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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第6部: 竜を殺める毒
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40. 義理の兄、シャールにキスされてしまった!

 シャールは、眠るアデルの横で時間を見てはアデルの口元(くちもと)に水を運ぶリーナを見ながら、

「ずっとベナンとグレースとで看病(かんびょう)していたのか?」

と聞いた。


「ええ。実は昼間はベナンとグレースが交代(こうたい)で見てくれて、私は夜だけ」

とリーナは答えた。


「そうか。気づかなかったよ。大変(たいへん)だったな。だが、リーナ、なぜ言ってくれなかった?」

とシャールは静かな声で言った。


「ごめんなさい。言えなかったの。なんとなく、この女の人のこと、ロベルトとエドワードにはバレてはいけないと思ったの。(あん)(じょう)あの二人はこの女の人のこと知ってたわ……」

とリーナはため息をついて言った。


「俺にはバレてもいいだろう」

とシャールはムッとしながら言った。


「ううん、ロベルトとエドワードにバレて良くないことが()きたら、きっとお兄様にも迷惑(めいわく)がかかると思って……。ただでさえ、こんな私を(いえ)()いてくれて……。これ以上お兄様に迷惑(めいわく)かけられないし」

とリーナは(もう)(わけ)なさそうに言った。


迷惑(めいわく)だなんて! おまえのことは俺が一生(いっしょう)背負(せお)って責任(せきにん)をとってやるつもりでいる」

 シャールはリーナの(かた)に手を回して、リーナの顔を(のぞ)()んだ。


「そんなわけにはいかないわ……ただでさえ()(つな)がってないのよ! 私はお母様のただの、()()で……」

とリーナは消え入りそうな声で言った。


「それ以上言わなくていい」

とシャールはピシッと言った。


「言うわよ。お兄様に良縁(りょうえん)が見つからないのも私のせいだって……」

とリーナは首を横に()りながら言った。


「そんなことを心配していたのか? 俺はおまえが(かたわら)にいて笑っていてさえくれれば十分(じゅうぶん)だ」

 シャールは(あき)れながら、きっぱりと言った。


「お兄様はどれだけ自分を犠牲(ぎせい)にするの? 私が(りゅう)の薬を作れるから? だからお(くに)のためにも私を大事にしてくれようとしてくれているの?」

 リーナは兄に(もう)(わけ)なく、弱々(よわよわ)しく言った。


「リーナ、もう、しゃべるな!」

 シャールは(あらた)まってリーナの向かいに(すわ)って、リーナの顔を見た。


 リーナはシャールの真面目(まじめ)な顔にびくっとした。


 シャールは、少しためらっていたが、リーナの(かた)を自分の方に()せ、そっと顔を近づけた。


「お兄様?」

 リーナは(おどろ)いて目を見開(みひら)いたが、あまりのことに体が硬直(こうちょく)して動かなかった。


 シャールの指がリーナの(ほお)(やさ)しく(つつ)み、シャールの、(やわ)らかい(かみ)がリーナのり顔に()れた。


 シャールはゆっくりとリーナの(くちびる)に自分の(くちびる)を重ねた。


 リーナは真っ赤になった。

「お兄様!」

 リーナはシャールの体を()(もど)そうとした。


 しかし、シャールの力は強くて、リーナはシャールの(うで)の中で身動(みうご)きが取れなかった。


「リーナ。(おれ)はおまえが、()きだ」

 シャールはずっと、ずっと、言いたかった言葉をリーナの耳元(みみもと)で言った。


 本当はこんなタイミングで言うつもりはなかった。もう少し、リーナが自分を男として見てくれてから言うつもりだった。ましてや、こんな形で、リーナにくちづけするなど。


 だが、リーナに遠慮(えんりょ)されている自分に我慢(がまん)がならなかった。


 少し前までは兄であることで満足(まんぞく)していたが、今はリーナにとって、もっと特別(とくべつ)存在(そんざい)でありたかったから。


 リーナを、一番近くで守れる男でありたい。


 エドワードなどという王都から来た魔術師に、リーナを(うば)われるなど(もっ)ての(ほか)だ。


「もう、ずっと前から、リーナは、俺にとって、ただ一人の、女性だ」

とシャールはゆっくりと、すべての気持ちを()き出すように、心から言った。


「お兄様」

 リーナはシャールの(うで)の中で(なみだ)が出てきた。


「リーナは、少しも俺のことを兄以上(あにいじょう)には見てくれない。前まではそれでもよかったんだが。こうして生活を守るためには、な。だが、まるで自分のことを厄介者(やっかいもの)のように言うのはやめてくれ」

