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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第6部: 竜を殺める毒
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38. シャールの脅し ~なぜダミアンは殺されなければならなかったのだ~

「必要があれば、この女はこの場で(ころ)す」

 ロベルトは、意識戻(いしきもど)らず横になっているアデルを見下ろしながら言った。


「ロベルト、そういう言い方やめろよ!」

とエドワードがリーナを気遣(きづか)って声を上げた。


 ロベルトはエドワードをチラリと見た。まったく、(だれ)が好きで(きら)われ(やく)をやっていると?


 そのときバタバタと足音がした。

「リーナ! リーナ、だいじょうぶか!?」

とシャールが血相(けっそう)を変えてやって来た。


「あ、出た」

とエドワードが(つぶや)いた。


 シャールはロベルトとエドワードを(みと)めるとぎょっとした。

「だいじょうぶかリーナ、何かされなかったか?」


「何もないわ、お兄様」

 リーナは兄に()()り、

「この人たちは本当に悪いことなんてしてないから」

となだめるように言った。


「それならいいのだが。というか、こんなところで何をしていたんだ?」

 シャールは周りを見渡(みわた)した。そして、ぎょっとした。意識なく(たお)れているいるアデルを見つけたからだった。


「誰だ、この人は」

とシャールは聞いた。


 リーナはアデルを見て、それからロベルトとエドワードを見た。ロベルトとエドワードもリーナを見ていた。(みな)交互(こうご)に顔を見合わせながら、説明が必要(ひつよう)だ、という顔をした。


 リーナはアデルを見つけた時の状況(じょうきょう)とアデルの症状(しょうじょう)経過(けいか)を、シャールに(くわ)しく話した。


 そして、アデルの(わずら)っていたものが見たこともない新しい魔術だったこと、その魔術をロベルトが消滅(しょうめつ)させたことなどを話した。


「この人、きっと厄介(やっかい)事情抱(じじょうかか)えてると思って、お兄様には言えなかったの。ごめんなさい」

とリーナは(あやま)った。


「ベナンやグレースには助けを求めたのに、か?」

 シャールは納得(なっとく)のいかない口調(くちょう)でリーナに言った。

「ベナンやグレースよりは、俺を(たよ)ってほしかった」

 シャールの切実(せつじつ)な願いのこもった言葉にリーナは返す言葉なく、(もう)(わけ)なさで(だま)った。


 それからシャールは、ロベルトとエドワードの顔を見た。

脱水症状(だっすいしょうじょう)、そして魔術(まじゅつ)、か。先日(せんじつ)王都下町(したまち)市場(いちば)(めずら)しい話を聞いた。元々はリーナの()しがってた虫なんだが、寒さに()えるために体内(たいない)水分量(すいぶんりょう)調節(ちょうせつ)できるって特性(とくせい)を、今の魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)が見つけたらしい。水分量(すいぶんりょう)調節(ちょうせつ)だ、虫で分かれば人への魔術に応用(おうよう)もできるだろう」

と言った。


 リーナとロベルトとエドワードは(みな)(そろ)って息を()んだ。


「そういうことか……」

 エドワードは(つぶや)いた。


魔術管理本部(まじゅつかんりほんぶ)長官(ちょうかん)が? こんな魔術を? これで()くなっても見た目は病死(びょうし)だわ。(やまい)のように(ころ)す魔術って」

 リーナは、やはりこれは殺人(さつじん)だったんだ、と思った。


「やっぱり、この女が目覚(めざ)めたらしっかり聞かないとな。何か知っているのだろう。なぜ自分がこんな目に合うのか、そしてこの魔術は何なのか」

とロベルトは言った。

「そのために助ける必要(ひつよう)()いのに、()()()()()()助けたんだ」


 シャールはロベルトの言葉にはっとして顔を上げた。


 それから、シャールはしばらく何かを考えて、そしておもむろに口を開いた。

「ずっと聞きたいと思っていた、ロベルト。あなたたちが王都で言っていた、()()()()()()()()って何だ? あなたたちはその問題で、つい最近まで地方都市に派遣(はけん)されていたね」

 シャールの顔は(けわ)しかった。


 シャールの言葉にロベルトとエドワードは顔を見合わせた。


「あ、そういえば、この女の人のことも “関係者” って()んでたわね……」

 リーナはシャールの()わんとしていることは全然分かっていなかったが、シャールに同調(どうちょう)するように言った。


「知る必要のないことですよ」

とロベルトは()(はな)すように言った。それ以上は言う気はない、といった口調(くちょう)だった、


「ここまで()()まれたら、()らぬですまされないよ、ロベルト。俺はこの村を守るのも仕事だから、ちゃんと説明してください」

とシャールも()い下がった。


「シャール、勘弁(かんべん)してくれ」

とエドワードは言った。

「アレだ、ほらよくあるだろ、知りすぎた者は()されるシステム。聞いたことあるだろ」


「何それ、()(くろ)

