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竜のいない夜に〜薬師の村娘ですが、高潔の魔術師に溺愛されています〜  作者: 幌あきら
<第1章 : 王都政権交代の裏で> 第6部: 竜を殺める毒
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37. 魔術を消す特殊な魔術 ~瀕死のアデルを助ける~

 「ねえ、リーナ。もう、その病人(びょうにん)()んだよ。さっき俺が(ころ)してきたから」

 ロベルトが(つめ)たい目でリーナを見ながら言った。


 リーナの顔色が変わった。ばっと、(うし)ろの薬草畑の方を()(かえ)った。

「な……! なんて、そんな、(ひど)い……!」


 その途端(とたん)、ロベルトは(あき)れた顔をした。

「ほらね、やっぱり病人(びょうにん)(かく)してた。ばーか。かまかけただけだよ」


「えっ!」

 リーナは真っ青になった。


「ロベルト、あなた、(うそ)をついたの!」

 リーナは上ずった声を上げた。


「そっちが先に(うそ)ついたんでしょ」

 ロベルトはうすら笑いを浮かべた顔で言った。

「シャールにも(だま)ってるんでしょ? あんなに妹思いのお兄さんなのに。(かく)(ごと)なんてひっどい妹だね」


 リーナは言葉がなかった。


 ロベルトは次の瞬間真顔になった。


「今すぐその病人(びょうにん)のところに案内しろ。あの薬草畑の納屋(なや)なんだろ?」

と低い声でリーナに命令(めいれい)した。



 リーナは薬草畑の横の納屋(なや)にロベルトを連れて行った。二人は無言(むごん)だった。


 納屋(なや)()くとグレースがそそくさと出迎(でむか)えたが、ロベルトの顔を見てぎょっとした。


 だが、ロベルトが落ち着いた笑顔を()かべて挨拶(あいさつ)したので、グレースも丁寧(ていねい)挨拶(あいさつ)した。


「どう、様子は?」

 リーナはグレースに聞いた。


「ずっと変わらないわ。リーナに言われた通り、水と薬をきちんと飲ませてるわ。本当に良くなっては悪くなって、をずっと()(かえ)してる。本当、しぶといわね、変な病気」

 グレースはため息をつきながら言った。


「この人、お(かゆ)は口にした?」

とリーナはグレースに聞いた。


「うん、でも、ほんとのほんとに調子(ちょうし)がよかった時だけね」

とグレースも(むずか)しい顔をしながら答えた。


「そう」

 薬がかろうじて、()()()()()()()()()いているとしか言えなかった。()っておけば、もうとっくに()んでいたたろう。


「グレース、あのさ、ほんとにごめん。ちょっとだけ、席外(せきはず)してくれない?」

 リーナは(もう)(わけ)なさそうにグレースに言った。


 グレースはロベルトの顔を見たときから、自分が邪魔(じゃま)なことは想像できたので、いつここから退散(たいさん)するかを見計(みはか)らっていたが、一応(いちおう)

「いいけど、だいじょうぶ?」

と聞いた。


 グレースは少し心配だった。リーナの様子から、ロベルトが(まね)かれざる(きゃく)なことが分かったからだった。


 リーナは何も言わず(うなず)いたので、グレースもそれ以上は何も言わず、

「また何かあったら()んで」

と声をかけて納屋(なや)から出ていった。


 リーナは()たきりの女の人の顔を(のぞ)き込んだ。


 相変(あいか)わらず水気のない(ほお)のこけた顔だった。意識(いしき)はないが今は少し呼吸(こきゅう)が落ち着いていた。


 ロベルトは(ふところ)から顔写真(かおじゃしん)を取り出し女の顔と見比べると、

「アデル・コーエン。やっぱり関係者だったか」

と冷静に言った。


「あの、どういうことですか。お知り合い?」

 リーナは(ふる)えて言った。


「まあね」

とロベルトは写真をしまいながら言った。


 ロベルトは近くの台の上にあった紙の()(はし)をつまみ上げると、すっと手をかざして魔力を込めた。紙の()(はし)はふわふわと()き、やがて一斉(いっせい)納屋(なや)から飛んでいった。


「で、リーナ。俺はこいつについて、おまえからも話を聞きたい。まず、どこで出会った?」

 リーナは先日、村のそばでこの女の人を見つけたときの状況(じょうきょう)をざっと説明した。


「そうか、じゃあ、この女がこの村を(おとず)れた理由はわからないんだな」

 ロベルトは(つぶや)いた。


「じゃあ、次。この女の、この病は何だ?」

 ロベルトは聞いた。


「分かりません」

 リーナはうなだれて言った。


「おまえの感じる範囲(はんい)のことでいい」

 ロベルトは少し(やさ)しい声を出した。

「リーナ、俺もこの(やまい)は少し(へん)だと思っている。特にこの症状(しょうじょう)。おまえもエドワードから聞いたかもしれないが、俺たちは同じ症状(しょうじょう)()んだ者を見た。これは何だ? 何かお前も感じるところはないか?」


 リーナは、ロベルトも本当に何も知らないんだな、と思った。

突拍子(とっぴょうし)もないことを言ったら笑いますか?」


「いや。たぶん、俺もおまえと同じことを考えていると思う」

 リーナはロベルトを凝視(ぎょうし)した。ロベルトは真面目(まじめ)な顔をしていた。そこには意地(いじ)の悪さはなかった。リーナは信じることにした。


 リーナは

「魔術です、たぶん」

勇気(ゆうき)()(しぼ)って言った。


「何でそう思う?」

とロベルトが聞いた。


介抱(かいほう)してるのに良くならないからです。私にできる範囲(はんい)()たところ、感染症(かんせんしょう)ではないし呼吸器系(こきゅうきけい)でもない。胃腸系(いちょうけい)合併(がっぺい)する脱水症状(だっすいしょうじょう)ってところです。(さいわ)い色々飲ませた薬の()()()()一時的(いちじてき)()いています。でも普通なら良くなっていくところが、すぐまたぶり(かえ)すんです」

