャールはゆっくりと、すべての気持ちを吐き出すように、心から言った。
「お兄様」
リーナはシャールの腕の中で涙が出てきた。
「リーナは、少しも俺のことを兄以上には見てくれない。前まではそれでもよかったんだが。こうして生活を守るためには、な。だが、まるで自分のことを厄介者のように言うのはやめてくれ」
シャールはリーナの頭を撫でた。
「お兄様、私は何も気付かずに……」
リーナは自分の不甲斐なさにシャールの胸に顔を埋めた。
「分かっているよ。何年おまえの兄をやってると思ってる。おまえにそんな気は微塵もないだってよく分かってる。リーナが、エドワードに無意識に惹かれてるのもね」
「え」とリーナはシャールの言葉に身じろいだ。だがシャールはリーナを離さなかった。
「本当にあのエドワードと言う男は困ったものだよ。おまえの気持ちを奪っておいて、尚且つおまえに手まで出して」
シャールは苦々しそうに言った。
「お、お兄様、ごめんなさい……」
リーナが言いかけると、シャールはそれを遮るように、
「勝手なことをしてしまって悪かった。おまえの気持ちも考えずに。許してくれ。もう、しないから。だが、エドワードのことを考えるときは、アイツが、人殺しだってことを忘れないでくれ。すまない、エドワードが人殺しという予感がずっとあって、あいつがおまえを傷つけるのではないかと、俺ははらはらするんだ」
とシャールはいった。
そしてシャールはゆっくりとリーナを離した。
そして優しい目でしっかりとリーナを見つめて
「少しは俺のことも思ってくれ」
と微笑んだ。
「俺はおまえを待ち続けるから」
「お兄様、私は……」
リーナは何か言いかけたが、何を言ったら良いかわからなかった。
シャールもリーナのそんな調子がよく分かったので、にっこりして、
「ま、考えたくない話だけど、エドワードは王都の貴族の子息だろ? 身分の差もあるしな。いつでも俺のもとに戻ってこい。何度も言うぞ、俺は責任を持って一生おまえを守っていくから」
と、少し軽めの口調で言った。
それから、
「さて。この話はここまでだ」
と言った。
そして納屋を見渡した。
「さて、この状況、もう、俺にもロベルトやエドワードにもバレたんだ。患者を納屋に置いとくわけにはいかんだろ? うちへ運ぼう。看病も楽になる」
とシャールは言った。
シャールは外に待たせていた使用人に声をかけて、腕っ節の強い者を数人連れて来させ、アデルを屋敷の客間へ運ぶように命じた。
リーナはシャールがテキパキと指示を出す様子をぼーっと眺めていたが、頭が混乱していて何も考えられなかった。
使用人にが丁寧にアデルを運ぶ後ろから、シャールはリーナの肩を抱き、まるで何事もなかったかのように、リーナを支えて屋敷へと戻ろうとした。
リーナに気持ちを伝えても、結局俺の日常は変わらないのだろうな。シャールは自嘲気味に思った。俺はただ、今この瞬間を、リーナの傍にいられることを喜び、リーナを守っていくのだ。
リーナはシャールに支えられながら家の方にぼんやり歩いていたが、急にはっとして、シャールの手を振り解いた。
「リーナ、どうした?」
急のことだったので、シャールは驚いて声を上げた。
リーナはシャールには何も言わなかった。ただ、何かの責務に追われるように、家とは反対の方向に走りはじめた。
お読みくださってどうもありがとうございます!
もしほんの少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、
「ブックマーク」や、下の「ご評価☆☆☆☆☆」、の方、
お手数ですが、どうぞよろしくお願いいたします!
今後の励みになります!