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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第6部: 竜を殺める毒
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39. シャールとリーナは本当の兄妹じゃなかったなんて、今更

 ロベルトとエドワード、リーナ、シャールは、しばらく目を()さない女の寝顔(ねがお)を見ていた。


「なかなか目え()めないな」

とロベルトが言った。


「そりゃ、あたりまえです。極度(きょくど)脱水症状(だっすいしょうじょう)だったんだから。今すぐにってわけじゃないと思うけど、症状(しょうじょう)が軽くなれば目は()めると思うわ……」

 リーナはこまめにアデルの口元(くちもと)に水を(はこ)んでやりながら言った。


 しばらく沈黙(ちんもく)が流れた。


 その時シャールが(おも)い口を開いた。

「エドワード。おまえみたいな人間が、どんなつもりでうちの妹に近づいたんだ?」

 その声は低く、(いか)りがこもっていた。


「よくもまあ、本気だとか何とか、言えたもんだな」

 シャールはエドワードを(さげす)んだ。


「ちょっと、お兄様。今はそんなこと、もうどうでも」

 リーナはシャールを(たしな)めようとしたが、エドワードが(さえぎ)るように言った。

「リーナには知られたくなかった。俺の勝手(かって)都合(つごう)だけどな」


 エドワードはリーナの顔を見た。そして手を伸ばして(ほお)()れようとした。その手をシャールが(つか)んだ。


「この()(およ)んで? やめてくれないか。もう妹に近づくのは」

 シャールはエドワードの目を見て言った。


 エドワードは(あきら)めて手を引っ込めた。


 そしてエドワードはシャールに

「悪かった。少しリーナと話をさせてくれないか」

と言った。


 シャールは少し考えたが、じっとエドワードの目を見て、結局(けっきょく)

「いいや、だめだ」

拒否(きょひ)した。


「すまない。エドワードには(りゅう)の薬の(けん)とか、感謝(かんしゃ)している部分もあるのだが、どうしても俺の気持ちが追いつかないところもある」

 シャールは冷静を取り戻しているようだったが、首を横に()った。


「そうか」

 エドワードは(つぶや)いた。


 リーナが何か言おうとしたが、シャールはそっとリーナの(かた)()いてリーナ言葉を(さえぎ)った。


 リーナとエドワードは見つめ合ったが、今は(とき)ではないことを(さと)った。


 リーナは、兄の言うことであるので、(だま)ってエドワードから(はな)れた。


 突然(とつぜん)ロベルトが(くち)(ひら)いた。

「こんなところで待っていても仕方(しかた)ない。リーナ、この女の目が()めたら()んでくれ」


 リーナは急に現実に戻されたようにロベルトを見た。

「わかったわ」

 リーナの言葉にロベルトは(うなず)いた。


「エドワード、じゃあここにいても仕方ない。行くぞ」

とロベルトは(うし)(がみ)()かれる思いのエドワードを(うなが)納屋(なや)を出た。


 文句(もんく)を言いかけたエドワードに、ロベルトは

「おまえもリーナに()(わけ)したいことが(やま)ほどあるんだろうけど、シャールにも、リーナと話をさせてやれよ。アイツは、本当に今の今まで、(まった)く気づいてなかったんだからな。心の準備とかいうもんも全くなかったんだぜ。言いたいことが山ほどあるだろ」

とエドワードに言った。


 エドワードもそれには納得(なっとく)した。


 シャールの気持ちがわからなくもなかった。ロベルトから、リーナの深夜(しんや)の外出のことを聞いた時の衝撃(しょうげき)と言ったらなかったからだ。


「おまえの気持ちも分からなくないがな。というか、(ひさ)しぶりだな、おまえがそんなに本気になっているのを見るのも」

 ロベルトはふうっと(いき)()きながら言った。


「あー、そうかな、久しぶりかな」

 エドワードは素直(すなお)(つぶや)いた。あまりエドワードはロベルトに(かく)(ごと)はしない。


「ま、シャールのことは、仕方(しかた)ねーな。俺にはシャールの気持ちまでは思いつかなかったぜ」

とエドワードは言った。


 ロベルトは(うなず)いた。

「おまえもリーナと話したいことがあるなら、(あと)にでも話せ」


「ああ。俺は(あと)でリーナと話す」

 ロベルトの言葉にエドワードは(うなず)いた。


「まー、あの兄貴(あにき)がリーナを解放(かいほう)すれば、だけどな。もう俺には近づけなさそー」

 エドワードは苦笑(くしょう)して言った。


 だがロベルトの目は笑っていなかった。

「おまえはリーナに、何を話す気なんだ。人殺(ひとごろ)しをして後悔(こうかい)してるとでも言うのか?」


「何でそんな思ってもないことを言わなきゃいけねーんだよ。そんなことは言わねーよ。でも理由(りゆう)経緯(けいい)くらい話してなさやってもいいだろ。俺だって快楽殺人者(かいらくさつじんしゃ)じゃねーんだから。一応(いちおう)命令(めいれい)でやってることだし」

とエドワードは頭をかきながら言った。


「それでリーナが納得(なっとく)するとでも?」

とロベルトはエドワードに聞いた。


「じゃ、逆に聞くけどさ。職業軍人(しょくぎょうぐんじん)(つま)たちが、(おっと)職業(しょくぎょう)のことで(おっと)のこと(きら)いになるか? なりゃしねーだろ。なんとか分かってもらうさ」