 リーナは早口で答えた。


「そうか」

とロベルトは冷静に答えた。


 やはり、魔術だったか。


 エドワードと話した時は、魔術かもしれないと思った。だが実際この女の人を見た時、この症状(しょうじょう)が魔術かどうか半信半疑(はんしんはんぎ)になった。

 

 魔術が使われた大きな痕跡(こんせき)が見られなかったからだった。


 だが、ロベルトが集中(しゅうちゅう)して探ると、ぼんやりと(かすみ)のような小さな魔力がかすかにこの女の体の中に(とど)まっているように感じられた。


 そして、薬師のリーナが何かの確信(かくしん)を持って魔術だと言った。信じてみてもよいかと思った。


 その時、

「待たせたなー」

とエドワードの声がした。ロベルトから紙の()(はし)伝言(でんごん)をもらい、飛んできたのだった。


「エドワード!」

 リーナはうろたえた。


「リーナ、だいじょうぶだった? ロベルトに意地悪(いじわる)されなかった?」

 エドワードはリーナの頭を()でた。


「えっと……」

 リーナが目を()らした。


 それを見て

「は? おい、ロベルト」

とエドワードが問いただすように声を(あら)げた。


「そんなことより、今はこっちだ」

 ロベルトがエドワードに強く言った。


「そんなことより?」

 エドワードが聞き捨てならない、といった顔をしたが、ロベルトは無視した。


「リーナの見立てじゃ、やっぱりこれは魔術くさいってよ」

とロベルトはエドワードに説明した。


「あー、この女?」

 エドワードはめんどくさそうに横たわる女の人を見た。


「ああ。アデル・コーエン。関係者だ」

 ロベルトは言った。


「そっか。にしても、だいぶ、体調(たいちょう)悪そうだねー」

とエドワードは女の人の顔をまじまじと(なが)めながら言った。


「で、魔術なんだっけ? じゃあ、おまえ、アレやれよ」

 エドワードはロベルトを(ひじ)でつついた。


「そうだな、魔術かどうかはこうすれば分かるな」

 ロベルトは両手をアデルという女の上にかざし力を込めた。


 ()()()()()()()()()()だ。


 何かロベルトの(てのひら)のすぐそばで、小さくプチプチと魔力が(はじ)けるような感覚が伝わってきた。


 ロベルトは初めての感覚に少し戸惑(とまど)いながら、探るような目つきをした。まだ相殺(そうさい)できないか。魔力量は小さいのに体の中に(とど)められていて何だかやっかいだ。この魔術ではどのように魔力が込められているのか。


 リーナは目を見開いてロベルトの魔術を見ていた。


 エドワードはリーナのすぐ横に来て小声(こごえ)耳打(みみう)ちした。

「すごいだろ、ロベルト。魔術を消してんだ。これ、あんま知られてねーし、コントロール(むずか)しくて、使える(ヤツ)あんまいないんだぜ」


「そうなのね」

 リーナの目に(なみだ)が浮かんだ。


「えー、なんで!? ちょっと泣かないでよ」

 エドワードが(あわ)てた。


「だって、これでこの人助かるかと思って。ずっと昏睡状態(こんすいじょうたい)で良くならなくて、いつ()んじゃうかって心配してた。私(いや)だったの、こんな()なせ方」

 エドワードはリーナの(かた)()いた。


「安心していーよ、もうだいじょうぶだから」

 エドワードは(やさ)しく言った。


「おい、おまえは何もしてないだろ! がんばってるのは俺だろうが。わざとやってんのか」

 ロベルトは術を途切(とぎ)れさせぬようアデルから目を(はな)さずに怒鳴(どな)った。


 エドワードは笑った。

「いーじゃん。相変(あいか)わらず、おまえのこれはすげーなと思って、つい。さすが名門出(めいもんで)だな〜鍛錬(たんれん)がちげーわ」


 アデルを見つめていたリーナも気が()けて笑った。実際アデルにまとわりついていた重い気配が(うす)らいでいる気がした。


 ロベルトの(てのひら)の先がだいぶ落ち着いた。もう(はじ)けるような感覚はなくなった。もうよさそうだな、とロベルトはふうっと大きく息を()いて、手を引いた。


「終わった」

 ロベルトは言った。


「ありがとうございます」

 リーナは急いでアデルを(かか)えて薬湯(やくとう)を飲ませた。


 アデルの(かわ)いた(くちびる)無意識(むいしき)のまま水を(ほっ)して動いた。リーナはほっとした。


 だがロベルトは(けわ)しい表情のまま、

「さて、次はこいつに話を聞く(ばん)だ」

(つぶや)いた。


「ちょっと待って、意識回復(いしきかいふく)してからにして」

とリーナは懇願(こんがん)した。


「ああ、そりゃそうだが」

とロベルトは言いかけて、

「だが、悪いな、リーナ。先に言っとくけど、おまえの味方(みかた)ってわけじゃないからな」

(けわ)しい表情を(くず)さずに言った。


「必要があれば、この女はこの場で殺す」


お読みくださってありがとうございました!


お手数ですが、もし少しでも面白いと思ってくださった方がおられましたら、

下のご評価欄↓☆☆☆☆☆↓の方も、

ぜひぜひよろしくお願いいたします!

今後の励みになります!

どうぞよろしくお願い致します!

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