 シャールはリーナの頭を()でた。


「お兄様、私は何も気付(きづ)かずに……」

 リーナは自分の不甲斐(ふがい)なさにシャールの(むね)に顔を(うず)めた。


「分かっているよ。何年(なんねん)おまえの兄をやってると思ってる。おまえにそんな気は微塵(みじん)もないだってよく分かってる。リーナが、エドワードに無意識(むいしき)()かれてるのもね」


 「え」とリーナはシャールの言葉に()じろいだ。だがシャールはリーナを(はな)さなかった。


「本当にあのエドワードと言う男は(こま)ったものだよ。おまえの気持ちを(うば)っておいて、尚且(なおか)つおまえに手まで出して」

 シャールは苦々しそうに言った。


「お、お兄様、ごめんなさい……」

 リーナが言いかけると、シャールはそれを(さえぎ)るように、


勝手(かって)なことをしてしまって悪かった。おまえの気持ちも考えずに。(ゆる)してくれ。もう、しないから。だが、エドワードのことを考えるときは、アイツが、人殺(ひとごろ)しだってことを(わす)れないでくれ。すまない、エドワードが人殺(ひとごろ)しという予感(よかん)がずっとあって、あいつがおまえを(きず)つけるのではないかと、俺ははらはらするんだ」

とシャールはいった。


 そしてシャールはゆっくりとリーナを(はな)した。


 そして(やさ)しい目でしっかりとリーナを見つめて

「少しは俺のことも思ってくれ」

微笑(ほほえ)んだ。

「俺はおまえを()(つづ)けるから」


「お兄様、私は……」

 リーナは何か言いかけたが、何を言ったら良いかわからなかった。


 シャールもリーナのそんな調子がよく分かったので、にっこりして、

「ま、考えたくない話だけど、エドワードは王都の貴族(きぞく)子息(しそく)だろ? 身分(みぶん)()もあるしな。いつでも俺のもとに(もど)ってこい。何度(なんど)も言うぞ、俺は責任を持って一生(いっしょう)おまえを守っていくから」

と、少し軽めの口調(くちょう)で言った。


 それから、

「さて。この話はここまでだ」

と言った。


 そして納屋(なや)見渡(みわ)した。


「さて、この状況(じょうきょう)、もう、俺にもロベルトやエドワードにもバレたんだ。患者(かんじゃ)納屋(なや)()いとくわけにはいかんだろ? うちへ運ぼう。看病(かんびょう)(らく)になる」

とシャールは言った。


 シャールは外に待たせていた使用人に声をかけて、腕っ節(うでっぷし)の強い者を数人(すうにん)()れて来させ、アデルを屋敷(やしき)客間(きゃくま)へ運ぶように命じた。


 リーナはシャールがテキパキと指示(しじ)を出す様子をぼーっと(なが)めていたが、頭が混乱(こんらん)していて何も考えられなかった。


 使用人にが丁寧(ていねい)にアデルを運ぶ(うし)ろから、シャールはリーナの(かた)()き、まるで何事(なにごと)もなかったかのように、リーナを(ささ)えて屋敷(やしき)へと戻ろうとした。


 リーナに気持ちを伝えても、結局(けっきょく)俺の日常(にちじょう)は変わらないのだろうな。シャールは自嘲気味(じちょうぎみ)に思った。俺はただ、今この瞬間(しゅんかん)を、リーナの(かたわら)にいられることを喜び、リーナを守っていくのだ。


 リーナはシャールに(ささ)えられながら家の方にぼんやり歩いていたが、急にはっとして、シャールの手を()(ほど)いた。


「リーナ、どうした?」

 急のことだったので、シャールは(おどろ)いて声を上げた。


 リーナはシャールには何も言わなかった。ただ、何かの責務(せきむ)()われるように、家とは反対の方向に走りはじめた。



お読みくださってどうもありがとうございます!


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