4. 最後の伝言〜同僚の嘘〜
アデルはベッドと机しかないな殺風景部屋で、先程のダミアンの紙を食い入るように見つめていた。
ダミアンは要点だけ、と言っていた。だが十分だった。アデルはダミアンのアイデアが分かった。
深く深くイメージする。明日ダミアンがもう少し説明してくれれば私も使えるようになるだろう。アデルは深呼吸した。
その時、アデルの部屋に羽虫が入り込んできた。
一瞬鬱陶しいなと思ったが、うっすらと魔力を感じ、何か悪いものの予感がした。
アデルはこれを一度見たことがあったような気がした。
すぐにピンときて、片方の掌を差し出すと、羽虫はアデルの掌の上にふらふらと降り立ち、そのままパチンと光を放って消えた。
アデルの掌の上に文字が浮かび上がった。
襲撃 我ダミアン死す もうこの宿に来るな
急にアデルの動悸がドクンドクンと激しくなった。
「ダミアン……!」
アデルは頭を掻きむしって呻いた。
アデルの脳裏にダミアンの穏やかな顔が浮かんだ。胸がぎゅっと締め付けられ、アデルの頬を涙が伝った。
まさか。
まさか。
だが、これに関しては信じるべきだと思った。ダミアンは身の危険を感じてこれを送ったのだ。
間違いであれば明日ダミアンが自分から顔を出すだけだ。アデルは、とりあえずダミアンのメッセージを信じて行動するだけだ。
アデルはダミアンの羽虫のメッセージをもう一度眺めた。
アデルは気丈に振る舞おうと思ったが、足が震えて動けなかった。
ダミアンの様々な表情や、アデルに向けられたたくさんの言葉が思い出された。もう彼には会えないのだ。
「おまえのこと女と思ったことはねーよ」と、今日、つい先だってダミアンは言った。
「嘘つき」
とアデルは呟いた。
まだ二人がもう少し若く、夢中で魔術を開発していた頃、アデルは職場で夜を徹して本と格闘しながらつい眠り込んでしまった。
よもや眠ってしまったか、どれだけ経ったかと、はっと目覚めると、ダミアンの顔がすぐ隣にあった。
ダミアンは「こんなところで眠りこけるおまえが悪いんだからな」と言って、アデルの手の指に自分の指を絡ませると、アデルの唇に思い切り自分の唇を重ねたのだった。
アデルはその時、あまりのことで気が動転して「無礼だぞ!」と叫んでダミアンを突き飛ばした。
「あの時は、私は魔術開発ばかりに青春を捧げて、私はおまえの気持ちが分からなかったんだ、ダミアン」
とアデルは思い出に浸りながら呟いた。
あの日ダミアンを拒否したことを後悔したことはない。私はそうして生きてきたから。
ダミアンもあの日以来、決してアデルを女扱いしなかった。
だが、今もダミアンの魔術の残り香が、まだアデルの掌の上にかすかに残っていたので、アデルは惜しむように立ち尽くしていた。
ダミアン、おまえは命をかけて私を助けてくれたのだな。それは、あの日の続きなのかもしれない。
「伝言、感謝する」
アデルは呟いた。
「ダミアン、おまえは、実は、私にとって、特別な男、だったのかもしれない」
アデルは一言一言を大事そうに呟いた。
胸の苦しさは治る気配がなかった。
「許さない、クレッカー! おまえがこの魔術師を取り巻く状況に何を望もうと、私から仲間を奪っていい理由にはならない!」
アデルは目を閉じて首を振った。強く、何度も自分に言い聞かせた。
ああ。
そうだ。
ふと、アデルはぼんやりとダミアンの妻と子のことを思った。
危険ではないだろうか。いや、妻は魔術師ではないから、だいじょうぶなはずだ。
だが、ダミアンの死を教えなければと思った。
ただでさえ子供が産まれる前に夫が急に消えたのだ。心細かったろう。
今となってはもう悲しみや怒りを通り越して、夫のことなど忘れてしまったかもしれないが。
アデルはかつてのダミアンの妻のことを思った。彼女が頭を下げてダミアンと一緒になりたいと言ってきた時のことを。
なぜダミアンの妻がわざわざアデルに断りを入れにきたのかは分からない。
だがあの時の彼女の真剣な表情は今も忘れられなかった。
もし真相を知りたいと妻が願うなら、私には説明する義務があるのかもしれない。
なぜか分からないが、アデルはぼんやりと思った。
どれくらい立ち尽くしていただろうか。突っ立っていた足と、ダミアンの魔術の残り香を受け止めていた手が痛くなって、ようやくアデルは我に返った。
「ああ、そうだ、早く皆に知らせなければならない」
だが、ダミアンのことだから連絡は皆に飛ばしていることだろう。
アデルは、もう片方の手をぎゅっと握った。
そこにはダミアンが先程アデルに握らせた紙片が入っていた。
これこそは皆に知らせなければならないものだ。私がしっかりしなくてどうする。
アデルは冷静さを取り戻し、目をしっかりと開いた。
そして外套を羽織ると部屋を出て、仲間の元へと出かけた。
手にはダミアンが今日渡してくれた紙がある。
そこには人を捕食する竜を集める魔術の原理が書いてある。私たちはダミアンの残したこれを完成させて、成すべきことをするだけだ。
この国の竜はどんどん増えるぞ。被害も甚大なものになるかもしれない。
だが、もはや、我々も、今更手段を選んではいられないのだ。
「許さない、クレッカー。 私は必ずおまえに報復する」
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