とエドワードは言った。


「本当におまえは……。まあ、健闘(けんとう)(いの)る」

とロベルトは言った。


 エドワードはロベルトの言葉には返さなかった。リーナが受け入れられなかったらそれまでだ、とエドワードは思っていた。


 それから、ロベルトはしばらくおいてから聞いた。

「それと、おまえの家系(かけい)のことは言うつもりか?」


 エドワードは笑った。

「リーナに? 言うわけねー! 王宮の大多数(だいたすう)でも、俺らの家系(かけい)のことなんか名前くらいしか知らねーだろ! (くち)に出すのも(おそ)(おお)いっつって口噤(くちつぐ)むような話だぜ? もはやおとぎ話。リーナなんか、ぽっかーんとして、はあ?で終わりだぜ」


 ロベルトは、ほっとしながら

「ああ」

と答えた。


 ロベルトとエドワードが、納屋(なや)から出ると、(となり)の畑で作業をしていたグレースが、ロベルトとエドワードに気付いた。


 グレースは少し(まよ)ったが、()(けっ)したように二人に()ってきた。


「あの」

とグレースは勇気(ゆうき)を出して二人に話しかけた。ロベルトとエドワードはグレースを見た。


「あの女の人はどうなりました?」

とグレースは聞いた。


「ああ。おまえも看病(かんびょう)してくれてたんだったな。うまいこといって彼女の病気(びょうき)(なお)った。本当におつかれさまだったな。これからはゆっくりしてくれ」

とロベルトは答えた。


「そうなのね。あなた方が(なお)してくれたのね? よかった」

 グレースはほっと(いき)をついた。


 それから、ちょっと言いにくそうに、

「あの、えーっと、さっきシャール見たけど、シャールにもバレたってことでいいのかしら?」

とグレースは聞いた。


 ロベルトは笑って言った。

「ああ。それで今、シャールがリーナに説教(せっきょう)してる最中(さいちゅう)だと思うぜ」


「あはは。(かく)(ごと)されて、シャール(あたま)にきてるでしょうね」

 グレースはシャールの顔を思い浮かべて笑った。


 その様子を見ていたエドワードはふと思っていたことを聞いてみた。

「なあ、お(じょう)さん。シャールってさ、リーナに過保護(かほご)すぎねー? リーナのことになるとやけにムキにならないか?」


 グレースはエドワードの言葉を聞いてポカンとした。

「え? あ、えーっと、知らないの? あの二人、本当(ほんとう)兄妹(きょうだい)じゃないのよ。んで、シャールはリーナのこと、溺愛(できあい)してる」


「は? えっと? は? まじ?」

とエドワードは聞き返した。


 俺は、リーナのことを()いている一人の男に、本気(ほんき)だからとか言っちまったってわけか?


「まじか」

とロベルトも(つぶや)いた。


「とんでもねー情報(じょうほう)ありがとう。もっと早くに知りたかった」

とエドワードは頭を(かか)えながら言った。


「そうよ。で、あなたが、最近リーナと、よくお出かけするイケメン魔術師ね? しかも村中で(うわさ)になっちゃって。ねえ、あの噂、どこまでホントなの?」

とグレースはイタズラっぽく笑った。


「シャールはできた人間だから、(うわさ)(うわさ)ってちゃんと分かってるだろうけど、内心(ないしん)(おだ)やかじゃなかったはずよ〜。分かった? もうリーナにちょっかい出すの、やめなさいよ」

とグレースは(うで)を組んで(さと)すように言った。


「もう手遅(ておく)れだよ」

とロベルトはエドワードをちらっと見てから、グレースに言った。


「あら」

 グレースはエドワードの顔を見て意外(いがい)そうな顔をした。

手遅(ておく)れなの?」


「ああ、その村中を()(めぐ)ってる(うわさ)、俺はよく知らねーけど、おれはリーナが好きだし、それを行動で示したのも本当だ」

 エドワードは、」俺は何を言わされてるんだと思いながら、ぶっきらぼうに言った。


「あらまあ。まさか、本当にリーナに手を出していたとは! そりゃ、シャール、たいへんね。でもリーナにはシャールがいるわ。……とはいえ、まあ、リーナの気持ち次第(しだい)か」

とグレースは言った。


都会(とかい)のイケメンでも田舎娘(いなかむすめ)に手を出すことってあるのね〜。でも、本気じゃなかったらやめてよね。リーナは私の大事な友達だし、シャールの大事な妹だし、うちの兄だってリーナのことを大事に思ってる。(あそ)びで、ぽいっ、なんてしたら(ゆる)さないからね」


「ご忠告(ちゅうこく)ありがとう」

とエドワードはムッとしながら答えた。


 そう言うことか、とエドワードは思った。エドワードがリーナに()れようとするたびにシャールが邪魔(じゃま)をするのはそう言うことだったのだ。


「はー、まじかー」

 エドワードはため息をついた。

辻褄(つじつま)合いまくりだぜ、も~」


「おい、エドワード。ということらしいな。どーすんだ?」

とロベルトが聞いた。


「それ、俺に聞いて何かなる? 今更(いまさら)おせーよ。」

エドワードはそっぽを向いた。


 

昨日は、ご評価をいただきまして、本当にどうもありがとうございます! とても嬉しくて感動しています。


もっと面白くなるようがんばっていきたいと思います! 


今後ともどうぞよろしくお願い致します。

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