とリーナは顔を(しか)めた。


「そうだよ、リーナ。マジで()(くろ)だから(かか)わんな」

とエドワードは警告(けいこく)するように、しかし(やさ)しい口調(くちょう)で言った。


 シャールはそのエドワードの言葉を(さえぎ)って言った。

「あなたたちの言う関係者とやらを始末(しまつ)するのがあなた方の仕事なんでしょう? 本当はこの女の人を助けちゃいけなかったんじゃないですか? このまま()なせなきゃいけなかったんでしょう? ちゃんと話さないなら、あなた方がこの女の人を助けたことを王都の知り合いに報告します」

 シャールの顔には覚悟(かくご)が見えた。


 シャールの言葉に、ロベルトとエドワードの目が(するど)くなった。


「おい、(おど)す気か?」


「へえ、俺たち相手に、ね」


 ロベルトのエドワードがシャールを(にら)んでも、シャールも()らがなかった。


 その()わり、まっすぐな目で

「ちゃんと話してくれれば、このことは(だれ)も言いませんよ」

とシャールは約束(やくそく)した。


「お兄様……言い()ぎよ」

 リーナは見たことのないシャールの様子に(おび)えた。兄がこんな人を(おど)すようなことを言うのを見るのは初めてだった。


 ロベルトが、ふーっと大きく(いき)()いた。


仕方(しかた)ないですね、そこまで言うなら話しますよ」

とロベルトは無表情(むひょうじょう)で言った。


 エドワードは顔を(しか)めた。エドワードは別の意味で覚悟(かくご)()めねばならなかった。


 リーナに聞かれたくなかったが、もうここまできては仕方(しかた)ない。ロベルトからリーナの夜中の外出を聞いた時から、うっすらと、もう(かく)してはおけないかもしれないとは思っていた。


「私たちは “関係者” と呼ばれる魔術師たちを始末(しまつ)するように言われている」

と、ロベルトは淡々(たんたん)(しゃべ)った。


始末(しまつ)? それって、ロベルトとエドワードは人殺(ひとごろ)しってこと?」

とリーナは信じられないという顔をした。


「ええ、人殺(ひとごろ)しです。ね、エドワード」

「ああ、間違(まちが)いねえ」

とエドワードは顔をそむけて低い声で言った。


 シャールはたたたみかけるように、

「で、カレンの(おっと)、ダミアンを(ころ)したのもあなた方ですか?」

と聞いた。


 シャールはそれが聞きたかったのだ。


 ずっと、この二人に(いだ)いていた違和感(いわかん)


「ええ!」

 リーナは泣きそうな顔になった。人殺(ひとごろ)しっていうだけでも十分(じゅうぶん)(おそ)ろしかったのに、身近(みぢか)な者も(ころ)しているの?


「ああ。俺たちだ」

とエドワードは答えた。


「やっぱりな、貴様(きさま)ら!」

 シャールの顔には(すご)みが出た。ロベルトとエドワードは少しヒヤリとした。


「どんなつもりでここに来た? どんな顔でカレンに会うつもりだったんだ?」


「悪かったよ。これには多少(たしょう)理由もあるが、さすがに俺でも()いたわ。俺にはカレンって女に直接(ちょくせつ)会うことは出来(でき)なかったよ。だからおまえらに(たの)んだんだ」

とエドワードはすまなさそうに言った。


 シャールは(おに)形相(ぎょうそう)でロベルトとエドワードを(にら)みつけた。

「ああ、カレンをさっさと王都に行かせてよかった。偶然(ぐうぜん)にでも貴様(きさま)らに会わせたくない」

 シャールは完全に(おこ)っていた。


 リーナも心の整理(せいり)がつかず、(だま)って下を向いていた。


「それで、ダミアンはなぜ(ころ)されなければならなかったんだ」

とシャールは聞いた。


「それは俺たちも分からない。それを知るために、今回この女をとりあえず()かして話を聞くことにした」

とロベルトは意識なく(ねむ)るアデルにちらっと目をやってから答えた。


「そもそもこの女は(だれ)なんだ」

とシャールは聞いた。


「十中八九、ダミアンの知り合いだ」

 ロベルトの言葉にシャールは横になっている女を見つめた。


 少し沈黙(ちんもく)が流れた。


「とりあえず、これでいいか? シャール」

とロベルトはシャールに言った。


「俺たちもまだ良くわからないんだ。だから、この女から何でこいつやダミアンが()われる羽目(はめ)になったか聞こうと思ってる。おまえも一緒(いっしょ)に聞けばいいじゃないか」

 シャールは、ロベルトの言葉が本当か、じっとロベルトを見つめた。


 ロベルトはため息をついた。

(うたが)ってんな。おまえはカレンが心配なんだろ? この女に聞きゃ分かるって。この村に危険を(おか)して来るくらいだから、この女はたぶんダミアンかカレンの知り合いか何かさ」


 シャールは、確かにロベルトの言うことはもっともかもしれないと思った。


 ロベルトは、とりあえずシャールが自分を信じたようで少しほっとした。


 だが、低い声ではっきりと言った。

「が、はっきり言っとく。こんなに(くび)()()めば、もうおまえらも安全じゃないからな」


お読みくださってありがとうございます!

やっと10万文字超えました!


もしよかったら、ブックマーク、ご評価☆☆☆☆☆、

よろしくお願いいたします!


今後の励みになります!


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